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CO2削減と樹木・木材

利用部 再生利用科 山崎亨史



はじめに


 1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3,京都会議)で採択された京都議定書は,地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減を目的に,2005年に発効になり,2008年から第一約束期間(2012年まで)が始まっています。
 そこで,ここでは温暖化対策として,木材の有効利用による大気中の二酸化炭素(CO2)削減について考えてみようと思います。

温室効果ガスとCO2


 ここで言う温室効果ガスとは,二酸化炭素(CO2)のほかに,メタン(CH4),亜酸化窒素(N2O;一酸化二窒素),代替フロン等(HFCs;ハイドロフルオロカーボン類,PFCs;パーフルオロカーボン類,SF6;六フッ化硫黄)とされています。なお,これらのガスの温室効果はCO2に対して,CH4は21倍,N2Oは310倍,代替フロン等は数百から数万倍にもなります。この値は地球温暖化係数と呼ばれ,温室効果ガス排出量は統計データとしてまとめられる際,それぞれのガスの排出量にこの係数を乗じてCO2換算として表されます。
 京都議定書では基準年を1990年として(代替フロン等は1995年の選択も可),日本は基準年の排出量の数値より6%削減が義務付けられ(94%を排出枠と考える),目標を達成できなければ,罰則を受けることになります。

 ここで,これらの温室効果ガスの日本における排出割合を見てみましょう。表1に基準年と2006年度の排出量と割合1)を示します。この表も先に述べた温暖化係数を用いたCO2換算値です。表で分かるように,基準年から増えているのはCO2であり,さらにそれは全温室効果ガスの中で最も多く,2006年度ではその割合が95%を占めています。またその結果,温室効果ガス合計として,基準年よりも増加していることになります。このことから温暖化防止のためには,CO2削減が最も大きな課題といえます。

表1 温室効果ガスの排出量と割合

 京都議定書では実質的な削減のほかに,CO2の吸収源として森林による吸収量を削減と認めたり,京都メカニズムを採用しています。この京都メカニズムでは,総排出量の枠内において先進国間で炭素クレジットを行う国際排出権取引(IET)や,出資国が事業の実施国で削減した排出量を取引する共同実施(JI),先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行って温室効果ガスの排出量を削減または吸収量を増幅する事業(例えば途上国におけるメタンガス放出を削減する技術の投入や植林事業など)を実施して削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができるクリーン開発メカニズム(CDM)を規定しています2)。排出権取引には,上述のほかに,グリーン投資スキーム(GIS)と呼ばれる,排出量の移転に伴う資金を,温室効果ガスの排出削減,その他環境対策に使用するという方法もあります。

 日本は,国内における植林による吸収で3.9%に相当する量を確保することを想定しています。また,既に第一約束期間の目標を達成し余剰枠のあるハンガリーと,共同実施およびグリーン投資スキームにおける協力に関する覚書を交わしており,これらにより日本国内での排出オーバーを補うことになります。
 とはいえ,日本に対する排出量の義務は1990年の値のマイナス6%となっていますが,実際には2007年の値で,1990年よりもプラス7.8%となっており,現状から13.8%減少させなければなりません。加えて,1990年以前から省エネが進んでいたこともあり,達成は難しいといわれています。

樹木の働き


 さて,京都議定書ではCO2の吸収源として森林による吸収量を削減として認めていますが,これはどういうことなのでしょうか。
 植物は炭酸同化作用とも呼ばれる光合成により,大気中のCO2から太陽光により有機物と酸素をつくり出します。生物由来の有機物資源としてバイオマスが注目されるのはこの点で,バイオマスを燃焼などによりエネルギーとして利用しても,その際発生するCO2は再び炭素としてバイオマスに取り込まれるという考え方で,バイオマスはカーボンニュートラル(大気中のCO2を増減させない)として扱われます。

 さらに樹木の場合,寿命が比較的長く,数十,数百年,中には屋久杉のように千年以上,生きているものもあります。また,枯れた後も,他の生物と異なり,腐りにくいという特徴もあります。腐るということは,大気中へのCO2放出を意味しています。気象条件などにもよりますが,草などの早いものでは1年もかからないうちにほとんどが分解されるのに対し,木が分解されるのには少なくとも数年というオーダーになります。すなわち,樹木は長い期間にわたり炭素を蓄積し続け,枯れて朽ち果てる過程において,蓄積した炭素をゆっくりとCO2として大気に放出するのです。このことから,他のバイオマスと異なり,森林をCO2の吸収源として扱うことが認められたのだと思われます。

