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壁で地震に耐える

性能部 構造性能科 野田康信


 はじめに


 かつての日本の住宅といえば,土壁に代表されるように柱や梁などの軸組が屋内外から見えている真壁式の構法が基本でしたが,現代では軸組が見えない大壁式の構法が主流となっています。
 在来軸組構法では柱間に筋かいと断熱材を入れ,室内側を石膏ボード張りとし,屋外側をサイディングで仕上げたものが現在の主流ですが,外壁下地を兼ねて構造用合板やOSB,MDFなどの面材を柱と横架材に釘止めする工法も徐々に普及しています。
 北海道という寒冷な地域では,壁というと断熱性能が重視されますが,壁が地震に耐える役割を果たしていることも忘れてはいけません。ここでは住宅の耐震性能に関して,壁がどのように機能するものと考えられているか,面材耐力壁の性能評価の実態を含め紹介します。

 耐力壁:構造上必要な壁


 家を建てたり,リフォームしたりするとき,「ここに窓が欲しい」とか,「ここを一つなぎの部屋にしたい」と要求しても,「この壁は構造上必要な壁で無くすことはできません。」といわれ,実現してもらえないことがあります。普段の生活では邪魔な壁かもしれませんが,地震や台風の時に,その壁の有無が生命を左右するかもしれないとなると,安易に無くすことは許されません。
 柱と梁を太くすれば丈夫な建物になりそうですが,それほど効果がありません。通常の住宅の構造は人・家具・荷物などの重さや,建物自体の重さ,積雪荷重といった鉛直荷重を軸組が負担し,風や地震による水平荷重は壁が負担するというように役割を分担して成り立っています。この水平荷重を負担する壁を耐力壁と呼びます。ただし,すべての壁が耐力要素というわけではなく,耐力壁以外の壁を雑壁として区別しています。この耐力壁の強さは「壁倍率」という指標で表され,倍率が大きいほど強い壁となります。耐力壁は,内部に筋かいが入っているもの,構造用合板などの面材が張ってあるものなどをさします。このように耐力壁は耐力要素であるか否かの区別ですので,雑壁とは外観からは見分けが付きません。

 住宅に必要な耐震性能


 住宅に必要な耐震性能は,住宅の大きさに応じて高くなります。これは建物が大きいほど風を受ける面積が大きくなること,および建物自体の重量も大きくなるので地震による震動エネルギーが大きくなることのためです。一般の住宅設計では,これらの力に対して耐力壁の量が十分であるか,それらがバランスの良い配置であるかを建築基準法の規定に従って確認することで,構造計算を行うことなく,構造安全性を担保しています。

 壁倍率と壁量計算


 住宅に必要な壁の量(必要壁量)は,平屋よりも2階建ての1階の方が多くなります。具体的には施行令1)で階数に応じて定められている単位床面積当たりの値に床面積を掛けて決定されます。この必要壁量の確認は住宅を梁間方向,桁行方向に分けて行います。設置する耐力壁の長さとその壁倍率の積の合計を存在壁量と呼び,それぞれの階,それぞれの方向で必要壁量を上回っていることを確認します。この過程を壁量計算と言います。なお,耐力壁の壁倍率は,施行令・告示1,2)で筋かい壁では1.0,土塗り壁では0.5というように仕様に応じて定められており,通常の住宅では,この施行令・告示の仕様の耐力壁を組み合わせて壁量計算をすることが一般的です。

 耐力壁の配置


 耐力壁を釣り合い良く配置することも,壁量計算と同じぐらい気を配らなくてはなりません。通常の住宅の傾向として,南面に大きな窓を設けるため壁が少なくなるのですが,この南面の存在壁量と北面の存在壁量との差が極端になると,地震が発生したときに建物がねじれて倒壊するおそれがあります。この確認方法は告示3)に示されており,それぞれの階,それぞれの方向で両端1/4の部分(側端部分,)において必要壁量に対する存在壁量の割合を求め,向かい合う側端部分で,その割合の比が0.5を上回るように配置するようにと定められています。

