キノコ生産・機能性調査~ヨーロッパ探訪その1~

きのこ部 生産技術科 米山彰造



 はじめに


 今年,日本国内の店頭に北欧産のマツタケが並び,即日完売したそうです。また,オランダからツクリタケ(マッシュルーム)の種菌や培地が日本に輸入されているほか,フランスからはヨーロッパの高級キノコの代名詞であるトリュフやセップ(ヤマドリタケ)の乾燥品や瓶詰め加工品が輸入されています。欧州のキノコ栽培技術とその加工技術等や消費者のキノコに対する趣向に興味が持たれるところです。

 筆者は今回,道産キノコの機能性開発を共同で行っている道立食品加工研究センターの渡邉研究職員とともに,「研究ニーズ探索調査事業」の技術導入班としてオランダ等の欧州諸国に派遣される機会を得ました。
 ここでは「欧州のキノコの生産技術および保健機能性を活用したキノコ加工食品に関する調査」を主目的として訪問した各国の研究動向,キノコ生産および加工と消費動向について2回にわたって報告します。
 図1は今回訪問した国(都市)と日程です。

 スウェーデンにおけるトリュフ栽培の成功


 スウェーデンの首都ストックホルムから北へ70km,列車で40分ほどの距離にあるウプサラ(Uppsala)は人口18万人ほどの都市で,駅前は静かなたたずまいでした(写真1)。当初,スウェーデン農科大学(SLU)の教授と面談予定でしたが,同大学から同市内にあるウプサラ大学の薬理化学部薬理学科のウェディン(Weden)博士を紹介してもらい,10月5日に面会できることとなりました。
 ウプサラ大学は北欧最古の大学であり,スウェーデンを代表する製薬会社ファルマシアとの共同研究により生命科学分野で実績を上げています。現在,ファルマシアのウプサラにおける拠点は縮小しましたが,ファルマシアを源流とするヘルスケア,バイオサイエンスをはじめとして,多くの生命科学企業が現在もウプサラで活動しています。
 その中でウェディン博士が所属する薬理化学部は2008年に整備されたばかりのバイオメディカルセンター(BMC)内にあり,現在も生命科学に関する研究が中心です。

 ウェディン博士は以前,当初訪問予定のSLUに在籍しており,当時からトリュフの人工栽培研究を続け,現在に至っています。スウェーデンでは豊かな森林資源を抱え,人々が菌根菌であるカンタレルス属(Cantharellus)のキノコや子嚢菌であるトリュフを好む食習慣があり,それらの人工栽培は日本でも長年求められているマツタケの研究と同様な価値があります。
 ウェディン博士は独自の方法で菌根形成を行い,5年後に収穫可能な技術を開発しました。今後さらに期間の短縮や生産効率を高めようと研究を進めています。ちなみに,フランスのトリュフ研究はスウェーデンより先行していますが,人工的に菌を移植し7~8年後という長い期間をかけてやっと収穫できるそうです。

 トリュフにはいくつか種があり,ヨーロッパでは黒トリュフ(Tuber melanosporum),白トリュフ(T. magnatum)が一般的であり,日本ではクロアミメセイヨウショウロ(T. aestivum)やイボセイヨウショウロ(T. indicum)が発見されています。トリュフ自体は香りがありますが味はほとんどなく,サラダにスライスして入れたりします。またヒレステーキにフォワグラとトリュフのソテーを添えた料理等が知られています。ウェディン博士と面談後,ここの責任者であるボーリン(Bolin)教授(写真2)から水産物の生命化学に関する研究について説明していただきました。

 スウェーデン南部のヒラタケ栽培


 10月6日,ストックホルムから列車で3時間ほどでスウェーデン第2の都市ヨーテボリに着き,ここからさらに乗り継いで2時間後,南部の町ハルムスタート(Halmstad)に到着しました。この地域は,ストックホルムよりデンマークのコペンハーゲンに近い位置にあり,スウェーデンの中でも温暖な地域です。この駅からさらに20kmほど北西に本日の目的地であるハルピレンジ(Harplinge)のFunginova ABという会社があります。

