成績概要書(作成 平成10年1月)
課題の分類
研究課題名:チゼルプラウシーダによる春播小麦の根雪前耕起・播種作業技術
予算区分:経 常 担当研究室:北海道農試 総合研究部 総研1チーム
担当者:大下泰生・渡辺治郎・平岡博幸・粟崎弘利・湯川智行
研究期間:平成6〜8年 協力・分担関係:

1.目 的
 春播小麦は、田畑輪換体系において水稲作付後の畑転換初年目作物として重要であるが、収量や品質が不安定である。これまで、春播小麦の生育期間を拡大し、登熟の早期化により高品質で多収が図れる根雪前播種技術を開発した。しかし、根雪前は天候が不順で土壌が過湿となりやすいため、劣悪な土壌条件においても安定して耕起・播種が可能な作業技術の開発が求められている。そこで、簡易耕起で高水分土壌への適応性が高いチゼルプラウをベースに、これに施肥播種装置を取り付けて耕起・播種作業を1工程で処理する作業機を開発し、根雪前播種栽培における高能率作業体系を確立する。

2.方 法
1)チゼルプラウシーダの試作
 チゼルプラウに施肥・播種装置および砕土ローラを装着した試作機を開発した。
2)作業性能および栽培適用試験
 供試小麦品種:ハルユタカ。供試圃場:淡色黒ボク土(北農試)および灰色低地土(美唄・北農試造成水田)。耕起法:根雪前播種(チゼル耕)および慣行春播種(ロータリ 耕)。調査項目:作業速度、砕土性、生育、収量等。

3.結果の概要
1)試作機はチゼル爪(9本、爪の取付間隔25cm、耕幅2m)により耕起を行う耕起部、 化成肥料を表面散布する施肥部、小麦種子をチゼル爪耕起後の地表面に散播する播種部、砕土ローラにより土塊を破砕しながら覆土を行う砕土部で構成される(図1)。
2)試作機を用いたチゼル耕は、ロータリ耕に比べると砕土率(土塊径2cm以下の土壌の 占める重量割合)は劣るものの(図2)、ロータリ耕が高水分土壌において土壌の撹拌 による泥濘化を生じるのに対して、チゼル耕では高水分条件でも安定した砕土性が得ら れる。
3)試作機を用いたチゼル耕は同一作業幅のロータリ耕に比べて約2倍の作業速度が得ら れる(表1)。また、1工程で耕起と播種を同時に行うため作業工程が簡略となり、作 業速度2.1m/sにおける作業能率は12分/10aと高能率である(表2)。
4)試作機の所要けん引力は最大2650kgf(26kN)で、作業速度1.5m/sにおける所要動力は 48PS(35kW)程度である。したがって試作機はトラクタ車輪の滑りや動力伝達効率を考慮 すると80PS(59kW)クラスのトラクタに装着する必要がある。
5)試作機、作溝機、乗用管理機、コンバイン等を用いた作業体系により、荒耕しから収 穫までの機械作業時間は77分/10aとなり、高能率な体系を構築できる(図3)。
6)試作機を用いた根雪前播種栽培の平均収量(3年間)は450kg/10a程度である(表3)。
[具体的データ]

表1 チゼル耕とロータリ耕の耕起特性
土壌耕起法作業速度
(m/s)
[粒径]  土塊分布(%)土壌含水
比 (%)
〜2(cm)2〜3  3〜4  4〜5  5〜  
淡色チゼル耕0.8242.97.114.310.725.068.0
黒ボク土ロータリ耕0.3960.512.810.18.38.364.2
灰色チゼル耕0.8036.614.29.210.030.059.2
低地土ロータリ耕0.3957.716.712.89.03.850.2
 供試圃場:淡色黒ボク土(北農試,試験日95.11.14),灰色低地土(北農試,試験日95.11.14)
 供試トラクタ:4輪駆動式(機関出力80PS(59kW)),供試ロータリ:アップカット方式(作業幅2m)

表2 チゼルプラウシーダによる耕起・播種作業能率
作業面積
(a)
作業速度
(m/s)
総作業時間
(分)
作業の内訳(%)作業能率
(分/10a)
土壌含水比
(%)
耕起・播種 旋回 種子補給等
352.074256.131.912.01241.2
 供試圃場:灰色低地土(美唄,試験日96.11.26),供試トラクタ:クローラ式(機関出力120PS(88kW))

表3 根雪前播種小麦の収量
(年月日)
耕起・播種方法土 壌播種量
(kg/10a)
出穂期
(年・月・日)
成熟期
(月・日)
穂数
(本/㎡)
子実収量
(kg/10a)
[春播種
の収量]
94・11・14チゼル・散播淡色黒ボク土24.895・6・138・01487458[424]
95・11・14チゼル・散播淡色黒ボク土20.396・6・218・05588482[371]
96・12・03チゼル・散播淡色黒ボク土24.997・6・168・03349426[464]
 
96・11・26チゼル・散播灰色低地土29.597・6・147・30451426[256]
 供試品種:ハルユタカ,供試圃場:淡色黒ボク土(北農試)・灰色低地土(美唄)
 施肥量:10〜12Nkg/10a(根雪前播種:融雪後、春播種:播種時)、4〜6Nkg/10a(止葉期)
 苗立数:根雪前播種98〜312本/㎡

4.成果の活用面と留意点
1)チゼルプラウシーダによる根雪前播種技術は多雪地帯(土壌非凍結地帯)における転 換畑の適用技術である。
2)播種時期の機械作業性を良好にし、融雪後の湿害を回避するために、排水溝を設置す る等、圃場の排水性に留意する必要がある。
3)種子の発芽率を調査したうえで播種量を調整する必要がある。

5.残された問題とその対応
根雪前播種技術は苗立率が低く播種量が多くなるため、砕土や覆土など耕起・播種性 能を改善し、苗立率の向上を図る必要がある。