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●特集 2009木製サッシフォーラム

北海道の戸建住宅における硝子張空間の計画

北海道大学大学院工学研究科 森田謙太郎


 はじめに


 私は今,住宅に温室を作るための研究をしています。最初に北海道の住宅でどのような流れがあったかを説明します。従来,北海道では内と外を絶縁するという発想で住宅が造られてきました。そのために開口部を小さくとって全体を断熱材で包むという造り方が主流になっており,縁側のような空間がなくなってしまいました。しかし最近内と外の中間的な空間が必要であるという意見が出てきました。そこで,内と外を緩衝する考えかたが生まれて,屋内環境を快適に維持しつつ,外の快適な気候要素だけを取り入れるという発想の住宅が造られるようになってきました。具体的には,住宅の外側は断熱性能を維持しながら,ガラスで覆われた空間を設置し,ここで外との係わり合いを取ることが一般的です。これらの住宅が北海道だけでも今までに40軒ほど建っています。このような住宅がどのように造られていくようになったのかというのが私の研究テーマです。

 ガラス張り空間の用途


 ガラス張りの空間を持つ住宅の居住者に,その用途をたずねたところ,収納・余暇・作業・接客の4つの目的(表1)があげられました。収納の場合は,道具・野菜・植物がその内容です。余暇の場合は,休憩・食事・運動の用途が目立ちます。作業の場合は,洗濯物やふとんの乾燥で,特に冬場に活用されています。また,漬物・日曜大工にも活用されているようです。接客は,簡単な応対をする際に用いられているようです。

表1 ガラス張り空間の用途

 居住者のガラス張り空間に対する評価


 ガラス張り空間の評価のポイントを居住者に聞いたところ,温熱性・透明性・利用性・補修性の4つの観点(表2)があげられました。
 温熱性は,プラス評価では,「冬季は日射があるので暖かい」・「季節を感じることができる」などがありましたが,大多数が「夏は暑さが厳しく,冬は寒すぎる」とマイナス評価になっています。
 透明性に関しては,ガラス張りの空間なのでプライバシーの問題が考えられますが,「プライバイシーに気を使う」というマイナス評価がある一方,「工夫次第で対策できるので気にならない」とする意見もありました。また,「明かりが外に漏れるときれい」・「開放的」などの評価がありました。
 利用性は「土や水を使うところとしてちょうどよい」・「簡単な接客をする場所としてよい」という意見がありました。また,「掃除が面倒」・「汚れると接待に使えない」などのマイナス評価もありました。
 補修性では,雨漏りやガラスが割れる例が見られました。これらのマイナス評価の内容を解決しなければ,ガラス張りの空間は使われないと思います。

表2 ガラス張り空間に対する評価

 温室の温熱環境シミュレーション


 夏冬の温度に焦点を当てて,温室内の温熱環境のシミュレーションを行いました。想定では,4m×4m,10畳程度の空間とし,建物の4方向をそれぞれ東西南北に向けています。屋根・床・壁の仕様は北方型住宅の仕様に準じています。
 サッシは,室内側が木材で,ガラスをはさんで外側をアルミで固定する構造の木・アルミ複合サッシで,ガラスの放射率・日射吸収率等には,日射遮へい型のLow-Eガラスの一般的な数値を設定しています。室内温度等を決定するときに重要なのは壁面です。
 壁面から対流で与えられる熱量,室内発熱から対流で与えられる熱量,隙間風で移動する熱量が室内温度を決定する指標です。これらの指標の元になるデータとして札幌市のアメダスの気象観測データから得られる屋外温度・屋外絶対湿度・水平面全天日射量を用いて実効放射量を算出しました。日付は,夏は7月7日,冬は2月20日を基準としました。

