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木造牛舎の環境優位性を評価する

企画指導部 経営科 古俣寛隆


 はじめに


 木材は再生可能資源であること,燃焼時に排出されるCO2をカウントしないこと1),他材料と比較して部材製造時の消費エネルギーが小さいこと2)などから,環境に優しい材料と考えられています。しかし,資源調達や輸送,製品製造には電力や化石燃料が消費されており,環境負荷はゼロではありません。そこで,それらを科学的に評価し,木材が他の材料と比較してどのくらい環境にやさしいのかを定量的に把握することが必要です。
 環境負荷の定量的評価手法として,LCA (ライフサイクルアセスメント) があります。その実施方法はISOに規格化されており3,4),製品やサービスの資源調達から製造,使用,廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて,投入した資源量やエネルギー量,排出した環境負荷量を求め,それらの影響を総合的に評価します。

 今回は,ケーススタディとして,木造牛舎に使用された構造材の資源調達から建設現場輸送までのCO2排出量をLCAにより分析しました。さらに,鉄骨造牛舎と比較した場合の検討も行ったのでご紹介します。

 木造牛舎の概要と評価方法


 評価対象は,昨年紋別市に建設された牛舎6棟 (哺育舎2棟,育成舎4棟) に使用された構造材です。原料には網走西部流域のSGEC (緑の循環認証会議) 認証森林から産出された丸太を使用し,製材および乾燥等はSGEC認定事業体 (COC) である流域内の工場で行われました。
 写真1に木造牛舎の内部の様子を,表1に木造牛舎6棟の延床面積と使用した構造材の材積を示します。
 評価範囲を図1に示しました。各プロセスにおける原料投入量やエネルギー消費量は,作業明細書や加工歩留まり等の実績値およびヒアリング値を基にしました。なお,育林・収穫ならびに製材プロセスのエネルギー消費量のみ実績値を把握することができなかったため,文献値5)と林産試験場調査値 (道内平均) を用いました。輸送プロセスは,ヒアリングに基づき10 tトラック (加工工場から建設現場までのトラス材の輸送は20 tトラック) で行われ,積載率は100%とし,輸送距離は2地点間の往復距離としました。
 CO2排出量の算出には,(社)産業環境管理協会のLCA実施支援ソフトウェアJEMAI-LCA Pro ver.2.1.26) (以下ソフトとします) に搭載される原単位データベースを用いました。

写真1 木造牛舎の内部の様子,図1 評価範囲

 木造牛舎のCO2排出量


 図2に木造牛舎に使用される構造材の原料調達から建設現場輸送までの工程で排出されるCO2排出量を示します。
 総排出量は約152 tと試算され,乾燥プロセスの排出が約74 tと最も多く,全体の49%を占めることが分かりました。今回のケースでは,乾燥製材の3分の1は木屑炊ボイラーにより乾燥したものです。一般的に,木材燃焼によるCO2排出は環境負荷としないため,木屑炊ボイラーはその削減手法として有効です。さらに,構造材の断面寸法に合わせた最適な乾燥スケジュールの適用や,木屑炊ボイラーを用いた乾燥法へのシフトなどの改善策をうまく組み合わせることで乾燥プロセスからのCO2排出量は大幅に削減することが可能です。

図2 木造牛舎に使用される構造材の二酸化炭素排出量

 木造牛舎と鉄骨造牛舎の比較


(1) 比較方法

 木造牛舎との建設コスト比較のために作成された鉄骨造牛舎 (延床面積1,424 m2) の設計資料から使用する構造材量を求め,その資源調達から建設現場輸送までのCO2排出量算出のための評価シナリオを作成し,木造牛舎と比較を行いました。以下にシナリオを述べます。
 各種鉄鋼製品の資源調達から製造まで (国外輸送含む) のCO2排出量の原単位は,LCA日本フォーラムのデータベース7) を引用しました。なお,鉄鋼製品の切断等の加工プロセスに係るエネルギー消費量は把握できなかったため,今回は評価範囲外としました。鉄鋼製品は苫小牧港経由で道外から調達することとし,輸送プロセスの排出量はソフトを用いて算出しました。道外の製造工場から苫小牧港までの内航船輸送距離は,鉄鋼の内航貨物輸送の平均輸送距離8)を引用し,載貨重量トンが8万 t以下のばら積み貨物船による片道距離で算出しました。また,苫小牧港から建設現場への輸送は10 tトラックで行われ,積載率は100%としました。なお,距離は往復距離で算出しました。

