水稲新品種候補系統
   「空育163号」の特性概要
       北海道立中央農業試験場 作物開発部稲作科

1.特性一覧表
系統名 空育163号 交配組合せ:ひとめぼれ/空系90242A//空育150号(あきほ)
特性 長所 短所
1.「ほしのゆめ」並の良食味 1.耐倒伏性が劣る
2.穂ばらみ期耐冷性が強い 2.いもち病抵抗性が不十分
3.収量性がやや高い 3.割籾がやや多い
採用予定県および
普及見込み面積
北海道 10,000ha
調査地 中央農業試験場岩見沢試験地 上川農業試験場
調査年次 平成10〜12年(中、成苗標肥) 平成10〜12年(中苗標肥)
系統・品種名 空育163号 対象 比較 空育163号 対象 比較
きらら397 ほしのゆめ きらら397 ほしのゆめ
出穂期の早晩性 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
成熟期の早晩性 中生の中 中生の中 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
草型 偏穂数 穂数 穂数
出穂期(月日) 8. 2 8. 3 8. 2 7.28 7.27 7.26
成熟期(月日) 9.18 9.20 9.16 9.13 9.13 9.10
登熟日数(日) 47 48 45 47 48 46
稈長(cm) 68 62 66 70 65 67
穂長(cm) 16.4 16.6 15.5 16.7 16.3 15.7
穂数(本/㎡) 563 586 628 704 747 765
一穂籾数 54.8 54.4 46.3 53.4 49.3 45.7
割籾歩合(%) 22.6 10.9 35.9 38.1 29.0 50.2
芒の多少・長短 少短 稀短 少短
ふ先色 黄白 黄白 黄白
脱粒性
耐倒伏性 やや弱 中〜やや強 中〜やや弱
穂ばらみ期耐冷性 やや強
いもち病
抵抗性
遺伝子型 Pia、Pii Pii、Pik Pia、Pii、Pik
葉いもち やや弱 やや弱
穂いもち やや弱 やや弱
玄米重(kg/a) 54.0 52.9 50.9 65.2 61.6 58.7
玄米重標準比(%) 102 100 96 106 100 95
玄米千粒重(g) 22.4 23.5 22.5 21.6 22.6 22.0
玄米等級 2上 1中下 1下 1中下 1中下 1下
玄米品質 上下上 上下上 上下上 上下上 上下上 上下上
食味 上下 中上 上下
蛋白含有率(%) 7.7 7.9 8.1 6.3 6.7 6.6
アミロース含有率(%) 18.8 19.5 19.9 18.2 19.0 19.8
注 1) 空系90242A:空系61060/上育397号(きらら397)、空系61060:国宝ローズ/空育114号(ゆきひかり)//空育99号。
   2) 中央農試、平成10年は成苗、他は中苗。

2.「空育163号」の特記すべき特徴
 「空育163号」は中生の良食味粳系統であり、耐冷性が強くやや多収である。

3.奨励品種に採用しようとする理由
 平成12年の北海道における粳品種の作付けは「きらら397」が73,234haで全体の59%、次いで「ほしのゆめ」の40,190haで33%とこれら両品種で92%を占め、特に「きらら397」の比率が高い。このような「きらら397」の過剰作付けの背景には、現在の奨励品種の中で、「きらら397」の収量および流通上の知名度が高く、作付農家の収益と流通販売にとって大きな利点となっていることがある。
 しかし、「きらら397」は「ほしのゆめ」に比べ食味が劣り、耐冷性が弱いため、特に冷害年において不稔発生による減収とともに品質、食味の低下が懸念される。そのため、北海道米の安定生産と品質、食味の安定化のためには「きらら397」の作付けを適正化する必要がある。
 一方、「ほしのゆめ」はすでに適地における当初の普及予定面積に達しており、現状以上の作付け拡大は品質、食味の不十分な「ほしのゆめ」の生産を招きかねない。以上のことから、「きらら397」に替わる良食味耐冷品種が必要とされている。
「空育163号」は「きらら397」と同じ中生の早の熟期で、耐倒伏性、いもち病抵抗性が「きらら397」に劣るものの、耐冷性が「きらら397」に優り、収量性は「きらら397」並みからやや高く、食味は「ほしのゆめ」並みからわずかに優る。
 「空育163号」を「きらら397」の一部に替えて普及することにより北海道米の食味を向上させ、生産の安定と販路の拡大を図る。

4.普及見込み地帯および対象品種
 1)栽培地帯  上川(中南部)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、胆振、日高、渡島、および檜山各支庁管内
 2)対象品種  「きらら397」の一部

5.普及見込み面積  北海道  10,000ha

図 「空育163号」の普及見込み地帯における「きらら397」との終了比較

6.栽培上の注意
1)耐倒伏性が劣るので「施肥標準」をまもる。
2)いもち病抵抗性が不十分なので発生予察に十分注意し、適期防除に努める。
3)割籾がやや多いので斑点米などの被害粒による品質低下を生じさせないように病害虫防除を適正に行うとともに、適期刈り取りを励行する。
4)初期分げつの発生がやや劣り、生育の遅延した年次には青米の混入による落等が懸念されるので、栽培基準の栽植密度を守り、また、成苗や側条施肥などの初期生育を促進する栽培法を心がける。