●特集『平成22年 研究成果発表会』-安全・安心・快適な高付加価値製品の開発-
◆長期優良住宅にかかる政策により,世代を超えて循環利用できる社会的資産価値の高い住宅が必要
◆維持管理のしやすさ,世代交代による生活様式や間取りの変化に対応できる構造形式に対する要望
◆いかなる建築物においても構造安全性を確保するためには適切な接合方法を選択することが重要
◆道内の工務店や設計建築士が新しい構法を開発・設計する際に必要となる技術資料の整備が不十分
◆道産材に特化した接合部設計資料となると皆無
本研究課題では接合部の設計・開発の基本となるデータを収集することで,新しい接合方法,新しい構法の開発をサポートするための基礎資料の作成を進めています。
ここでは,柱と梁とを鋼板と丸鋼を使って接合した場合について紹介します。木質構造設計規準(日本建築学会)によれば,丸鋼の配置については側面からの距離(縁距離)を丸鋼径の4倍以上,木口からの距離(端距離)を7倍以上としています。しかし,接合部の開発過程において,やむを得ずこれらの距離が確保できない場合が出てくることが考えられます。
そこで,端距離を丸鋼径の5倍,3倍,1.5倍と短くすることによって引張性能がどのように変化するかについて実験的に検証しました。実験では,厚さ3.2mm鋼板2枚をスリット加工したトドマツ集成材(e75F270)に挿入して,直径d=12mmの丸鋼2本で留めつける方式を想定しました(写真1,2)
。
図1に荷重と変位の関係を示します。端距離が丸鋼径の7倍のものと比べると,5倍のものでは最大荷重は低下しませんが,最大荷重を超えてからの変形が少なく,粘りが小さくなる傾向にあります。3倍のものでは,粘りは全くなくなり,最大耐力も3割程度低下しました。さらに1.5倍まで短くすると,最大荷重は1/4程度しかありませんでした。
破壊形態は,端距離が7倍のものでは丸鋼自体が変形していましたが,1.5倍のものでは丸鋼が変形することなく破壊に至っていました(写真3)。このように,丸鋼の配置によって木材の特性に依存する破壊形態や変形挙動が変化するので,コストダウンを目的として金物を小型化するなどの場合には気を付ける必要があります。
今後も,汎用性の高い接合方法を中心に,引き続き道産材で接合部を構築する場合の基礎データを蓄積していきます。