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バイオマス燃料あれこれ

利用部 物性利用科 山田 敦



はじめに


 原油価格の乱高下にともなう灯油,ガソリン,軽油など石油製品価格の不安定化が,道民生活はもとより,運輸業,水産業などの産業活動や中小企業の経営に大きな影響をおよぼしています。
 一方,本来地球温暖化防止策として検討されてきた木質ペレット・バイオエタノール・バイオディーゼルなどのカーボンニュートラルなバイオマス燃料を,不安定な化石燃料に代わるものとして本格導入する機運が高まって来ています。
 ここでは,化石燃料とバイオマス燃料の価格を比較するとともに,さらなるコストダウンの手法などについてご紹介します。

バイオマス燃料は安いか?


 イラク戦争以降の原油価格の上昇により,平成20年7月11日には一時,1バレル当たり147.27ドルと史上最高値を更新しました。我が国では石油等の化石燃料は海外に依存しているため,その価格は国際情勢等の影響を大きく受けます。現在,化石燃料価格は沈静化しているとはいえ,産油国の生産事情や投機的要因,中国等の高度経済成長により,近い将来,原油の需給バランスが崩れ,さらにまた価格が高騰することも予想されています。

 表1に,バイオマス燃料と化石燃料(高騰時)の価格を示します。発熱量ベースの比較では,廃材チップ,背板チップ,山棒チップはA重油と,バイオディーゼル(廃食油由来)は軽油と比べて安くなっています。ペレット燃料,バイオエタノール(小麦由来)は,それぞれ灯油,ガソリンと拮抗している状況にあります。

表1 バイオマス燃料と化石燃料の価格比較

 低価格な木チップの利用は,木材産業界にとどまらず,温泉施設やクリーニング工場など多大な熱量を消費する施設に広まりつつあります。

 写真1は東神楽町のクリーニング工場に導入されたバイオマスボイラーです。この工場では導入前(H18)に薬注費,燃料費(重油)として5,422万円/年の経費をかけていましたが,導入後(H19)は新たに人件費がプラスされているにもかかわらず,約4割の大幅な経費削減となりました(但し,減価償却費を除く)。

写真1 バイオマスボイラー

コストダウンは可能か?


 ペレット燃料,バイオエタノール(小麦由来),については,平成20年9月時点では化石燃料との価格差はない状況にありました。私たちの生活を考えると,より安価で提供されることが望ましく,不安定な原油価格に抗するためにも,コストダウンを図る必要があります。

 ペレット燃料はヨーロッパにおいては日本より安い価格で提供されています(表2)。また,ブラジルではサトウキビ由来のバイオエタノールが日本の半分以下の価格で流通しています。政策や,人件費や光熱水費などの製造コストが安いという違いはありますが,日本国内においても以下の課題をクリアすることにより,現状より安価にバイオマス燃料を供給することは可能であると考えます。

表2 ヨーロッパにおけるペレット燃料の価格

(1)原料コストの低減

 ペレット燃料の原料となるおが粉も,バイオエタノールの原料である規格外小麦も,現在は有価で購入しています。
 ペレット燃料では,原料価格は背板チップとほぼ同額の約10円/kgであると予想されます。より安価な廃材チップなどの廃棄物系原料を用いることにより,製品価格を引き下げることは可能です。写真2はきのこ栽培に用いた廃菌床を混入したペレットです。試算では製品価格が数円安くなります。

写真2 廃菌床混合ペレット

 バイオエタノール生産に関しても,原料コストの低減は可能であると考えます。しかし,農産廃棄物である稲わらを原料とした方が小麦由来のものよりも製品価格が高くなっていることからも分かるように,必ずしも原料価格が製品価格に反映するわけではありません。コスト低減につなげるためには,規模に応じた原料を確保できるか,原料変更に伴う生産ライン変更が新たな負担とならないか,など詳細な検討が必要です。

