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●特集 2009木製サッシフォーラム

無加温温室の可能性

(株)アトリエaku 鈴木敏司


 はじめに


 私は,ここ数年森を都市の人間が利用できる環境にできないかと取り組んでいました。その一環として,平成20年4月,苫小牧で「イコロの森」をオープンしました。今回はそこで建設した,セルフビルドの木造無加温温室のプロジェクトについてご紹介します。
 今回建設した温室は,農家の人たちが地元の木材を使って,自分たちだけで建設することを前提として考えました。構造は「Be-h@ us」と呼ばれる木造の工法を使いました。集成材を金物で緊結していく,パネルを使った在来工法です。今回の温室にはパネルはありませんが,木造の緊結金物を上手に使った温室は可能だろうかと挑戦してきました。さらに,道産材をどうやって使うのかを取り組んできました。北欧の材料で作るのではなく,道産材でぜひやりたいと,現在トドマツの間伐材を100%近く使っています。

 「イコロの森」の概要


 「イコロの森」(図1)が今回の温室の背景ですから,お話をします。ここは,半分が雑木林,残りはカラマツ林の合計100haの森です。このうちの30haを森の中の庭という位置付けで,開発を始めました。ここに「イコロの森ガーデン」と名づけた庭があります。宿根草,北海道の土地で冬を越せる植物群のモデルガーデンです。およそ2000m2ほどある大きな温室で宿根草の生産をしています。宿根草の生産場所で,この庭をモデルとして植物を生産し,販売所で販売をしています。
 この中に「森の学校」という施設(写真1)があります。おおよそ6mのスパンに対して集成材の柱を2mピッチで配置し,昇り梁をかけてあります。この「Be-h@ us」の工法は,すべて金物によるジョイントで,素人が特殊な材料を使わないでも金槌だけで打ち込んで直角を出していける,優れた工法だと思います。ここで使った材料は,大部分がトドマツの間伐材です。実際には四角いパネルをある空間の中に押し込めるというのは大変な精度が必要ですが,それが確保できる金物の工法として,これを北海道で少し広めていこうと思っています。

図1 イコロの森,所在地地図
写真1 森の学校

 東京・九州方面では,安い北欧材などの輸入材が多いわけですけれども,ある時期北欧材の値段が高くなったこともありました。そういう意味で道産材も使える状況になったので,1棟あたり10万くらいのコストアップにはなってしまいましたが,100%道産材をなんとか実現できないかということでチャレンジしてきました。

 無加温温室の可能性


 写真2が今回紹介する温室です。柱と梁は最小限のフレームを組んで,金物でジョイントしています。我々がイメージしたのは,基礎断熱,スカート断熱で地面への熱の移動をいかにして遮断するかということです。また,地面から地熱が上がってくることでこの空間が暖房機を使うことなく0℃以上にできないかということです。それが可能であれば,堆肥の発酵熱,地熱,太陽熱,その他の最小限のエネルギーを使って温室を維持できるのではないだろうかと考えました(図2)。
 また,先ほどの2000 m2の温室ですが,これも基礎断熱を施してあります。複雑な形状の屋根を持っているダッチライト型温室では,屋根に雪がたまるので,ある程度加温して雪を融かす必要があります。このようなスタイルに合わないのですが,基礎断熱がどの程度この温室の中に熱の遮断の効果を及ぼすのかを調査しています。

写真2 温室の状況 図2 イコロの森における木造温室のイメージ

 写真3が建設中の無加温温室の基礎です。外側に50mm厚さの発泡ポリスチレンで断熱を施してあります(図3)。これは去年の2月に組立て始めましたので,冬の間は凍結したままでした。今年は初めての冬を迎えたので,温度を測定しています。ビニールハウスは冬に対しては無防備です。我々のアイデアは,夏場蓄えられた地熱によって下から熱を供給できるのではないだろうかということでした(図4)。実際には基礎を作ることが費用上大きな負担になったので,断熱には放射冷却防止フィルムをつけることしかしていませんが,これをもっと進化させていくことができるのではないかと思っています。

