成績概要書 （平成10年１月
課題の分類
新品種候補名 たまねぎ｢T-400(カムイ)｣
場所名 北海道農試，花・野菜技術センター，北見農試

１．来歴
　｢T-400(カムイ)｣はタキイ種苗株式会社において，良質,大球,高貯蔵性で乾腐病および白斑葉枯病等の複合抵抗性に優れることを目標として育成された。 「札幌黄×Northern系(米国種)」の後代から選抜した，乾腐病に強く高貯蔵性の系統を種子親とし,「札幌黄」の北見在来から選抜した,晩生で乾腐病および白斑葉枯病抵抗性系統を花粉親とする単交配一代雑種である。ホクレン農業協同組合連合会の委託を受けて，平成7〜9年の3年間,試験機関3ヵ所および現地3ヵ所において,北海道の春播き露地移植栽培に対する適応性の検定を実施してきた。

２．特性の概要（標準品種｢ツキサップ｣,対照品種｢北もみじ86｣および｢スーパー北もみじ｣との比較）
１）種子特性および苗生育 種子千粒重は｢ツキサップ｣並で,｢北もみじ86｣,｢スーパー北もみじ｣よりやや重い傾向である。発芽勢および発芽率は｢ツキサップ｣並に高く,｢北もみじ86｣,｢スーパー北もみじ｣より優る。苗の葉数はこれら3品種と同等かやや少ないが,草丈はほぼ同等か優る。

２）葉部生育 7月の葉部生育盛期における生育は苗と同様で,これら3品種に比較して葉数は同等かやや少ないが,草丈はほぼ同等か優る。草姿はやや立性で,葉色および葉先枯れは中位である。

３）早晩性 肥大期はこれら3品種と比較して同等かやや早く,倒伏期も｢北もみじ86｣,｢スーパー北もみじ｣と同等からやや早く,｢ツキサップ｣より早いやや晩生種である。

４）耐病虫性 乾腐病に対しては抵抗性強である｢ツキサップ｣,｢北もみじ86｣および｢スーパー北もみじ｣とほぼ同等であるが発病率のやや高い事例(平成9年,岩見沢市)もみられる｡灰色腐敗病などボトリチス属菌による病害や｢肌腐れ｣症状などは比較的少ない。

５）耐抽台性 不時抽台の発生をみた試験事例（平成7,8年,北海道農試,北見農試および北見市,平成7年,富良野市,平成8年,岩見沢市）では,抽台率がわずかに高くなることがある(平成8年,北見農試)。

６）収量性 平均一球重は｢ツキサップ｣よりやや大きく,総じて｢北もみじ86｣,｢スーパー北もみじ｣と並である。規格内率は｢スーパー北もみじ｣に次いで高く,｢ツキサップ｣,｢北もみじ86｣より高い。しかし,裂皮球(平成8年,富良野市,同7,9年,北見市)や変形球(平成8年,岩見沢市,同9年,北海道農試)の発生が多い事例がみられる。規格内収量は｢スーパー北もみじ｣並に高く,｢ツキサップ｣,｢北もみじ86｣より優る。

７）球品質 球の締り,外皮色の濃さおよび皮張りの程度は｢スーパー北もみじ｣,｢北もみじ86｣並で,｢ツキサップ｣より優る。｢緑化球｣の発生程度(着色部被度)は,｢スーパー北もみじ｣,｢北もみじ86｣並であり,着色は薄い。

