写真3 加熱終了直後の試験体の状態,図6 加熱中の試験体のたわみ量

 

木質 I 形梁の需要拡大と性能向上に向けた一連の研究開発

技術部 生産技術グループ 大橋義徳



 はじめに


写真1 木質I形梁

 木質 I 形梁とは,フランジと呼ばれる軸材料とウェブと呼ばれる面材を接着等で組み立てた,新しい構造材料です(写真1)。主な用途としては,木造住宅の床組や屋根組を構成する構造部材として利用されています(写真2,3)。木質 I 形梁の特長は,各部の材料強度に応じた断面設計により様々な性能の部材を製造することができ,使用材積と必要原木径を小さくすることができることです。また,同程度の曲げ性能を持つ製材と比べて軽量で施工性に優れています。さらに,ウェブ面材の特性により梁せい方向の寸法変化が小さいという特長もあります。近年の木造住宅では,工期短縮のために施工の際,十分乾燥している材料が求められますが,特に高断熱高気密工法では住宅内部が過乾燥状態となりやすく,含水率の高い材料では床面の凹凸や床鳴り,建具の不具合などが生じるおそれがあります。とりわけ,梁せいの大きな床組製材を多用する枠組壁工法住宅(写真4)では,床組に関する瑕疵防止が課題となっており,寸法精度と寸法安定性に優れた木質 I 形梁の導入する事例が増えています。

図2 床組みでの利用,図3 屋根組での利用,図4 従来の床組製材

 日本では,枠組壁工法のオープン化により北米産の木質 I 形梁が輸入されるようになり,同工法のシェア増加と輸入製材の品質低下により I 形梁の需要が増えています。2000年頃から国内でも商業生産が始まり,現在,国内企業4社と北米企業2社が国土交通大臣認定を取得し,製品を供給しています。国内では I 形梁に関する統計資料がないため推定になりますが,国内消費量は,1棟あたりの使用量を約200m,枠組壁工法住宅(年間約10万棟)の1割で採用されると仮定すれば,年間約200万mとなります。北米市場の約3億m1),欧州市場の約1000万m2)と比べるとまだ市場規模は小さいですが,最近,国内の大手住宅メーカーが国産製品の導入に積極的となっており,市場規模の拡大と需要拡大が見込まれます。

 林産試験場では,建築業界からの要望を受けながら,国内では先駆的に国産材を用いた木質 I 形梁の研究開発に取り組んできました。これまで,道産トドマツ製材と道産カラマツ合板を用いた木質 I 形梁(写真1)を開発し,平成17年には国内初の国土交通大臣認定を取得しました。最近,長期優良住宅や公共建築物などの国産材利用推進により,国産の木質 I 形梁の需要拡大への機運が高まるなかで,さらなる需要拡大と性能向上に向けた技術開発を進めています。本報では,直近の取り組み事例3題を紹介します。


 木質 I 形梁の新製品開発(その1)


写真5 I形梁の断面の種類

 道内企業からの要請を受けて,トドマツたて継ぎ材とカラマツ合板およびOSBを組み合わせた木質 I 形梁の開発に取り組みました(写真5)。フランジ形状とウェブ種類を拡充した新製品の実用化・量産化に向けて,連続式プレスを用いた製造技術と品質管理手法を確立しながら,試験生産品について建築基準法第37条に基づく様々な力学特性の評価試験3,4)を行いました。試験結果を表1,2に示します。
 試験の結果,試験生産品は北米産210材と比べてせん断性能やめり込み耐力は低いものの,曲げ性能は同等以上であること,OSBウェブは合板ウェブよりせん断性能や曲げ性能が優位となるものの,吸水履歴による性能低下が大きいことなどが明らかとなりました。これらの研究成果をもとに,現在,建築基準法第37条の材料認定を申請中であり,年度内には取得予定です。認定取得後には企業にて製造・販売される予定であり,道内での木質 I 形梁の供給体制の充実が期待されます。

表1 力学特性の基準値,表2 各処理による力学特性の残存率


 木質 I 形梁の新製品開発(その2)


図 I形梁の断面種類

 道外企業からの要請を受けて,カラマツ単板積層材(LVL)を用いた木質 I 形梁の開発に取り組みました()。多くの梁せいと梁幅を持つ新製品の実用化・量産化に向けて,連続式プレスを用いた効率的な製造技術と品質管理手法を確立しながら,試験生産品について建築基準法第37条に基づく様々な力学特性の評価試験5)を行いました。試験結果を表3,4に示します。
 試験の結果,試験生産品は同じ梁せいの輸入製材と比べてせん断剛性は低いものの,曲げ耐力とせん断耐力は優位であることが明らかとなりました。これらの研究成果をもとに,現在,建築基準法第37条の材料認定を申請中であり,年内には取得予定です。認定取得後には企業にて製造・販売される予定であり,全国での高性能な木質 I 形梁の需要拡大が期待されます。

表3 力学特性の基準値


表4 各処理による力学特性の残存率


 木質 I 形梁の性能向上技術の開発


写真6 45度合板タイプの曲げ・せん断試験

 昨今の国産材利用の高まりのなかで,木質 I 形梁に対しても純国産製品のニーズが増えつつあります。国産のウェブ用面材としてはカラマツやスギなどの構造用合板が価格,供給量,寸法安定性等の面で有望ですが,OSBに比べてせん断特性が低く, I 形梁のせん断性能も低くなる課題がありました。そこで,純国産製品の性能向上を目指して,せん断性能の高い45度合板をウェブに応用する技術を開発しました。なお,本研究は,平成20年度JSTシーズ発掘試験として島根県産業技術センターと共同で行いました6)。国産カラマツやスギの45度合板を用いた I 形梁(写真6)の製造試験と曲げ・せん断強度試験を行いました。試験結果を表5に示します。

表5 力学特性の平均値と実用たわみの試算値

 試験の結果,45度合板をウェブに用いれば,軽量さや寸法安定性を維持しながら,木質 I 形梁のせん断性能やたわみ性能を高められることが明らかとなりました。45度合板を用いた木質 I 形梁の実用化に向けて,長期荷重や使用環境が力学特性に及ぼす影響を調べる必要があり,今後,民間企業とともに実用化研究へ展開する予定です。高性能で純国産の木質 I 形梁の実用化が期待されます。

 おわりに


 木質I形梁は,軽量で寸法変化が少なく,施工性の向上と床組の品質向上に有効な材料です。また,中小径材を用いて少ない材積で製造可能であり,人工林資源の有効利用と高度利用につながる製品でもあります。今後,国内需要の拡大が見込まれるなかで建築材料の自給率の向上,地域経済の活性化につながる国産製品が充実し,新たなエンジニアードウッドとして広く普及することが期待されます。

参考文献
1) UNECE/FAO : Forest Products Annual market Review, 131-132(2008).
2) Powney, S. : Timber Trade J. 6/25-7/2, 22(2005).
3) 大橋義徳, 松本和茂 : 日本建築学会大会梗概集, 東北, 2009, pp.47-48.
4) 大橋義徳, 松本和茂 : 日本建築学会大会梗概集, 北陸, 2010(印刷中).
5) Lee, W. and Ohashi, Y. : Proceeding of World Conference on Timber Engineering(2010).
6) 大橋義徳, 松本和茂, 河村進, 大畑敬 : 日本木材加工技術協会年次大会要旨集, 2009, pp.42-43.

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