成績概要書 (作成 平成12年1月)
1.課題の分類 2.場所名 北海道立道南農業試験場 3.新品種候補系統名 いちご新品種候補「道南26号」 |
4.来歴
いちご「道南26号」は、果形が良く多収な「きたえくぼ」(平成5年、道南農試育成)を種子親とし、果実が硬く良食味の「とよのか」(昭和58年、農林水産省野菜試験場久留米支場育成)を花粉親として育成された。
平成5年に交配して得られた48実生個体の中から平成6年に「きたえくぼ」並の果実品質で良食味の5交42を選抜した。その後、無加温半促成作型で果実品質、生育特性及び収量性等により、平成7年に系統予備選抜、平成8年に生産力検定予備試験を行った。平成8年の定植から「道南26号」の系統名を付して、道南農試で生産力検定試験、花・野菜技術センター、比布町、女満別町で地域適応性検定試験を実施してきた。
5.特性の概要
長所:食味が良好で、日持ち性に優れる。また、「きたえくぼ」に比べ中心空洞が小さく、先白果の発生は認められない。果実は「宝交早生」より大きく、上物率が高い。
1)生育特性
葉柄長は長く、葉数や葉の大きさは「宝交早生」と「きたえくぼ」の中間である。草勢は「宝交早生」より強いが、「きたえくぼ」よりやや弱い。草姿は中間型である。
2)早晩性
開花始は「宝交早生」より2〜3日遅く、「きたえくぼ」より3日程度早い。また、収穫始は「宝交早生」と同等か2日程度遅いが、「きたえくぼ」より4〜5日程度早い。 開花から収穫に至るまでの日数は「宝交早生」より2〜3日長く、「きたえくぼ」より1〜2日短い。
3)収量性
「きたえくぼ」に比べ果数が少ないため収量性はやや劣るが、上物収量は「宝交早生」並である。上物率は「宝交早生」、「きたえくぼ」より高く、平均1果重も重い。奇形果は「きたえくぼ」よりやや多い傾向にある。
4)果実品質
果形は円錐形で、果実硬度は「きたえくぼ」より硬い。果皮色は鮮赤色で「きたえくぼ」並かやや濃く、光沢は同程度で色むらが小さい。先白果の発生は認められない。 「きたえくぼ」に比べそう果(種子)のアントシアン着色が少ないが、このレベルであ れば道内市場においては問題とならない。果肉色は淡橙であり、中心空洞は「宝交早生」よりやや大きいが、「きたえくぼ」より明らかに小さい。
5)食味
糖度はほぼ「きたえくぼ」並で酸度は「きたえくぼ」よりやや低く、糖酸比は「きたえくぼ」より高い。ビタミンC含量は「宝交早生」より低く、「きたえくぼ」並である。 食味評価としては「宝交早生」より良好で、「きたえくぼ」よりやや良好であった。
6)日持ち性
3〜5℃で5〜7日、室温で2〜3日の日持ち性を有する。「宝交早生」より明らかに優り、「きたえくぼ」とほぼ同等であった。
7)ランナーの生産
ランナーの発生は「宝交早生」並からやや遅い。6月下旬のランナー発生数は「宝交早生」と「きたえくぼ」の中間であり、ランナー生産に問題はない。
8)花芽分化期
花芽の分化始は「宝交早生」よりやや遅いが「きたえくぼ」より早く、9月中旬である。
9)休眠性
休眠覚醒に必要な低温(5℃以下)時間は1000時間程度でやや長く、「きたえくぼ」より短く「宝交早生」より200時間程度長い。
10)耐病性
灰色かび病は「きたえくぼ」よりやや強く、「宝交早生」と同等、うどんこ病は「きたえくぼ」並の強さである。萎ちょう病は「宝交早生」よりやや強く、萎黄病は「宝交早生」より明らかに強い。
11)収穫適期幅
開花から収穫までの成熟日数は「宝交早生」より2日程度長く、「きたえくぼ」より1日程短い。果実の成熟に伴う果皮色の変化は、「宝交早生」より1〜2日早く、「きたえくぼ」より1〜2日遅く始まる。その後の着色の進み方もこれらの中間で、2〜3日の収穫適期幅を有する。
6.試験成績概要
表1 育成地、地域適応性検定試験および現地試験の無加温半促成作型における主要成績
場所 | 品種 系統名 |
開花 始 (月日) |
収穫 始 (月日) |
収穫始の | 収穫 終の 果房数 |
上物 収量 (kg/a) |
同左 比 (%) |
上物 果数 (個/a) |
上物 率 (%) |
上物 1果重 (g) |
糖度 Brix (%) | ||
葉数 | 葉柄長 (cm) |
身長 (cm) | |||||||||||
道南 農試 |
道南26号 | 4.10 | 5.10 | 26.8 | 24.6 | 9.5 | 6.8 | 211 | 159 | 17569 | 57 | 11.9 | 10.6 |
宝交早生 | 4. 8 | 5.10 | 31.0 | 23.7 | 8.4 | 6.0 | 132 | 100 | 11733 | 32 | 10.7 | 10.5 | |
きたえくぼ | 4.13 | 5.14 | 24.0 | 22.9 | 9.9 | 5.8 | 201 | 152 | 17958 | 38 | 10.9 | 10.7 | |
花・ 野菜 センター |