図 側端部分

 面材耐力壁


 面材耐力壁は構造用合板やOSBなどを柱と横架材に決められた種類の釘で決められた釘間隔で止め付けたものを言います。枠組壁工法(ツーバイフォー)で通常使われている仕様ですが,最近では在来軸組構法で主流である筋かい壁に代わって採用する工務店,住宅メーカーが増えています。面材耐力壁は左右どちらの変形に対しても同じ性能を発揮できること,施工誤差が少ないこと,そのまま外張り断熱の下地として使えることなどの利点が挙げられます。
 告示2)で定められている面材耐力壁の仕様は,N50釘を用いて厚さ7.5mm以上の構造用合板を15cm以下の釘間隔で柱および上下の横架材に四周に止めつけたものであり,これには2.5の壁倍率が与えられています。この告示に従う限りでは,例えば,強度を上げるために,面材を厚くしたり,釘打ち間隔を狭くして釘本数を増やしたりしても,壁量計算による設計では2.5の値でしか設計できません。
 また,告示の仕様に無いもの,例えば,違う種類の釘やビスを使用する場合は,この告示とは全く別物として扱われるので,壁倍率がありません。このような仕様の壁を使う場合は,実験で耐力壁の性能を実測する(後述)か,使用する釘1本当たりの接合耐力の数値を明らかにして計算によって求めることが必要になります。ただし,この場合は,壁倍率による壁量計算ではなく,構造計算4)による設計が必要になります。

 壁の性能試験


 耐力壁の性能(基準せん断耐力)を確認する試験を面内せん断試験と呼んでいます。林産試験場では国土交通大臣指定性能評価機関が実施する試験方法4)に基づいて実施しますので,その試験結果を構造計算(許容応力度計算)の根拠とし,建築確認申請時の添付資料とすることができます。ここでは林産試験場で製造された構造用合板を用いて実施した耐力壁の試験を例に示します(写真)。合板は内層にアカエゾマツ,表裏単板をカラマツとした厚さ24mmのもので,釘はCN75釘を使用しました。
 試験は梁を油圧ジャッキで押し引きをして強制的に平行四辺形に変形させることを繰り返し,その振り幅を大きくして破壊までもっていくというものです。この試験によって得られた荷重と壁の傾斜角の関係から基準せん断耐力を求めますが,単に最大荷重を割り引いて余裕を持たせた値だけではなく,建物としての最低限の剛性(変形しにくさ)を有すること,中地震に対して材料が損傷しないこと,大地震で倒壊しないことに対応する指標値を導き,評価する仕組みになっています。これら四つの指標値のうち最も小さい値となるものを基準せん断耐力として住宅の構造計算を行う根拠とします。

写真 面内せん断試験の様子

 おわりに


 建築基準法は基準とする性能を規定しているものですので,実際にどれだけの耐震性能を自宅に付与するかは費用対効果の話になり,施主の判断に任されるところです。任意制度ではありますが,「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく住宅性能表示制度に耐震等級というものがあります。21年6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」では,長期優良住宅として認定されるには品確法の耐震等級2(基準法の1.25倍の存在壁量)を確保することが必要とされています。また最近は,壁量計算を構造安全性の根拠とするのではなく,構造計算によって設計することでより信頼性の高い耐震性能を担保することを売りにするビルダーも出てきています。これらを活用することにより,金利の優遇や減税が受けられることがあります。
 これから家を建てようという方は,耐震性能にも目をむけて,構造をがっちり作ってみてはいかがでしょうか?軽微なリフォームでもって誰かが引き継いでくれるような長持ちする家が増えることで,資源を有効活用する社会に変わっていけばと思います。

参考

1) 建築基準法施行令第46条第4項 表1
2) 昭和56年6月1日建設省告示第1100号(1981)
3) 平成12年5月23日建設省告示第1352号(2000)
4) たとえば,住木センター:木造軸組工法住宅の許容応力度設計2008年度版

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