 この会社は以前ルンド大学で教鞭をとっていたハンソン(Hansson)博士とその奥様のレナさん(写真3)が経営しており,他に従業員の姿は見えませんでした。非常に小規模ですがヒラタケの発生を厳密に制御し,無駄な手間を省いています。
 ここではヒラタケの栽培にツクリタケの技術を応用し,麦桿,アルファルファ,カルシウム,マンガン等の無機質を混合し,2日間ほどで発酵させます。この培地を15kgほど袋詰めし,ヒラタケ菌を接種します。培地を発酵させるので日本の技術のように殺菌処理は不要です。非常に低エネルギーであり,高圧殺菌釜のような高価な施設は不要となります。また,発生室内は清潔に保たれており,ほとんど雑・害菌の発生もありませんでした。ヒラタケ菌を接種後,60日間培養し,その後温度を下げて14日間程度でキノコを収穫します(写真4)。キノコの発生は非常に正確で仕込み日から収穫日を予測し,1週間に1,200kg生産しています。量は少ないながら,確実に市場に出荷しています。

 また,博士はキノコの機能性に興味を持っており「Live long-Eat mushroom」という表題でスウェーデンの菌類シンポジゥムで発表した実績があります。博士に日本のキノコの栽培状況を紹介したところ,日本でヒラタケに取って代わっているブナシメジに興味を持ち,スウェーデンでも消費される可能性があるので試験したいと言っておられました。
 なお,博士から聞いたスウェーデンにおけるキノコの消費状況では,ツクリタケが95%で,シイタケ,ヒラタケ,カンタレルス属等がわずかに消費されているということで,食習慣は日本とは大きく異なっていました。シイタケはスウェーデン北部のキールナで原木栽培が行われているにすぎないそうです。

 オランダの国際植物研究所(Plant Research International)


 10月8日,私たちはオランダの首都アムステルダムから列車で1時間のエジワーゲニンゲン駅に到着しました。ここからさらに車で15分ほどのところにワーゲニンゲン(Wargeningen)大学とその付属研究所であるワーゲニンゲン URがあります。ここの組織の一部が今回訪問した国際植物研究所(Plant Research Internatinal)です。

 同研究所は遺伝子工学,ゲノム工学,蛋白質工学,代謝学,生物分子情報などの知見をもとに政府や民間企業に技術提供を行っています。その中にあるキノコグループのバール(Baar)博士(写真5)とポストハーベストグループのメス(Mes)博士(写真6)と面談しました。

 バール博士はヒラタケの胞子欠損株の育種に2004年に成功しました。博士はヨーロッパでのヒラタケ生産の広がりを考慮し,生産性は低いものの胞子を形成しない菌株についてPCR法と呼ばれる手法で遺伝子解析を行い,胞子欠損株と生産性の高い菌株を交雑しました。その後,遺伝子解析を繰り返し,生産性が高く,胞子を作らない菌株の育種に成功しました。このような育種の方法は効率的であり,今後,私たちもキノコの栽培特性の評価に遺伝子解析の導入を模索する必要があると思いました。ヒラタケはヨーロッパではオイスターマッシュルーム (Oyster mushroom)と呼ばれ,消費量は少ないものの定着したキノコで,その生の消費量はシイタケよりもやや多いようです。この背景にはシイタケの香りが強すぎて,ヨーロッパの料理にはなじまないためと思われました。

 一方,メス博士は収穫後のシイタケのレンチナン含有量の推移を検討しており,収穫後の保存温度を低めに保つことでレンチナンが減少しないということでした。これに関連した技術として,国内においても栽培時の生育温度を抑制することでレンチナン含有量を高めることが知られており,メス博士の知見と合わせてシイタケの生育,保存時とも温度を低く保つことで機能性成分であるレンチナン含有量を高く保てることがわかります。
 また,ヨーロッパにおける健康食品の考え方について意見交換しました。ヨーロッパではサプリメント等の効果がリスト化され,2010年以降に強調表示(ヘルスクレーム)が認められるということでした。ヨーロッパにおけるヘルスクレームのシステムは日本における特定保健用食品の開発に比べ開発リスクやコストが低く抑制できるメリットがあると思われ,日本企業がヨーロッパに健康食品等を輸出するメリットとなるのではないかと考えられました。

 オランダのキノコ生産状況


 オランダはヨーロッパにおいて,キノコ生産の盛んな国のひとつで,年間生産量は約22万トンにのぼります。しかし,最近ではポーランドのキノコ生産量が顕著に増加していることからオランダ等では近年,その影響を受けキノコ生産量が減少傾向にあるそうです。そのため,これらの国では小規模施設が操業停止となり,施設数も減少しているようです。オランダのツクリタケの生産量はアメリカ,中国についで3位ですがポーランドの増産の影響を強く受け,他のキノコへ転換する施設が見られます。今回訪問した2か所のうち最初に訪問したエルプ村の Verbruggen BVはヒラタケ栽培に転換した施設でした。

