北海道光珠内林木育種場報告-第2号-

(昭和38年7月 発行)

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林木の遺伝パラメターの新推定法と選抜指数 (PDF,94KB) p.1~18
畠山末吉・酒井寛一
育種の作業でもっとも重要な部分は,いろいろな遺伝子型がまじりあった集団の中から,もっとも優れた系統を作りだすような個体を表現型で選抜することである。この表現型が遺伝子の効果でなく環境効果のみによっているとすれば,その選抜は失敗するだろう。選抜が成功するかどうかを決定するのは個体の表現型そのものではなく,その個体の中に含まれている遺伝子効果の大きさによって決まるにちがいない。したがって,遺伝力,遺伝相関などの遺伝パラメターの推定値が育種技術のうえで必要になってくる。遺伝力は選抜の時期や方法を決めるとか選抜効果を予測するうえに重要であり,遺伝相関はある形質にたいする選抜が,他の形質におよぼす影響を知るとか選抜指数をつくる際に必要である。
わが国では,表現型による優良個体,いわゆる精英樹を選抜し,これらの無性繁殖した子供群で採種園や,採穂園を造成する育種事業計画を組織的に進めてぎたが,この育種方法による改良効果や,林木の育種によって量的な生産が確実に向上するという理論的な根拠にもとづいたものではない。これは,林木の育種においては遺伝パラメターの情報が少ないことが原因である。育種の方法についてもいまおこなっている精英樹選抜による育種を第一にとりあげるべきか,交雑や,突然変異による育種に重点をおくべきかも理論的に判断したものでなかった。
しかし,最近になって,林木においてもWRIGHT・BINGHAM・DORMAN ら(1958)は地域集団間の遺伝変異の重要さを力説し,戸田(1957,1959,1961)は,Cryptomeria Japonica D.DON の主要形質で広義の遺伝力を推定し,タネ繁殖による母樹別の次代検定林を分散分析して相加的遺伝子効果のみの狭義の遺伝力を推定した。
更にPinus monticolaLAMB.のBlister rust の抵抗性に関する遺伝パラメターと選抜効果についてBINGHAM・SQUILLACE・WRIGHT ら(1960)の研究がある。これは家系群を分散分析し広義と狭義の抵抗性についての遺伝力を推定したもので,これらの結果からBlister rust の抵抗性育種における選抜効果などにふれている。CALLAHAM・HASEL ら(1961)は,Pinus ponderosa LAWS.の15年生と2年生における遺伝力や成長とタネの大きさ,発芽率,タネと海抜高の影響を知るために家系群の分散分析をおこない,苗畑において苗木を選抜する方法を示唆した。ZOBEL(1961)は,Pine の遺伝力を推定し,CAMPBELL(1961)はPseudotsuga menziesiiでクローネの形態を構成している諸要素のRepeatability(反覆力)の研究を報告している。
一般的な意味で林木という概念とは少し異なるがLIYANAGE・SAKAI(1960),SAKAI(1960 a,b)は,ココヤシの家系群を分散分析と共分散分析して,重要形質の遺伝力と遺伝相関を推定し,この遺伝パラメターをつかって選抜指数などを報告した。
