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●特集 教室内の空気質の現状と対策方法の検討

学校でのシックハウス問題対策の実践

性能部 性能開発科 朝倉靖弘


シックハウス問題解決のための道筋


 シックハウス問題のシック(sick)は病気という意味ですが,シックハウス問題の発見と対策のためには,人の病気の場合と同じように定期検診が重要です。そこで問題が発見された場合に,精密検査を行い問題を特定していきます。VOC測定の場合には,精密検査はなかなか難しいものがありましたが,最近は色々な製品や手法が開発されつつあります。今回は林産試験場で行っているシックハウス問題対策を紹介します。

 写真1は林産試験場で使用している放散部位探索装置です。ステンレスの容器を放散源となりそうな場所に取り付けてしばらく放置した後,容器中に溜まったVOCを測定します。そして,いくつかの場所で測定したものを比較して,高い数値を出した部分がどうやら怪しいということで,精密測定を行います。

 林産試験場では,可能な場合には問題候補となった場所から材料をのこぎりを用いて切り出して,小形チャンバーを使って精密測定を行っています。しかしながら,目についた場所をすべて穴だらけにするわけにもいきませんので,前述の探索装置で対象をできるだけ絞り込むわけです。ホルムアルデヒドの場合には,小形チャンバー法で得られた結果から,その材料が室内にどの程度影響を与えているかを予測することも可能な場合があります。こうやって,測定を繰り返しながら原因を究明していくのですが,それでもわからない場合があるのが頭の痛いところです。

 机や椅子がある場合は,それらを出して教室の測定を行い,濃度が下がるか検討します。下がった場合にはそれらが原因となっている可能性があります。また,机・椅子を持ち帰って林産試験場の大形チャンバーで測定を行うこともあります。

写真1 林産試験場型 問題部位探索装置


対策の基礎知識


(1)温度によるホルムアルデヒド濃度の変化

 ホルムアルデヒドが気温によって発生量が変わるのはご存じだと思います。では,実際にはどれくらい室内の濃度が変化するのでしょうか?仮に23℃で厚生労働省の指針値の100μg/m3を示す部屋があるとします。この部屋の温度が旭川市の平成19年の月別の最高気温に沿って変化するとした場合の,ホルムアルデヒド濃度変化を計算したものが図1です。

 夏には気温の上昇によって250μg/m3を超える高濃度状態になる可能性があることがわかります。ところが北海道では9月以降一気に気温が下がってしまい,10月くらいには逆に100μg/m3を下回っています。ここで,8月にホルムアルデヒド低減対策を行い9月以降に濃度が下がったとします。ところが,この濃度低下が対策が効いているからなのか,単に気温が下がった結果なのか判断しづらいことが多いのです。もし対策が十分でなかった場合には,次年の5月ぐらいには気温の上昇によって再び指針値をオーバーしてしまう可能性があります。もし,夏期に対策を行った場合には,その後濃度が低下したからと安心せず,注意深く経過を観察するべきでしょう。

図1 旭川市の月最高気温から算出したホルムアルデヒド濃度の変化

(2)時間がたてばVOCは減るのか

 もう一つ重要な点としては,VOC発生の仕方によって時間の経過とともに濃度が減る場合とそうではない場合があることです。塗料に含まれるVOCのように表面に存在する場合には,換気などによって揮発するため,時間の経過とともに濃度が減っていくと考えられます。これに対して,材料の内部や貼り合わされた材料の間にVOCが含まれている場合は話がやっかいです。この状態だと材料の中にVOCが長くとどまり,なかなか表に出てくることがありません。また,加水分解と呼ばれる現象によって,接着剤内で結合していたホルムアルデヒドが分解して出てくる場合もあります。こうなってしまうとホルムアルデヒドの発生自体を減らすことはなかなか難しくなってしまいます。


対策法について


(1)材料交換

 材料の交換は,VOC濃度低減のためにはもっとも確実な方法といえます。しかし,原因の特定が難しかったり,特定できても構造的に交換できない場合もあります。また,交換費用が多額になる可能性もあります。

(2)換気

 換気は,もっとも手軽に行うことができる対策です。ただし,窓を開けて行う場合でも設備による機械換気でも,それらによって教室の空気がきちんと入れ替わるように気をつけて行うべきです。例えば,空気の入口と出口が部屋の反対側に来るようにする,建物全体を考えて空気の通り道を作ってやる,等を意識する必要があるでしょう。

(3)吸着材の使用

 材料交換や換気の検討を行い,それでも駄目な場合には吸着材を使用することも考えられます。吸着材については,VOC濃度,面積,換気などの使用条件によって性能を十分に発揮できない場合もあります。製品の試験データ等を吟味して,問題となる教室の濃度を目標濃度まで減らせるかを,よくチェックして使うべきでしょう。

林産試験場での対応事例


 林産試験場で行った学校での対応事例を紹介します。

 問題部位探索装置を使った調査の結果,どうやら小屋裏の屋根面に当たるコンクリート部分からトルエンが発生していると考えられました。どうしてこの部分からトルエンが多量に発生しているかはわからなかったのですが,小屋裏のトルエンが教室内に流入しないように,小屋裏の空気を直接外部に排出する換気装置を取り付けました(写真2)。この装置は今年の春に設置したため,現在その効果を検証中です。

写真2 林産試験場型 小屋裏排気システム


まとめ


 シックハウス問題を解決するために林産試験場が行っている方法についてお話をしてきました。しかしながら,一度起こってしまったシックハウス問題を解決するのは,なかなか大変な作業であるというのが実感です。やはり,新築,改築時に材料のチェックなどを十分に行い,シックハウス問題を未然に防ぐことが大切であると言えるでしょう。

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