 植物は光合成を行って炭素を有機物として固定するかたわら,呼吸によりCO2も放出しています。光合成量と呼吸量の差が大きいほど,炭素の固定量が多くなります。果物などで昼夜の寒暖の差が大きいほど甘くなるというのはこのことと通じることで,この場合は夜間の気温が低いと呼吸量が少なくなるためです。樹木の場合は,老齢木になると炭素の固定量が少なくなるといわれています。このことから,森林を管理する場合,炭素の固定量の面からは,成長の旺盛な若い樹木の多い状態に保つことが望まれます。

 ただし,京都議定書の第一約束期間における木材の収穫は,伐採時にCO2が発生した扱いになっています。ですから,削減義務達成のためには,植林を進めることは効果的ですが,伐採は不利に働くことになります。しかしながら,実際には次で述べるように,木材利用が炭素固定に貢献している点を反映させる必要があります。

 なお,この点については,2013年からの第二約束期間で,森林と伐採木材を合わせて排出・吸収量を計測する方法として,蓄積変化法,生産法,大気フロー法が検討されています3)。この中のどの方法が採択されるか,各国(木材輸入国あるいは輸出国)によって思惑も異なっています。

木材と炭素


 木材は,樹木によって生み出されますが,それを構成する元素のうち,重量比で約半分を占めるのが炭素です。これは先にも述べたように大気中のCO2を吸収し有機物として固定されたものです。ですから,樹木として育てたものを,燃やしたり腐らせたりせずに木材として置いておくことで,大気中のCO2を減らすことができます。

 そもそも,現在,問題となっているCO2は,大昔に生物が固定し蓄えられた炭素を燃料(化石燃料)などとして使ったことが大きな要因です。石炭はまさに樹木のような大きな植物が地中に埋もれ,熱や圧力により石炭化したものです。
 とはいえ,樹木を伐(き)ったままでは,他の生物が利用しやすい条件,すなわち水分と酸素がある状態にさらされます。実際に天然林では,木は昆虫やキノコなどによって食べられたり腐ったりして分解され,CO2として放出されています。そのため炭素を固定している期間を長くするには,人が木材として乾燥する,塗装や防腐・防虫処理するなどにより分解されにくくすることが有効となります。

 また,木材生産を目的とした人工林において,野菜などの間引きに相当する間伐は,炭素の固定量を多くするにも重要です4)。間伐により,一時的に炭素の固定量は間伐しない場合よりも低くなります。しかし,間伐しない場合は,1本あたりの日当たりが少なくなり,光合成量が小さくなるのに対し,変わりなく呼吸をするので,結果として固定効率は悪くなってしまいます。一方,間伐された林分は,日のあたりが良くなるため,呼吸量に対し大幅に光合成量が多くなり,個体数が少なくても,全体の固定量は逆転し,間伐しない場合よりも多くの木質資源を得ることができます。
 当然,間伐材自体も木材として有効利用することが必要です。切り捨て間伐では,昆虫や菌類などの消費者・分解者により,比較的短期間でCO2に戻されてしまいます。

木炭による炭素固定


 先に,人手により分解されにくい状態にすることで,長い期間,炭素を固定できると述べました。とはいえ,有機物のままでは,いずれ分解されてCO2となってしまいます。そこで注目すべきは,木炭です。木炭は,有機物である木材から炭素以外の酸素と水素の大部分を熱化学的に取り除き,無機炭素を含む炭素率の高い物質に変換させたものです。実際には,製造条件によって異なりますが,炭化の過程で多少なりのCO2も発生します。

 炭化することで,生物には利用しにくくなり,燃やさない限りはほとんどCO2を発生することはありません。燃焼以外で炭が酸化されるのは空気中のオゾンによると考えられ,それによる木炭(ブナ鋸屑を1千℃で炭化)の半減期は約5万年と推定する報告5)があります。
 このことから,木炭を土壌改良材として土に鋤(す)きこむことは,土の物性を良くするだけでなく,炭素の固定にも効果的といえるでしょう。

木材利用の意義


 CO2削減の意味で,木材を利用することは,炭素を固定しているだけではありません。ここでは木材を利用することによる炭素固定以外のCO2削減効果についても紹介します。

 木材の最大の需要先は住宅関連です。そこで主に住宅関連の材料や工法におけるCO2の放出量についてみていきます。なお,CO2の放出の多くはエネルギー利用によるもので,次に紹介する事例でも,CO2の放出量が大きいものは,エネルギー消費が大きいものと言い換えることができます。

