【普及奨励事項】
十勝地方におけるコンバイン利用を基調とした機械化作業体系の負担面積の試算
北海道農業試験場畑作部

1. 大型機械化営農に関する総合技術組立試験の概要
 従来停滞的といわれていた畑作農業の生産性を向上するためには、慣行的な低位労働手段体系から、大型機械を導入した高度な体系へと発展させることが必要である。このような観点から畑作部では、大規模機械化営農に関する総合技術組立試験を実施し、大型機械利用の経済効率を飛躍的に向上することができる作付方式、作業体系およびこれらを前提とした播種から収穫にいたる生産技術を各専門部門から総合的に研究し、機械化営農技術の体系化を図ろうとしている。
 研究の対象とした経営形態は十勝地方を対象に豆類を中心とした穀菽経営と畑作酪農経営の2形態をとり上げ、37PSのトラクターを基幹とする機械化一貫栽培体系について試験を実施してきたが、穀菽経営については一部の作業を除き機械化一貫作業体系の技術的可能性がみとめられたので、その負担面積を各作物1ha当りの試験結果から試算を行った。
 作付体系はコンバインで収穫可能な作物の中から4作物を選び豆類を中心とした
〔菜豆〕−〔秋小麦〕−〔大豆〕−〔とうもろこし〕
短期4年輸作体系である。
1.機械化負担面積の算出方法
 1)負担面積の算出式
 負担面積の算出式は農事試験場作業技術部および畑作部の飼料から引用したが算出式を示すと次の通りである。
(1)作物別の作業体系の負担面積
Sf= (P−R)TK ・・・@

E
Sf 個別作業負担面積(ha)
E 圃場作業能率(hr/ha)
P 許容作業日数(日)
R 作業不可能日数(日)
T 1日当り稼働時間(hr)
K 実作業率(%)
 @式によって作業別またはいくつかの作業が連続して行われる作業系列別に負担面積を算出し、その最小値を作物別作業体系の負担面積とした。
(2)秋小麦−大豆ーとうもろこしー菜豆の4年輸作の場合における作付体系の負担面積
St= DTK × 4・・・A

Tch
St= 負担面積(ha)
Tch= 4作物4ha当り総作業時間(hr)
D= 旬別作業可能日数(日)
T= 1日当たり稼働時間(hr)
K= 実作業率(%)
 A式によって作付体系の旬別負担面積を算出し、その最小値を作付体系の負担面積とした。
 2)負担面積算出の前提条件
(1) 各種作業機の圃場作業能率(E)
 機械化一貫作業体系における各種作業機の標準作業能率は総合技術組立試験結果から作成した(第1表)基幹労力は2人とした。

第1表 使用作業機および標準作業能率
作業機名 型式 作業名 作業内容 有効作業幅
(cm)
作業速度
(m/sec)
 1 ha 当 り  1時間当
燃料消費料
(L)
トラクター
(時) 
人員
(人)
人力
時間
(時)
燃料量
(L)
ブロードカスター タンク容量0.2m3 肥料散布 1,000kg/ha 500 1.41 0.62 2 1.24 2.6 4.2
格子型プラウ 16’×2 耕起 耕深 25cm 68 1.77 2.80 1 2.80 14.9 5.3
デスクハロー 16’×16 砕土 1回(2回がけの平均) 180 2.00 1.07 1 1.07 4.0 3.7
ツースハロー 作業幅366cm 整地 1回(3回の平均値) 350 2.56 0.57 1 0.87 2.4 4.2
ランドローラー 作業幅240cm 鎮圧 1回 240 1.53 0.90 1 0.90 3.0 3.3
綜合播種機 4畦用 施肥播種 畦幅60cm(豆類) 240 0.70 2.20 2 4.40 5.9 2.7
綜合播種機 4畦用 施肥播種 畦幅90cm
(とうもろこし)
360 0.70 1.95 2 3.90 5.0 2.6
ドリル 13条 施肥播種 小麦 230 1.50 1.15 2 2.30 3.5 3.0
スプレーヤ タンク容量480L 薬剤散布 液1,000L/ha 660 0.91 0.97 1 0.97 3.0 3.1
ステアレージホー 4畦用 中耕除草 生育初期 740 0.65 2.30 2 4.60 3.6 1.6
ワイヤーウイーダー 作業幅480cm 除草 育成初期 480 1.75 0.42 1 0.42 2.0 4.8
カルチベーター 4畦用 中耕除草 育成中期 240 0.97 1.43 2 2.86 3.5 2.4
4畦用 中耕除草 育成後期 240 1.65 0.90 2 1.80 3.0 3.3
コンバイン 自走式刈幅 360cm 収穫 豆、麦類 360 0.75 1.38 1 1.38 12.1 8.8
コーンアタッチメント2畦用 収穫 とうもろこし 180 1.05 1.83 1 1.83 12.9 7.0
フィールド
チョッパー
フレール型作業幅152cm 稈処理 - - 2.82 1 2.82 12.7 4.5
稈処理 とうもろこし - - 2.45 1 2.45 11.0 4.5
稈処理 大豆 - 1.82 1 1.82 8.2 4.5
トレーラー 2 ton 運搬    - - - - - - 4.0
  註 1.燃料消費量は可成りの誤差があると思われる。
     2.作業機の能率は圃場内作業のみで、作業機の取り付け、取りはずし、移動使用資材の運搬などは含まれていない。
     3.作業能率→は主に圃場面積1ha(250m×40m)で調査した。

