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キノコ生産・機能性調査~ヨーロッパ探訪その2~

利用部 微生物グループ 米山彰造



(2010年2月号より続く)

 ドイツの健康食品への考え方とキノコ生産


写真1 レリー博士と著者

写真2 会食の様子とその時に出されたトリュフ料理

 10月12日の夕方,私たちはドイツ菌類研究所(Institute fur Pilzforschung)のレリー(Lelley)博士(写真1)とケルン市内のホテルで面談しました。博士はトリュフの圃場をハンガリーに持っており,ブダペストの大学では園芸学の講義をしています。そこで栽培に関する研究を行っているほか,ケルン市から50kmほど離れたクレフェルド(Krefeld)に,研究所と健康食品販売会社を併設した事務所を持っています。さらにボン市内のフリードリッヒ・ウィルヘルム大学で菌類学の教鞭をとっているそうです。
 博士は日本のシイタケに含まれるレンチナンの利用状況に興味を持っていました。ドイツの人々はキノコの健康食品への利用に非常に興味を持っていることから,レリー博士の会社ではシイタケやマイタケ等の原料を東ヨーロッパ諸国や中国等から調達しているそうです。ドイツの国産品はコストが高いため,原料としては適していないと思われます。ただし,日本製品については交渉の機会がないようですが,ドイツ人の健康食品に対する注目度は高いことから,中国産との対比で安全性を重視して売り込むことも可能ではないでしょうか。

 翌13日,私たちはフランクフルト中央駅においてヘッセン州地域農業事務所(Landesbetreib Landwritscchaft Hessen )園芸アドバイザーのグルース(Groos) 氏とドイツ語英語の通訳のべンバッハー(Wembacher)さんと面会し,情報交換の場となるグリュンベルグのスポーツホテルまで同氏の車で移動しました。ここではギーセン大学食品科学部のゾルン(Zoln)教授,生産者のレーア(Lehr)氏らと同席し,ドイツのキノコ生産について会食しながら意見交換しました(写真2)。
 ドイツではツクリタケ生産量は60,000トン,ヒラタケ,シイタケ,エリンギが各500トンでその他のキノコが50トンということでした。ツクリタケについてはポーランドやオランダから62,000トン輸入しているそうです。このように,ドイツはキノコの消費量が多い国と考えられ,キノコ自体への関心も高く,外来種のシイタケにも関心があり趣味で栽培する人もいるそうです。ここ数年は,ツクリタケ以外では,シイタケ等の外来種の消費も伸びているとのことでした。

 グルース氏らとの情報交換の後,フライエンセにあるトンネルを利用した生産施設(写真3)とシュバイスベルグの菌床製造施設を視察しました。写真4には視察参加者を示します。

写真3 トンネル内の棚から発生するエリンギ 写真4 視察に参加したドイツ関係者

 トンネルを利用した施設では,シイタケ(写真5)のほか,エリンギ,ヤナギマツタケを栽培していました。ここでも培地は麦わら培地が主体でしたが,シイタケの培地にはオークのおが粉が5%ほど使用されています。ここの菌床はすべて日本と同様の2.5kgほどの培地が使われており,これらは他の施設で初期培養されてから,各生産施設に運ばれるということで,日本でのシイタケの培養センター方式に類似していました。

写真5 シイタケの培養と発生の様子

 一方,菌床製造施設では麦桿でシイタケの種菌を培養し,これを発生培地に接種する方法でした(写真6)。これが日本と異なっており,麦桿の先端部を直接発生培地の袋に差し込み,接種後の穴はテープ状のもので塞ぐという形態をとっていました。この方法は確立するまで試行錯誤したそうです。日本ではそのままおが粉種菌を接種しますが,麦桿の接種は短時間でかつ種菌コストが低く済みそうです。また種菌自体は30~40日培養したものを使用していました。  ドイツにおけるキノコ生産は日本と同様に生産コストが高いようですが,麦桿とおが粉を併用する点など,日本等アジアとヨーロッパ諸国の技術を融合して取り入れられているようでした。

6 麦稈種菌によるシイタケの接種

 フランス国立農業研究所(INRA)