８）貯蔵性 発根および茎盤の突出がやや早いため,貯蔵後健全率は高貯蔵性の｢スーパー北もみじ｣,｢北もみじ86｣および｢ツキサップ｣よりやや劣る。

場所名 品種およ
び系統名		 規格内収量(kg/a) 同左比(%) 平均
一球重
(g)		 規格
内率
(%)		 倒伏期
(月日)		 乾腐
病率
(%)		 その他
病害率
(%)		 貯蔵後
健全率
(%)
７　８　９　平均７　８　９　平均
北農試 T-400 715 839 479 678 119 94 93 101 227 89 8.12 0.4 0.5 72.5
ツキサップ 602 892 513 669 100 100 100 100 232 89 8.12 0.5 2.9 89.2
北もみじ86 640 810 432 627 106 91 84 94 231 81 8.10 0.6 1.1 97.3
S.北もみじ 666 852 518 679 111 96 101 101 219 97 8.11 0.9 1.3 95.6
花野菜
センター		 T-400 599 399 516 500 109 124 - 115 173 93 8.16 0.3 1.0 71.3
ツキサップ 548 321 - 435 100 100 - 100 160 91 8.19 0.6 5.2 76.2
北もみじ86 600 277 - 440 109 86 - 101 164 85 8.15 0.4 3.3 85.8
S.北もみじ 586 372 485 480 107 116 - 110 163 94 8.14 0.6 0.8 65.1
北見農試 T-400 688 637 468 598 143 123 111 126 225 93 8.12 1.9 3.2 43.0
ツキサップ 481 517 422 473 100 100 100 100 223 78 8.15 1.9 4.0 72.2
北もみじ86 599 626 512 578 125 121 121 122 230 90 8.13 2.1 5.5 68.4
S.北もみじ 597 590 536 575 124 114 127 122 230 90 8.14 2.0 5.3 80.5
岩見沢市 T-400 617 499 670 595 96 114 170 121 210 95 8.03 4.7 0.7 30.5
ツキサップ 644 437 393 490 100 100 100 100 179 91 8.05 0.9 0.7 77.8
北もみじ86 696 529 356 528 108 121 91 109 188 92 8.06 1.3 0.3 74.6
S.北もみじ 605 631 757 664 94 144 193 137 229 96 8.04 2.6 1.4 85.8
富良野市 T-400 757 742 731 737 - 114 107 110 238 96 8.04 0.4 0.2 79.9
ツキサップ - 653 684 668 - 100 100 100 227 94 8.05 1.4 0.4 91.6
北もみじ86 552 654 673 664 - 100 98 99 248 87 8.02 2.4 1.0 90.0
S.北もみじ 533 778 718 748 - 119 105 112 256 99 8.02 2.2 2.0 96.7
北見市 T-400 588 807 629 718 - 125 103 114 271 93 8.19 0.9 4.5 31.4
ツキサップ - 646 610 629 - 100 100 100 264 92 8.22 3.9 9.5 32.8
北もみじ86 567 676 585 632 - 105 96 100 279 87 8.16 2.1 8.1 27.0
S.北もみじ 623 876 713 796 - 136 117 127 277 99 8.17 1.9 4.5 65.8
平均 T-400 655 654 595 635 118 113 114 115 223 93 8.11 1.5 1.7 55.9
ツキサップ 569 578 524 557 100 100 100 100 214 88 8.12 1.5 3.5 75.8
北もみじ86 634 595 512 580 111 103 98 104 222 88 8.10 1.4 3.0 78.0
S.北もみじ 614 683 648 648 108 118 124 116 227 96 8.10 1.7 2.7 82.2
　注）S.北もみじ:スーパー北もみじ,花・野菜技術センター;平成7,8年を平均，富良野市・北見市;平成8,9年平均(貯蔵後健全率は平成8年産)

５．用途および適応地域
やや晩生で球肥大性,収量性および乾腐病抵抗性を備え,球の外観品質にも優れていることから,多収品種として,全道のたまねぎ栽培地帯への導入が可能である。

６．保有種子量 8,000kg

７．普及見込み面積 3,000ha

８．栽培上の留意点
１）球肥大性に優れることから,変形球や裂皮球発生を避けるため適期に根切りを実施する。また乾燥しやすい砂れき地や排水不良地を避けるなど圃場の選定に留意し,適切な肥培管理に努める。
２）ボトリチス属菌による病害や｢肌腐れ｣症状等の発生は比較的少ないが,倒伏遅延の気象条件下では灰色腐敗病などの発生が増加することがあるので,これらに対する適切な防除の実施に努める。