北海道林業試験場研究報告-第44号-

(平成19年3月 発行)

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森林植物の開花結実特性の解明とその保全管理に関する研究 (PDF,14.4MB) p.1~44
八坂通泰
森林植物の多様性を保全するためには,各種の繁殖特性の解明は重要である。開花結実,種子分散などの植物の繁殖ステージは,植物個体群を増殖させるステージであるだけでなく,花や種子は,昆虫,鳥,動物の重要な食物源となっている。さらに,樹木の種子生産の年変動についての情報は,多様な森林の再生を植栽や天然更新により図る場合においても欠かせない。そこで本研究は,森林植物の開花結実特性,特に種子生産における時空間的変動パターンや花粉媒介昆虫の重要性などについて解明し,林冠構成種の多様性の再生や森林植物の多様性の維持など森林植物の保全管理に貢献することを目的とした。
種子生産の変動パターンの生物学的な理解や,種子採取・天然更新作業の効率的な実施のためには,種子生産の個体レベルでの分析が必要である。北海道に生育する落葉広葉樹11種を対象に個体単位で結実調査を行い,種子生産の年度間および個体間の変動パターンについて解明した。
花や種子の年変動パターンが,長期の間隔をおいて個体間で同調する場合をマスティングといい,その適応的な有利性を説明する仮説の1つが捕食者飽食仮説である。マスティングを示す代表種であるブナについて,開花雌花数の年変動を変動係数で評価するとともに,捕食者飽食が生じる開花パターンについて検討した。さらに,捕食者飽食戦略を応用したブナ林再生のための結実予測技術を開発した。
虫媒植物と花粉媒介昆虫との相互作用は,生育環境の破壊や分断化,農薬など化学物質による汚染,外来種の侵入などにより危機的な状態にある。北海道に自生する樹木16種,草本16種について,花粉媒介昆虫の不足が起きたときの種子生産低下の可能性を明らかにするため,花粉媒介昆虫を排除する袋掛け実験を行い,各種がどの程度その種子生産を花粉媒介昆虫に依存しているかについて明らかにした。
生息地の分断化は,森林生物の生息を脅かすだけでなく,様々な生物間相互作用を崩壊させる恐れがある。花粉媒介昆虫の減少をもたらす要因として森林の分断化に焦点を当て,住宅地や農地によって分断化された森林で,花粉媒介昆虫への依存度が高い林床植物3種の結実率を調べ,種子生産に及ぼす生息地の分断化の影響を評価した。

資源配分からみたシラカンバの開花戦略 (PDF,20.3MB) p.45~96
真坂一彦
花の命は短く,その姿ははかない。しかし,花は種にとって非常に重要な役割を担っている。すなわち,後代に子孫を残すことである。多くの植物にとって花は微小な器官でしかないが,花を咲かせて果実を実らせるために,植物は少なからぬ資源を投資しなくてはならない。野生の植物は,人が適宜肥料を与えて適度に密度を調節してもらえる栽培植物と異なり,熾烈な個体間競争をくぐり抜けながら稼いだ資源を無駄に浪費する余裕はない。そのため,最低限の投資によって,より多くの子孫を残せるような方法で開花(着花)することが,他個体より優位な位置に立つ性質であると考えられる。生態学においては,より多くの子孫を残すための性質を「戦略」と定義し,そのような遺伝的性質をもった型の個体が次世代に残す子孫の平均数を「適応度」と定義している(Pianka,1978; 酒井 他, 1999; 矢原, 1995)。

1985年から2005年の野ネズミ発生予察調査資料に基づく
エゾヤチネズミ発生予想式
(PDF,4.30MB)
p.97~108
明石信廣・南野一博・中田圭亮
1985~2005年の一般民有林及び道有林における野ネズミ発生予察調査資料に基づき,市町村を単位として各年の10月のエゾヤチネズミ平均捕獲数をクラスター分析し,その結果をもとに,支庁などの行政界や地形を考慮して全道を20地域に区分した。その地域ごとに,10月の調査においてそれぞれのワナにエゾヤチネズミが捕獲される確率を目的変数,その調査地における6月及び8月の捕獲数のそれぞれ3次多項式,6月の捕獲数と8月の捕獲数の交互作用を説明変数とする一般化線形モデルにより,10月のエゾヤチネズミ捕獲数を予想するモデルを作成した。モデルによる1985~2005年の10月の予想捕獲数と実際の捕獲数の相関係数は0.726であった。