 木材は生物資源であるがゆえ,工業材料と異なり,性能にばらつきがあることなどから,他の工業材料に替えられてしまったものも少なくありません。しかし,木材は他の材料よりも優れた面があります。それは強度を比重(密度)で割った値である比強度が高いということです(表26)。比強度が高いというのは軽い割りに強いということで,圧縮ではアルミニウムにやや劣るものの,ほかは木材が高い値を示しており,同じ重量であれば木材の方が強いことになります。同じ寸法では劣っていても,寸法(断面)を大きくすることで,他の材料よりも軽くすることができるのです。ただし,製材で得られる断面には限界があり,集成材などへの加工が必要になります。

表2 比引張強度と比圧縮強度の材料別比較

 次に,材料として加工する際の製造時炭素放出量7)表3に示します。前述したように同じ重さであれば木材が強いことから,重量当たりのCO2放出量で比較すると,コンクリートを除き,木質材料の放出量が少ないことが分かります。またコンクリートとの比較でも,比強度から考えると,構造材としては人工乾燥材の方が放出は少ないといえます。
 さらに,軽いということは,輸送や取り扱いに伴うエネルギーが少なくて済むことにつながります。

表3 製造時の炭素放出量と炭素収支

 次に建物の工法別に主要構成部材の製造時炭素放出量(床面積1m2当たり)を表4に示します8)。ここには木材による炭素固定の概念は含まれていませんが,木造住宅に用いられる材料の製造時炭素放出量は,鉄筋コンクリート造や鉄骨プレハブ造の,1/3から1/4程度となっています。炭素固定も含めて考えると,木質材料を多く使っている木造住宅は他の工法よりCO2放出量が少なくて,温暖化対策に優れているといえます。

表4 平成5年度に建設された全住宅の主要材料製造時の炭素放出量

 ただし,これだけで「木造住宅はCO2放出量が少なくてよい」とするのは少し乱暴かもしれません。使用している(住んでいる)期間,そして解体して廃棄するところまで,すなわち,LCA(ライフサイクルアセスメント)を評価しなければなりません。仮に,建設時のCO2放出量が少ないとしても,冷暖房効率が悪い,寿命が短い,あるいは解体するのに余計にエネルギーを必要とすることになると,建設時のメリットが帳消し,あるいはトータルでより多く排出することになる場合も考えられます。これに関連する1979年当時のデータ9)表5に示します。なお,本データを引用している文献によると,解体材の廃棄や使用時の冷暖房などのエネルギーは含まれていないこと10),算出方法やデータの裏づけが少ない11)などの問題点が指摘されています。

表5 構造別住宅の投入エネルギー

 このデータの総量で見ると,木造や木質系プレハブ造のライフサイクルエネルギーは,軽量鉄骨系プレハブ造には劣るものの,鉄筋,鉄骨コンクリート造よりも小さい値です。これは,ライフサイクルで占める割合が最も大きい部材製造時のエネルギーが小さいことによります。施工・保守・解体のエネルギーにおいては,意外にも木造住宅は鉄骨コンクリート集合住宅とそれほど差がない結果となっています。

 次に,耐用年数から算出した年当たりの数値で比較すると,大きく順番が変り,木造は部材によるメリットが現れなくなり,鉄筋,鉄骨コンクリート造よりも高い値となっています。これは耐用年数が鉄筋,鉄骨コンクリート造は60年であるのに対し,木造は30年,木質系プレハブ造は25年と,前者の半分以下とされているからです。しかし,耐用年数は実際の居住可能期間とは異なり,解体時の築後年数が50年以上のものが木造では23.2%を占めていたというデータ12)もあります。また,最近の木造や木質系プレハブ造では,耐久性のある材料や工法の工夫により,より長く使用することが可能になっており,もともとのメリットを生かすためにも,長く使用することが重要となります。

 なお,冷暖房に関しては,コンクリートは蓄熱性があるのに対し,木造は蓄熱しにくい13)こともあり,木造がやや劣るようですが,高断熱・高気密木造住宅と比較すればコンクリート造との差は狭めることができます。

地材地消


 コンクリートの原料となるセメントを除けば,多くの工業材料は輸入に頼らなければなりません。しかし木材は,近場に樹木として植栽することで,近場で生産することができます。このことは輸送距離が少なくて済み,軽いということを合わせてCO2放出量を低く抑えることを可能にします。

