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アセチル木材の実用化への取り組み

利用部 マテリアルグループ 長谷川 祐

 

 はじめに


 木材は,温かみのある素材感,高強度,調湿能など,優れた材料特性を備えています。そして,豊かな山林で持続的に生産される,人や環境に対して安全・安心な生物材料です。地球環境との調和や負荷軽減が求められる昨今,改めてその良さが認識されています。
 一方,より多くの製品ニーズに対応し,さらに木材の用途範囲を広げるには,木材が本来持ち合わせていない新たな性能を持たせたり,不足する性能を積極的に補ったりすることも有効な手法と言えます。
 こうした観点から今回は,木材本来の安全・安心な材料特性はそのままに,耐久性や寸法安定性等の性能を大きく高める処理として,「アセチル化」という方法をご紹介します。

 

 アセチル化とは?


写真1 アセチル化された道産針葉樹

 木材のアセチル化とは,木材成分(セルロースやリグニンなど)に含まれている水酸基に,酢酸を化学的に結びつける反応を言います。酢酸は,食酢の酸っぱい成分としてもよく知られる身近な有機酸です。木材と化学的に結合した酢酸は,通常の使用条件下では溶け出すことはなく,アセチル化木材自体もほとんど酢酸臭はしません(ただし処理工程上,多少の臭気はあります)。
 写真1に,実際にアセチル化した板材を示します。処理時間によって多少材色が濃くなる以外,見た目や触った感じなどはほとんど無処理木材と変わりません。


 アセチル化木材の特長


 アセチル化木材はどのような特長を持つのでしょうか。主なものを示します。

写真2 普及試験後の劣化状況

(1)腐朽菌やシロアリ,フナクイムシ等に強い(耐久性の向上)
 アセチル化木材は,木材成分自体が化学的に変化しているため,木材を分解して餌としている生物はこれを利用することができなくなります。その結果,生物に対する耐久性が大きく向上します。このように,殺菌や殺虫作用によって耐久性が向上するのではなく,木材成分そのものが分解されにくく変化する点が,既存の薬剤処理と大きく異なる点と言えます。一例として写真2に,代表的な木材腐朽菌であるオオウズラタケを用いてアセチル化木材の腐朽試験を行った結果を示します。無処理木材は激しく劣化しているのに対して,アセチル化木材は元の健全な状態を保っています。

(2)水分による伸び縮みが小さい(寸法安定性の向上)
 木材は湿度変化に伴って寸法が変化します。これは,木材成分中の水酸基に水分子が結合したり離れたりすることによると言われています。アセチル化木材では,水酸基が酢酸の成分ですでにブロックされているため,水分子が結合しにくくなります。その結果,湿度変化による寸法変化が小さくなります。図1に,アセチル化木材の寸法安定性試験を行った結果を示します。樹種による違いがありますが,吸放湿による寸法変化は,無処理木材の1/2~1/4程度に抑えられています。
 これら以外にも,干割れの発生が抑えられることから屋外製品への適用や,音響的な性質が向上することから楽器用材への適用が試みられています。

図1 吸放湿に伴うアセチル化木材の寸法変化

 アセチル化木材の製法


 通常,アセチル化木材を製造するには,まず,乾燥させた木材(含水率8%以下が望ましい)に無水酢酸という薬剤をしみ込ませます。次にこれを加熱して反応を行います。加熱温度は,無触媒の場合80~130℃,触媒併用では室温~60℃位です。反応後,木材内の余分な薬剤を除去します。

図2 木材乾燥機を活用した気相アセチル化処理のイメージ

 このように,工程自体はそれほど複雑ではありませんが,処理に用いる無水酢酸は強い酢酸臭がする腐食性の可燃物質であるため,臭い防止や安全対策が必要になります。

 林産試験場では,できるだけ手軽にアセチル化が行えるよう,既存の木材乾燥機を活用した簡易な処理方法(気相アセチル化)を考案しました(図2)。
 これは,薬剤を蒸気にして反応させるもので,ちょうどジャガイモなどをお湯で煮るのではなく,水蒸気で蒸すのと似ています。この手法によって,処理に必要な薬剤を最小限に抑えられ,装置自体も簡便にすることができます。

 適用事例あれこれ


 前述の木材乾燥機を活用した気相アセチル化の実証試験を兼ねて,材長1.8mが処理可能な中規模の処理装置を試作し,種々の製品試作および試験施工を行いました。
(1)環境配慮型資材としての利用
 写真3は,気相アセチル化したスギ円柱加工材を道立自然公園の湿原に植生保護柵として試験施工した様子です。湿原は,保守点検や部材交換がしにくい地形であるほか,希少な動植物が多数生存する場所でもあります。そのため,整備に用いる資材は耐久性が高くメンテナンス性に優れ,しかも有害物質が土壌中に溶け出すおそれがないことが求められます。アセチル化木材は,このような環境への配慮が必要な用途に適しています。
 写真4は,気相アセチル化したスギ板材を用いて試作した木製タコ箱です。まだ実際に海中での性能は確認していませんが,毒性もなく,フナクイムシ等の海虫にも強くなるため,木製漁業資材の需要回復の一助になることが期待されます。

写真3 気相アセチル化スギ材を用いた植生保護柵 写真4 気相アセチル化スギ材を用いたタコ箱

(2)人に安全・安心な資材としての利用

写真5 衝撃吸収を目的に遊具下に敷設した気相アセチル化トドマツチップ

 写真5は,道立公園の遊具施設の地表面に衝撃吸収を目的に気相アセチル化したトドマツチップを敷設した様子です。木チップはクッション性に優れ景観とも調和した優れた材料ですが,そのままでは劣化しやすいことが難点でした。また,小さな子供と接するものであるため,耐久性を高めるにしても毒性のない安全な材料であることが望まれます。アセチル化木材は,酢酸の成分しか含んでおらず,また高い耐久性を持っているので,こうした用途に適していると言えます。


 まとめ


 今回は,木材本来の素材感や,人や環境への安全性を損なうことなく耐久性などを高める処理として,アセチル化という方法をご紹介しました。また,木材乾燥機を活用した,比較的簡便な製造方法についてもご紹介しました。今後も試験施工や試作を通じて性能の確認を行い,道産木材の性能向上と需要拡大・競争力アップにつながるよう,開発を進めていきます。

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