北海道林業試験場報告-第9号-

(昭和46年9月 発行)

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宗谷地方における防災林造成法の研究 (PDF,13.1MB) p.1~32
斎藤新一郎・伊藤重右ヱ門
北海道の最北部に位置する宗谷地方(宗谷支庁管内)は日本海とオホーツク海にはさまれ,留萌支庁管内の北部とあわせて「天北地方」とよばれていて,おもに気象条件の厳しさから,造林困難地域の1つに数えられており,わが国における「北限造林地」とまでいわれている。現在この地方の海岸平野にも,海岸線に近い丘陵にも,天然林がほとんど見られないし,人工林はなおさら少ない。
しかしわずか数10年間の無計画な伐採と,なび重なる山火事とによる消滅以前には,そこにも広く森林が存在していたのであって (松井・篠原 1960,宗谷支庁林務課 1969),決して前からのササ山ではない。そのことはいまも残る腐朽した根株群から容易に想像される。生産を直接目的とする「経済林」としての造林の不成績はおもに気象害に,次いで貧弱な土壌条件に帰せられている。それで宗谷地方においては,経済林の造成より先に,微気候を緩和するための「防災林帯」(Shelterbelt)の造成が急がれている。林帯は農地,経済林,交通機関,生活空間を保護するものとして,天然林の不足を防災林造成事業によって補われつつある。こうした「保護のための林帯」の考え方に加えて,近ごろ「保健休養林」的な要望が出てきた。
これまでのところ残念ながら,宗谷地方の人為に由来する無立木地-森林のない場所(Open land)の意味であり,しばしば誤解される植生を欠く裸地(Naked ground)のことではない-において,林帯の造成事業は,材料(樹種の吟味,苗木養成,それらの質と量の確保など)の不足,方法(地拵え法,植栽法,施工適期の判定,保育管理の徹底など)の不十分さ,生物工法における基礎的な諸条件(林帯の位麓,幅員,地形,保護対象など)の検討の弱さ,経済・社会的諸条件による制約,および数多くの生育阻害条件に帰因されて,10数年たちながら,まだ成功に至っていない。換言すれば,いわゆる先進地の既製の施工法とされていた異郷土産のマツ属(Exotic pines)の導入と,東北地方日本海岸に代表される飛砂地タイプの植栽法とによるこれまでの生物工法は,土質条件の違い,積雪の沈降庄・生物害・気象害・草本との生存競争などの生育阻害条件,および維持管理(生育阻害条件の除去)の不徹底により,成功の望みがほとんどなかったとさえいえよう。
林帯の造成技術には経済・社会的なもの(行政)と自然科学的なもの(理論)との2面があり,本来,両者が調和させられなければならないのであるけれども,これまで現実には前者の比重が極めて大きく,理論上から無理な造成事業さえ実行されたこともある。それゆえこの研究では後者が検討され,理論の行政への働きかけが試みられた。筆者らは森林学における科学方法論の欠如を指摘しながら,方法論をもった長期的な生物工法の施工技術の確立を計ってゆきたい。これまで林帯造成について,具体から抽象へという思考方法が支配的であり,被害の考え方から,気象因子(Climatic factors)が第1,生物的因子(Biotic factors)が第2,土性的因子(Edaphic factors)が第3とされてきた。しかし筆者らは抽象から具体へという思考方法(井尻1966)から,地文的因子(Physiographic factors)を第1,生物的因子を第2,気象的因子を第3としている。この研究の特色は野外科学的な手法(観察と実験のくり返し)にあるといえよう。つまり屋敷林,既成の防災林の観察から証明済みの材料と方法を見出し,天然林の観察から郷土樹種(Indigenous trees),森林の成立条件(侵入条件と生育条件),地表変動(Topographic changes)の1因子としての降灰(Ash fall)などを検討し,林帯の造成実験をすすめてゆくのである。
天北地方では上述のように,一般造林と防災林帯の造成とが極めて困難と考えられていて,その解決を目標にした研究が筆者らの防災林科ですすめられてきた(伊藤・今 1970)。しかし,天北地方とよばれていても,宗谷地方と留萌地方は地文的に著しく違い(とくに,利尻火山からの降灰の有無),天然林の構成も違っているから,この研究では宗谷地方だけを対象とした。この研究が宗谷地方の林帯造成と経済林造成の問題解明と,長期間にわたる総合的な技術体系の確立とに貢献するならば,それは筆者らに幸いである。
この研究は北海道全体の防災林造成事業のための基礎資料の1つであり,支庁単位でまとめられた筆者らの最初のものである。この種の研究は筆者らにより,一連のものとして継続されてゆくはずである。それらは天然生海岸林の構成と成立条件の調査,および防災林造成事業という実験結果の調査から考察されよう。
なお,この研究には林野庁からの補助課題研究費の一部が使用された。

