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●特集『木質バイオマス研究の今,石油に取って代われるか』

バイオリファイナリーで循環型社会を目指す

利用部 再生利用科 檜山 亮



はじめに


 地球温暖化対策や地域資源の有効利用のために,化石資源を植物資源に切り替えていこうという動きが国内外で強まっています。ここでは,バイオリファイナリーと呼ばれる,植物資源を様々な化学製品に変換する技術について解説します。

植物資源を使う意義


 2007年のノーベル平和賞は,地球温暖化問題の啓発や調査に取り組むゴア前米副大統領とIPCCに授与されました。IPCCとは,気候変動に関する政府間パネル(Intergovermental Panel on Climate Change)の略称で,130カ国から2500~3000人の研究者や各国政府関係者が参加し,地球温暖化の原因究明,温暖化が地球環境に与える影響の予測,そして温暖化対策の方法について検討する集まりのことです1)

 地球温暖化に関しては,本当に温暖化が進んでいるのかどうか,その温暖化が人間活動の影響によるものなのかどうかについて,疑いの目を向ける人も少なくないのですが,多くの専門家たちが,多角的な視点から検証した結果,温暖化が起こっていること,温暖化が人間活動による温室効果ガスによりもたらされた可能性がかなり高いことが結論として導き出されました2)

 本年開催された北海道洞爺湖サミット(写真1)の首脳宣言でもIPCCの第4次評価報告書が確認されました3)。地球温暖化と温室効果ガスの関係に対する認識の高まりにより,温室効果ガス排出削減に向けた取り組みや技術開発の進展が期待されています。

写真1 北海道洞爺湖サミット会場

 温室効果ガス削減の柱の一つとして,化石資源の植物資源での代替が挙げられています。地中に埋まっていた化石資源を掘り出して燃焼させると大気中の二酸化炭素濃度がどんどん増加してしまいます。
 これに対して,植物資源は燃やしても,再び植物を育てれば,排出された二酸化炭素をその植物が吸収するので,全体で見ると二酸化炭素を増加させずにエネルギーを使用することができます。これをカーボンニュートラルといいます(図1)。
 このカーボンニュートラルの考え方が,植物資源利用推進のための大きな理由の一つとなります。

 また,化石資源が中東などの限られた地域に偏在しているのに対し,植物資源は地球上に豊富に存在することから,植物資源を有効利用する技術が開発されれば資源の安定供給や自給率向上に役立ちます。

図1 カーボンニュートラル

オイルリファイナリーからバイオリファイナリーへ


 石油はオイルリファイナリーと呼ばれる精製工程を経て,ガソリンや軽油などの燃料として,またプラスチックや合成繊維などの化学製品として20世紀の人類の発展に大きく貢献してきました5)。しかし,前述のように化石資源由来の二酸化炭素を減らす目的や,燃料や化学原料を限られた地域の国に大きく依存してしまうことに対する不安から,植物性の材料を燃料や化学製品原料に変換する技術,すなわちバイオリファイナリーに注目が集まっています。生分解性プラスチックとして有名なポリ乳酸,ガソリン代替燃料のバイオエタノールもバイオリファイナリーに含まれます。

 液体燃料やプラスチック原料など,石油からしか作れないと思われているものの大部分が,実は植物原料を変換して作ることができるのです6)
 植物の主要な構成要素であるセルロースはブドウ糖(グルコース)が鎖状に連なったものです。それを分解してブドウ糖を取り出し,さまざまな発酵方法で変換すると,ガソリンを代替するバイオエタノールや軽油を代替するバイオブタノールを製造することができます7)

 さらに現在では,ブドウ糖から化石資源由来の合成高分子のうちの95%を作ることができると言われています8)
 また,バイオマスを酸素が少ない状態で高温処理して生成した水素ガスや一酸化炭素ガスから石油の主成分である炭化水素を作ることもでき7),リグニン分解物や精油成分も原料にすると,化石資源由来の物質のほぼ全てを代替することができると言われています(図29)