写真7 ボルドー市内の様子

写真8 サボエ博士らと筆者

 パリから南東へTGVで3時間ほどの都市ボルドーは文字どおりワインの産地として有名です。2007年には都市の景観が世界遺産に指定され,ヨーロッパ各地から観光客が訪れる人口20万人ほどの田園都市です(写真7)。
 ここに所在地があるフランス国立農業研究所(INRA)は,ヨーロッパはもとより世界でもトップレベルの農業研究機関です。
 19日にこの研究機関のキノコおよび食品安全性グループのリーダーであるサボエ(Savoie)博士ら(写真8)と情報交換しました。  フランスでは,キノコ全体の消費量,生産量は減少傾向が続いており,現在の生産量は約110,000トンまで減少しています。この背景にはドイツと同様にポーランドでのキノコ生産量の激増があります。一方,フランスのツクリタケの生産の発祥地で,16世紀ころから始まり,ヨーロッパやアメリカ大陸に伝わっていきましたが現状ではツクリタケの生産量はオランダに次いで世界4番目となっています。しかし,生産技術については伝統的技術と歴史がありフランスの研究者や生産者はトリュフの栽培技術も含め誇りを持っています。
 また,フランス人は伝統的に野生キノコを好む傾向がありフランス料理に出てくるジロル(girolle),シャンテレル(Chanterelle),トランペット(Tronpettes),セップ(Cepe),モレユ(Morel),トリュフ(Truffle)は非常に好まれています。人工栽培ものではツクリタケはシャンピニオンデパリス(Champignon de Paris)とも呼ばれその伝統を示しています。ヒラタケはプルロット(Pleurotte)と呼ばれ,色が薄い方が好まれ,日本とは全く異なる嗜好です。シイタケも料理に使用されますが,香りが強すぎるのが欠点のようでヒラタケ同様に日本とは反対の嗜好でした。

 ところで,このサボエ博士らのグループは,最近ではツクリタケ栽培で最も問題となる害菌であるバーテシリウム属(Verticillum sp.)菌の対策を重要なプロジェクトと位置づけ取り組んでいます。まず,ツクリタケの遺伝子解析を行い,同菌に対する抵抗遺伝子を探索し,見出しました。これにより,Verticillum抵抗性菌株を作り,抵抗性菌株の品質や生産性を評価しています。まだ,品質面で十分とは言えないため,改良予定とのことでした。
 さらに博士のチームではVerticillum属菌自体の遺伝子解析も行い,カビ毒の産生や人体への影響についても調べています。ツクリタケ自体もアガリチンという有害物質を微量ながら蓄積することがあるため,この現象についても,培地に使用される基質や培養条件の面から検討しています。また,ヒラタケについてはトリコデルマ属菌とヒラタケ菌の拮抗作用に及ぼすバチルス属菌の役割についても研究しており,微生物間の相互作用についての知見を多く持っています。
 以上のように,INRAでは植物病理学や遺伝学的見地からの情報やフランス人のキノコに対する食嗜好等,非常に有用な情報を得ることができました。

 ヨーロッパにおけるキノコの市場調査


写真9 デパートのキノコ売場

 市場調査については日程を調整し,コペンハーゲン(デンマーク),アムステルダム(オランダ),パリ,ソミュール,トゥール,ボルドー(以上フランス)の3カ国6都市において行いました。
 コペンハーゲン市内では,北欧を代表するショッピングストリートと呼ばれているストロイエ地区にある大型デパート“イルム”の地下食品売り場を調査しました。
 キノコはツクリタケ,ヒラタケ,シイタケ,エリンギ,カンタレルス,タモギタケの6種類が確認できました(写真9)。ツクリタケはデンマーク産とポーランド産のホワイト種とブラウン種,オランダ産のProtobello(ブラウン系のCreminiと呼ばれる種類の傘が大きく開いたもの)でした。シイタケはオランダ産で,日数が経過しているためか250gで25DKK(500円)の安売りとなっていました。またドイツ産のカンタレルス(アンズタケの一種)も同様に一部安売りで500gが39.5DKK(790円),タモギタケはブラウン系 マッシュルームと混合販売されており,ポーランド産でした。このほかすぐに調理に使用できるように,スライスされたツクリタケのホワイト種もパックされて いました。このようにこのデパートではデンマーク産,オランダ産,ポーランド産が競ってパック売りさ れており,日本のような100g単位ではなく,250gが標準サイズと考えらました。ヒラタケはパックではなく,量り売りされています。

