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●特集 教室内の空気質の現状と対策方法の検討

学校備品・教材からもVOC

性能部 性能開発科 鈴木昌樹



はじめに

 文部科学省の「学校環境衛生の基準」において,教室内のホルムアルデヒド等の気中濃度基準が定められています。ホルムアルデヒドの気中濃度が基準値より高い教室において,イス・机などの備品や楽器などの教材を撤去すると濃度が下がることがあります。このような場合は,これらの備品や教材がホルムアルデヒドの放散源と考えられます。これまでの林産試験場の調査では,学童用のいすや音楽室のギターから放散したホルムアルデヒドが教室の空気を汚染していた事例が見受けられました。




放散源となる備品・教材

 備品・教材のうち,机・イス・棚などの家具が濃度超過の原因である場合が多いと考えられます。特に,ホルムアルデヒドに関する建築基準法の改正があった平成15年頃より前に製造された合板などを材料に用いた家具が問題になる場合が見受けられます。

 換気が行われている場合,空気汚染物質の濃度は,部屋の容積に対する放散源の面積の比率が大きいほど高くなりますが,家具の表面積は見かけよりも大きく,特に棚の表面積は想像以上に大きいものです。

 一方,イスなどの小型の家具は,表面積が小さくても,教室の収容人数と同じ個数が設置されていることから,合計の表面積が大きくなります。このように家具から汚染物質が放散されている場合,その表面積の大きさから,室内空気質におよぼす影響が無視できなくなります。

 安価な輸入家具の中には,海外で生産されたホルムアルデヒド放散量が大きい合板などが材料に使われていることがあります。このような家具を不用意に学校に持ち込まないようにしたいものです。

 教材からの放散の場合については,ギターなどのように比較的大形で人数分の配置がある場合は,室内空気質への影響が大きくなります。一方,コンピュータ室の濃度超過はよく報告されますが,パーソナルコンピュータからのホルムアルデヒドの放散は林産試験場の調査では確認されていません。




測定方法

 家具や教材からのホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)の放散量は,日本工業規格(JIS)に定められた大形チャンバー法(JIS A 1912)で測定することができます。林産試験場では,大形チャンバー(写真1)を作製し,家具の測定を行ってきました。放散の可能性がある家具や教材を測定することによって,対策を行うべき放散源を特定することが可能です。

写真1 大型チャンバー



対策方法

 家具への対策方法は,放散している汚染物質がトルエン等の溶剤の場合と,ホルムアルデヒドの場合とで異なります。塗料などに含まれる溶剤の場合は揮発に伴って家具に含まれる量が急速に減少するため,比較的短期間で放散が減少する場合が大多数です。従って,風通しの良い場所に家具を保管し,溶剤の揮発を促すなどの対策が有効です。

 一方,ホルムアルデヒドは接着剤の加水分解によって発生するため製造後長期間にわたって放散が持続します。従って,低ホルムアルデヒド放散材料を用いた対策済み製品への入れ換えや機械換気設備の設置が最もお勧めできる対策です。特に学校用の机・いすに関しては,JISでF☆☆☆以上の材料を使うことが義務付けられています。

 現在の国内市場では材料の低ホルムアルデヒド化が進み,F☆☆☆☆基準に満たないものはほとんど流通していないので,新品の学校用家具への交換は手堅い対策といえます。しかしながら,財政上の制約などから家具の入れ換えや換気設備の設置が困難な場合もあります。

 そこで,林産試験場では,ホルムアルデヒドを放散する学校向け家具に対して様々な処理を行い,その効果を検証しました。




家具への処理実験例

 ホルムアルデヒド放散量が大きく,学校から撤去された学童向けいすを用いて,放散量を低減する処理を行いました。処理の内訳を表1に示します。ベイクアウトとは,加温して溶剤などの揮発を促すもので,今回は温度37℃,相対湿度50%の条件で,試験体を換気をしながら72時間行いました。

 キャッチャー剤は,市販の液状ホルムアルデヒド吸着剤です。塗布した部分の表面がざらつくことから,一部のみに塗布しました。

 封止塗料は,強固で密な塗膜を形成することでホルムアルデヒドやVOCを透過させないとされる市販の塗料2種を用いました。封止塗料1はアクリルエマルジョン系,封止塗料2は水性ポリウレタン系でした。封止塗料1は塗装済みの面への塗装が難しく,メーカー指定の標準塗布量を塗布することができませんでした。

 各試験体からのホルムアルデヒド放散量は大形チャンバーを用いて測定しました。測定は各種処理前と,処理後のあらかじめ定めた日数経過後に測定を行いました。効果がないと判断されたものはその時点で測定を打ち切りました。実験の結果を図1に示します。

表1 処理の一覧図1 ホルムアルデヒド気中濃度の経時変化

 ベイクアウトを行った試験体は気中濃度が処理前より上昇し,1か月後にはもとの濃度に戻りました。ベイクアウトには,ホルムアルデヒドの放散低減効果が無く,特に処理直後には加熱の影響でかえって放散が増えるので注意が必要です。また,変形や割れの原因にもなりかねません。

 キャッチャー剤を塗布した試験体の気中濃度はやや下がりました。しかし,室内空気質の改善を期待できるほどの低下ではありませんでした。部分的な塗布での効果は期待できません。また,塗布面の表面がざらつく問題も発生しました。しかし,家具の裏側の未塗装面からの放散などには効果があると考えられることから,後述する封止塗料と組み合わせて使用することが考えられます。

 封止塗料はホルムアルデヒド放散抑制効果が高く,室内空気質の改善に一定の効果が期待できます。しかしながら,封止塗料1は塗布3か月後には効果が半減しました。一方,封止塗料2は塗布1年後も効果を維持しました。封止塗料1の効果が低減した原因は塗布量不足によるものと考えられます。また,封止塗料1・2は両者とも光沢のある良好な表面性を示しました。



まとめ

 家具・教材からのホルムアルデヒド・VOC放散に対する対策フローチャートを図2に示します。ホルムアルデヒドなどの気中濃度超過が発生した場合は,速やかに原因を特定し,適切な対策をとることが重要です。


図2 対策フローチャート

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