成績概要書 (作成 平成10年1月)
課題の分類
研究課題名 牛道の形成された放牧地の微地形と土壌の性状
予算区分:土地改良事業費 担当科:土壌保全研究室
担当者:
研究機関:北海道開発局開発土木研究所 協力分担:帯広開発建設部・北海道農試

1.目的
 昭和40年代から預託牛の育成と乾草(粗飼料)の供給を目的とした公共草地の造成・整備事業が国営や北海道営として実施され、北海道の酪農経営の規模拡大に貢献してきた。
 公共草地の造成対象には、傾斜地や低湿地など条件の劣悪な土地が多く選定された。このため、造成から長年経過した公共草地では、荒廃が進行した所もあり、牧場の運営管理に支障をきたす場合もある。このような荒廃現象のひとつに、放牧地での牛の歩行に伴う牛道形成があり、面積的に広く認められるのは並行牛道である。しかし、並行牛道の形成過程と、それに伴う土壌性状の変化についてはほとんど明かにされていない。そこで、並行牛道の形成された放牧地で、その微地形、植生および土壌理化学性を調査し、今後の抑制対策や改善対策に資する。

2.方法
 上士幌町営ナイタイ牧場内の標高約800mの南東向き斜面(傾斜15〜27゜)で厚層黒色火山性土からなり、造成後約25年を経過する放牧地で、牛道が形成された牧区(荒廃部)で牛道形成に伴う微地形的変異を測定すると共に、牛道形成のない牧区(原地形部)を対照として 土壌の理化学性と植生を調査した。
1) 微地形測量:荒廃部に20m間隔で斜面方向に水平(換算)距離で50mの3測線(A、Bおよ びC)を設定。3測線の測量結果から、牛道部(牛の歩行に伴い線状に裸地となっている 部分)と凸部(牛道の下方向に形成された凸地形部)の形状諸元を整理。
2) 植生調査:凸部および原地形部で植被率と、牧草と雑草の被度を測定。
3) 土壌の理化学性調査:牛道部、凸部および原地形部の各5地点で表層10cmの土層(ル-ト マット層を除く10cm)とその下部10cm土層を採取し、理化学性の測定。

3.結果の概要
1) 牛道では、原地形の表土が下方に押し出されて凹地形を呈する所が多く、これに伴い 押し出された表土は堆積して凸地形を呈する所があった(図1)。
2) 凸部の形成はその下方斜面を原地形に比べ急傾斜とし、段差を生じた(図2)。この段 差は放牧牛が越える支障となるため、牛が牛道だけを歩行するようになり、さらに凹凸 が大きくなった。また、降雨時に牛道部が流路となり、侵食により牛道部の洗掘が生じ ることも牛道部の拡大を促進したと考えられる。
3) 大きな凸部の断面観察から、牛道部から根圏土層を含めた土の押し出しが何回も繰り 返され、複雑な移動と堆積が生じて、凸部全体が形成された(図3)と考えられる。
4) 凸部ではヒメスイバやブタナが優占し、雑草化しており(表1)、その面積と牛道の面積の合 計は放牧地面積の14〜38%を占めた(表2)。
5) 牛道の土壌は原地形部に比べ圧縮され、粗孔隙量や易有効水分孔隙量が少ない(図4)。 一方、凸部は原地形部に比べ、膨軟で、粗孔隙量は多かった。熱水抽出性窒素や有効態 リン酸は牛道で凸部よりも多かった(図4)。
6) このような牛道形成は牧養力の低下だけでなく、土壌浸食の発生や草地景観の損失と なった。この抑制対策として、放牧密度の低下、出入り口、水飲み場及び牧柵の移動が 有効と考えられた。また、改善対策として更新により凹凸を解消し、深根性牧草やシバな どの土壌緊縛力の強い草種を導入することが有効と考えられた。

表1 原地形部と凸部の植生
植生 原地形部  凸部 
植被率 (%) 8271
被度
(%)
ケンタッキ-ブル-グラスを主体とした牧草 9038
雑草 ブタナとヒメスイバが主体039
主体がブタナとヒメスイバ以外70
 北海道農業試験場小川恭男氏による。

表2 牛道および凸部の放牧地に対する面積比率 (%)
 測線   A    B    C  
 牛道 212112
 凸部 1742
 合計 382514
 *算出方法(個数×平均幅)/50m×100

4 成果の活用面と留意点
1) 本成果は牛道と凸部の形成過程とその理化学的特徴を明らかにしており、このような 放牧地の荒廃の抑制や改善対策に有効な情報を提供する。
2) 本調査のように牛道と凸部の植生状態を把握することにより、該当区域の牧養力の低 下程度を推定でき、放牧管理の参考となる。

5 残された問題とその対応
1) 異なる方位の斜面や、異なる土壌での牛道による荒廃状況は、本成果と異なることも 想定され、同一牧場での異なる方位の斜面での荒廃状況や異なる土壌での荒廃状況は、 今後、解明整理すべき事項である。