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幅の狭い道産カラマツ集成材への準耐火性能の付与

性能部 耐久・構造グループ 河原崎政行



 大規模建築物の木造化への動き


 平成21年12月25日に農林水産省が公表した「森林・林業再生プラン」では,コンクリート社会から木の社会へと銘打ち,国産木材の利用促進の一つの方法として,公共施設や住宅への地場産木材の利用推進が示されています。さらに,平成22年5月26日に公布された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では,2~3階建の公共建築物は原則として木造にすることを目指しています。このような情勢から,今後は全国的に,大規模建築物における木造化や内装の木質化への取り組みが進められていくと予測されます。

 公共建築物のような大規模で不特定多数の集まる建築物では,火災の際に多くの人命が危険にさらされることや,周辺に被害が広がる可能性が高いことから一定水準の耐火性能が求められます。建築基準法では,耐火性能のグレードにより耐火建築物および準耐火建築物を定めており,耐火性能が必要な建築物は,火災時の危険度に応じてどちらかにする規定になっています。それぞれを簡単に説明すると,耐火建築物は「火災が終了するまで耐える性能」を有した構造の建築物,準耐火建築物は「火災に45分間あるいは60分間耐える性能」を有した構造の建築物です。木造の建築物でも,最近は技術の進歩により耐火建築物に相当するものが一部出てきましたが,ほとんどが準耐火建築物までの性能です。前述の法律において2~3階建の公共建築物は木造にするという基本方針は,それらが準耐火建築物の範囲であり,従来の木造技術で建てることができるためです。

   大空間を有することが多い公共建築物は,これまで主に断面の大きな集成材が使われてきました。これは集成材等の木質材料は,火災時に炭化等で強度が失われる部分を見込んだ断面寸法にすることで,火災開始から45分間あるいは60分間建物の倒壊を防ぐ準耐火性能が保証され,準耐火建築物の構造部材に使用できるためです。このような準耐火性能の検証方法を,燃えしろ設計といいます。しかし,燃えしろ設計では,集成材の断面寸法を大きくしなければならないため,使用する板材(ラミナ)も幅が広いものが必要になります。そのため,集成材に使うラミナの入手が困難になったり,幅の狭いラミナを使う場合は,幅方向に接着しなければならなくなります。このことは,集成材の生産性の低下や製造コストの上昇を招きます。


 幅の狭い集成材への準耐火性能付与の試み


図1 火災時における被覆材の炭化抑制効果

 そこで本研究では,従来よりも幅の狭い集成材に,被覆材を用いることで準耐火性能を付与することを考えました。このことにより,前述のラミナ入手における問題が解決され,準耐火集成材の製造を容易になります。
 モデルの集成材は,断面を幅150mm×高さ300mmとし,梁に使用することを想定しました。被覆材は,取り付け作業を簡略化することを考え,木ねじを用いて集成材の側面のみに取り付けることにしました。被覆材の効果を図1に示します。被覆材を取り付けることで,火災時における集成材の両側面の炭化の進行は少なくなり,強度を有する未炭化部分の断面が大きくなります。このことにより,集成材は,準耐火性能に必要な強度を保持できるようになります。

 被覆材を用いた準耐火集成材の製造工程を図2に示します。製造コストの抑制のため,被覆材は集成材製造時に強度等の原因により除外されるラミナを利用しました。また,被覆材は,性能のバラツキが低減され,取り付けた後も集成材の意匠を維持するために,積層材にしました。

図2 被覆材を用いた準耐火集成材の製造工程


 被覆材の炭化抑制効果の確認


 被覆材による集成材の炭化抑制効果について,道産カラマツ集成材(断面150×300mm,長さ1400mm)を用いた試験結果を基に説明します。試験体は,被覆材として厚さ10,20,30mmの3種類を用い,集成材の側面に木ねじで取り付けました。実験では,火災を想定した加熱(図3)を,試験体が梁に使用したことを想定して,側面と底面の3面に90分間加えました。
 加熱終了直後の試験体の状態を写真1に,集成材の未炭化部分の断面を写真2に示します。集成材の未炭化部分の面積は,被覆材の厚さに従って大きくなり,被覆材の効果が伺えます。また,試験体に用いた集成材には,事前に加熱中の内部温度測定用のセンサーを数点設置しました。このセンサーの測定値と,火災中の木質材料の炭化温度とされる260℃から,準耐火性能の基準である加熱45分後および60分後における側面部の炭化層の厚さを推定した結果を図4に示します。集成材側面部の炭化層厚さは,無被覆に比べて厚さ10mmの被覆材では5mm程度,厚さ20mmでは12~16mm,厚さ30mmでは25~27mm小さくなりました。

図3 火災を想定した試験体への加熱温度 写真1 加熱終了直後の試験体の状態

写真2 加熱後90分間の集成材の未炭化断面 図4 準耐火性能の基準時間における修正材側面部の炭化層厚さ


 被覆材を用いた集成材の準耐火性能の確認


 前項では,被覆材による集成材の炭化抑制効果について説明しました。では,被覆材を取り付けた集成材の実際の準耐火性能はどうでしょうか。これについては,実大寸法の試験体を用いた試験で確認しました。試験に用いた集成材は,断面は前項と同じ150×300mm,長さは5500mmとしました。試験体は,厚さ20mmの被覆材を取り付けたものと,比較のために無被覆のものを用いました。試験では,試験体に建物の梁に生じる力を加えた状態のまま,両側面と底面の3面を加熱しました(図5)。集成材への加熱温度は,と同じです。

図5 梁部材の準耐火性能の確認試験

 加熱終了直後の試験体の状態を写真3に,加熱中の試験体のたわみ量を図6に示します。無被覆の試験体では,加熱後43~47分に中央付近で破壊しました。被覆材を取り付けた試験体では,加熱後52~56分に無被覆試験体が破壊したたわみ量に近づいたため,加熱を終了しました。この結果から20mmの被覆材を取り付ける事で,集成材の耐火時間が少なくとも9分延び,被覆材の効果を確認できました。さらに,この結果と前項の被覆材厚さと集成材の炭化状況の関係を基に,集成材に準耐火性能を付与する被覆材厚さを計算したところ,45分間では10mm,60分間では22mmになりました。

写真3 加熱終了直後の試験体の状態 図6 加熱中の試験体のたわみ量


 おわりに


 本研究では,大規模建築物に使用される集成材を容易に生産できるように,従来よりも幅の狭い集成材への準耐火性能付与を検討しました。その結果,木質の被覆材を使用する事で幅150mm×高さ300mmの道産カラマツ集成材への準耐火性能付与が可能であることが分かりました。

   今後この成果を実用化するには,いくつかのハードルがあります。一つ目は,被覆集成材を建築物に使用するには,試験機関で準耐火性能のあることを認めてもらい,国土交通大臣の認定を取得する必要があることです。二つ目は,集成材の断面寸法についてです。研究の中ではモデルとして150×300mmの断面寸法を用いました。得られたデータから,他の断面寸法の集成材に準耐火性能を付与する被覆材の厚さを推定できますが,実用化には若干の検討が必要です。  公共建築物などの大規模建築物の木造化が進められている現状の中で,本成果はそれに寄与するものと考えています。今後は,準耐火木造建築物に関心を持たれている企業の方々とともに課題を解決し,実用化を目指したいと思います。

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