新品種候補 (作成 平成10年1月)

課題の分類
新品種候補名 てんさい「Kawe-J 538」
試験場所名 北海道立十勝農試、北見農試、中央農試、上川農試、北海道農試
<協力>日本甜菜製糖㈱、北海道糖業㈱、ホクレン農業協同組合連合会

1.来歴および試験経過

1)来 歴
「Kawe-J 538」は、ドイツのクラインワンツレーベン育種株式会社が育成した三倍体、単胚の一代雑種である。
二倍体単胚雄性不稔系統「MS9E0020」と四倍体多胚花粉親系統[PS0X8017」を交配し、平成3年(1991年)に育成された。
2)試 験 経 過
(1)平成6年:日本甜菜製糖株式会社が輸入し、「MC94−09」の系統名で輸入品種予備試験を行った。
(2)平成7年〜平成9年:「Kawe-J 538」の系統名で、北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場並びに北海道農業試験場において輸入品種検定試験を行った。
(3)平成8年〜平成9年:十勝農試において栽培特性検定試験、褐斑病抵抗性特性検定試験、中央農試において耐湿性特性検定試験、根釧農試において抽苔耐性特性検定試験を行った。
(4)平成8年〜平成9年:全道17カ所において現地検定試験を行った。

2.特 性

1)一般的性状:「Kawe-J 538」は、葉長は「モノエースS」よりやや短く、葉姿はやや開平である。葉数は「モノエースS」並、葉形は楕円形、葉身の大きさは「モノエースS」並である。クラウンの大きさは「モノエースS」並の小、根形は円錐形、根周が「モノエースS」よりやや大きい。分岐根は少ない。
2)根重:「モノホマレ」、「モノエースS」より多い。
3)根中糖分:「モノホマレ」並で、「モノエースS」より低い。
4)糖量:「モノホマレ」、「モノエースS」より多い。
5)品質:アミノ態窒素は、「モノホマレ」よりやや低く、「モノエースS」並である。カリウムは、「モノホマレ」並で、「モノエースS」より高い。ナトリウムは、「モノホマレ」並で、「モノエースS」より高い。不純物価は、「モノホマレ」並で、「モノエースS」より高い。
6)抽苔耐性:抽苔耐性は「モノホマレ」並の「強」である。
7)耐病性:褐斑病抵抗性は「モノエースS」並の「弱」である。
8)耐湿性:「モノエースS」よりやや弱く、「モノホマレ」並の「やや弱」である。

表1 各農試における成績(平成7〜9年の3カ年平均)
場 所 系 統 名
品 種 名
根腐症状
株率(%)
根 重
(t/10a
根中糖分
(%)
糖 量
(kg/10
対「モノホマレ」比(%)
根重 根中糖分 糖量
十勝農試 Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.0
0.0
0.2
6.30
6.16
5.91
18.11
17.90
18.66
1,141
1,104
1,106
102
100
96
101
100
104
103
100
100
北見農試 Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.0
0.0
0.2
6.13
5.73
5.43
18.47
18.36
19.26
1,131
1,051
1,045
107
100
95
101
100
105
108
100
99
中央農試 Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.2
0.0
0.0
7.48
7.37
6.95
17.26
16.92
18.17
1,289
1,246
1,262
101
100
94
102
100
107
103
100
101
上川農試 Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.0
0.0
0.0
7.66
7.57
7.17
17.67
17.24
18.29
1,352
1,306
1,312
101
100
95
102
100
106
104
100
100
北 農 試 Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.3
0.0
1.4
6.30
6.08
5.52
16.38
16.27
17.18
1,029
987
952
104
100
91
101
100
106
104
100
96
注)北農試は平成7,8年は札幌市、平成9年は芽室町である。

表2 特性検定試験・品質調査(十勝、根釧、中央、北見、上川、北農試、平成7〜9年)
系 統 名
または
品 種 名
褐斑病抵抗性
発病程度(十勝
抽苔耐性(根釧
抽苔率(%)
耐湿性(中央)
腐 敗 度
品質調査(H7〜9年)
有害性非糖分
(meq/100g)
不純
物価
(%)
9上 10上 判定 H8 H9 判定 H8 H9 判定 アミノN Na
Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
1.79
1.35
-
0.61
1.19
-


(
0.2
0.0
-
0.0
0.0
-


(
71.8
87.2
74.3
57.6
79.9
40.1
ヤヤ弱
ヤヤ弱
1.38
1.48
1.30
4.71
4.47
4.05
0.47
0.45
0.35
3.93
3.92
3.30
注1)褐斑病発病程度は平成8〜9年の2カ年平均値。()は平成8年以前の結果。

2)不純物価(%)=(3.5×Na(%)+2.5×K(%)+10×Amino-N(%))÷根中糖分(%)×100
Na:ナトリウム K:カリウム Amino-N:アミノ態窒素

表3 現地検定試験成績全道平均(平成8〜9年、17カ所)
系 統 名
品 種 名
根腐症状
株率(%)
根 重
( t/10a)
根中糖分
(%)
糖 量
(kg/10a)
対「モノホマレ」比(%)
根 重 根中糖分 糖 量
Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
1.3(0.0)
0.8(0.0)
-(0.9)
6.05(6.30)
5.71(5.81)
- (5.34)
16.88(16.78)
16.74(16.91)
- (17.47)
1021(1055)
958( 983)
-( 933)
106(108)
100(100)
-( 92)
101( 99)
100(100)
-(103)
107(107)
100(100)
-( 95)
注)()内は「モノエースS」供試の延べ4カ所の平均値。

表4 根腐病、黒根病調査(平成9年)
系 統 名
品 種 名
根腐病発病程度 黒根病発病程度
十勝農試 北 農 試 平均 中央農試 現地7カ所
Kawe-J 538
モノホマレ
モノエースS
0.53
0.55
0.61
2.7
2.2
2.4
1.6
1.4
1.5
0.52
0.44
0.33
0.36
0.26
-
注)根腐病は病原菌を接種、黒根病は無接種。

3.配布可能種子量

平成10年度 2,000kg 平成11年度以降 8,000kg

4.適応地帯および普及見込面積

北海道一円 平成10年度 2,000ha 平成11年度以降 8,000ha

5.栽培上の注意

1)褐斑病に対する抵抗性は弱なので、適期防除に留意する。

2)排水不良な圃場では栽培を避ける。