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ブナシメジ「マーブレ219」の開発と工場生産

利用部 微生物グループ 原田 陽


 はじめに


 ブナシメジは生産量,生産額ともにエノキタケやシイタケと並ぶ主要なきのこです。林産試験場では,ブナシメジの品種としてマーブレ88-8(品種登録第10959号)に続き,カラマツおが粉の利用適性が高い品種(マーブレ219,品種登録出願第24148号)を開発しました。カラマツは,北海道で資源量が豊富であり,そのおが粉はきのこの培地材料として安価に入手しやすくなっています。また,現状では6か月~1年程度散水処理した針葉樹おが粉が利用されていることから,散水処理しないカラマツの使用が可能になれば,生産コスト低減と資源の有効利用につながると考えられます。
 この新品種「マーブレ219」は,企業による生産および販売が始まりましたので,開発経過と工場生産について紹介します。

 ブナシメジ栽培の特徴


 ブナシメジの栽培工程は,仕込工程(培地調製,殺菌・放冷),培養・熟成工程,芽出し工程,生育工程に大別されます(図1)。ブナシメジは,きのこ(子実体)の発生量(収量)と品質の安定性の点から,培地全体に菌糸が蔓延した後も熟成を要するきのこで,タモギタケ,エノキタケおよびヒラタケ等同じビン栽培きのこに比べて,栽培期間が長くなります。培養・熟成工程を長くすると収量や品質が向上することから,培養・熟成工程を90日前後に設定することが一般的で,トータルの栽培期間は110日前後となります。

図1 ブナシメジの栽培の流れ

 道産品種の開発


 マーブレ219の開発経過を図2に示します。「マーブレ88-8」を親菌株とする交配菌株を約400菌株作出し,菌糸の成長特性により栽培試験に供する約200菌株を選びました。この際,成長した菌糸の形状,成長速度を指標としました。その後,3回の小規模栽培試験を含む1~3次選抜により,発生した子実体の形態,短期培養による子実体収量,カラマツ培地での子実体収量を指標として9菌株を選抜しました。
 中規模栽培試験による4次選抜では,カラマツ培地における子実体収量,子実体の形態,収穫日数の均一性を指標として3菌株を選抜しました。その後,実生産施設で3菌株(95,117,219)およびマーブレ88-8の栽培試験を行った結果,子実体収量や形態の評価で219が最高となりました。続いてカラマツ培地と広葉樹(カンバ類)培地により収量等の評価を行った結果,219はカラマツに対する適応性が高く,マーブレ88-8に対して40%の増収効果を示しました(図3)。

図2 カラマツ材適応優良品種の開発経過 図3 カラマツ増収培地での栽培結果

 マーブレ219の特徴


 一般的なブナシメジに比べて短期栽培が可能であること,カラマツ培地でも栽培が可能であること,食感や食味が良いことが特徴です。試食による食味評価(図4)でマーブレ88-8と比較した結果,マーブレ219の評価が高くなりました(図5)。

図4 ブナシメジの食味評価 図5 食味評価の結果

 量産化を目指した共同研究


 大型生産施設に適応した優良品種の導入を検討していた企業と,共同研究「針葉樹の利用に適したブナシメジ新品種の安定生産技術開発」(平成20~21年度)の中で,マーブレ219の量産化に向けた検討を行い,製品化を行うことができました。
 共同研究では,小規模の試験により明確化した新品種の特性を最大限に発揮させる栽培条件を見出しました。この結果,大規模生産施設でも経営上目標とする収量を越え,安定かつ再現性の高い栽培特性を確認し,栽培期間の短縮や収量増加による生産効率および製品率の向上につなげることができました。また,既存品種に対する優位性を示すことができました。すなわち,既存品種で標準としていた90日間の培養より短くしても,収量や品質が低下しないことが明らかになりました(図6)。
 工場内における発生状況は写真1に示すとおりで,子実体の生育は均一性が高く,同一ロットの収穫は3日以内に終わらせることが可能です。このように,工場生産における作業効率を高めることができました。

図6 既存品種と新品種の比較 写真1 工場内の生育状況

 おわりに


写真2 製品化されたマーブレ219

 共同研究を実施した企業では,マーブレ219の量産化を可能にし,製品化(写真2)を実現することができました。本製品は,道内外の小売店で販売されています。今後は,継続したアフターフォローを心がけながら,味や健康機能といった質的な評価を組み合せながら,より製品価値を高める技術支援をしていきたいと考えています。



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