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Q&A 先月の技術相談から

住宅からの木材腐朽菌の駆除について


Q:住宅環境から木材腐朽菌を完全に駆除することは可能でしょうか。また腐朽しない住宅を建てることはできるのでしょうか。


A:木材腐朽菌は胞子などの形で空気中や土壌に広く存在しています(写真1)。そのため,密閉状態ではない住宅の環境から木材腐朽菌を全て排除し,無菌状態を維持することは現実的ではありません。腐朽に対する実際の対処としては,住宅環境に潜んでいる木材腐朽菌を「いかに活動させないか」について知恵を絞ることになります。

写真1 住宅床下に発見された木材腐朽菌の胞子

 

 木材腐朽菌の活動を抑えるためには,まずどのような条件で木材腐朽菌が生育するのかを知ることが必要です。木材腐朽菌も生き物ですので,その生命維持と成長には食べ物と適度な環境(温度,空気,水分)を必要とします。

 食べ物については菌の種類によって利用する成分(セルロース,ヘミセルロース,リグニン)は異なりますが,その名のとおり木材を分解利用しています。温度に関しては私たちが生活する上で快適な20~30℃程度の温度を好む菌が多く,生育は0~50℃の範囲で可能とされています。空気については人間と同様に好気性生物ですので,水中や地中深くなど十分な酸素が供給されないところでは生育ができませんが,通常の生活圏であれば活動に問題はありません。

 木材腐朽菌は,酵素を細胞の外に放出し,木材を分解して細胞の中に取り込んで栄養とします。この酵素は液体(水)の中でしか働くことができないため,木材腐朽菌は乾いた木材を‘食べる’ことはできません。漏水や周辺環境の湿度が高くなったことによって組織内に水がたまった木材(含水率が28%以上)が分解の対象となります。

 以上の性質から,木材を腐朽させないためには,1)木材を非栄養化する(抗菌性の薬剤によって処理する),2)ヒノキやヒバなど腐朽しにくい(栄養になりにくい)木材を使う,3)温度を0℃以下あるいは50℃以上にする,4)木材への酸素供給を断つ,5)木材の含水率を28%未満にするという方法が考えられますが,現時点において実際の住宅に適用可能なのは1),2)そして5)に絞られます。

 お問い合わせの「腐朽しない住宅」については全ての部材が十分な薬剤によって処理されている,全ての部材に腐りにくい樹種が使用されている,もしくは全ての部材が乾燥している(推奨20%以下)状態が保てるのでしたなら実現が可能です。しかし,全ての木材に対して薬剤処理をすることや,腐りにくい樹種を使用することはコスト面等から現実的ではなく,部材の乾燥についても経年の劣化にともなう水分の侵入によって新築時の状態を完全に維持することができない場合も考えられます。したがって腐朽が全く発生しない住宅の建設というものは理論上可能とはいえ,実際に住宅を腐朽被害から守り,長く使用していくためには定期的なメンテナンスを実施することが必要です。

 日本では世界遺産の法隆寺(写真2)に代表されるように,補修や部材交換を通して木造建築を大事に扱う事例があります。現在,スクラップ・アンド・ビルド型の住宅供給から「200年住宅構想」等に示されるように良質な住宅の供給,メンテナンスによる長寿命化への構造転換が図られています。
 今後は「後の世代に‘遺(のこ)す’価値のある家づくり」とともに,「腐朽などの劣化に対する‘遺す’ためのメンテナンス技術の整備」が重要になってくるのではないでしょうか。

写真2 現存する世界最古の木造建築,法隆寺

参考資料

・“木材保存学入門 改訂第2版”,(社)日本木材保存協会刊,2005.
・“実務者のための住宅の腐朽・虫害の診断マニュアル”,(社)日本木材保存協会刊,2004.

 

(性能部 耐朽性能科 杉山智昭)

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