 これらの技術の多くは,今のところ石油より安く目的物質を作ることができないため実用化されていません。しかし,原油価格の高騰やバイオリファイナリー技術の革新,またカーボンニュートラルの考え方が後押しになることにより実用化の可能性は十分にあると思われます。

図2 バイオリファイナリーの概要

バイオリファイナリーの国内外の動向


 バイオリファイナリーの研究開発に焦点を当て,特に力を入れてきたのがアメリカです6)
 アメリカでは1999年にクリントン大統領が「バイオ製品とバイオエネルギーに関する開発と促進」を大統領令として定め,今後の化学製品製造に際し,消費増加分は化石資源ではなくバイオマス資源由来のものでまかなうという目標が立てられました。
 これを実現すると,化学製品に占めるバイオマス由来製品の割合は2020年に10%,2050年には50%になると試算されています。

 バイオマスから化学製品を作るには,多くの化学反応や生物的変換が必要で,用途に合わせた多様な化学製品を作ることを考えると,膨大な数の要素技術の研究開発をしなければなりません。アメリカでは早い段階から,用途に合わせた様々な高分子を作る元となる,逆に言うと,これらができればかなりの種類のプラスチックが作ることができるという,バイオマスから作るべき12種類の低分子化学物質(図3)を戦略的に選定し10),研究開発を進めています。

図3 米国エネルギー省によって定められたバイオリファイナリー期間物質

 日本では2004年にバイオリファイナリーに関するアメリカの動向と国内での可能性などを調べる大規模な事業が行われ,世界的にも最先端をいく日本のバイオ変換技術がバイオリファイナリーにも大いに役立つこと,セルロース系バイオマスから効率よく糖を取り出すことの重要性などが確認されました11)

 さらに2008年3月には産学官の協力のもとに,日本のエネルギー需給や未利用バイオマスの利用,地球温暖化対策のためのバイオ燃料技術革新計画が策定されました。これにもバイオリファイナリーが取り上げられ,技術開発の方針も定まってきたようです12)。

バイオリファイナリーのための資源


 トウモロコシデンプンなどの食糧を,バイオ燃料を含めたバイオリファイナリーの原料にすることは,倫理的にも問題が多い上,耕地面積に限界のある日本では適切ではありません。そのため,草や木などのセルロース系バイオマスの利用が求められています。

 セルロース系バイオマス資源については,現在二つの考え方があります。一つは,バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議で主に検討された廃棄物と未利用バイオマスの有効利用13)で,もう一つはバイオ燃料技術革新協議会で検討された資源作物栽培です12)

 廃棄物・未利用バイオマスというと下水汚泥や家畜糞尿,稲ワラなどの農業残渣,建築廃材,間伐材や枝葉などが含まれますが,ここでは特に木質系の廃棄物・未利用バイオマスである建築廃材や間伐材,林地残材についてとりあげます。
 これらは国内にある利用可能な資源であるのに,その多くが焼却炉でエネルギーをかけて処理されたり,森林内で自然に腐るのを待つだけになっていることから,できるだけ早く技術開発をして有効利用を開始するべき資源として位置づけられています。

 しかし,資源量に限界があることや,国内各地に薄く広く存在するため収集・運搬コストがかかることから,これらを使う燃料や化学製品の製造コストの低減には限界があります。そのため,バイオエタノールは,免税によってガソリンと価格競争力を持たせた100円/Lが当面の目標とされています。
 この価格では,ブラジルから40円/L程度で輸入した方が安くなってしまう14)のですが,エネルギーセキュリティや,地球温暖化対策,間伐促進による農山村の活性化などの観点から,実用化が目指されています。

 林産試験場でも,建築廃材を処理して,糖を取り出す研究を2005年から行っています15)。重金属薬剤入りの建築廃材を適正処理しつつ,その木質部分からバイオエタノールや化学製品の原料になる糖を取り出して有効利用しようとする研究です。

