成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:PCR法による牛糞便からの腸管出血性大腸菌O157の検出システム       
担当部署:畜試 畜産工学部 感染予防科・遺伝子工学科
       中央農試 農産工学部 遺伝子工学科
協力分担:
予算区分:事業化特別研究
研究期間:1999〜2000年度

1.目的
 近年腸管出血性大腸菌O157による食品汚染が大きな問題となり、同菌をはじめとする病原性
大腸菌の汚染防止が重要課題とされている。野菜や肉などの食品汚染原因のひとつとして牛の
糞便が考えられることから、牛から病原性大腸菌を排除していくことが必要である。そこで牛の
保菌 状況のモニタリングに利用可能な、PCR法による牛糞便からの高感度なO157の検出システム
の開発を行った。

2.方法
1)O157検出のためのプライマーの開発
2)牛糞便からのO157の検出
(1) PCR増幅条件の基礎的検討
(2)マイクロチューブ抽出法によるPCR法と免疫磁気ビーズ法の比較
(3) PCR法を用いたO157検出法の多検体処理化

3.結果の概要
1)O157検出のためのプライマーの開発
  O157およびベロ毒素遺伝子検出用のプライマーとして、rfb-HkdおよびVT-Hkdを開発した。
両プライマーは既往のプライマーに比べて増幅が優れ、高感度な検出が可能であった。またマルチ
プレックスPCRによるO157とベロ毒素遺伝子の同時検出も可能であり、腸管出血性大腸菌O157
検出プライマーとして優れていると考えられた。

2)牛糞便からのO157の検出
(1) O157検出のためのPCR条件を検討した結果、増幅酵素にホットスタート酵素を用い、DNA抽出
 方法として最大20%糞便懸濁液の酸・アルコール処理、インスタジーン(Bio-Rad)による抽出と
 QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)による簡易精製を行うことで高感度検出が可能となる
 ことが明かとなった。

(2)新たに開発されたO157特異的なプライマーのrfb-Hkdを使用することによって、糞便中のO157
 PCRで高感度に検出することが可能となった。ただし、高感度検出には増菌が必要であった。O157
 濃厚感染牛群において、培養法の免疫磁気ビーズ法と比較しても、本PCR法の方が検出率は高く、
 優れた検出法であると考えられた。

(3) DNA抽出法を、マルチチャンネルピペットを利用して多検体処理が可能な方法に改良した。この抽出
 法を用いたPCR検出法は、実験的にO157を加えた試料で免疫磁気ビーズ法と同等の検出感度であった
 が(表1)、濃厚感染牛群の糞便材料では免疫磁気ビーズ法よりも検出率が高かった(表2)。検出感度に
 ついては、増菌培地に入れる約0.5g糞便中に1CFUあれば検出が可能と考えられた。
 またVT-HkdとのマルチプレックスPCR法により糞便中のベロ毒素遺伝子とO157の同時検出も可能で
 あることが確認された(図1)。

 以上の成果に基づき、開発された検査方法をマニュアル化した。本法は、現在最も高感度とされる
免疫磁気ビーズ法と同等の検出感度を有し、より短期間の2日間で安定的な検出が可能である。
また、その操作の大部分でマルチチャンネルピペットが使用可能なため、多検体処理が容易である(表3)


表1 PCR法と免役磁気ビーズ法における検出感度の比較
  牛糞便 増菌前O157菌量(CFU/5ml増菌液)*
102 101.5 101 100.5 100 0
PCR法 No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
免疫磁気
ビーズ法
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
 *増菌開始前に増菌培養液5mlに各O157陰性糞便とともに加えたO157菌量


表2 両検査法による牛群検査結果の比較
  牛群 検査
頭数
O157陽性頭数
PCR法 免疫磁気 ビーズ法
濃厚感染
牛群検査
A 18 17 8
B 25 11 8
C 36 13 9
野外検査 D 15 0 0
E 19 0 0
F 16 0 0
G 17 0 0
H 16 0 0


表3 PCR検査法の利点
  PCR法 免疫磁気
ビーズ法
検査に必要な
期間
2日間 4日間
検出感度 1CFU 1CFU
1回に処理可能な
検体数
94検体 20検体
検出率 安定して高い 糞便中夾雑物により
検出できない場合あり
他のベロ毒素
大腸菌検査
VT-Hkdプライマーの
使用により容易に検出可能
難しい



図1 O157濃厚感染牛群例におけるマルチプレックスPCR検査
( 1〜25 :牛糞便検体, M :分子量マーカー, P :陽性対照, N, 陰性対照)

4.成果の活用面と留意点
1)本検査法は、牛におけるO157の糞便への排菌の有無のモニタリングに活用できる。
2)プライマーrfb-HkdVT-Hkdは特許出願予定で塩基配列の公表が当面できないため、
畜試より直接供給を行う。

5.残された問題とその対応