多雪地におけるエゾシカの越冬期の食性と生息地選択 (PDF,3.22MB) p.109~118
南野一博・福地 稔・明石信廣
北海道美唄市にある北海道立林業試験場光珠内実験林とその周囲の森林において,2003年12月~2004年3月にラインセンサスを行い,センサスルート沿いでみられたエゾシカの痕跡を記録し,冬期間の生息状況を把握するとともに糞の内容物を分析した。さらに,1月下旬から3月下旬かけて越冬地で発生した樹木の剥皮状況について調査した。エゾシカの痕跡は,12月中旬にはセンサスルートの全域でみられたが,1月下旬~3月中旬まではトドマツ人工林とそれに隣接する広葉樹二次林でのみ確認され,エゾシカはトドマツ人工林を利用して越冬していた。糞分析の結果,12月下旬まではクマイザサを中心としたグラミノイドが大半を占めていたが,積雪が増加するとともに減少した。一方で,積雪が100cmを超えた1月下旬以降はグラミノイドに代わり木本類が大部分を占め,2月~3月は糞内容物の90%以上が木本類で構成されていた。越冬地で発生した樹木の剥皮状況を調査した結果,剥皮木はトドマツ人工林に隣接する広葉樹二次林の約27haでみられ, 3月下旬までの累積剥皮本数は310本に達した。剥皮木の発生数は,1月下旬から急激に増加しており,糞分析において木本類の割合が増加した時期と一致していた。これらのことから,多雪地においてエゾシカは,常緑針葉樹人工林を利用して越冬しており,積雪のためササ類を餌として利用できない期間が寡雪地よりも長くなることや,行動を阻害されることにより樹木の剥皮が越冬地で集中的に発生することが示唆された。

グイマツクローンの着果量に対する光条件と環状剥皮の影響 (PDF,2.84MB) p.119~128
内山和子・黒丸 亮・来田和人
北海道にあるグイマツ雑種F1採種園(30年生)に植栽されている8クローンを対象に,自然着果木と環状剥皮処理木の着果量と光条件の関係を豊作年に調べた結果,自然着果ではクローンによって光条件がよいほど着果量が増加するものと,光条件にかかわらず着果量が少ないものがあった。環状剥皮処理木では,一部のクローンを除き,光条件にかかわらず球果数が増加し,結実促進効果があった。採種園における光条件として,相対光量子束密度50%を維持するような密度管理が必要と考えられる。また,採種効率上,本採種園での現在の最適密度は225本/haとなった。

カラマツヤツバキクイムシ防除のための集合フェロモンの利用について (PDF,3.43MB) p.129~138
原 秀穂・三好秀樹・徳田佐和子・石濱宣夫
カラマツヤツバキクイムシ Ips cembrae(鞘翅目Coleoptera,キクイムシ科Scolytidae) はカラマツ属の穿孔性害虫であり,しばしば風雪害跡地や食葉性害虫の大発生地などで衰弱した林木を加害枯死させる(小泉1994)。北海道では2002年,食葉性害虫発生後に大規模な被害が観察されている(上田ほか2004)。また,2002,2004年に道内各地の森林で台風による大規模な風倒被害が発生したため,カラマツヤツバキクイムシおよび類似のヤツバキクイムシIps typographusによる森林被害が懸念されている(上田ほか2005,上田2006)。
ヤツバキクイムシ類(Ips属)は雄が木の幹に穿孔する際に雌雄を誘引する集合フェロモンを分泌することが知られている。ヨーロッパではトウヒ属を加害するヤツバキクイムシの捕殺防除に集合フェロモンが広く利用されている(Turcani and Novotny 1998,ノボトニー・尾崎1999)。カラマツヤツバキクイムシの集合フェロモンはStoakley et al.(1978) により明らかにされているが,防除への利用は試験も含めほとんど例がなく,北川・鈴木(1988)の誘引範囲に関する報告があるにすぎない。
ここでは,カラマツヤツバキクイムシ防除における集合フェロモンの実用化に向けて進めてきた試験研究のうち,1.フェロモンの成分比率,2.フェロモンの有効期間,3.フェロモン・トラップの設置場所に関する結果を報告する。

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