1.課題の分類
2.場所名  北海道立北見農業試験場
3.新品種候補系統名  小麦「北見春53号」

4.来歴
 小麦北見春53号は、昭和55年度に北見農業試験場小麦育種指定試験地において多収の北見春31号と良質の北見春30号のF1を母とし、強稈の北見春34号を父として人工交配をし、以降選抜、固定を図ってきた系統である。昭和61年度に北系春575として地域適応性検定試験に供試し、さらに平成1年に北見春53号の地方名を付して、生産力検定試験および関係農試の奨励品種決定基本調査等に供試した。
 平成4年度の世代は雑種第14代(F14)である。

5.特性
【1…形態的特性】
 葉色はやや濃く、葉身の下垂度は小さく、株は閉じている。ハルユタカと異なり鞘葉の色を葉鞘、稈のワックスおよび毛はない。稈長はやや短、穂長は中でハルユタカと同程度である。稈の細大は中でハルユタカよりやや細いが、稈の剛柔は同程度のやや剛に属する。穂型は紡錘状で、粒着はやや密である。芒は多く、長い。ふ色は黄、ふ毛は無く、葯の色はハルユタカと異なリ紫である。
 粒の形は中で、ハルユタカと同じランクであるが、粒大は大で大きい。粒色は赤褐である。頂毛部の大きさは同程度の中である。千粒重、リットル重はハルユタカよリ大きく、それぞれ大に属する。原麦粒のみかけの品質はハルユタカよリ良く、上の中である。
【2…生態的特性】
 播性はⅠで春播種である。出穂期はハルユタカと同程度であるが、成熟期はやや晩く、やや晩に属する。粒の黒目の発生は少なく、極少である。穂発芽性は難で、ハルユタカより明らかに耐穂発芽性は強い。強稈性は強く、耐倒伏性はハルユタカと同程度に強い。収量性はハルユタカよりやや少なく、やや多である。赤かび病抵抗性は中でハルユタカのや弱より優る。うどんこ病抵抗性はやや強でハルユタカよりやや劣る。赤さび病抵抗性は同程度の強である。
【3…品質的特性】
 粒の硬軟はハルユタカより硬く、粒質は硝子質で、蛋白含有率はハルユタカよりやや低い、やや多である。製粉歩留はハルユタカよりやや低く、中のランクであるが、ミリングスコアは同程度に高く、製粉適性はハルユタカとほぼ同程度に良好である。
 ファリノグラムの吸水率はハルユタカより多い。バロリメーターバリューは高い。エキステンソグラムの生地の力の程度は大で、伸長度、形状係数はともに中であり、伸長抵抗はハルユタカよリ強く、生地試験の結果はグルテンの質がハルユタカよリ良好である。また、アミログラムの最高粘度はハルユタカよリ大きく、やや大である。
 製品(パン)テストによる製パン適性は、ハルユタカより優れる。

6.試験成績
1)育成地およぴ普及見込み地帯における生育収量調査
実施場所 系統名
または
品種名
出穂期
(月.日)
成熟期
(月.日)
稈長
(㎝)
穂長
(㎝)
穂数
(本/㎡)
倒伏 子実重
(kg/a)

標準比
(%)
千粒重
(g)
L重
(g)
外観
品質
育成地 北見春53号 6.30 8.16 90 8.1 576 44.9 96 38.0 779 上下
ハルユタカ 30 14 86 8.3 626 47.0 100 36.3 748 中上
ハルヒカリ 30 12 106 8.8 590 36.4 77 36.2 768 中上
道立中央農試 北見春53号 6.26 8.10 81 8.0 488 33.3 103 40.4 784 中上
ハルユタカ 26 6 81 8.2 506 32.2 100 38.7 763 中上
ハルヒカリ 26 6 103 8.2 478 27.1 84 38.1 778 中上
道立上川農試 北見春53号 6.27 8.4 86 7.3 434 42.3 102 38.6 794 上上
ハルユタカ 27 3 83 7.4 417 41.6 100 37.3 777 上下
ハルヒカリ 27 1 107 7.6 409 33.3 80 37.5 786 上上
注)育成地、道立中央農試は平成1〜4年の4カ年の平均値。
  道立上川農試は平成1,2,4年の3カ年の平均値。

2)特性検定試験
系統名
または
品種名
うどんこ病 赤さび病 赤かび病 穂発芽性 強稈性
北見春53号 やや強
ハルユタカ やや弱
ハルヒカリ やや強 やや強 やや難 やや弱

3)品質検定試験
系統名
または
品種名
原粒 製粉性 60%粉 ファリノグラム アミログラム
灰分
(%)
蛋白
(%)
歩留
(%)
ミリング
スコアー
灰分
(%)
蛋白
(%)
沈降価
(ml)
湿麩
(%)
カラー
バリュー
Ab
(%)
VV MV
(BU)
北見春53号 1.61 13.2 71.3 80.8 0.51 12.3 63 35.3 2.67 61.9 63 471
ハルユタカ 1.69 14.0 73.5 79.5 0.55 13.1 58 41.0 3.95 60.2 53 109
ハルヒカリ 1.68 14.6 70.6 76.1 0.57 13.7 58 38.9 3.32 63.8 51 135
注)育成地のドリル標肥試験産物の分析結果。平成1〜4年の4カ年平均値。
 原粒蛋白は平成3,4年の2カ年平均値。
系統名
または
品種名
エキステンソグラム(135分) 製品(パン)試験
面積
(㎝2)
伸長抵抗
(BU)
伸長度
(㎜)
形状係数 焼色 パン
体積
内相 内相
触感 食感 食味 合計
北見春53号 143 569 188 3.05 3.0 2.7 3.2 3.3 3.7 3.3 3.5 22.7
ハルユタカ 126 522 180 2.91 3.0 3.2 3.3 3.0 3.3 3.0 3.0 21.8
ハルヒカリ 123 616 153 4.13 3.0 2.8 3.0 2.7 3.7 3.0 2.7 20.9
注)北見春53号、ハルユタカが育成地の手播標肥栽培、ハルヒカリが育成地の手播少肥栽培の生産物。
 エキステンソグラムは、平成1〜4年の4カ年平均値。製品(パン)試験は㈱T製粉実施で、
 平成2〜4年の3カ年平均値。各項目5点満点で採点、3点が標準を示す。

7.配布しうる種子量‥1,150㎏

8.採用予定県‥北海道

9.適地および普及見込み面積‥北海道道央中部・北部、道北地域 2,000ha

10.栽培上の注意
(1)ドリル播栽培とし、多肥による増収、高蛋白化の効果は小さいので標準施肥量を遵守する。
(2)晩播では減収のみならず、千粒重の低下も見られるので、融雪後できるだけ早期に播種し、成熟期を
 早め、収量の安定化をはかる。
(3)穂発芽性が難と言えども、刈り遅れによる品質劣化が懸念されるので、製パン適性の低下を防止するた
 め、適期収穫を励行する。
(4)仕向先が限定され、作付面積も小さいので、品質の安定化を図るため、集団的栽培による一元集荷に
 努める。
(5)その他の栽培管理はハルユタカの栽培上の注意に準ずる。