山腹植生工における木本導入試験 (PDF,734KB) p.33~38
伊藤重右ヱ門・斎藤新一郎
山腹工ないし緑化工といった場合,前者は基礎工に重点をおき,後者は草本による崩壊裸地の被覆が重点的に考えられて現地では施工されてきた。筆者らは,その経験からも,基礎工は土層の移動を防止する役目を負うために必要な作業であり,これまでの緑化工が草本のみの導入に偏っていた実態から脱して,草本はもちろん,積極的に木本を導入する必要のあることを確認した。そこで,治山造林にかかわる山職工を山腹植生工とよび,木本導入方法の研究をつづけてきている。
早期に崩壊裸地を緑化させようという目的のために,山腹植生工は草本の導入に力が注がれてきている。北海道においても,草本緑化に関する技術は,植生盤の出現いらい各種新工法の発展と応用により,かなり現地に定着したように思える。草本による緑化は,単に裸地を面的に被覆することによって侵食ないし土砂流出防止をはかるだけでなく,導入した草生地に木本の自然侵入を期待して,草と木による厚い層位の侵食防止をねらっていたと考えられる。自然侵入にまつとしても,崩壊地の周囲にある母樹の種類や分布状態に関わりあってくるし,母樹から種子が飛散し落下したとき,その種子が苗木として生活するのに必要な空間についても明らかにされなければならない。しかし,われわれが見る現地の多くでは,時間の経過と共に草生の退化が目立ち,少数例ながら草本と同時に導入を試みた木本の発芽生育は不良であり,ときどき表層剥離崩壊(Sheet erosion)を発生している跡地さえ見うけられるそのため積極的に木本導入を行なって,草本と木本の立体的な植被効果と根系の緊ぱく効果の相互作用により,厚層侵食に対して安全な斜面を提供して,治山効果を高めることが要求される。
ここでは,人為的に木本導入をはかる方法について報告する。種子を播きつけるとして,発芽特性の吟味や生育をつづけるための 草本との競争の問題についても理解されなければならないし,苗木として植栽されるにしても,崩落や土砂の移動に対して安全であるかどうか,施工体制からくる植栽時期の遅れに対して有利であるかどうかなど,植生工材料としての基本的な要因の解決が必要であり,それらへの対策が充分でなかったため成功するに至らなかった事例が多い。以上のような見地から,木本導入材料を吟味,開発することに主眼をおいて,2,3の木本導入試験が行なわれた。
なおこの論文の一部は,第10回治山研究発表会(伊藤・斎藤 1970),および第82回日本林学会(伊藤・斎藤 1971)で発表された。

十勝川河口ふきんの火山灰層と耕うん地拵えについて (PDF,812KB) p.39~50
斎藤新一郎
十勝川河口ふきんの海岸砂地と泥炭湿地において,十勝支庁により1950年から,防災林の造成事業が進められてきた。ところが近ごろ,大津港の建設に伴う林帯の消失,湿地ヤチダモ林の枯損,外未樹種の将来性への不安など,林帯造成の上から,緊急の問題が多くなってきており,これらの解決策が必要とされている。
それゆえ筆者は植栽木の生育状態,環境条件の再検討,火山灰層の存在意義,耕うん地拵えの必要性,今後の植栽法などについての資料を得るため,1970年1月11~13日に野外調査をおこなった。植栽成績と今後の植栽法については,大津海岸林に限られるけれども,新井・伊藤・斎藤(1971)の報告があるから,この論文ではとくに火山灰層が泥炭地と砂地において果たす役割を注目し,それを人工林の造成に置き換えた耕うん地拵え法を中心に検討した。なお1968年9月6日に私筆者はこの地区で植栽成績と土質の観察をした。調査地は中川郡豊頃町大津と十勝郡浦幌町新吉野,豊北,豊北浜との4個所である。
調査地ふきんの地質は棚井・山口(1965)によると沖積層であり,それは十勝川,浦幌川および下頃辺川の流路に沿って分布し,砂礫および粘土からなる。この低湿地には,沖積層をおおって泥炭層が広く発達する。海岸線に沿っては20~100mの幅をもつ砂浜が発達する。なお泥炭地における火山灰層の存在は伊坂(1968)により。また海岸砂丘における火山灰層の存在は東(1968)によって指摘されている。

林木の寒さの害に関する研究(1)
斜面方位別樹体温度と土壌凍結深度の季節変化
(PDF,489KB)
p.51~58
森田健次郎・水井憲雄
林木の寒さの害は凍害と寒風害とに大きく分けられる。凍害は植物が凍結されて耐え得る温度以下に冷やされておこる害であり,寒風害は,土壌か,幹の一部が長い間凍っていて上方への水の上昇がおさえられた状態で乾燥した風にさらされて起る冬季の乾燥害であるといわれている(酒井 1967)。このような寒さの害による林地の被害実態調査から,生井(1963)は多雪地帯の寒風被害は南斜面の風衝地形にあらわれることが多く,寡雪地帯の被害の方位は一定していないことを報告している。筆者(森田 1967)調査では,美幌地帯では南斜面のトドマツに被害が多く発生しており,厚岸では斜面のちがいによる被害のの差はみられなかった。
さらにポプラやキリ・ハンノキなどは,1本の個体で雪の少ない道東地区では,地上約10cmから1mの間の幹の南側か南西側が害をうけ,雪の多い地帯では積雪面上約10cmから1mの間の幹の南側か,南西側が害をうける(酒井ら 1968)。
このように林地の斜面方位や1本の幹でも害をうける方位が一定方向に限られる樹種のあることから,林木が寒さの害をうける時期と,その時期の環境条件をあきらかにするため,斜面方位別に造林木の樹体温度と,その場所の土壌凍結深度の季節変化を調べた。
この報告にあたり,試験地の設定や調査に御協力を陽わった道有林第2課杉本育林係長,浦幌林務署山下造林課長ほか署員各位に謝意を表る。