 一方,廃棄物・未利用バイオマスには資源量に限りがあることから,不足を補うため考えられているのが資源作物の栽培です。
 バイオマス資源を目的とした資源作物は,日本の南西部でエリアンサスなどの巨大草本,北海道などの比較的冷涼な土地でヤナギ(写真2)などの早生樹を中心に検討が進んでいます12)
 資源作物の栽培試験やその作物に合わせた画期的な低コストバイオマス変換方法を開発するには時間がかかると見られているので,こちらは少し将来的な研究になります。

 将来,アメリカやブラジルのエタノールやガソリンと価格競争力がある40円/Lのエタノールを作るには,一定規模のまとまった面積の資源作物畑で作物を栽培し,大型の工場で効率的にバイオエタノールを作る必要があるという試算が発表されています12)。それは,約4万haの面積でヤナギやポプラを育てて,年間10~20万kLのバイオエタノールを作るような規模です。
 林産試験場がある旭川市の面積と比較すると,旭川市は約7.5万haなので,旭川市の半分強の面積にヤナギを植えて栽培する計算になります。

 北海道のガソリン消費量は約250万kL/年ですので,この畑から2.6~5.2%分のガソリン代替バイオエタノール(エタノールとガソリンの発熱量で算出)ができる計算になります。かなりまとまった面積のヤナギ畑が必要になってしまいますが,将来のためにはこのようなバイオマス林業についても真剣に検討しなければいけないのかもしれません。

おわりに


 石油資源からの急激かつ完全な脱却はなかなか難しいのですが,石油資源の枯渇や需給のひっぱく,地球温暖化問題への対応,さらに,地元のバイオマスを有効利用することで間伐の促進や新しい産業の創出,燃料や化学原料自給率の向上などが期待されます。
 これらのことから,林産試験場でも2008年度からヤナギを原料にしたバイオエタノールの製造方法について研究を開始し,鋭意取り組んでいるところです。

引用文献

1) IPCC WG1国内支援事務局HP 2007年10月15日IPCCがノーベル平和賞を受賞
2)報道発表資料平成19年11月17日文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書統合報告書政策決定者向け要約(SPM)の概要速報版
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=10504id=9055
3)「G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言」 北海道洞爺湖,2008年7月8日
4)山崎亨史 「木材から糖をつくる(木材糖化)」 林産試だより2007年7月号
http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/0707/4.htm
5)瀬川幸一編「石油がわかれば世界が読める」朝日新聞出版 2008年
6)(財)地球環境産業技術研究機構 編 「バイオリファイナリー最前線」 工業調査会
7)檜山 亮 「バイオマスからの液体燃料について」 林産試だより2007年7月号
http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/0707/3.htm
8)寺本好邦ら「リグノセルロースからのバイオエタノール製造-木材糖化・バイオリファイナリーの歴史・現状・新展開-」 伝熱 2008年1月号
9)右田伸彦・米沢保正・近藤民雄 編「木材化学(下) 共立出版株式会社 1968年12月
10)T. Werpy and G. Petersen 編 「Top Value Added Chemicals from Biomass. Volume ?-Results of Screening of Potential Candidate from Sugars and Synthesis Gas」米国エネルギー省 2004年8月
11)財団法人バイオインダストリー協会「バイオリファイナリーの研究・技術動向調査 報告書」新エネルギー・産業技術総合開発機構 2005年7月
12)バイオ燃料技術革新協議会「バイオ燃料技術革新計画」資源エネルギー庁HP
13)「バイオマス・ニッポン総合戦略」農林水産省HP内 平成18年3月
http://www.maff.go.jp/j/biomass/pdf/h18_senryaku.pdf
14)大聖康弘・三井物産(株)編 「バイオエタノール最前線」株式会社工業調査会 2004年
15)「建設廃木材のバイオエタノール等原料生産に向けた木材糖化に関する研究」林産試験場平成18年度年報
http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/rsjoho/40718013030.pdf

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