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エネルギー問題を考える-森林バイオマスは救世主となるのか?-

利用部 バイオマスグループ 山田 敦



 はじめに


 2010年4月の,道立試験研究機関の地方独立行政法人化にともなう機構改革により,私の職名も物性利用科長から主査(エネルギー)に変わりました。これまで地球温暖化防止策として,木質ペレットなどのカーボンニュートラルなバイオマス燃料に関する研究に取り組んできましたが,これを機会にエネルギー対策としてのバイオマスエネルギーについて考えてみました。
 ここでは,北海道におけるエネルギー消費動向と問題点,森林バイオマス活用の可能性などについてご紹介します。

 北海道におけるエネルギー消費動向


 北海道経済産業局が発表した「2007年度版北海道のエネルギー消費動向」1)によれば,北海道における2007年度のエネルギー消費量は,前年度に比して1.8%増の693PJ(ペタジュール(10の15乗ジュール))で,全国のエネルギー消費量の約4.4%を占めています。エネルギー消費量の構成をみると全国に比べて産業部門の割合が小さく,民生・運輸部門の割合が高いことが特徴です。
 産業部門におけるエネルギー消費量の内訳は,全国に比してパルプ・板紙類業,農林水産業の割合が高く,これに鉄鋼業を加えた3業種で全体の約6割を占めています。
 北海道の農林水産業におけるエネルギー消費量は全国の中で突出して高く(図1),農林水産業の単位生産額あたりのエネルギー消費量も全国平均に比べて高くなっています。背景としては,農業・漁業従事者数が他県と比べて多いほか,販売農家1戸あたりの光熱動力費が全国平均を大きく上回っていること等があげられます。食糧自給率200%を誇る北海道の農林水産業も,石油や電力などのエネルギーなしでは,成り立たないのです。
 また,民生部門(家庭)におけるエネルギー源別の消費量は灯油の割合が約6割と高く,天然ガス・都市ガスの割合が低くなっています。2008年の原油価格の高騰以来,オール電化や天然ガスセントラルヒーティングの住宅が注目されていますが,灯油依存の体質は大きく変わっていないものと思われます。

図1 農林水産業におけるエネルギー消費量


 なぜ石油価格は上がるのか?


 幸いにして2008年の原油価格の高騰はリーマンショックにより収束しましたが,その後,再び緩やかな上昇傾向にあります。このまま,石油価格は上がり続けるのでしょうか?
 原油価格は,さまざまな要素によって変動します。エネルギー白書2)によれば,2008年の価格変動要素と考えられていたのは,中国・インドなどの新興国の石油需要の急拡大,世界最大の石油消費国であるアメリカの堅調な石油需要,産油国であるイラン,ナイジェリア等の地政学的リスクに対する懸念,OPECの原油生産余力の減少,原油開発のための資機材の高騰や人材不足,イージーオイルと呼ばれる比較的容易に開発できる油田の減少,資源ナショナリズムの高揚などでした。さらに2007年夏のサブプライムローン問題の表面化以降,世界的な株式市場の低迷,債券の利回りの低下から,新たな資産運用先として原油先物市場に大量の資金が流入したことも,原油価格高騰の大きな要因と考えられています。

 現在は,ヨーロッパ・アメリカ経済の停滞や円高ににより,私たちの生活に影響するような石油製品の急激な価格高騰は見られません。しかし,中国は相変わらず,10%近い経済成長を続けています。加えてこれまで維持若しくは増加してきた石油の生産量が,楽観的に見ても2030年代に,場合によっては更に早い時期にピークを迎えるのではないかといった石油ピーク論なども指摘されています(図2)。
 石油ピークの時期については,あくまでも既存データからの予測値にしかすぎません。新たな油田開発や技術の進歩により,先延ばしできるものと考えます。しかし,それに乗じた投機マネーの導入により,2008年と同じような原油価格の高騰が起こる可能性があります。
 そのような状況を回避するためには,農林水産業や私たちの生活における石油依存の体質を改善し,需要量を減らす努力が必要です。石炭や天然ガスなどの化石燃料は石油と同様に限りのあるものです。また,その多くを他国に依存していることから,資源ナショナリズムの対象となることが懸念されます。
 それらを考慮すると,自国で供給可能な再生可能エネルギー(太陽光・風力・バイオマスなどから作ったエネルギー)を増やしていくことが望ましいと考えます。

図2 石油ピークの考え方


 森林バイオマスは救世主となるのか?