林木の寒さの害に関する研究(2)
林木の冬期間における乾燥抵抗性
(PDF,375KB)
p.59~67
森田健次郎・水井憲雄
北海道の造林主要樹種であるトドマツ,カラマツの苗畑や造林地に発生する寒さの害による被害として顕著なものは,春の開葉期前後の晩霜害と,秋の生長停止期前後の早霜害である。これらの霜害については被害面積が大きく被害の時期が明確であるため,霜害防除技術などについては多くの試験研究の成果がみられる(石川 1955,今田ら 1959)。しかし,近年になってたしかめられてきたトドマツ,カラマツの造林木の根際や幹の凍害(酒井ら 1967,酒井 1968)についてもさることながら,土壌凍結地帯で多く発生する林木の凍結乾燥の害,いわゆる寒風害については最近になって調査研究がすすめられるようになったばかりである。
寒風の被害は,寒乾害または寒枯れともいわれ被害の発生は厳寒期に,土壌凍結や主幹の凍結のために根からの水の供給がわるい状態で,葉,幹,枝の水をうばわれやすい組織が限界をこえて脱水されておこる乾燥害であるといわれている(酒井ら 1963,酒井 1966)。1966年冬から1967年春にかけて道東地帯の苗畑や造林地で,トドマツ,アカエゾマツは60年以来という大被害をうけた。このときの道有林厚岸林務署の苗畑におけるトドマツの苗木の被害調査を行なったところ,原産地である厚岸産の種子による苗木は被害が少なく,北見地方からの移入種子による苗木は被害が大きく,種子の産地のちがいにより被害の程度に差が認められた(森田 1967)。同年に久保田(1968)は,同地におけるトドマツ次代検定林の被害調査を行なって,その被害度が母樹産地によって北海道西部産のものが被害が大きく,東部産のものの被害が軽微で,種子産地のちがいによる寒さの害に対する遺伝的な抵抗性の差を報告している。さらに筆者は,同年浦幌林務署のトドマツ人工林の同一斜面で,樹齢のちがいによって被害のあらわれかたに差があることを調べた(森田 1967)。このとき霜害には抵抗性を示すアカエゾマツの被害がトドマツより大きく,樹種間にも被害の差がみられた。
以上のことから,寒風害に対する抵抗性の高いものは,乾燥に対して組織の耐え得る致死限界そのものに差があるのか,致死限界に達する期間の長短に差があるのか,これらのことから寒風害が発生する原因とその防除法を究明できるものと考え,産地別のトドマツ苗木と樹齢別のトドマツ,アカエゾマツ苗木を用いて,12月初旬と1月初旬に凍結乾燥による脱水過程をしらべた結果をとりまとめ報告する。

カラマツ人工林における雪害の実態 (PDF,2.44MB) p.68~73
水井憲雄・森田健次郎
東北,北陸の積雪地帯,とくに豪雪にみまわれる地域は毎年スギ造林木に幹曲り,倒れ,根元割れ,根元折れなど致命的な雪害をうけ,これらに対する研究報告も数多くみられる(山谷ら 1967,三宅 1968)。北海道では主要樹種が耐雪性の高いエゾマツ,トドマツであったためか雪害に関する調査,研究は少なく,カラマツでは以前に防雪林についての報告がある(金野 1940)。拡大造林の進展にともなってカラマツ造林は未開発の奥地にまで,非常に広範囲にわたって植栽されるようになった。とくに道東地方はカラマツ造林面積が大きくしかも良好な生育を続け間伐の時期に達している林分も数多い。これらの造林地の一部は毎年多少なりとも雪害をうけているが改植するほどの致命的なものは少なかった。
しかし1970年1月から3月にかけての数度にわたる強風をともなう大雪は道東地方全滅のカラマツ人工林に対して大被害を及ぼし,幹の折れるもの,倒れるもの,幹曲がりを生ずるものなど被害形態はさまざまで局所的には改植を要する激害を与えた。
著者らはこの実態について同年4月道有林津別径営区内において調査を行なったので報告する。この調査にご協力いただいた北見林務署造林課の方々に厚くお礼中し上げる。

ある地域における森林評価のための二,三のサンプリング方式
-とくに林分の境界推定のためのサンプリング方式-
(PDF,448KB)
p.75~83
林知己夫・小林正吾


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