 ここで,6棟の木造牛舎と1棟の鉄骨造牛舎では規模が異なるため,単純には比較することができません。本来,LCAで評価する対象はその製品の機能であり,例えば牛舎であれば,「牛を安全に管理し,効率的な生産活動を行う」という機能です。その容量を示す単位を機能単位といい,牛舎では延床面積が相当します。製品間の比較を行う際には,これが同一である必要があります。
 今回は,木造牛舎と鉄骨造牛舎の強度や耐用年数が同一であると仮定した上で機能単位を延床面積1 m2に設定し,そこに投入される構造材の資源調達から建設現場輸送までのCO2排出量を比較しました。表2に各牛舎の機能単位あたりの構造材使用量を示します。

表2 各牛舎の機能単位あたりの構造材使用量

(2) 比較結果

 機能単位あたりのCO2排出量を図3に示します。資源調達から建設現場輸送までのCO2排出量は木造牛舎の方が鉄骨造牛舎より約40%低いと試算され,牛舎に木材を使用することによる環境面の優位性が定量的に示されました。
 また前述のとおり,木屑炊ボイラーにより木造牛舎構造材の乾燥プロセスからの排出が大幅に削減されるならば,その差はさらに大きくなることが想定されます。

図3 各牛舎の機能単位あたりの二酸化炭素排出量

 CO2の固定量と排出量


 木材・木製品は焼却・分解されるまで,成長時に吸収したCO2を固定し続けます。これは鋼材やプラスチック等の他材料にはない性質です。木造牛舎6棟に使用されたカラマツ乾燥製材のCO2固定量は約520 tであり,試算された建設現場輸送までのCO2排出量 (約152 t) を大幅に上回っていることが分かりました。

 最後に


 温室効果ガスの削減に向けた取り組みの一つとして,経済産業省を中心に製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を表示する,いわゆるカーボンフットプリント制度の実用化・普及促進等の検討が行われています。木材関連では,昨年度林野庁が評価手法の中間取りまとめを行い9),今年度は補助事業の中で実際にいくつかの木製品についてLCAを用いた環境貢献度の定量的な評価を行うことになっています。こうした環境データの製品への添付は,消費者が環境負荷の低い製品を選択する際の指標となり,他材料と比較した場合,木材の大きなメリットとなることが想定されることから,制度の導入による需要拡大が期待されています。今後も,このようなLCAを用いた評価を木材の様々な用途に対して行っていきます。

参考資料

1) IPCC:“2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories”,Intergovernmental Panel on Climate Change,2006
2) 中島史郎,大熊幹章:木材工業 46 (3),127-131 (1991)
3) ISO14040:“Environmental management - Life cycle assessment - Principles and framework”, International Organization for Standardization, 2006
4) ISO14044:“Environmental management - Life cycle assessment - Requirements and guidelines”, International Organization for Standardization, 2006
5) 古俣寛隆,由田茂一,加藤幸浩,高山光子:“日本LCA学会誌 5 (1),131-137 (2007)
6) 社団法人産業環境管理協会:“ライフサイクルアセスメント実施支援ソフトウェアJEMAI-LCA Pro Ver.2.1.2”,東京, 2007
7) LCA日本フォーラム:JLCA-LCAデータベース 2008年度4版. 「http://www.jemai.or.jp/lcaforum/index.cfm」 (会員制サイト)
8) 社団法人日本海運集会所:“海運統計要覧 (2008)”東京,p114,2008
9) 林野庁:“木材利用に係る環境貢献度の定量的評価手法について (中間とりまとめ)”,平成21年度2月.「http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/mieruka/pdf/torimatome.pdf」.

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