写真3 木造無加温温室の基礎

図3 基礎断熱の工法図4 冬期間の木造無加温温室のイメージ

 自力で建設できることの意味


 簡便に施工できて,かつ少しでも軽く,美しくすることを意図して,写真4のようなハイブリッドの構造体をデザインしました。図5の金物は,ドリフトピンを金槌で打ち込むとジョイントが締まって直角が出てくる仕組です。これを使って骨組みができれば,あとは壁のパネルを組立てていけばよいという,非常に簡単な工法で自力での建設が可能です。農家にはさまざまな機械がありますし,1~2週間の時間を取ることができれば,あるいは地域で若い人たちの集まりがあれば,自分たちだけで建てることができます。1軒自力で建ててみようよというようなことができれば,それも無加温でできれば,北海道の農業の質が変わるのではないかと考えています。
 材料が間に合わなかったのでトドマツの集成材を使いましたが,当初はトドマツの100mm角の芯持ち材を使えないかと検討していました。トドマツを芯持ちのまま使うのは,建築の設計をする上ではなかなか勇気まま使うのは,建築の設計をする上ではなかなか勇気がいることです。しかし,このような農業施設の中で使う分には問題が少なく,林業と農業が結びついていくことができ,地域の木材の使用量も増えてくると思います。
 また,この温室は今普及しているビニールハウスより初期投資はかかりますが,ビニールハウスが数年で更新されるのに対して,適切な維持管理をしていくことで,10年,20年使えるので,長い目で見ればトータルコストの低いものになるのではないかと考えています。

写真4 木造無加温温室の構造 図5 使用した金物

 この温室のテーマ


 北海道で冬を越せる植物は,冬季間必ずしも20℃の温度が維持できる温室が必要ではありません。逆に0℃,悪くても-5℃以下にさえならなければ,春に芽が出るわけです。ある程度の温度が維持できれば生育できるというより,そのような環境を好む植物がこの温室で育つのではないかというのが我々の考えです。北海道の庭を構成するバラなども実は眠らせなければならないのです。冬の寒い時間をどうやって作るか,そしてどうやって外よりも早く芽を出させるかが,この温室のテーマでもあります。

 無加温温室の現状


 温室では,夜間に反射シートをかけて,地面から奪われる熱を反射させています。その他,木製のチップを敷く,あるいは発酵熱を利用するなどいくつかのチャレンジをしています。冬には,外気温は-15℃を下回ることもあります。温室内は朝に一時的に氷点下になりますが,現在のところ無加温の状態でこの温室を維持しています。-5℃以下になることは,数回ありましたが,極めて短時間で,おおよそ目的の環境が創れるだろうということが確認されています。日中は,温度が上がり過ぎることが問題なので,窓や天窓を開けて温度を下げなければならないこともあります。
 地中の温度は,日照がありますから熱が外から来ますが,一回温度が下がったものが回復している状態が続いていますので,これは蓄えられた地中からの熱が上がってきていると思います。現在の地温は,2~3℃ですが,おおむねプラスの温度で地中が維持されています。鉢ではなく,土で直接栽培する植物ならば,このメリットは大きいと思います。

 苫小牧と木炭


 最後に余談ですが,炭の話をします。苫小牧の植苗という地区は,40~50年程前,首都圏に向けた炭の生産地だったそうです。そして,当時このあたりで炭窯を作っていた人方に出会うことができました。地中6mくらいの深さに粘土層があり,この粘土が炭窯を作るのに最適な材料です。そして,このあたりにあった伝統的な炭窯を作るという挑戦をしました。現在まだ製作途中ですが,今までこれで3回ほど炭を焼くことができました。
 炭や薪もカーボンニュートラルのエネルギーだと思います。我々は宿根草の苗を生産する上でも炭を使っていますし,庭の中にも炭を入れたりしています。建築のほうでも,炭を使った吸湿などいろいろな効果があるではないかということで,いろいろな勉強会などを行っています。

 おわりに


 今回紹介した木造温室は,今年は無加温のままいけると思います。来年は,チップを使った発酵熱のエネルギーを利用したり,炭を埋めるということにどのような効果があるかなど,北海道らしいエネルギーのかからない生産施設づくりをチャレンジをしていきたいと思っています。

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