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●特集「木材の劣化診断」 

「木材の劣化診断」特集について~住宅を長持ちさせるための劣化診断~

性能部 主任研究員 森 満範



 劣化診断を取りまく背景


 住宅の品質確保の促進などを目的として,「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が平成12年に施行され,木造住宅(新築)の維持管理への配慮や劣化軽減への対策が住宅性能の評価項目として盛り込まれました。また平成14年には既存住宅の市場の整備,および適切な維持管理・リフォームの支援を目的として,「既存住宅の住宅性能表示制度」がスタートし,その中に「腐朽・蟻害」の診断を行う特定現況検査が導入されました。さらに,平成21年には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行され,劣化対策,耐震性,維持管理の容易性などが益々重視されるようになってきました。

 建物の性能と維持管理


 木造住宅の耐久性を向上させることは,安全性と居住性の確保,および住宅という社会資本をストックするという点で重要です。木造住宅は,通常,長持ちさせることを考慮して建てられていますが,水分の侵入など,何らかの不具合が発生すると腐朽などの生物劣化を生じる場合があります。住宅の構造部材が腐朽すると,新築時に確保した強度性能が著しく損なわれます。しかし,定期的な点検を行い,異常があった場合は簡易な補修をするなどの対策をとることによって安全性の低下を抑えることができます。また,劣化した部分を補強したり部材を交換したりするなど,比較的規模の大きい修繕を行えば損なわれた安全性を再度高めることもできます(図1)。
 このように,腐朽あるいは腐朽の兆候を早期に発見するための劣化診断は,木造住宅の安全性の維持や長寿命化に不可欠です。

図1 腐朽が発生した建物の性能後維持管理

 劣化診断の流れ


 劣化診断は,その目的や診断内容によって3段階に分類することができます。
(1)一次診断
 一次診断の目的は,目視,打診,触診などの簡易な方法によって異常部位を探すことです。一次診断は劣化診断の基本であり最も重要な作業で,全体を一定の 基準で評価します。特に,床下,水回り,玄関・バルコニー,雨漏りの影響を受ける箇所などは腐朽などの生物劣化が発生しやすい領域なので,重点的に調査します。しかし,一次診断は非破壊的に行うため,見えない場所で腐朽が進行した場合などは判定ができません。また,菌類を見つけた場合,それが腐朽を発生させる菌(腐朽菌)なのか,あるいは腐朽を起こさない他の菌類(カビなど)であるのかを目視だけで判別できないこともあります。

(2)二次診断
 機器類を用いた診断で,欠損の状況,密度などの強度に関連する情報や含水率のデータを収集します。一次診断と同様に現場で行う診断ですが,客観的で定量性のあるデータが得られる利点があります。非破壊が原則ですが,微少な破壊を伴う機器もあります。二次診断に使用される機器としては,含水率計(電気),ピロディン(衝撃打込),ウッドポールテスター(超音波),レジストグラフ(穿孔抵抗),電磁波レーダー(電磁波)などがあります。

(3)三次診断
 三次診断では,一次・二次診断で腐朽の兆候あるいは腐朽菌の存在が疑われた場合,異常が見られた箇所から微小な木片や菌類の一部を採取し,検査機関において菌類の存在や種類の特定(腐朽菌か否か),腐朽範囲の特定(二次および三次診断),腐朽菌の生死(現在進行形か過去形か)などを調べます。

 現行の劣化診断の課題と林産試験場での取り組み


 木造住宅をはじめとした建築物を長持ちさせるためには,建築当初および建築後に対策をとらなければなりません。建築当初の対策としては,耐久性の高い木材の使用,保存処理の実施,構造的な工夫などが挙げられますが,これらについてはいろいろな技術が開発され,実績も積み重ねられてきています。しかし,建築後の対策,特に異常(腐朽など)を検出するための劣化診断技術については十分な知見が無い状態です。例えば,二次診断において,機器類を用いた定量的な評価を行ったとしても,その値と強度の関係についてはまだわからないところが多く,三次診断については,判定に時間がかかるなどの課題があります。

図2 劣化診断に関するマニュアル

 林産試験場では,このような劣化診断技術の課題に対応するため,木材に発生した初期段階の腐朽を今までとは異なった方法で検出するとともに,腐朽が発生した部材や構造体の残存強度を推定するための取り組みを行いました。この取り組みで得られた成果は,社団法人日本木材保存協会が発行するマニュアル類(図2)にも取り入れられ,同協会が推進している「木材劣化診断士制度」とも連携して普及を図っているところです。

   今回の特集では,遺伝子を用いた木材腐朽菌の検出(三次診断),および非破壊的手法による残存強度の推定(二次診断)について,その概要をご紹介します。

参考資料

・(社)日本木材保存協会住宅生物劣化診断部会:“実務者のための住宅の腐朽・虫害の診断マニュアル 改訂版”,(社)日本木材保存協会,東京,2007.

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