(2)生産コストの低減

 生産コストの低減に最も有効なのは需要拡大でしょう。現在は需要が少ないため,北海道内のペレット工場はフル稼働している状況にありません。稼働率を上げることにより,減価償却費などの割合を低く抑えることができます。

 一方,海外では24時間体制で生産しているペレット工場も見られます。生産を拡大するためには,原料調達がネックとなります。エネルギー密度(後述)が低いバイオマスの場合,収集コストが高くなるため原料の調達範囲が狭くなりますが,前述したように様々な原料を調達することなどにより,まだ生産拡大は可能であると考えます。

 また省エネによる光熱水費の削減も有効でしょう。ペレット工場の場合,一番大きいのは原料の乾燥にかかる光熱水費です。ソーラー乾燥(写真3)などを活用することにより,改善する余地があると考えます。

写真3 ソーラー乾燥設備

(3)流通コストの低減

 ペレット燃料の流通については工場直販が主体です。販売店を介さないため効率が良いように見えますが,実際は販売に係る人件費を工場が負担していることとなり,配送に宅急便等を用いていることから工場から離れた地域では割高となります。安定的な需要が確保された段階で販売店を整備する必要があります。

 表2に見られるようヨーロッパのペレット燃料価格は配送形態により異なり,より大口の方が安く入手できます。今後,北海道内でも住宅用ペレットボイラー等の導入に伴って,バルク配送が実現すれば,より安価に入手できる可能性があります。

(4)副産物の利用

 バイオエタノール(小麦由来)やバイオディーゼル(ナタネ由来)については,搾りかすを飼料等として販売することによってコストダウンを図っています。しかし,副産物については,燃料とは別に利用方法や販売経路を開拓する必要があります。

 ブラジルでは,バイオエタノール生産の際に発生するバガス(搾りかす)を蒸留に要する燃料として活用しコストダウンを図っています。道内のペレット工場でも,規格外のペレットを原料乾燥用の燃料として活用しています(写真4)。

写真4 バイオボイラー

コストよりも重要なこと


 バイオマス燃料はカーボンニュートラルな燃料として位置付けられ,使用の際に二酸化炭素を排出しないとされてます。しかし,実際は原料収集,製造,流通過程において化石燃料に依存しているため,若干ですが二酸化炭素を排出することとなります。バイオマス燃料で代替可能な化石燃料はバイオマス燃料に変更するという努力が必要です。

 バイオマス燃料は再生可能なエネルギー源ですが,持続可能なエネルギー源として年間に利用できる量は植物の成長量の範囲に限られています。それを超える無計画な利用は,シュメール文明におけるレバノンの砂漠化の例に見られるように破滅を招きます。

 主なバイオマス燃料について,エネルギーの効率的な利用の指標としてエネルギー収支比を,利便性の指標として容積あたりのエネルギー密度を表3に示します。

表3 エネルギー収支比とエネルギー密度

(1)エネルギー収支比とは

 エネルギー収支比とは,得られたエネルギーを投入エネルギーで割ったもので,1以下の場合は造れば造るほどエネルギーを消費することになります。バイオマスのエネルギー利用を環境対策ばかりではなく,エネルギー対策と捉えると,エネルギー収支比はとても重要な指標と言えます。

 山棒チップについては,投入エネルギーとして伐採,搬出,輸送,破砕に係るエネルギー(1.44MJ/t)を見込んでいます。ペレット燃料については,それに製造に係るエネルギー(原料乾燥に係るエネルギーが主体)を加えて,投入エネルギーを7MJ/tとして計算しています。
 バイオエタノール(小麦)の投入エネルギーには栽培に係るエネルギーも含まれています。バイオディーゼル(廃食油)については,原料作物の栽培に係るエネルギー及び食油の製造に係るエネルギーは考慮していません。

(2)エネルギー密度とは

 エネルギー密度は一定容積に蓄えられるエネルギー量を表しています。山棒チップ,ペレット燃料については,かさ密度をそれぞれ0.2kg/L,0.6kg/Lとして計算しています。

