成績概要書(2004年1月作成)
課題分類:
研究課題:チモシー新品種候補「北見22号」
担当部署:北見農試・作物研究部・牧草科
協力分担:天北農試・研究部・牧草飼料科、根釧農試・研究部・作物科、畜試・環境草地部・草地飼料科、北農研・作物開発部・イネ科牧草育種研究室、家畜改良センター十勝牧場、同新冠牧場
予算区分:指定試験
研究期間:1988〜2003年度(昭和63〜平成15年度)
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1.目的
多収で、耐倒伏性、斑点病抵抗性および混播適性が優れる晩生品種を育成する。
2.方法
1)育種方法
9栄養系の組合せによる合成品種法。
2)育種経過
中・晩生に属する22品種・系統、4,800個体から選抜された晩生、採草型、生育良好な52個体について、単播とシロクローバ混播の両条件下において競合力に関する栄養系評価試験を行い9栄養系を選抜した。合成2代種子に系統名「北見22号」を付し、2001年より系統適応性検定、地域適応性検定および特性検定の各試験に供試した。「北見22号」の構成栄養系の由来は、「北見19号」から3栄養系、「北系84303」から2栄養系、「北系84305」、「Motim」、「ホクシュウ」および「Wisconsin T」から各1栄養系である。
3.成果の概要
(1) 特性の概要(標準品種「ホクシュウ」と比較)
1)出穂始は「ホクシュウ」より1〜5日遅い6月24日〜7月5日で、早晩性は晩生に属する。
2)2年間または3年間の合計乾物収量はやや多く、年次別、番草別の乾物収量も同程度かやや多いことから、収量性は同程度かやや優れる。
3)耐倒伏性および斑点病抵抗性は優れる。
4)シロクローバとの混播栽培で利用すると合計乾物収量が多く、マメ科率は同程度で、混播適性はやや良好である。
5)越冬性は同程度、耐寒性は「ホクシュウ」と同じ“強”である。
6)放牧適性、推定TDN含有率、採種量は同程度である。
7)形態的特性は、草丈が1、2番草とも高く、穂長、葉長が長く、葉幅は広く、茎が太く、茎数密度が低い。
(2) 特記すべき特徴
「北見22号」は晩生に属し、「ホクシュウ」に比較して収量性は同程度かやや優れ、耐倒伏性と斑点病抵抗性が優れ、1番草の収穫適期が最も遅い採草用品種として利用できる。
表1. 「北見22号」の特性一覧1)
特性 |
長所 |
1)耐倒伏性が「ホクシュウ」より優れる。
2)斑点病抵抗性が強い。
3)混播適性がやや優れる。 |
短所 |
|
系統・品種名 |
北見22号 |
ホクシュウ |
系統・品種名 |
北見22号 |
ホクシュウ |
2)
早
晩
性
|
出穂始
(月.日) |
北見農試 |
6.29(晩生) |
6.28(晩生) |
2)
生
育
特
性
等
|
倒伏程度4) |
1.5(やや強) |
2.6(弱) |
天北農試 |
6.26 |
6.21 |
斑点病5) |
2.3(強) |
3.1(中) |
根釧農試 |
7.5 |
7.4 |
すじ葉枯病5) |
2.6(強) |
2.2(強) |
畜試 |
6.24 |
6.21 |
混
播
6) |
合計乾物収量3) |
(110) |
193.7 |
北農研 |
6.27 |
6.25 |
マメ科率(%) |
25 |
27 |
十勝牧場 |
7.1 |
6.27 |
越冬性7) |
6.6(中) |
6.3(中) |
新冠牧場 |
6.27 |
6.26 |
耐寒性8) |
強 |
強 |
7場所平均 |
6.28 |
6.26 |
早春の草勢7) |
6.9(やや良) |
6.5(やや良) |
収
量
特
性
|
2年間
合計乾物
収量3) |
北見農試 |
235.6(104) |
226.8 |
放
牧
9) |
採食程度(%) |
62 |
62 |
天北農試 |
204.6(101) |
202.4 |
乾物草量3) |
(103) |
159.2 |
根釧農試 |
181.7(103) |
176.1 |
被度(%) |
85 |
87 |
畜試 |
227.5(102) |
223.3 |
TDN含有率(%)10) |
58.2 |
57.2 |
北農研 |
226.9(101) |
223.6 |
採種量(㎏/a) |
4.60 |
4.64 |
十勝牧場 |
193.0(105) |
183.4 |
1番草草丈(㎝)11) |
106 |
103 |
新冠牧場 |
194.5(100) |
193.8 |
茎の太さ12) |
6.4(やや太) |
5.3(やや細) |
7場所平均 |
209.1(102) |
204.2 |
茎数13) |
6.5 |
7.6 |
注 1) 斑点病とすじ葉枯病は3か年平均、その他は2、3年目の平均または合計。2)
早晩性、生育特性等 の( ) 内は特性調査成績による。3)「ホクシュウ」が
実数(㎏/a)で、( )内が「ホクシュウ」を100とする指数。
4) 7場所平均、1:無または微-9:甚。5)7場所平均、1:無または極微-9:甚。
6) シロクローバとの混播栽培で、合計乾物収量はチモシーとシロクローバの2年間合計。
7) 7場所平均、1:極不良-9:極良。8) 耐寒性特性検定試験。 9) 放牧特性検定試験、被度は最終放牧後の
チモシー基底部被度。10) 1番草出穂始の近赤
外分析による推定値。11) 7場所平均値。
12) 個体調査、1:極細-9:極太。13) 個体調査、1:極少-9:極多。
4.
優良品種に採用しようとする理由
チモシーの大規模栽培では、収穫期間が長期に及ぶため、早晩性の異なる品種の配置が収穫適期幅の確保に不可欠である。「ホクシュウ」は、現在国内で流通する唯一の晩生品種であるが、耐倒伏性が弱いため、採草型としてはほとんど普及していない。「ホクシュウ」は、茎数型の品種であり、放牧地における季節生産性が比較的平準であることから、その種子の流通は放牧利用向けが大半をしめる状況にある。さらに「ホクシュウ」は、冷涼多湿条件において多発するチモシー斑点病に対する抵抗性が他の流通品種と比較して必ずしも十分ではない。
「北見22号」は耐倒伏性と斑点病抵抗性が「ホクシュウ」より優れ、採草型に適した特性を具備し、乾物収量は「ホクシュウ」と同程度かやや多収であることから、1番草の収穫適期が最も遅い採草用品種としての利用が可能である。また「北見22号」の放牧適性は「ホクシュウ」と同程度である。したがって「北見22号」を「ホクシュウ」に置き換えて普及することにより、良質かつ多収な粗飼料の安定生産に貢献することができる。
5.成果の活用面と留意点
1) 適応地域:北海道地域とし、「ホクシュウ」に置き換える。
2) 普及見込み面積:20,000ha
3) 栽培上の留意点:晩生品種として、年間2回の採草利用を主体とし、放牧にも利用できる。
6.残された問題とその対応