しかし,これらの諸研究における遺伝パラメターの推定方法は,つぎの2方法を原則としている。
1. 遺伝分散を含まないクローン集団の表現型分散をしらべて環境分散の推定値とし,遺伝変異を含むミショウ集団の表現型分散と,さきに推定した環境分散の推定値との差を遺伝分散の推定値とする。
2. 集団内の全個体が完全に無作為交配すると仮定し,その集団から無作為に母樹を選び,それらの家系群を分散分析して家系間と家系内の分散を計算し,この分散の期待成分としての遺伝分散と環境分散を推定する。
これらの方法を実際に応用する場合には,つぎの条件を考慮しなければならない。まず第1の方法を考えると,目的の樹種がサシキなどの無性繁殖がむづかしいとすればこの方法を採用できない。また無性繁殖できる樹種でも,ミショウ集団とサシキクローンの集団が地域的にはなれている場合はもちろん,同一地域内でもこの2つの集団の単純な比較だけでは環境変異のちがいをとり除くことはできない。さらに樹令がちがう場合などは対象外である。
第2の方法では,研究の対象になる林分を探しだすのが容易でない。仮に,似たような母樹別の後代家系群でも,もとの集団から母樹が無作為にとられていないとか,わずかに数個体の母樹が作為的にとられているものが多い。したがって遺伝パラメターを推定しようとすれば,今から新たに研究の対象となる条件を備えた次代検定林の造成をまつより方法がない。
このことが,育種技術を進歩させるうえに必要な遺伝パラメターの研究を広くおこなわせなかった原因になっているとおもわれる。ところが,1938年SMITHが苗畑土壌の肥沃度の試験で,プロット間の平均分散がプロットの大きさにともなって理論的に期待される値よりも減少することから1つの実験的法則を報告した。この研究を基盤にして,SHRIKHANDE(1957)はココヤシのミショウ集団の表現型分散を,遺伝分散と環境分散に分割して推定する研究を報告した。
私たちは,このSHRIKHANDE の方法を応用して,林木の各部分形質の遺伝力を推定することを考えた。すなわちSHRIKHANDEの遺伝パラメター新推定法を実験的に証明すること,およびこの考え方を拡張し共分散推定に適用でかるたどうかを検討し,さらにトドマツのミショウ集団で遺伝パラメターを推定し,この遺伝パラメターをもちいて,林木の各部分形質をもとにして,理想的な遺伝子型の個体を選抜する基準である選抜指数を採用したときの選抜効果を求めた。
この報告をまとめるにあたって,有益な助言を提供していただいたIndian Council of Agricultural Research のV. G. PANSE 博士に心から感謝を捧げる。博士の情報がいただけなかったとすれば,私たちはさらに長い時間この問題を解決できなかったであろう。またとりまとめの期間中,いろいろご便宜をいただいた国立遺伝学研究所の諸氏,測定に多大のご協力をいただいた北海造林務部造林課,中島庄一,中田和雄,北海道光珠内林木育種場川口優,安達芳克,石上勝正,近久明男の各氏に厚くお礼を申し上げる。