・シミュレーションの結果

 天井面だけがガラスの場合は,夏は非常に暑いのですが,その割に冬の温度が低いという結果になりました。天井面がガラスというのは温熱環境的な利点が少ないと思います。
 南面だけがガラスの場合は,夏はそれほど暑くない割に冬は温度が上がるので利点があります。日射の角度が冬と夏で違うのでこのような結果になると思います。
 北面だけがガラスの場合は,夏冬ともに昼夜の温度差が少ない結果になります。これは食べ物の貯蔵に向いていると思います。
 壁の隣接2方向がガラス面の場合,夏はあまり方位による違いがありません。ただし,東側にガラス面がある場合は,午前中から暑くなり室内温度は外気温に対してプラス10℃程度になります。
 冬は,南側と東西いずれかの面にガラスがある場合,北側と東西いずれかの面にガラスがある場合ではかなり違いがあります。暖かくするには南側にガラス面が必要です。この場合も東側にガラス面があると午前中から暖かくなりますが,午後の気温は西側にガラス面がある場合もあまり変わらないので,東側にガラス面を設置したほうに利点があります。
 対向する2面にガラスがある場合は,東西にガラスをつけるよりも,南北にガラスをつけたほうが夏は温度が上がらず,冬は暖かくなるという利点があります。このガラス面の配置が他の配置に比べて,日中と夜間の差が少なくなります。私はこの配置がもっとも良いと思います。両方にガラス面があるので,視線的な開放感があり,それに加えて温熱性の挙動の変化が少ない(図1)のでお勧めです。

図1 シミュレーション結果の例,南北ガラス面

 天井面と1壁面がガラスの場合,夏季は壁のどの面がガラスでもすべて同じ挙動を示します。気温は55℃まで上昇します。ガラスには日射遮へい型を使っているのでこの程度で抑えられますが,日射取得型では70℃以上に上昇すると考えられます。天井にガラス面を設置すると室温の挙動の差が大きくなります。冬場は南側にガラス面を設置したものの気温が高くなりました。
 3面以上をガラスにすると,夏冬ともに室温の挙動に差が出なくなってきます。冬は南側のガラス面の有無で違いが出る程度です。ガラス面が多くなればなるほど,夏は暑く,冬は寒く,日中は暑くなり,気温の変化が大きくなります。屋根面と隣り合った2壁面がガラスの場合も,あまり差がありません。対向する2壁面と屋根面がガラスの場合は,気温が50℃以上になる場合があります。これも,屋根面がガラスになると夏は暑く,冬は寒く,冬の日中は暑くなります。
 1壁面が普通の壁で,それ以外はすべてガラス面の配置は,気温の変化が最も出やすい(図2)配置です。

図2 シミュレーション結果の例,4面ガラス面

・日除けなどによる温度制御シミュレーション

 一番お勧めな南北面にガラスを配置したものと,一番挙動が激しい配置にしたものとで,どのように温度を調節できるかを計算しました。条件として,反射率80%程度の白い布のスクリーンを日よけにした場合,冬に電気床暖房で出力を何段階か設定した場合,そして自然換気をした場合を設定しています。換気は通風の影響を無視して温度差で換気を行っています。

・日除けの効果

 2面がガラスの場合のシミュレーション結果では,日よけの温度低下効果は,2~3℃程度です。しかし,直接日射があたると体感温度が上がるので,日よけはつけたほうが良いと思います。

・換気の効果

 2面がガラスの場合,開口部を朝の6時から夕方の6時まで開けると,室温の上昇を外気温に対して,2~3℃程度抑えることができます(図3左)。これは外構の種類によって違いが見られない特徴があります。4面がガラスの場合は,夏は,開口が1箇所だけの場合は空気の抜け方が足りず,上下に2箇所温度差換気がしやすい場所に開口を作る必要があります。

