新品種候補(2004年1月作成)
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育種事業課題名:いんげんまめ新品種候補系統「十育A56号」の概要
担当研究室:十勝農業試験場 作物研究部 小豆菜豆科、株式会社 御座候
キーワード:インゲンマメ、手亡、粒餡、未吸水粒、餡色、加工適性、炭そ病抵抗性
1.特性一覧表
系統名:いんげんまめ「十育A56号」     組合せ:十系A216号/十系A212号
特性 長所 1.未吸水粒の発生が少なく、餡色が白く明るい色調で、粒餡加工適性に優れる。
      2.インゲン炭そ病に抵抗性である。
   短所 1.収量性は「姫手亡」にやや劣る。
      2.極端な低温条件下では低収となる。
採用県と普及見込面積:北海道 300 ha
2.「十育A56号」の特記すべき特徴
 「十育A56号」は、「姫手亡」より未吸水粒の発生が少なく、粒餡加工適性に優れる。餡色が「姫手亡」より白く、ねばりがあり、滑らかな食感である。子実の大きさは「姫手亡」より大きく、北海道の一般栽培圃場で発生が確認されているインゲン炭そ病に対し抵抗性を有する。収量性は「姫手亡」にやや劣り、極端な低温条件下では低収となる。
 
3.北海道で優良品種に採用しようとする理由
 北海道の手亡栽培面積は、平成8年まで5,000〜6,000haで推移したが、平成9年に"OTEBO"銘柄でカナダから手亡の輸入が始まると同時に栽培面積が半減し、平成14年度の栽培面積は、3,150haである。
 平成14年度の手亡栽培面積の68%、2,136haを占める炭そ病抵抗性品種「雪手亡」は、加工の際に未吸水粒が発生しやすい。未吸水粒は煮熟しても十分に煮えないため、未吸水粒の発生が多い「雪手亡」は、こし餡としては問題ないが粒餡原料としては使用できない。このため、粒餡用としては、未吸水粒の発生が少ない「姫手亡」が使われている。しかし、「姫手亡」は炭そ病抵抗性がないので、しばしば病斑のついた子実が混入し、消費者からの苦情の原因となる。そのため、手選りが必要で調製コストが高い。そこで、粒餡用として、「姫手亡」並みに未吸水粒の発生が少なく、炭そ病抵抗性を持つ手亡品種が要望されている。
 「十育A56号」は、平成12年度以降、兵庫県の和菓子メーカーである(株)御座候との共同研究で選抜・育成してきた系統である。同社は手亡を粒餡として使用しており、同社における加工試験では、「十育A56号」の未吸水粒の発生は「姫手亡」よりも少ない。餡色は「姫手亡」より白く、餡粒子が「姫手亡」、「雪手亡」より小さいため、ねばりがあり、クリーミーで舌触りが滑らかな餡ができるという特徴がある。農業特性としては、炭そ病に対して「雪手亡」と同様に抵抗性を持つため薬剤防除が必要ない。成熟期は「姫手亡」と同程度、粒大は同品種より大きく、外観品質は同程度である。(株)御座候では、北海道の手亡栽培面積の10%近い面積の生産量に相当する北海道産手亡を使用しており、本系統を順次「姫手亡」に置き換えて使用したい意向を示している。
 道産手亡は、"OTEBO"銘柄でカナダから安価で輸入される「姫手亡」に押されて、今後さらに販売が厳しくなることが予想される。そのような状況の中で、大手和菓子メーカーが加工適性を高く評価して使用を希望している本系統を、当面同社の原料仕入れ先を中心に「姫手亡」の一部に置き換えて普及することが、道産手亡の需要維持と新たな需要開拓に寄与するものと考えられる。  
 
4.普及見込み地帯
 いんげんまめ作付け地帯(道産豆類地帯別栽培指針(平成6年))で、道東の特に冷涼な地帯を除く地帯Ⅰ及び地帯Ⅱ(小豆地帯別栽培指針のⅠ−1を除く地帯:下図網掛け部)
 
図 「十育A56号」の普及見込み地帯における「姫手亡」との成熟期の差、子実重比及び百粒重比
注)各地帯区分には、農試の成績を含む。
5.栽培上の注意
 1)極端な低温条件下では減収率が大きいので、特に気象条件の厳しい地帯での栽培は避けるのが望ましい。
 2)極端な多肥栽培では倒伏を助長し、成熟期における葉落ちが不良になることがある。
 3)インゲン炭そ病防除の茎葉散布は不要であるが、他病害には従来の品種と同様に罹病するので防除を行う。