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北海道における木造住宅の腐朽実態調査

性能部 耐朽性能科 杉山智昭



はじめに


 今から約30年前,北海道では木材腐朽菌のナミダタケによる腐朽被害が木造住宅に頻発していました1)。その後,住宅工法の改良などにより被害は減少傾向にありますが,木材腐朽菌による被害は北海道において最も気をつけるべき住宅の劣化要因であることに変わりはありません。深刻な腐朽による被害を防止,軽減して住宅を長持ちさせるためには,信頼性の高い「劣化の診断情報」に基づいた適切な維持管理を実施することが重要です2)
 現在,(社)日本木材保存協会や関係機関が協力して木造住宅に対する劣化診断技術の標準化作業を進めていますが3),有効な手法の確立,導入,普及については,まだ端緒についたばかりで,維持管理に関した実データも不足しているのが実状です。
 そこで今回は,北海道内の木造住宅において,どのような場所に腐朽被害が発生し,どのような腐朽菌が活動しているのかについて実態調査を行った結果について報告します。

道内における木造住宅の腐朽被害状況について


○調査方法

 調査は解体あるいは修繕中の木造住宅を対象とし,夏期に行いました。部材の異常部を識別するための劣化診断については(社)日本木材保存協会が刊行している診断マニュアル3)を参考にして3段階の診断を行いました(表1)。

表1 診断マニュアルにおける3段階の診断法

 一次診断としては目視,触診,打診,ドライバ刺突による異常部位の洗い出し,二次診断としては高周波式含水率計(写真1)による含水率の測定,「ピロディン」というピンを打ち込む機器(写真2)を用いた打ち込み深さの測定,三次診断としてはDNA分析技術を用いて部材に侵入した木材腐朽菌を遺伝子レベルで検出する作業(写真3)を実施しました。

写真1 高周波式含水率計写真2 ピン打ち込み機器写真3 DNA分析による木材腐朽菌の検出作業

○調査の結果

【物件1:旭川市,築30年程度】

 一次診断の結果,本物件においては北東側の水回り(流し,浴室)の柱および土台の一部に広範な褐色腐朽が観察され,部位によっては木材が大きく崩壊していました。また,腐朽被害をうけた部材の上に位置する断熱材(グラスウール)に黒色化が認められ,漏水が発生していたことが推測されます(写真4)。

 二次診断の結果,部材の含水率については調査時において健全部と腐朽被害部で大きな差はなく,平均20%以下で比較的乾いた状態にありましたが,ピンの打ち込み深さは健全部で平均14.0mm,被害部で平均36.6mmとなり,被害部で大きな木材強度の低下が生じている可能性が考えられます。

 三次診断として,部材に侵入した木材腐朽菌を検出するため,採取した木材試料に対してDNA分析を行った結果,健全部位から木材腐朽菌は検出されませんでしたが,多くの腐朽部位から褐色腐朽菌のイドタケが検出されました。本物件については調査時の部材含水率が低いため,腐朽は過去に生じた水回りからの漏水によって引き起こされたものと推測されます。

写真4 水回り(流し)下の土台

【物件2:札幌市,築1年】

 一次診断の結果,屋根の棟木およびOSB製の野地板の一部に菌糸の付着,腐朽の発生が認められました(写真5, 6)。特に棟木,棟木に近接した野地板部位においては触診,ドライバ刺突によって容易に木材が崩壊する状況にありました。

 二次診断の含水率測定に関しては棟木被害部が平均24.3%(健全部19.4%),野地板被害部(測定可能部のみ,乾燥が進行している)が平均20.1%(健全部27.9%),ピンの平均打ち込み深さについては棟木の被害部が31.7mm(健全部15.3mm),野地板の被害部については39.7mm(健全部8.1mm)となっていました。以上のことから,本物件の腐朽には棟木付近の防水不良による雨水侵入の関与が推測されます。

 また,DNA分析を行った結果,棟木,野地板のどちらからも褐色腐朽菌のキチリメンタケが検出されました。

写真5 屋根の棟木に発生した褐色腐朽写真6 屋根のOSB野地板に付着している菌糸

【物件3:札幌市,築年不明】

 一次診断によって本物件では北面の水回り(流し)の窓枠に広範な褐色腐朽が認められ,部材の崩壊が観察されました(写真7)。また,南西面の居間の窓枠に接した柱材にも腐朽が認められましたが,土台部分には被害が確認されませんでした(写真8)。
 壁面および断熱材(グラスウール)を観察したところ,北面については全体的に,南西面については腐朽した柱に隣接した部位でシミや黒色化など,結露の跡が認められました。

 二次診断の結果,広範な腐朽が観察された窓枠については調査時において含水率が平均36.4%,柱材については腐朽部位で平均47.0%(健全部 12.5%),ピンの平均打ち込み深さについては窓枠の平均が32.6mm,柱の被害部平均については28.3mm(健全部16.7mm)となっていました。

 三次診断については窓枠,柱に付着していた菌糸のDNA分析によってキチリメンタケ,Sistotrema brinkmannii(褐色腐朽菌の一種)が検出されています。また一次,二次診断において健全とみられた柱の部位からも菌が検出され,PCR分析によって目視ではわからない部材への菌糸侵入を把握することができました。

写真7 北面の窓枠部材の腐朽写真8 南西面の柱材の腐朽

【物件4:札幌市,築5年】

 本物件については一次診断の結果,室内側の窓枠材に濡れが発見されました(写真9)。二次診断において含水率を測定したところ,異常部では79.1%(健全部15.2%)の高含水率状態となっていました。また,水分の移動経路については一次診断の結果,屋根からの侵入が強く疑われます。しかし,材自体の大きな強度低下は観察されず,ピンの平均打ち込み深さは異常部が17.8mm健全部が15.3mmとなっていました。
なお,三次診断の結果,異常部から木材腐朽菌は全く検出されませんでした。

写真9 窓枠部材室内側

まとめ


 北海道内の木造住宅における腐朽の実態調査を行った結果,腐朽には部材における水分の滞留(漏水等による結露,雨水の浸入)が密接に関与していて,雨がかりの多い窓や,水回り近辺の部材に被害が集中する傾向がありました。発生している木材腐朽菌については,DNA分析の結果,褐色腐朽菌のイドタケ,キチリメンタケ,およびS. brinkmanniiが確認されました。また,調査時に健全とみられた部位についてもDNA分析によって木材腐朽菌が検出される事例があり,腐朽につながる菌糸侵入を初期に把握できることが示されました。さらにDNA分析は含水率が高く危険な状態にある部材に対して現時点における菌糸侵入の有無を判定することも可能と考えられます。

 今回実施したような調査の積み重ねが,昨今話題に上ることの多い「優良な既存(中古)住宅市場の形成」,「200年住宅(長期優良住宅)の開発」に関する取り組みの成否を握るものと考えられるため,さらなる実データの収集やデータの基盤となる劣化診断技術の向上が望まれます。

参考資料

1)土居修一:林産試験場研究報告,78,(1988).   2)藤井義久:木材保存,34(4),174-178(2008). 3)実務者のための住宅の腐朽・虫害の診断マニュアル,(社)日本木材保存協会(2007).

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