・暖房の効果

 室温が10℃から30℃の間に入れば居住空間として使用可能だと考えています。2面がガラスの場合,夕方6時から朝の6時まで暖房を入れた場合,これに必要な暖房は1m2あたり150W程度になります(図3右)。暖房は夜間だけで十分です。150Wを16m2分,深夜電力で運転して12,500円/月程度になります。暖房を入れる前は,-5℃から20℃になると予測されます。4面がガラスの場合,ガラス面が大きいので暖房の効果が落ちてしまいます。同様に暖房を入れた場合でも,明け方には5℃くらいまで落ちてしまいます。床暖房は300W程度まで施工可能ですが,この場合は温度が急に上昇して,せっかく温まった空気を逃がさなければならないという問題が発生します。

図3 換気と暖房の効果

 結露


 植物の設置や洗濯物を乾燥する場合問題になるのは,湿度の上昇に伴う結露です。林産試験場と共同で温室(写真)を実際に作って,室内の状態がどうなるか実験をしました。室内に何も入れない場合は,絶対湿度と露点温度の変動から,ひどい結露はしないと考えられます。ここに洗濯物を干すとどうなるかという実験を行いました。
 1日にでる洗濯物の量が約5kgで含水率40%とされていますので,シーツ6枚に水を含ませたものを朝の9時から温室内に設置しました。この結果,露点温度と室内温度があまり近づかなかったことから,洗濯物の乾燥程度ではそれほど結露を起こさないことがわかりました。
 次に植物の場合です。室内を観葉植物で囲った条件で実験を行いました。その結果,給水から5日後では,室内の湿度が大幅に変わりました。夜間でも湿度を維持しますし,日中は日射にあわせて湿度が上昇します。室内温度と露点温度がかなり近づきます。計算上はまだ結露しませんが,実際に室内に入ると人の湿気で結露が始まるところを観察できました。植物を置いて,さらに洗濯物を干した場合は明らかに結露すると判断できます。シミュレーション上も冬季の午前中,7時から9時くらいに結露するという結果が出ていま す。

写真 実験温室

 温室の作り方


 住宅に温室を作るには,まずどのように使うのかを設定する必要があります。居室に近い形で使うのか,あるいは食料貯蔵等で低い温度で使うのかを最初に決定して,それにあわせて形状等を決めなければ,結局使われない空間になってしまいます。
 また,ガラス面が多いほど日中と夜の温度差が大きくなります。先ほどお勧めした南北面だけをガラスにした場合のように,断熱壁とのバランスを考える必要があります。ガラスは日射遮へい型以外では難しいと思います。日射調整として,日除け・換気・暖房の設備は必ずつけないと使える空間にはならないでしょう。結露はあるものとして考えて,天井面の日除けを結露除けでも使う,あるいはサッシ面にはじめから結露受けの準備をしておくなど,結露に対応した仕様にするべきです。
 温室と住宅本体との境界面は断熱的には区切ったほうがいいと思います。居室側から見ると,温室内の温度変化は外部のそれとほぼ等しいと考えられます。熱的に独立させないと温室内の熱が室内に入ってきてしまいます。温室の内部もLow-Eガラスを使うなどして断熱性を確保するべきです。外と温室と住宅の本体はまったく別個なものと扱うべきだと思います。

 温室環境をシミュレーションするソフトウェア


 実際,温熱環境を予測しないとお施主さん等に説明のしようがありませんから,温室の環境をシミュレーションするために開発したソフトウェア(図4)を紹介します。これはWindows上で動作します。日付・設置場所・空間の幅・奥行き・高さ・方位を入力して,屋根・壁・床の仕様を,ガラスあるいは断熱層に設定します。さらに,床暖房の有無・換気の有無を設定します。すると,室内の温度と湿度を出力します。また,ガラスの種類を普通の単板ガラスからLow-Eガラスなど計5種類設定できます。さらに,日除けの有無・つける時間帯も設定可能です。床面の仕上げ色も日射吸収率に影響して,日中の温度の時間遅れに関係しますから設定可能です。暖房の出力・時間も設定可能です。自然換気の開口の大きさや時間も設定可能です。このソフトウェアを使うことによって温室の温度変化を捉えることができると考えています。

図4 開発したソフトウェアの画面

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