写真10 アムステルダム市内の市民マーケット

写真11 ボルドー市内のスーパーのキノコ売場

写真12 運河に浮くホテルとタグボードの様子

 オランダのアムステルダム市内では市民マーケットを調査しました。当日は土曜日でかなり多くの市民が本マーケットで買い物をしていました。まず,この市場では単位がオランダ独特の重量表示でわかりにくいため,重量表示の1ポンドを500gとみなし,1ユーロは140円として考えました。まずブラウン種のツクリタケ100g が1.25ユーロ(175円),カンタレルスが100gが2.25ユーロ(315円),ヒタラケとシイタケは値段が不明でした。別の店のシイタケは1/2ポンド(250g)で2.5ユーロ(350円)と比較的割安でした。また,エリンギはかなり大型で,1本で100gのものが2.75ユーロ(385円)とかなり高価でした(写真10)。この市場ではほかにトリュフやシイタケ等の乾燥品,ツクリタケの瓶詰め品も見られました。また,趣味でキノコ作りができるヒラタケの栽培キットが15ユーロ(約2,000円)で販売されていました。

 パリの市場ではツクリタケのホワイト,ブラウン系の他,ジロールまたはカンタレルス,ヒラタケが見られました。さらにソミュールやトゥールでは,これらのほかにセップやトランペットが1kgで28ユーロ(3,920円)でした。最後のボルドー市内(写真11)ではセップとシバフタケの一種(Mousseron)がともに1kgで24.9ユーロ(約3500円)でした。このほかハツタケに似たキノコも見られましたが名称は不明です。また,小型のシバフタケに類したキノコがCepeと同様の価値があるのには驚きました。

 以上のように,ヨーロッパには日本とは全く異なる価値観でのキノコの食文化があることがわかりました。特に,フランスではその種類が多いようです。価格については,シイタケやヒラタケはツクリタケに比べると安価で取引されており,やはり日本におけるシイタケの位置づけと同様であることが分かりました。トリュフの価格は不明でしたがインターネット等では黒トリュフが1kg700ユーロ(約10万円)ということで日本のマツタケに匹敵する価値があります。日本人にはわかりませんがほのかな香りが欧米人に好まれると思われました。もし機会にめぐまれたなら,欧米人の嗜好把握のために成分分析や文献等を調べたいと思いました。

 ヨーロッパでのハプニング


 このヨーロッパでの調査が順調であったと読者の方は考えるかと思いますが,大きなハプニングがふたつほどありました。
 ひとつはスーツケースの紛失でした。10月7日夕方,私たちはコペンハーゲン市内での市場調査を終えた後,カストロップ空港からアムステルダムのスキポール空港へ1時間半のフライトで到着しました。通常は10分程度待てばスーツケースが出てくるのですが待てど暮らせど出てきませんでした。私はあきらめてBuggage Claim(紛失申告窓口)へ行き,スーツケースの紛失を告げました。係員の女性の対応は悪くはありませんでしたが,スーツケースの鍵を確認のため置いていくように言われました。2日後アムステルダム市内のホテルにそのスーツケースは戻っていましたが,今度は預けた鍵が戻りませんでした。私はホテルからタグボート(写真12)で駅まで行き,鉄道で空港へ向かいました。しかし,この時驚いたことに,通常空港へは鉄道で行けるのに駅の表示には「すべての列車は空港に停車しません」と表示されていました。私は駅員に聞いてアムステルダム中央駅の隣の駅からバスに乗り,何とか空港に行き,電話で聞いた窓口を探しやっと鍵を受け取ることができました。この鍵を受け取った後,市場調査でアムステルダム市内を探訪することができました。気がつくと,相棒の渡邉氏との待ち合わせ時間が迫っていました。
 紙面の都合上もうひとつのハプニングは詳しくかけませんが,最終日ボルドーから帰国の日,私たちの乗る予定のTGVがストライキのため運休していました。これは驚きでした,渡邉氏の機転で,何とか次発列車に乗ることができましたが,もし飛行機に間に合わなければどうなっていたでしょうか。成田到着時は本当に日本は安全・正確な国だと痛感しました。

 おわりに


 本研修は「研究ニーズ探索調査事業」の技術導入班として19日間欧州諸国を訪問し,各国のキノコの生産技術およびキノコの加工食品や機能性食品に関する調査を行うとともに各国の研究動向,キノコの消費動向や食習慣等について幅広く調査することが出来ました。
 この調査の成果を活かし,今後,国内市場が成熟化している生鮮キノコや健康食品を含めた加工品等の輸出を念頭に入れた商品開発に繋がる研究開発を目指したいと考えています。特に欧州諸国の健康食品市場については国内より新規需要開拓が見込める市場と思われましたので,今後,北海道としてはバイオ産業の振興のためにも,国際見本市等への積極的な出典・セールスを行うことで新たな需要の掘り起こしが期待できるものと考えます。

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