トドマツ実生集団における遺伝変動 (PDF,80KB) p.19~23
久保田泰則・畠山末吉
表現型で優れた個体を選抜し,採種園や採穂園を造成して,次代の遺伝的進歩を期待するいわゆる精英樹選抜による育種事業が始められてからすでに数年を経過した。
しかしこの育種方法による品種改良の事業が進められた根拠は,簡単にいえば天然林,人工林を問わず林木の個体間にはいろいろな形質に優劣があり,この中からとくに優れた個体を選びだせば,遺伝的に優れたものもかなりふくまれるだろうという推量だけである。
このように理論的にも実験的にも証明がないまま事業が進められているが,育種家である私たちは,遺伝Parameterの推定値にもとづいた育種方法を確立し,その改良効果をあきらかにすることを考えなければならない。
本論文ではトドマツ精英樹の選抜林分の自然交配による家系群のうち,同一集団から数個体選抜されている家系群を対象に,各家系の苗長と根元径の両形質について分散分析し遺伝分散と環境分散を推定した。
また部分形質問の遺伝相関を求めトドマツにおけるある形質の選抜が他の形質に与える遺伝的な変化を調べ,さらに稚樹の形質の親と成木の形質発現との関係について検討した。

泥炭地における改良ポプラの植栽成績 (PDF,469KB) p.24~28
森田健次郎・河野 博
この試験は釧路市昭和地区の耕地防風林の造成に供する樹種試験の1つとして,改良ポプラを採用し泥炭地帯における適応性を検討する目的で始めたものである。
泥炭地帯におけるポプラの造成は,フランス,イタリーなどで古くから行なわれており,Po-Valley または,Parana-delta では強酸性の厚い泥炭層の深層を変化させることなく,すぐれた結果が達成され,薄い泥炭層の場合には下層の土壌と混合することにより,あるいは厚い層の場合には腐植を促進するなどして植栽するのがもっともよい方法として報告されている。またアイルランドからも泥炭地のポプラ栽培試験が報告されている。
北海道における泥炭地帯の防風林として造成された∃ーロッパトウヒ,ヤチダモ,ケヤマハンノキ,カラマツ,ポプラ林については原田(1953)らの調査報告がある。また北海道林務部治山課によるポプラ類,カンバ類,トウヒ類の造成成績の報告もあるが,何れも良好な成績は示していない。
本試験は1959年に光珠内林木育種場で育成した改良ポプラの1/1 年生苗の中から,釧路地方においてある程度期待がもたれ,しかも泥炭地帯に植えられた例をもつ6品種を選び,1960年に設定,植栽後3年間の成績をとりまとめたものである。

優良クリ個体の選抜について (PDF,667KB) p.29~48
中内武五朗
北海道のクリ栽培は明治の初期からおこなわれている。地域的には道南と道央に多いが北見,釧路,天塩にもみられる。この道南から道央にあるクリの中から優良個体を選抜して育種用交雑母材料とし,また栽培に適した地方品種として増殖する目的で,1958~1962年にわたり調査した30固体についてここに報告する。

カラマツ先枯病に対するカラマツクローンの耐病性差異 (PDF,260KB) p.49~53
小口健夫
北海道をはじめ東北6県ではカラマツ先枯病のため苗畑,造林地での被害が年々増加の一途をたどっている。北海道の被害面積は1962年6月30日現在の調査によると約63200haとなっている。一方北海道のカラマツ造林地面積は約320000haといわれているから,被害面積は実に造林面積のおよそ20%に達している。
このカラマツ先枯病を防除するために生態防除試験,薬剤防除試験が各地でおこなわれている。また他方では抵抗性品種の育成による防除法の研究がおこなわれつつある。すなわち1958年に横沢・村井,1960年に柳沢・斎藤がともにヨーロッパカラマツ,ニホンカラマツとこの両種の雑種カラマツについての耐病性を調査し,両者ともヨーロッパカラマツはニホンカラマツより耐病性が低いことを報告した。また1962年に佐藤らはニホンカラマツ,オオシュウカラマツ,アメリカカラマツ,チョウセンカラマツ,グイマツ,およびオオシュウカラマツとニホンカラマツ,ニホンカラマツとグイマツの雑種について耐病性を調べ,オオシュウカラマツ,アメリカカラマツが罹病性で,グイマツ,チョウセンカラマツは耐病性であることを報告している。
著者はニホンカラマツの個体的な耐病性を比較するため,カラマツ先枯病の激害地で2年間にわたり調査を続けた結果,クローンによる罹病の差がみとめられたのでここに報告する。
この調査にあたり種々便誼をいただいた滝川林務暑飯田進造林課長をはじめ課員の方々に厚く謝意を表する。

針葉樹を加害する小蛾類の天敵 (PDF,610KB) p.54~67
桃井節也・上条一昭
針葉樹を加害する小蛾類は,食葉性のもの以外に新梢,球果,幹を加害する種類を多く含み,造林上また育種上,注目すべき害虫群を形成している。これら害虫については,大阪府立大学昆虫学教室を中心として調査が行なわれ,防除の基礎資料としての種名,生活史,被害状態が明らかにされてきた。防除の方法としては,新梢や球果に喰入する種類は,薬剤による防除がかなり困難であるため,天敵に対する期待は大きいと考えられる。しかし,この面での研究は従来ほとんど行なわれていない。このような立場から,われわれは針葉樹小蛾類の天敵調査を進めているが,ここに一応の資料をまとめて発表したい。
この研究にあたって,資料を提供していただくとともに種々御教示下さった東京大学森林動物学教室西口親雄氏,林業試験場関西支場小林富士雄氏,並びに貴重な標本を提供していただいた方々に厚く御礼申しあげる。なお,コマユバチの同定は北大農学部昆虫学教室渡辺千尚教授,ヤドリバエの同定は高野秀三博士にお願いした。ここに謹んで感謝の意を表する。


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