 エネルギー密度が低い燃料は,輸送コスト,貯蔵コストが割高となり,燃料を頻繁に補給しなければならないため,使い勝手は悪くなります。特に運輸燃料として用いる場合は,航続可能距離を延ばすために高エネルギー密度の燃料が必要とされます。

(3)用途に応じた使い分け

 表3に示したように,廃棄物の再利用であるバイオディーゼル(廃食油)以外は,エネルギー密度が高くなるに従い,投入されるエネルギーも大きくなり,エネルギー収支比は悪くなります。バイオエタノール(小麦)のエネルギー収支比は1に近く,カーボンニュートラルなバイオマス燃料による化石燃料の代替という点で,当面の二酸化炭素削減策としては優れていますが,現状では,効率の良いエネルギーの使い方とは言えません。

 前述したように,コストや二酸化炭素排出量はまだ減らすことは可能です。しかし,生産に係る投入エネルギーの低減は画期的な新技術の導入による抜本的な製造工程の見直しが図られない限り,難しいと思われます。

 バイオディーゼル(廃食油)に関しては,エネルギー収支比,エネルギー密度とも高い値を示しています。しかし,原料となる廃食油が限られているため,広範な活用は難しいと考えます。

 エネルギーとして活用できるバイオマスが限られていることを考慮すると,利便性を求めて必要以上のエネルギーを投入することなく,重油代替の木チップ,灯油代替のペレット燃料,ガソリン代替のバイオディーゼルやバイオエタノールというような,用途に応じた使い分けが大切です。

おわりに


 先日,小学5年生を対象に地球温暖化やエネルギー問題に関して話をする機会に恵まれました。彼らの環境問題に対する認識は高く,日本の教育のレベルの高さを感じました。
 彼らに今後,私たち(人類)が行うべきこととして,何があるかと質問したところ,新しい技術開発という意見が最も多く,自分たちの生活様式(ライフスタイル)を見直すという意見は少数でした。

 化石燃料という高効率なエネルギーを得て私たちの生活レベルは,この数世紀,飛躍的に向上しました。今,それに替わるものとしてバイオマス燃料が私たちの目の前にあります。しかし,再生可能なバイオマスといえども限られた資源であることは,化石燃料と変わらないのです。

 バイオマスが私たちの生活に必要不可欠な建材,紙などのマテリアルや食料として既に利用されていることを考慮すると,化石燃料を用いる以上に省エネ・省資源というライフスタイルにシフトしていくことが要求されると予想されます。今後,限られたバイオマスをどのように使っていくかは,新たな技術開発と同様に重要な課題であると考えます。

参考資料

1)北海道水産林務部内部資料:「今後の森林・林業施策の展開方向」,平成20年
2)北海道経済部資源エネルギー課:「バイオマス燃料等実用化検討会議検討資料」,平成17~18年度
3)滝川市:「ナタネ油のBDF化利用実証試験報告書」,平成19年3月
4)Thet MYO他:「ココナッツ油メチルエステルによる直噴式ディーゼル機関の燃焼特性」,鹿児島大学工学部研究報告第47 号(2005)
5)NEDO:「クリーニング工場における木質バイオマス熱利用フィールドテスト事業」中間報告書,平成20年3月
6)環境省エコ燃料利用推進会議:「熱利用エコ燃料の普及拡大について」,平成18年8月
7)原田寿郎:「木質バイオマスエネルギー利用に関わるエネルギー消費量」,木材工業Vol.51,No.11,2002
8)独立行政法人農畜産振興機構:「米国の砂糖需給と政策およびバイオエタノール産業の情勢と今後の見通しについて(2)~バイオエタノールの最新情勢と需要・利用面からの検証~」,2008年1月
9)鳥取県北栄町環境生活課:「北栄町地域新エネルギー・省エネルギービジョン策定等事業概要版」,平成20年2月

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