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「糠(ぬか)に釘」を考える

性能部 構造性能科 戸田正彦



 はじめに


 「糠(ぬか)に釘」ということわざがあります。手ごたえなく効き目のないことのたとえです。確かに糠のように軟弱な物に,どんなに太い釘を打ったとしても,手で簡単に動かしたり引き抜いたりできるので,効き目はないと言えるでしょう。ではどのくらい硬ければ釘は効くのでしょうか?ここでは,釘の使い方について紹介するとともに,釘がどのようにして効くのかについて考えてみます。

 釘の歴史と種類1)


 釘が初めて作られたころの材料は鉄ではなく骨や木でした。鉄で作られるようになったのは西洋では紀元前1000年頃から,中国では紀元前500年頃からです。日本に伝わったのは弥生時代以降と言われ,法隆寺にも使われていました。当時の釘はもちろん手製で,断面が丸ではなく四角く,和釘と呼ばれています。その後西洋では西暦800年頃から工場生産されるようになり,日本には明治5年から輸入され,洋釘と呼ばれました。国内では明治30年に東京に製釘工場が作られました。

 現在使われている釘は,用途に応じて材質や形状がさまざまです。一般的な釘は鉄製ですが,さびにくいよう亜鉛メッキしたものやステンレスで作られたものもあります。また頭の形状は平らや丸いもの,抜きやすいよう二重になったものがあり,胴部もまっすぐなものだけではなく,抜けにくいよう加工したスクリュー釘やリング釘などがあります(図1)。一般的な釘の寸法は日本工業規格(JIS)で決められており,径の20倍前後の長さになっています。

図1 スクリュー釘,リング釘,二重頭釘

 釘の効果的な打ち方


 金槌(かなづち)を使って釘を打つ場合,簡単に打ち込める木材もあれば,うまく打てないものもあります。例えば模型や工作によく使用されるバルサには簡単に釘が打てますが,ナラやカシのように硬い広葉樹には,うまく打たないと釘が途中で曲がったり折れたりします。硬い木に打つコツは,キリやドリルで下穴をあけることです。
 1か所に釘を何本も打つ場合は,あまり釘同士を近づけないよう間隔をあけ,さらに木材の繊維方向に釘が並ばないよう,千鳥に配置して打つほうがいいでしょう。釘が近いと釘を打った時に割れが生じやすく,特に繊維に沿って並んでいるとその割れがつながって大きな割れになってしまいます。また釘の位置が木材の端に近い場合も割れが生じやすくなります(図2)。特に太い釘を打つ場合は,下穴をあけたほうがいいでしょう。

 建築現場で大量の釘を打つ場合は,空気の圧力を利用した釘打ち機という道具を用いることがあります。釘をセットして引き金を引くだけで釘が自動的に打ち込まれます。ただし空気圧は木材の硬さに応じて調整する必要があります。特に合板に釘打ちする場合に圧力が大きすぎると,釘頭が合板を貫通して効きめが無くなってしまうので注意が必要です。

図2 割れが発生してしまう釘の打ち方

 釘の使い方と加わる力


 釘には,壁に打ちつけてほうきなどを引っかけるという使い方もありますが,通常は二つ以上の部材をつなぐために用いられます。例えば木造住宅を建てる場合は,柱と土台とをつないだり,柱に金物を留めたり合板を打ち付けたりするために用いられます。

 釘に加わる力は,せん断力(釘を曲げる方向に働く力)と引き抜き力とに分けられます(図3)。せん断力を負担する場合は,抜けないことはもちろん,大きく曲がってもいけません。例えばほうきをつるす釘は,たとえ抜けなくても折れ曲がってしまえばほうきが落ちてしまいます。また柱と土台とをつなぐ釘が大きく曲がってしまうと,柱が土台から引き抜けてしまいます。ですから,加わる力に応じて釘の太さや本数を選ぶ必要があります。また同じ荷重を負担できるとしても,太い釘を1本打つよりも細い釘を何本か打つほうが性能は安定します。

 一方,引き抜き力を負担させるような使い方は一般的には望ましくありません。というのも,引き抜きの場合は釘と木材との摩擦によってのみ抵抗しているので,釘がいったん引き抜け始めると,釘と木材との接触面積が減ることになり,ねばることなく抜けてしまうからです。ですから,重いものをつるすために天井に打つといった使い方は避けるべきでしょう。特に木材の木口面に打った釘は引き抜き力にはほとんど抵抗できません。

