●特集『2008 木製サッシフォーラム』
構造耐力として,開口部が耐震性能に影響を与えるということは感覚的にお分かりかと思います。現在,開口部付きの壁を評価する標準的なツールは二つあります。
一つは,「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の中の住宅性能表示制度に,もう一つは,「木造住宅の耐震診断と補強方法(耐震診断)」の中に示されています。
ここでは,面材を使った場合を取り上げて,開口部付きの壁の構造耐力がどのように評価されているかをご紹介します。
建築基準法では壁の仕様に応じて壁の基本的な強さ(壁倍率)が定められています。通常の木造住宅では,この壁倍率を用いて設計することとなっています(壁量計算)。
建築基準法で認められている面材耐力壁は,四周を必ず釘打ちしたものでなければならず,面材に継ぎ目がある場合には受け材を設けてそれに釘打ちしなければなりません。
しかし,実際には,面材の四周の一部が釘打ちされていない壁や,開口部付きの壁も住宅の耐力に寄与しています。
住宅性能表示制度では,このような開口部付きの壁の耐力の評価を簡便にできるようになっています。
まず,住宅性能表示制度には準耐力壁と呼ぶ種類の壁があります。これは面材の四周全てが軸組みへ釘打ちされた壁ではなく,面材の両側を柱材などの縦材に釘打ちした仕様の壁のことを指します(図1)。
図1 住宅性能表示制度における面材耐力壁と準耐力壁の定義
準耐力壁と見なすためには,一連の面材の長さが内法高さの8割以下になってはいけないとしています。
これに対して,2割以上の開口部が空いてしまう壁もあります。腰壁,たれ壁(以下,腰壁等)がそれに該当しますが,住宅性能表示制度ではそれらの耐力の評価方法も示されています。
ただし,腰壁等に構造耐力を期待するためには,やはりいくつかの条件があります。耐力壁もしくは準耐力壁のいずれかが腰壁の必ず両側にあることに加え,腰壁等の面材高さが36cm以上,その横幅が2m以下でなければいけません。
このような準耐力壁や,腰壁たれ壁がどのように評価されているのかを図2に示します。
図2 住宅性能表示制度における壁倍率と開口部の高さの関係
住宅表示性能の評価は,安全側に見た上で,簡便性に重きをおいたものです。
たとえば,釘打ち間隔を75mmとしてかなり密に打ったとしても,壁倍率は1.3としか評価されません。
これは,住宅性能表示制度は,標準的な150mm間隔で打ち付けた場合を想定して決めた壁倍率2.5を基準値として一意的に耐力を低減するという略算法だからです。
これに対して,より詳細な設計方法である許容応力度設計によって,釘打ち間隔が75mmの場合の準耐力壁の耐力計算を行うと,非常に複雑な計算を行うことになるのですが,2.7という,略算法(住宅性能表示制度)の2倍以上の壁倍率を得ることができます。
このように,手間はかかりますが,合理的な設計を行えるような設計体系が整備されてきています。
2004年度に改訂された耐震診断により,開口部付きの壁の耐力を評価できるようになりました。この診断法には,一般診断法と精密診断法があります。
一般診断法では,まず耐力壁を評価して,その後,その他の耐力要素として,開口部付きの壁を評価します。
ただし,計算による評価ではなく,耐力壁以外の耐力要素,雑壁,腰壁等の効果を総合的に考慮して,一意的に必要な耐力の1/4を負担してくれるという仮定を設けています。
一方,精密診断法では,壁基準耐力というものを指標とし,これを基本として低減していくという流れになっています。
具体的には,まず開口部を窓型開口と掃き出し開口の2種類に分類します。窓型開口とは,腰壁と垂れ壁があって,開口部の高さが600mmから1,200mm程度のものを言います。
また掃き出し開口とは,ドア等のように,垂れ壁はあるが腰壁がなく,面材の長さが360mm以上のものを言います。