 ただ,残念ながら,一時期,価格競争により外材(輸入材)が台頭し,日本における木材自給率は20%を切っていました14)。北海道ではこれよりも高いものの,道産材供給率35%を切る時期もありました。
 これに対し,北海道では道産材の利用を進める運動として,木材の地産地消として”地材地消”を提唱し,需要拡大を図っています。また,木材の総輸送距離を ウッドマイルズ15)として表すことで,環境意識や地域材利用の意義を消費者に啓発する取り組みもあります。

 最近は,地材地消などの考え方が浸透してきたとともに,輸入材の品不足や価格上昇などにより,2007年度の需給実績14)では,道産材供給率が52.7%と回復傾向にあります(日本の木材自給率は22.6%)。

最後にエネルギーへ


 CO2対策の一つとして,カーボンニュートラルの考え方に基づくバイオマスのエネルギー利用の考え方が広まり,特に,賦存量の多い木材のエネルギー利用にも期待が寄せられています。中には,エネルギー用として植栽されたものではないにもかかわらず,山から直接,エネルギー用の木材を確保できないかというような考えを持つ人も一部にいるかもしれません。もちろんそのような人は,林業や林産業に携わっている人ではなく,林業・林産業の現状をあまり知らない人でしょう。

 しかし,現在使用されているエネルギーの原料価格は安いもので,造材コストなどを考えるとエネルギー利用のみを目的とした伐採,収穫は難しい状況にあります。実際,木材を発電用として伐採,収穫するシミュレーションでは,燃料価格が19.45円/kWhとなり,売電価格よりも高くなると指摘されています16)。また,林業を持続させるためにも,現状の木材価格を大幅に割り込むような価格でのエネルギー利用は避けるべきと考えます。
 林業とエネルギーについては,日本エネルギー学会でも議論され,学会誌に特集17)も組まれることで,林業の重要性が認識されつつあります。

 一方,エネルギーを目的としたエネルギープランテーションとして,木質系では,ヤナギが注目され,林産試験場でも関連した研究を取り組んでいるところです。しかしこの場合,いわゆる林業と異なった考え方で,遊休地を利用し,短期間での収穫をめざしています。そして,収穫や利用方法とそれらのコストなど,解決しなければならないことが残されています。

 最後になりますが,木材をエネルギー利用することにより,カーボンニュートラルではあるものの,CO2を発生することになります。一方,木材をマテリアルとして利用することで,中・長期的に炭素をストックしておくことができるのです。このことからも,マテリアルとして利用できるところに使用するとともに,できるだけ長く使うことがCO2対策にとって有効となります。また,エネルギーには木材を利用した残り,すなわち林地残材や工場残廃材,あるいは木材をカスケード利用(リユース,リサイクルを重ねる)した最後が望ましいでしょう。

参考

1)環境省温暖化対策資料,http://www.env.go.jp/earth/index.html#ondanka
2)(財)地球環境戦略研究機関 市場メカニズムプロジェクト,図解 京都メカニズム 9.1版(2008),http://www.iges.or.jp/jp/cdm/report.html
3)松本光朗,木材工業Vol.60 No.1 2-7(2005)
4)細田和男ほか3名,森林総合研究所平成16 年度研究成果選集
5)K. Kawamoto,K. Ishimaru, Y. Imamura,J. Wood Science Vol.51 No.1 66-67(2005)
6)(財)日本木材備蓄機構,木材利用啓発推進調査事業報告書-衝撃編
7)中島史郎ほか,木材工業Vol.46 No.3 127-131(1991)
8)岡崎泰男ほか,木材工業Vol.53 No.4 161-165(1998)
9)科学技術庁資源調査会,住宅のライフサイクルエネルギーに関する研究(1979)
10)大熊幹章,木材の科学と利用技術III,1.木材利用と地球環境保全134-143(1993)
11)有馬孝禮,木材工業Vol.46 No.12 635-640(1991)
12)Better Living,No.102 6-13(1989)
13)鈴木正治,木材の科学と利用技術III,1.木材利用と地球環境保全95-103(1993)
14)北海道水産林務部,平成19年度北海道木材需給実績(2008)
15)藤原敬,木材情報2002年8月号6-10
16)有賀一広ほか2名,第1回バイオマス科学会議発表論文集24-25(2006)
17)松村幸彦ほか19名,特集-日本の森林の有効活用,日本エネルギー学会誌 Vol.84 No.12 958-996(2005)

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