成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:豆類のDNA品種判別技術の開発 担当部署:中央農試 農産工学部 遺伝子工学科 協力分担: 予算区分:道費 研究期間:1999〜2001年度 |
1.目 的
最近、輸入農産物の増加に伴い道産品との競合が生じている。一方、新たに施行された
「種苗法」では育成者権が強化され、これに伴い北海道が育成権を持つ豆類が生産物として
海外に輸出され、これを種子に転用して再生産された場合、その輸入に対して育成者の
権利の主張が可能となる。しかし、従来の圃場栽培における品種同定では判定に約1年を
要するため、DNA鑑定による簡便で精度の高い豆類の品種判別法を開発する。
2.方 法
供試材料:白インゲンマメ(手亡類)16点、アズキ39点、ダイズ16点。
品種判別法:白インゲンマメ、アズキではRAPD(random amplified polymorphic DNA)法による
マーカーを選抜、ダイズでは米国で公開されているSSR(simple sequence repeat)マーカーを
用いて品種判別を行った。
3.成果の概要
>1)白インゲンマメ(手亡類)の品種判別用として8種のマーカーを選抜した(表1)。選抜した
マーカーによって、「雪手亡」、「姫手亡」、「銀手亡」および海外産の白インゲンマメとの判別が
可能であった。
2)白インゲンマメのRAPDマーカー断片の塩基配列を決定し、新たにプライマーを設計した(STS化、表2)。
STS化することで、白餡製品からの品種判別も可能となった。さらに、STS化プライマーによって
2種類のプライマー組み合わせを混合して同時にPCRを行うマルチプレックスPCRが可能となった(図1)。
3)アズキの品種判別用として、10種のマーカーを選抜した(表3)。選抜したマーカーによって
「エリモショウズ」、「きたのおとめ」、「しゅまり」の3品種と中国小豆との判別が可能であった。
4)近縁種を含む内外のアズキ34品種、系統を検定したところ、大部分の品種は判別可能であったが、
新品種の「しゅまり」とその親系統である「十育130号」および「斑小粒系-1」と「斑小粒系-2」は同じ
増幅パターンを示した。「しゅまり」と「十育130号」の判別用に新たにRAPDマーカー3種を選抜した。
5)アズキのRAPDマーカーの断片の塩基配列を決定し、新たにプライマーを設計した(STS化)。
STS化プライマーによって、「エリモショウズ」、「きたのおとめ」、「しゅまり」と中国小豆が判別できた(表4)。
STS化により、餡製品からの品種判別も可能となった。また、インゲンマメと同様にマルチプレックスPCRが
可能となった(図2)。
6)ダイズの品種判別用に10種のSSRマーカーを選抜した(表5)。16品種、系統を供試したところ、
その内4種のマーカーで供試品種、系統の識別が可能であった。
7)本試験で作出したインゲンマメ(SP01、SP02、SP03)、アズキ(SV01、SV02、SV03)に対する
マーカーは特許出願予定である。
表1. 手亡品種判別用RAPDマーカー
プライマー | 多型(bp) | 雪手亡 | 姫手亡 | 銀手亡 |
ubc105 | 1000 | + | + | − |
ubc157 | 500 | + | + | − |
ubc218 | 1500 | + | + | − |
ubc245 | 500 | + | + | − |
ubc276 | 1300 | + | + | − |
ubc289 | 1900 | + | + | − |
ubc355 | 1200 | + | − | − |
ubc375 | 1200 | + | − | − |
表2. STS化プライマーでの白インゲンマメの判別
品種名 | SP01300 | SP02480(600) | SP03400 |
雪手亡 | + | + | + |
姫手亡 | + | −* | + |
小白芸豆 | − | + | − |
ピービーン | − | −* | + |
その他 | − | − | − |
表3. アズキ品種判別用RAPDマーカー
プライマー | 多型(bp) | エリモショウズ | きたのおとめ | しゅまり |
ubc033 | 700 | + | + | − |
ubc072 | 1000 | − | − | + |
ubc327 | 2000 | + | − | − |
ubc468 | 950 | + | − | − |
ubc468 | 500 | − | − | − |
ubc516 | 700 | − | + | − |
ubc569 | 700 | − | + | + |
ubc777 | 1600 | − | − | − |
ubc777 | 1400 | + | + | − |
ubc791 | 600 | − | + | − |
表4. STS化プライマーによるアズキの判別
品種名または整理番号 | SV01550 | SV02430 | SV03340 |
エリモショウズ | − | + | − |
きたのおとめ | + | + | + |
しゅまり | − | − | + |
中国小豆 | |||
Acc2565 | + | − | + |
Acc2112 | + | − | + |
Acc2550 | + | − | − |
天津小豆A | + | − | + |
天津小豆B | + | − | + |
表5. ダイズ品種判別用SSRマーカー
SSRマーカー | トヨムスメ | トヨコマチ | ユキホマレ |
SATT1 | 140 | 180 | 140 |
Satt357 | 350 | 250 | 250 |
Satt055 | 134 | 140 | 134 |
Satt157 | 300 | 280 | 300 |
Satt345 | 240 | 260 | 210 |
Satt424 | 110 | 270 | 110 |
Satt429 | 280 | 280 | 290 |
Satt516 | 260 | 220 | 220 |
Satt521 | 250 | 290 | 250 |
Satt530 | 240 | 250 | 250 |
図1. マルチプレックスPCRによる白インゲンマメの品種判別
供試品種はレーン左より雪手亡、姫手亡、銀手亡、グレートノーザン、ピービーン、
小白芸豆、ベビーライマ、バタービーン、ネガティブコントロール、白餡A、白餡B
図2. マルチプレックスPCRによるアズキの品種判別
供試品種はレーン左よりエリモショウズ、きたのおとめ、しゅまり、Acc2565(中国)、
Acc2112(宝清小豆)、Acc2550(中国)、天津小豆A、天津小豆B、ネガティブコントロール、
小豆餡D、小豆餡E
4.成果の活用と留意点
1)本法は豆類種子1粒および餡を対象とした品種判別に利用できる。
2)本法は種子生産での品種の確認、流通段階での品種鑑定、加工段階での原料品種の確認等に
幅広く活用できる。
3)適用範囲は本試験に供試した品種、系統とする。
5.残された問題点とその対応
1)金時類品種判別法の検討。
2)他の品種、遺伝資源の解析。