表1に開口部の分類ごとの低減係数を示します。なお,これらの数値の根拠はいろいろな実験データを集めて,整理した中で得られた知見を基に決定されたものです。
表1 耐震診断(精密診断法)における評価
住宅性能表示制度での開口部における壁の評価の仕方と耐震診断での評価の仕方で決定的に異なるのは,住宅性能表示制度では壁倍率を,耐震診断では壁強さ倍率を基準値にしている点です。
ここで,壁倍率の求め方ですが,壁を押したり引いたりした実験データから得られる降伏耐力,最大荷重,終局耐力,特定変形角時の荷重から計算される指標値の中で,一番小さい値をもって壁倍率としています。
一方,耐震診断における壁強さ倍率は,壁倍率を決定するための4つの指標値のうちの終局耐力,つまりねばり強さのみを根拠にしています。「とにかくつぶれてくれるな」ということを評価するのが耐震診断です。
このことから,同じ壁でも,住宅性能表示制度と耐震診断では評価の値は違ってきます。
この理由により,耐震改修,耐震補強方法を開発するのであれば,強度よりもねばり強さを確保する仕組みを考える方が近道と考えがちですが,ねばり強さだけを向上させるのではなく,変形を抑えることも極めて重要です。
さて,開口部を固めることで,耐震性が向上するのかという話ですが,あるプロジェクトの実験で,木ずりで筋かいが入っている壁を揺する機会がありました。
この機会を利用して,開口部を変形しにくくすることによって壁の耐力が向上するかどうか,極端に剛性の高い仕様の開口部を作って様子を見てみました。
図3 開口部を限りなく固くした加震試験の試み
図3のグラフは試験体の加速度応答値を周波数分析したもので,横軸が振動数,縦軸が成分の大きさとなっています。
振動台の揺れと開口部を補強したものは形が似ています。要するに振動台と一緒の周波数成分で揺れた,つまり固いままで揺れていることを示しています。
それに対して,開口部を補強していないものは,揺れ方のピークの周波数が違っています。
これだけの違いではありますが,開口部を固めることの効果が期待できるということが分かりました。
これがそのまま,木製サッシの付加価値を上げる開発指標になるかどうかは今後のいろいろな検討の仕方次第と思っています。
北海道では性能向上リフォームを推進しています。
ここで対象としている住宅の性能は,耐震性,断熱性,高齢化対応の三つで,これらの性能の向上,リフォーム方法の提案,推奨,ツールの提供を行っています。
このうちの断熱改修については,外側に断熱材を張り付ける外張り付加断熱が有効なのですが,やはり窓周り,サッシ周りの納まりが問題になっています。
さまざまな団体の研究会で提案してもらっていますが,是非,木製サッシ関係者の皆様には,外張り付加断熱改修を行う際に,木製サッシを使う優位性,性能だけでなく,施工性を含めて対応できる標準的な仕様をご提案いただきたいと思います。
木製サッシは,デザインを重視してずいぶん見かけるようになりました。
住宅だけでなく,飲食店街のリフォーム市場も魅力的かと思います。
ただ,実際に出来上がってみると,デザインは良いけれど結露を生じたり,暖房費がかさむということが起こっているようです。
建物の断熱が不足すると,室内に温度ムラができます。この温度ムラを解消しようとして,大きな能力の暖房設備を使うことは逆効果で,天井30℃,床15℃という状態がざらにできてしまいます。
まず室内の温度ムラを無くすことが積雪寒冷地の鉄則です。そうすることで燃料費の節約,異常乾燥の防止,建具の狂いも少なくなります。
寒冷地の鉄則を配慮せずに,木製サッシというツールだけを配給するのは好ましくありません。
北海道には諸先輩が築いた全国に発信している断熱気密技術があります。いまや特殊技術ではありません。
木製サッシそのものの優れた性能を活かすためにも,その施工技術資料の整備と普及に取り組んでいただけると,ずいぶん違うのではないかと思っています。