道南26号 | 4.14 | 5.21 | 21.8 | 25.9 | 12.5 | 4.5 | 195 | 131 | 12950 | − | 15.0 | 10.2 |
宝交早生 | 4.11 | 5.19 | 26.4 | 24.5 | 11.2 | 4.5 | 149 | 100 | 11455 | − | 13.0 | 9.6 | |
きたえくぼ | 4.17 | 5.25 | 19.2 | 22.1 | 13.0 | 3.0 | 207 | 139 | 14016 | − | 14.8 | 10.4 | |
比 布 町 |
道南26号 | 4.18 | 5.23 | 17.0 | 27.4 | 11.7 | 5.0 | 278 | 93 | 17543 | 77 | 15.9 | 8.7 |
宝交早生 | 4.15 | 5.22 | 27.9 | 25.6 | 9.8 | 5.8 | 299 | 100 | 20299 | 80 | 14.7 | 8.6 | |
きたえくぼ | 4.19 | 5.28 | 16.9 | 24.9 | 11.8 | 6.4 | 318 | 106 | 21942 | 67 | 14.5 | 8.6 | |
女満 別町 |
道南26号 | 4.30 | 6. 4 | 15.3 | 24.7 | 11.2 | 4.3 | 144 | 96 | 10795 | 62 | 12.8 | 9.7 |
宝交早生 | 4.30 | 6. 4 | 24.6 | 26.0 | 10.5 | 4.4 | 150 | 100 | 11905 | 60 | 12.3 | 9.0 | |
きたえくぼ | 5. 1 | 6. 6 | 16.0 | 23.9 | 11.9 | 4.4 | 189 | 127 | 15429 | 56 | 12.6 | 9.8 | |
旭 川 市 |
道南26号 | 4.21 | 5.20 | 15.0 | 29.2 | 10.3 | 6.4 | 138 | 112 | 7612 | 55 | 18.2 | 9.2 |
宝交早生 | 4.22 | 5.20 | 21.8 | 27.0 | 9.0 | 7.0 | 123 | 100 | 8051 | 37 | 15.3 | 7.5 | |
きたえくぼ | 4.26 | 5.25 | 17.8 | 28.4 | 10.5 | 9.8 | 163 | 133 | 9862 | 31 | 16.5 | 8.5 |
表2 評価(農試)
場所 | 品種 系統名 |
空洞 | 硬さ | 日持ち | 特性 評価 |
道南 農試 |
道南26号 | 3.1 | 4.0 | - | 3.9 |
宝交早生 | 4.2 | 2.0 | - | 3.1 | |
きたえくぼ | 2.0 | 3.6 | - | 3.5 | |
花・ 野菜 センタ- |
道南26号 | 2.3 | 4.1 | 4.0 | 3.9 |
宝交早生 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | |
きたえくぼ | 1.3 | 3.3 | 4.3 | 3.9 |
表3 評価(現地)
場所 | 品種 系統名 |
空洞 | 硬さ | 日持ち | 特性 評価 |
比 布 町 |
道南26号 | 5 | 4 | 3 | 4 |
宝交早生 | 3 | 3 | 3 | 3 | |
きたえくぼ | 2 | 5 | 4 | 3 | |
女満 別町 |
道南26号 | 3.0 | 4.0 | 4.0 | 4.0 |
宝交早生 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | |
きたえくぼ | 2.7 | 4.0 | 4.3 | 3.9 | |
旭 川 市 |
道南26号 | 4 | 4 | 4 | - |
宝交早生 | 3 | 3 | 3 | - | |
きたえくぼ | 3 | 4 | 4 | - |
表4 食味試験(花・野菜技術センター、1999年、29名)
対象品種名 | 外観 | 食味 | 総合 評価 | |||||||
色の濃さ | 光沢 | 形状 | 総合 | 硬さ | 甘味 | 酸味 | 香り | 総合 | ||
道南26号 | 3.2 | 4.2 | 4.5 | 4.6 | 3.8 | 3.3 | 3.0 | 3.0 | 3.9 | 4.2 |
きたえくぼ | 1.9 | 3.9 | 4.4 | 4.3 | 3.2 | 2.6 | 3.6 | 2.8 | 3.2 | 3.5 |
7.普及対象地域および普及見込み面積
普及対象地域 全道一円
普及見込み面積 40ha(宝交早生の栽培面積の約70%)
8.保有種苗
露地増殖用種苗 140株 露地実採り用種苗 450株
冷蔵苗 150株 茎頂培養苗(in vitro) 34株 (1999年12月14日現在)
9.栽培上の注意
1)当面、適応作型は無加温半促成作型とする。
2)果数が少ないため、果房数が確保できない場合は減収となることがあるので、適期定植を行い秋の生育量の確保に努める。