成績概要書(作成 平成10年1月)
課題の分類:
研究課題名:気象・土壌情報を活用した水稲生育予測および窒素施肥対応
      (水稲に対する最適施肥窒素量の全道メッシュ予測システムの開発)
      (気象情報を用いた水稲生育予測システムの開発)
予算区分:道単・共同研究 担当科:上川農試 研究部 土壌肥料科
担当者:
研究期間:平成6〜9年
協力・分担関係:(財)日本気象協会 北海道本部
1.目 的
 低蛋白米の生産には施肥窒素量の適正化が重要であり、現行の施肥標準以上にきめ細かな指針作りが求められている。そこで、水田の窒素動態モデルと気象情報システムを組み合わせ、気象および土壌情報に基づく水稲の最適施肥窒素量を1kmメッシュ単位で予測するシステムを開発する。

2.試験方法
1)水田気象のデータベース作成
 水田水温:熱収支式に基づきアメダス地点の水田水温を推定し、メッシュ展開
 日射量、降水量:アメダスデータを清野の距離重み付け法によりメッシュ展開
2)水田土壌の窒素無機化特性調査
 密栓湛水培養:生土28日間(20℃、30℃)、風乾土40℃7日間
3)水田の窒素動態および水稲生長に関するシステムモデルの改良
 発育モデル、不稔発生モデル、乾土効果モデルなど
4)水稲に対する最適施肥窒素量の全道メッシュ予測システムの開発
1)〜3)を組み合わせた最適施肥窒素量予測システムのプログラム開発
3.結果の概要
水田の窒素動態モデルとメッシュ気象情報を組み合わせ、気象および土壌情報に基づく水稲の最適施肥窒素量を全道的に予測するシステムを開発した。
1)水田水温を一般気象データから熱収支式に基づいて推定する手法を開発し、実測値とよく適合したので(図1)、1992年〜1996年の日別平均水温のメッシュ値を算出した。日別降水量および日別日射量のメッシュ値を清野の方法により算出し、日別平均気温とともにこれらをデータベース化した。
2)水田土壌の窒素肥沃度の分布を調査した結果、風乾土の40℃7日間培養窒素の25、50、75パーセンタイル値(低、中、高水準)はそれぞれ7.8、12.0、16.1mgN/100gであった。これと前年9/1〜10/31+当年4/11〜5/10の水熱係数をもとに乾土効果を推定した(表1)。
3)システムモデル全体の構成は平成6年指導参考に従ったが、サブモデルの一部を改良した。特に、移植期〜幼穂形成期の発育モデルに推定水温を適用した結果、気温による推定(平成9年指導参考)に比べ予測誤差が1.1日減少した(表2)。
4)1〜3をもとに、窒素肥沃度、圃場の乾燥程度、対象年次、施肥窒素量の条件別に収量を推定するシミュレーションシステムを作成し(図2)、施肥窒素量のメッシュ地図を示した(図3)。
5)その結果、施肥窒素量を9kg/10aとした時の地点平均推定収量の年次変動は、全道平均収量の統計値に近い動向を示した。
6)風乾土培養窒素で±4mgN/100gの変異は、最適施肥窒素量で±1.5kgN/10aの変異に相当し、土壌診断に基づく窒素施肥対応を地域ごとに策定する場合の手順を示した(図4)。
7)以上のことから、地域別の土壌窒素肥沃度と年次別の乾土効果に対応した施肥窒素量を現場で算出することが可能となる。

 

4.成果の活用面と留意点
1)水熱係数、推定水温、幼穂形成期予測は、HARIS上の「営農支援システム」に組み込むことによって利用できる。また、窒素施肥対応および乾土効果による減肥指針は土壌診断を実施して利用する。
2)シミュレーションを行うためのプログラムは、モデルのパラメータを変更し、収量、白米蛋白含有率の推定精度が改善されるまで、研究以外の目的に利用しない。

5.残された問題点とその対応
 収量、白米蛋白含有率の推定精度向上、特にモデル内の窒素、乾物の動態および両者の相互関係に関わるパラメータの精査