 北海道新エネルギーマップ20093)によれば,北海道内には104カ所の太陽光発電施設が存在します(出力計6,475.4kW)。住宅用太陽光発電設備は年々増加し,2008年度設備容量累計は19,106kWとなっています。風力発電は55カ所存在し,その出力計は25.8万kWに及びます。
 太陽光発電や風力発電は従来の集中型電源とは様々な点で異なる特徴を持っています。温室効果ガスの排出が少ないこと,運転用燃料が不要で持続的に利用できるほか,経済面での効果などが期待されています。しかし天候により,出力が変動するなどの欠点も有し,対策を要する場合もあります。

 一方,バイオマスは一時的な天候の変動に左右されることなく,計画的にエネルギーを供給することができます。森林バイオマスは他のバイオマスに比べて低水分・低灰分ゆえに直接燃焼による熱利用の燃料として優れています。そのため熱利用を中心に確実に需要を伸ばしています(H21年度:ペレット工場14カ所,発電施設23基,木くず焚ボイラー82基,ペレットボイラー81基)4)。しかし,需要が増加するに従い,その供給に対する不安が顕在化してきています。
 小規模なバイオマスボイラーやペレット工場では大きな問題とはなっていませんが,大規模なバイオマス発電施設では燃料確保が重要な課題となっています。
 これは,小規模のバイオマス利用が燃料価格として重油や灯油などを基準としているのに対し,バイオマス発電の場合,より安価な石炭と同等の価格を要求しているため,価格に見合うバイオマスが入手困難であることによります。広く,薄く存在する森林バイオマスを活用するためには,資源背景に見合う,適正な規模と価格を十分考慮する必要があると考えます。

 図3にNEDO「バイオマス賦存量及び利用可能量の全国市町村別追加推計とマッピングデータの公開」に関する調査5)を基に作成した北海道内の木質バイオマスの賦存量・利用可能量を示します。賦存量は年間2,200千トンあります。しかし,収集が難しいことや,既に他の用途に使われているため,利用可能量は年間260千トンしか見込めません。
 一方,北海道内の森林蓄積は毎年1千万m3近く増えています(図4)6)。これを有効利用するための林道路網の整備や,未利用のまま林地に放置されている林地残材を収集するための効率的な収集方法が提案されています。また,エネルギー作物としてヤナギなどの早成樹木の栽培なども検討されています。もし,これらの取組が実現されれば,森林バイオマスがエネルギー問題の救世主となる可能性があります。

図3 北海道の木質系バイオマス賦存量・利用可能量 図4 北海道内の森林蓄積


 資源は他にもある


 北海道は農業大国です。面積は年々減っていますが,1,162千haの耕地を有します7)。そこから排出される農産残さ(稲わら・もみ殻・麦わら)は年間112万tに及ぶと推計されます5)
 林産試験場ではそのような農産残さをペレットの原料として活用することを検討してきました(写真1)。発熱量が低く,灰分が高いなどの欠点はありますが(表1),木質ペレットとの混焼や,木質ペレットの原料の一部として,活用の可能性があります。

写真1 農産残さを原料としたペレット 表1 各種ペレットの発熱量・工業分析値


 おわりに


 エネルギー問題は,現在の集約的な農林水産業が多大なエネルギーを必要とすることから,食糧問題に直結します。また,経済成長が電気・ガス・液体燃料などの高級なエネルギーを必要とするという観点から,経済問題として捉えることもできます。もちろんCO2削減という側面から環境問題にも繋がります。
 石油ピークなどの潜在するエネルギー問題はこの一世紀の間に私たちの生活に大きな影響を与えることとなるでしょう。今,私の前には小さな木質ペレットがあるだけですが,森林バイオマスがその対策として大きな役割を果たすことになると考えます。

参考資料

1) 北海道経済産業局:「2007年度版北海道のエネルギー消費動向」,平成22年3月
2) 経済産業省:「エネルギー白書〈2008年版〉原油価格高騰 今何が起こっているのか?」,2008年9月
3) NEDO:「北海道新エネルギーマップ2009」,2009年7月
4) 北海道水産林務部内部資料:「木質バイオマスの利用の現況」,平成22年
5) NEDO「バイオマス賦存量及び利用可能量の全国市町村別追加推計とマッピングデータの公開」に関する調査報告書,平成19年3月
6) 北海道水産林務部:「平成21年度北海道林業統計」,平成22年12月
7) 北海道農政事務所統計部:「平成20年耕地面積(北海道・支庁別・市町村別)」,平成20年12月25日

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