 設備はツクリタケの施設をヒラタケ用に棚等を改良していました。日本のように瓶栽培ではなく20 kg規模の麦桿を利用した袋栽培を行うので,施設の改良の経費は少ないと思われます。この方法では,ツクリタケと同様に殺菌工程が不要で,発酵熱を利用して有害微生物を除去した後,ヒラタケ菌等を接種します。培養期間は袋の大きさによりますが70~80日間培養した後,約2週間ごとに2回収穫します。2回目で培地重量の20%程度収穫しています。

 タモギタケ(写真7)やシイタケも培養期間はそれぞれ異なりますがこの方法を使っていました。ただし,この施設自体はツクリタケ栽培では小規模な施設でしたので,ヒラタケ,タモギタケ等の少量生産には適していると思われます。これは,スウェーデンのヒラタケ栽培とも同様で,ヨーロッパでは一般的な方法と思われます。すなわち,ヨーロッパではツクリタケの栽培技術を基盤にシイタケ,ヒラタケ等の栽培技術が確立していったと考えられました。

 この施設を見た後,いよいよ本場ヨーロッパのツクリタケ栽培施設Hooijmans Champignons BVを訪問しました。この施設はオランダでは小規模な施設で年間200トンの生産量ということでした。規模が大きくなるとその10倍もの生産量となります。施設経営者のホーヤマン(Hooijmans)氏(写真8)は30代前半で親から施設を受け継いだばかりでした。しかし,ツクリタケの生産技術はヨーロッパでは極めて成熟した技術であり,この施設では発酵済み堆肥を大型トレーラーで運搬し,コンベヤーで棚へ流し込み,後発酵(再度発酵させる)後に種菌を接種して,2週間程度培養した後ケーシング(覆土)を行います。ほとんどの工程が自動化されており,規模が大きいほど集約可能な大型機械を使うメリットがあります。これは日本のエノキタケ,ナメコ等の培養センター方式によるコストダウンと考え方は共通であると思われました。

 ホーヤマン氏によると,ツクリタケの市況はこの2年ほど大きく低下し,経営が厳しくなったそうです。先に述べたポーランドの生産量の激増がヨーロッパ市場を乱しているようです。したがって,小規模施設では,生き残りを模索するためヒラタケ等希少価値のキノコに転換していくか,あるいは廃業するかを迫られています。ここで感じたのは,ツクリタケの加工・機能性開発がオランダでも必要ではないかということで,日本の技術力を製品とともに欧州にセールスすることが可能ではないでしょうか。

 ケルン(ドイツ)の食品メッセ(博覧会)


 10月11日から2日間,私たちはドイツのケルン市内で開催されている食品メッセを調査しました。
 2年に一度,世界各国から食品関連企業が集まり,食品の輸出・入に関する商談を行うのが本展示会の主目的です。出展数は約6,500社にのぼり,世界97か国に渡っていました。展示商品は一般食品,原材料,健康食品,保存食品,調味料,飲料,コンビニエンス食品,ソーセージ,アイスクリーム等,食品類全般です。私たちは本展示会におけるキノコやそれらの加工食品に着目しました。キノコ関係の食品は事前調査で420社ほどが扱っていました。そのうち生鮮品については20社程度でした。生鮮品はフランス,オランダ,ドイツ,スイス等の展示品があり,主要な商品はツクリタケやトリュフでその他にシイタケ,ヒラタケ,エノキタケ,ブナシメジ,タモギタケ,エリンギが見られました(写真9)。これらの栽培キノコのほか,続報で述べる市場調査ではヤマドリタケ(Cepe),アンズタケ(girolle)等の菌根菌が見られました。ツクリタケはスライス製品や缶詰め,レトルト(写真10),瓶詰め,冷凍品(写真11),デリカテッセン(調理済み加工食品),乾燥等幅広い用途で取引対象品となっていました。

 

 一方,キノコの健康食品については中国,韓国のブースに粉末製品やカプセル製品が見られ,ヨーロッパのブースには少ない印象を受けました。ヨーロッパでのキノコの用途は生食および保存食とする習慣が強く,健康食品関連マーケットについてはこれから発展する若い市場ではないかと考えられます。続報で述べますがドイツにおいても関心が徐々に高まっている段階です。

 なお,日本からは「おいしい」をキーワードにサッポロビール現地法人,キッコーマンの現地法人(JFC Internatinal),味の素,ミツカンのコーナーがあり,ビール,清酒,調味料等の主力商品を展示していました(写真12)。また,和歌山県農林水産部が展示ブースを設け地元の清酒,梅干し,ごま豆腐等の製品を宣伝していました。このような国際見本市は北海道も地元産品を宣伝する良い場ではないかと思われました。(林産試だより2010年4月号につづく)

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