●特集「若松のアカエゾマツ人工林 76年生大径材の利用試験」

ピアノ響板材料としての可能性

林業試験場 森林情報室長(元林産試験場主任研究員) 真田康弘



 人工林材を付加価値の高い用途に


 アカエゾマツが盛んに植えられ始めた頃,アカエゾマツ天然林材が楽器用材として優れた性質を持っていることから人工林材についても大きな期待が持たれていましたが,いつの間にか楽器用材にとの話は聞かなくなっているようです。
 北海道のアカエゾマツ人工林は次第に高齢級となってきましたが,まだ面積の半分程度は?齢級以下です。高付加価値化を期待するのであれば早めの手入れが不可欠であることから,植えられた頃の夢でもあったピアノ響板(きょうばん)としての利用の可能性について検討することとしました。
 遠軽町丸瀬布には,ヤマハ株式会社にピアノ響板や鍵盤(けんばん)などの製品を供給し,国内で生産されるピアノの3分の2に製品が使われているという北見木材株式会社があります。林産試験場では同社の協力を得て,若松のアカエゾマツ人工林材がピアノ響板として使えるかどうか伐採及び製材時などに評価をいただきました。

 ピアノ響板の樹種と規格


 ピアノは響板と呼ばれる板に弦の振動を伝えて音を響かせます。響板はグランドピアノでは蓋(ふた)を開けると弦の下に水平に置かれており(写真1),金属フレームに張られた弦の振動が響板に付けられた駒という部材を通じて伝わります。
 響板は,木目の揃った柾目板を幅方向に接着し(写真2),切り抜くなどの加工をして厚さ約10mmに仕上げます(写真3)。

 アップライトピアノ用は長方形で,辺に対し斜めに板を接着してあります。鍵盤の反対側に回れば見られますが,壁に接する側なのであまり見る機会はありません。
 グランドピアノは高級なものほど奥行きがあります。ヤマハで一番コンパクトなA1Lでは間口146cm,奥行き149cmで価格は百万円台前半ですが,コンサートグランドピアノと呼ばれる最高級のCF?Sになると間口160cm,奥行き275cmとなって価格も1千万円台の半ばです。
 最高級品などの響板にはヨーロッパトウヒ材が使われていますが,日本ではそれに次いだ機種にアカエゾマツ天然林材が使われます。しかし,最近は材料が枯渇してきたため多くの製品に北米産スプルース材が使われています。
 ヤマハグランドピアノ用の響板材は,年輪幅3mm以内,多少のアテは許容されますが,節や割れ,腐れ,カビなどは使えないなどの規格があり,製品のグレードに応じて要求度が高くなります。また,アップライトピアノでは年輪幅が6mm以下まで使えるようになるなど,制限がかなり緩やかになります。

 若松のアカエゾマツ人工林材の柾目木取り試験


 響板は,大きな帯鋸盤(本機)とテーブル帯鋸盤を使ってのように鋸を入れて,厚さ15mmの柾目板を挽きました。製材した5本の原木の径や歩留まりについてはのとおりです。なお,製材の最初に原木の真ん中から得られる心持ちなどの幅広板(写真4)については2枚とカウントしています。
 全体の歩留まりは55%ですが,実際に響板に使えるのは年輪幅や節,アテ,ヤニツボ,変色などの欠点が許容範囲内で,幅6cm以上かつ長さが約60cm以上の部分となるので,かなり減少します。
 今回のアカエゾマツは,枝打ちによる無節材が得られるあたりから外側が響板に使える狭い年輪幅になっていました。ほとんどが辺材になりますが,アカエゾマツの場合は辺材も使えるとのことです。

 ピアノ響板としての可能性


 人工林材の材質は,種苗の産地や生育環境,施業経過等により様々と考えられますが,今回の原木はヤニツボや節の数が少なくグランドピアノ用として使えそうな品質の板が取れました。アカエゾマツは,ギター表板や厳しい規格があるピアノ鍵盤の適材でもあり,製材に立ち会っていただいた北見木材株式会社の方からは,今回の人工林材の材質は思った以上に良く,将来的には無節の良質材供給にも期待したいとの評価もいただきました。
 製材した板はその後同社に送り,乾燥等の工程における天然林材との比較をお願いしているところです。現在は十分な天然乾燥と仕上げの人工乾燥も終えたところで,ヤマハグランドピアノの主力商品であるC3というグレード(約2百万円)が5,6台分ほど取れているのではないかということです。規格がゆるやかなアップライトピアノ用であれば,さらに多く利用できる可能性があります。
 なお,ヤマハピアノで使うヨーロッパトウヒ材は既に全て人工林材になっているとのことで,基準さえ満たせば人工林材を差別することはないと聞いています。

 おわりに


 アカエゾマツは死節ができやすいことから,付加価値の高い用途をめざすには枝打ちなどの手入れを行い,高齢級まで育てる必要があります。このことは,台風や病虫害の影響を受けるリスクが高まるため林業経営的には難しい面もありますが,まだ若い林分が多い今のうちであれば間伐時に材質を確認して良い林分は長伐期にする検討もできるのではないでしょうか。これからいよいよ太くなっていくアカエゾマツ人工林の可能性に夢を託し,十分な手入れが行われる林分が多くなってほしいと思っています。
 アカエゾマツ人工林施業の参考書としては,道立林業試験場が監修し平成7年3月に北海道林業改良普及協会(現(社)北海道森と緑の会)が発行した「アカエゾマツ人工造林の手引き」があります。この本に書かれている技術については,林業試験場のほか各地の森づくりセンターに相談すれば情報を得ることができると思います。
 おわりに,北見木材株式会社の皆様からは様々なご指導とご協力をいただいており,厚くお礼申し上げます。

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