とうもろこし(サイレージ用)新品種候補「北交62号」(普及奨励事項)
北海道農業研究センター作物開発部トウモロコシ育種研究室
根釧農業試験場研究部作物科
執筆担当者 濃沼 圭一

 寒地向きサイレージ用トウモロコシの新F1 品種「北交62号」は、“早生の早”の熟期で、栽培限界地帯である根釧地域を適地とする。本品種は、初期生育に優れ、多収で、乾物中の雌穂の割合が高く、すす紋病抵抗性が強い。

1 試験目的
 根釧地域に適する早生の早の耐倒伏性・多収品種を育成する。

2 試験方法
 (1) 育種方法 :自殖系統を用いた単交雑一代雑種
 (2) 育成経過:1998年に「Ho87」を種子親とし、「To85」を花粉親として両親系統間の交配を行い、根釧農試での2か年の現地組合せ能力検定試験の後、2001年に「月交593」の系統番号を付した。その後、生産力検定試験、系統適応性検定試験および病害抵抗性と耐冷性の特性検定試験で有望と認め、2002年に「北交62号」の系統名を付した。さらに、これらの試験を継続するとともに奨励品種決定試験を行ってその優秀性を確認した。

3 試験成績
 (1) 熟期は“早生の早”に属する。絹糸抽出期は同熟期の標準品種「エマ」より2日早く、収穫時の乾物率は「エマ」より高い(表1)。
 (2) 乾物総重および推定TDN収量は、それぞれ「エマ」より6%および9%高い。乾雌穂重割合は「エマ」より約9%高い(表1、図1、2)。
 (3) すす紋病抵抗性は“中” で「エマ」および「ダイヘイゲン」より強い(表1、2)。
 (4) 耐倒伏性は「エマ」並の“やや強”である(表1)。
 (5) 初期生育は“良〜極良”で「エマ」より優れる(表1)。
 (6) 雌雄畦比3:1での採種量は25kg/a程度である。採種栽培では花粉親を1週間晩播することにより両親の開花期が合致する。


図1 「北交62号」の乾物総重(根釧農試)


図2 「北交62号」の乾雌穂重割合(根釧農試)

4 試験結果及び考察
 (1) 草地酪農地帯である北海道の根釧地域において飼料自給率の向上を図るためには、雌穂割合の高いトウモロコシの栽培拡大が不可欠である。この地域に適する“早生の早”の唯一の優良品種である「エマ」は既に種子供給が停止し、それに代わる優良品種が早急に必要となっている。「北交62号」は、根釧地域において黄熟期刈りの可能な早熟性や初期生育性、重要病害であるすす紋病に対する抵抗性および収量性に関して「エマ」を上回る能力を備えており、低温年の2003年にも安定して多収であった。また、耐倒伏性も「エマ」並に優れている。本品種の普及により根釧地域における良質自給飼料生産の拡大に貢献できる。

5 普及指導上の注意事項
 (1) 適地は根釧地域に限定する。普及見込み面積は1,500 haである。種子の供給開始は、平成18年度栽培用からの予定である。
 (2) 露地での通常畦幅栽培では、密植すると なびき の発生が多くなるので、栽植密度はアール当たり800〜850本程度とする。


写真1 「北交62号」の草姿(撮影:2004年8月22日、北農研)


写真2 「北交62号」と「エマ」の雌穂(撮影:2004年3月20日、北農研)