図3 釘に加わる力

 釘はどのように効くのか


 釘は,一般には太くて長いほど大きな力に耐えることができます。また同じ釘を打つ場合,柔らかい木材よりも硬い木材のほうが大きな力に耐えることができます。

 ここで図4のように木材に鉄の板を釘で打ち付けた場合について考えてみます。矢印の方向に力を加えると,どのように変形するかは3通りに分けられます2)。まず一つは,鉄の板と木材との境目および木材中で折れ曲がるパターン(A)。二つめは,鉄の板との境目だけで釘が折れ曲がるパターン(B)。三つめは釘が折れ曲がることなく,木材にめり込んでいくパターン(C)です。
 どのパターンになるかは,釘が木材にめり込むのに必要な力と,釘が折れ曲がるために必要な力とのバランスによって決まります。これは木材の強度と釘の強度や太さ,長さを使って計算することができます。

 一般的な木材と釘を使う場合は,Aのパターンになりますが,木材の強度が通常の1/5程度まで低下するとBのパターンとなり,1/50まで低下するとCのパターンになります。ちなみに先ほど紹介したバルサの場合でもBにはならず,Aのようになります。このように,釘は折れ曲がりながら木材にめり込んで効いているのです。

図4 釘の変形パターン

 「糠に釘」と「豆腐にかすがい」


 さて,もし実際に「糠に釘」を打った場合に力を加えると,A,B,Cのうちどのパターンになるでしょうか?このことわざでの糠は「糠床」を意味していると思われますが,その強度を示す資料は見つかりませんでした。そこで,「糠に釘」と同じ意味で使われる「豆腐にかすがい」ということわざがあることから,代わりに豆腐を使って考えてみます(かすがいとは鉄でできた「コ」の字型の接合具で,木材同士を固定するときに用います)。豆腐の強度は加工適性を示す重要な指標であるため,これまで数多く測定されています。その値は豆腐の種類によってさまざまですが,大きく見積もっても木材の1/1000程度に過ぎないようです3)。したがって,間違いなくCのパターンになると考えられます。つまり力を加えても釘が折れ曲がることなく豆腐にめり込んでいくので,ことわざの意味のとおりに効き目がないと言えます。

 なお,糠や豆腐とは逆に非常に強い材料に打ち込んだ場合は,釘がほとんどめり込むことなく釘頭がちぎれてしまう場合があります。また木材が腐ってしまうと強度が低下するのでBのパターンになる場合もあります。

 釘・木ねじ・ボルトの強度計算


 先ほどは鉄の板と木材とを組み合わせた場合について検討しましたが,その他にも木材同士の場合や合板との場合,さらに三つの材料を1本の釘で固定する場合もあり,その組み合わせごとに変形のパターンが考えられます(図5)。いずれにしても釘の折れ曲がりと木材へのめり込みとのバランスを計算することによって,釘がどのように変形し,どのくらいの力に耐えられるのかを計算することができます。

 この考え方は釘だけではなく木ねじやボルト,ドリフトピン,ラグスクリューのような丸い棒状の接合具にも適用することができ,現在の木質構造物の接合部の強度を計算する標準的な方法となっています。

図5 木材同士を接合したときの変形パターン

 最後に


 釘を使った接合は,金槌で打ち込むだけで効果が発揮されるもっとも手軽な方法と言えます。釘の材料や形にこそ改良が加えられましたが,その使い方は大昔からまったく変わっていません。ところが,調べたところ釘の意外な使い方を見つけました。漬け物の色を鮮やかにするために糠床に釘を入れる使い方があるのです。ことわざでは効き目がない「糠に釘」ですが,現実には別の効き目があるようです。ひょっとしたら「豆腐にかすがい」も別な効き目があるかもしれません。

参考文献

1)釘マニュアル作成委員会:“釘設計施工マニュアル 枠組壁工法用釘の設計施工”,線材製品協会,1979,pp.1-24.
2)日本建築学会:“木質構造設計規準・同解説-許容応力度・許容耐力設計法-”,日本建築学会編,2006,pp.222-285.
3)たとえば谷藤健:北海道立農業試験場集報,2004,86,pp.39-46.

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