新品種候補
新品種候補系統ばれいしょ「北育5号」の概要
北海道立北見農業試験場
北海道立中央農業試験場
1.特性一覧表
系統名 ばれいしょ「北育5号」 組み合わせ ムサマル×島系544号
特性    長所 短所
1)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性である 1)普通掘りのでん粉重が「コナフブキ」より
2)早掘りのでん粉重が「コナフブキ」並である   やや少ない
3)枯凋期が「コナフブキ」より一週間ほど早い  
採用県と普及見込み面積   北海道2,000ha
調査場所 育成地(北見農試) 十勝農試 全試験個所平均
(のべ32箇所)
調査年次 平成10年〜14年 平成11、12、14年 平成9年〜14年
系統・品種名   北育5号  コナフブキ 北育5号  コナフブキ 北育5号  コナフブキ
(対照) (対照) (対照)
収量特性(普通掘り) 早晩性 中生 中晩生 中生 中晩生 中生 中晩生
枯凋期(月日) 9.27 10. 4 9.19 9.22 9.15 9.24
茎長(cm) 77 75 81 78 80 76
上いも数(個/株) 9.6 10.0 10.7 11.1 9.9 10.1
一個重(g) 107 107 85 83 102 104
上いも重(kg/10a) 4,689 4,844 3,991 4,034 4,389 4,561
標準比(%) 97 100 99 100 96 100
でん粉価(%) 22.6 22.6 19.9 20.4 21.2 21.5
でん粉重(kg/10a) 1,011 1,044 753 783 881 930
標準比(%) 97 100 96 100 95 100
収量特性(早掘り) 調査年次 平成13、14年 平成14年 平成13、14年
(のべ箇所数12箇所)
系統・品種名  北育5号  コナフブキ アーリースターチ 北育5号  コナフブキ アーリースターチ 北育5号  コナフブキ
(対照) (比較) (対照) (比較) (対照)
上いも数(個/株) 9.1 8.7 8.7 10.9 10.5 10.7 10.0 10.3
一個重(g) 105 110 101 85 84 87 98 95
上いも重(kg/10a) 4,339 4,387 4,023 4,124 3,869 4,111 4,233 4,281
標準比(%) 99 100 92 107 100 106 99 100
でん粉価(%) 24.3 23.2 20.6 20.7 21.7 19.0 21.7 22.0
でん粉重(kg/10a) 1,009 970 787 789 801 741 870 890
標準比(%) 104 100 81 99 100 93 98 100
  
でん粉品質 調査年次 平成10年〜14年 耐病虫性 系統 北育5号  コナフブキ 塊茎品質 系統 北育5号  コナフブキ
系統・品種名  北育5号  コナフブキ 紅丸 品種名 (対照) 品種名 (対照)
(対照) (比較) シスト 強(H1) 弱(h) 扁球
平均粒径(μm) 41.1 40.4 43.4 疫病 皮色 黄褐 黄褐
リン含量(ppm) 808 832 634 塊茎腐敗 肉色
離水率(%) 26.9 24.1 5.3 Yモザイク病 休眠期間 やや長
最高粘度(BU) 1,728 1,695 1,554 そうか 褐色心腐
最高粘度時温度(℃) 70.2 69.7 71.0 粉状そうか 中心空洞

2. ばれいしょ「北育5号」の特記すべき特徴
 用途はでん粉原料用である。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。また、早掘り収穫のでん粉重がほぼ「コナフブキ」並で、「コナフブキ」よりも枯凋期が一週間ほど早い。でん粉品質は「コナフブキ」並である。

3. 北海道で奨励品種に採用しようとする理由
 北海道のばれいしょ栽培地帯ではジャガイモシストセンチュウの被害が拡大しつつある。特に、でん粉原料用ばれいしょの主産地である斜網地方では、ジャガイモシストセンチュウが蔓延しており、ジャガイモシストセンチュウによる減収は、ばれいしょ栽培意欲減退の一因となっている。
 でん粉原料用の主力品種は「コナフブキ」であるが、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持たない。感受性品種を汚染ほ場で栽培すると収量が低下する上、線虫密度が大幅に増加するため、ジャガイモシストセンチュウ発生地帯では抵抗性品種が求められてきた。昭和61年の「トヨアカリ」以降、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用品種として4品種が育成されてきたが、草姿がウイルス感染症状に似ており種いも栽培での抜き取りが難しい(「トヨアカリ」)、でん粉品質が「コナフブキ」よりも劣っている(「サクラフブキ」)、枯凋期及び塊茎の肥大が「コナフブキ」より遅く9月初めからの早掘り収穫に向かない(「アスタルテ」、「サクラフブキ」)等の理由により広く普及するに至っていない。また、早掘り用として育成された「アーリースターチ」も、早掘りでのでん粉重が「コナフブキ」より少ない。
 「北育5号」は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、汚染ほ場の線虫密度を著しく低下させることが可能である。さらに、早掘りでのでん粉重がほぼ「コナフブキ」並であり、枯凋期が「コナフブキ」よりも早く、9月から11月の3ヶ月間操業されているでん粉工場操業初期の原料安定供給に資する上、輪作体系を適正に維持するために必要な秋まき小麦の前作に適する。「北育5号」のでん粉品質は「コナフブキ」並である。草姿は正常であり、ウイルス感染症状と紛らわしい形態は持たない。また、ジャガイモシストセンチュウ発生地帯である網走市や斜里町の現地試験の評価も良く、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用品種として、普及していく能力を持つと考えられる。
 以上から、「北育5号」を、ジャガイモシストセンチュウ発生地帯に普及することで、北海道におけるばれしょでん粉生産と畑輪作体系の安定に寄与するものと考える。

4. 普及見込み地帯
 北海道のでん粉原料用ばれいしょ栽培地帯(主としてジャガイモシストセンチュウ発生地帯)


普及見込み地帯における「北育5号」のでん粉重の「コナフブキ」対比(%)、括弧内は早掘りでん粉重の対比(%)

5. 栽培上の注意
 (1)9月下旬以降の収穫では「コナフブキ」よりでん重がやや少ないので、作付け計画に留意する。
 (2)褐色心腐の発生が「紅丸」並の“多”であるので、培土などの栽培管理に留意する。