(2) 許容作業日数(P)
 許容作業日数とは作業適期間のことで、この場合には、十勝中央部における慣行的な作業適期間から算出した。
(3) 作業不可能日数(R)
 主として気象条件によって影響されるが、その程度は土壌条付や作業の種類によってことなる。この場合には降雨だけの影響を考慮し当畑作部における昭和35〜37年の観察結果から旬別可能日数を次の基準によって算出した。
雨量 4mm以下 作業可能
5〜29mm 作業不可能 1日休み
30mm以上 作業不可能 2日休み
(4) 1日当りトラクター稼働時間
 全期間10時間とした。
(5) 実作業率
 農林省農産課資料「昭和34年度国有ホイルトラクター稼働実績と稼働率」から実作業率82.3%を引用した。
実作業率= 圃条作業時間(運搬作業は含まれない)

年間総使用時間
(6) (2)〜(5)の条件から旬別作業可能時間を示すと第2表の通りである。
(7) 作物別耕種概要
 第3表に示した。

第2表  トラクターおよびコンバインの旬別作業可能日数および可能時間
月旬 全日数 作業可能日数 1日当りトラクター実稼働時間 作業可能時間
4月下 10 9.0 8.3 74.7
5月 10 9.3 8.3 77.2
10 8.4 70.0
11 9.0 74.7
6月 10 7.7 8.3 77.2
10 9.6 79.7
10 8.6 71.4
7月 10 8.0 8.3 66.4
10 8.0 66.4
11 8.0 68.9
8月 10 8.0 8.3 66.4
10 7.7 63.9
11 8.3 68.9
9月 10 7.7 8.3 63.9
10 8.0 66.4
10 9.0 74.7
10月 1 8.3 8.3 68.9
10 9.7 80.5
11 9.3 77.2
合計 194 161.9    1,344.1
  註 作業可能日数は次の基準によって算出した。
雨量 4mm以下 作業可能
5〜29mm 作業不可能 1日休み
30mm以上 作業不可能 2日休み

第3表  作物別耕種概要
 1)作付体系(菜豆−秋小麦−大豆−とうもろこし)
作物名 菜豆 秋小麦 大豆 とうもろこし
品種名 大正金時 北栄 コガネシロ 交4号
播種量(kg/ha) 145 90 58 40
畦幅(cm) 60 17.8 60 90
株間(cm) 15 - 15 20
施肥量(kg/ha) 燐加安 622(6-22-12-5) 500 - - -
硫加燐安 062(10-16-12-5) - 1,000 - 1,000
燐案加里 S443(4-24-12-6) - - 500 -
熔燐 1,000 1,000 1,000 1,000
除草剤(成分量) カーメックス 0.75 - - -
MCP - 2.0 - -
PCP - 5.0 - -
CAT - 1.0 - -
ローラックス - - 0.75 -
アトラジン - - - 1,000
病虫害(製品量)
(ha当)
TPTA(cc) 3,300 - - -
セレサン石灰(kg) - 30.0 - -
バイジット(cc) - - 1.0 -
ヘプタクロール(kg) 30.0 - 30.0 30.0

4.試算結果
 1)作物別所要労働時間および負担面積
 試算結果は第4表1,2,3,4の通りである。作物別負担面積は菜豆9.4ha、大豆18.3ha、とうもろこし7.4ha、秋小麦7.1ha、で何れも耕起播種作業が最も負担面積を規制している。機械化一貫作業体系における作物別機械稼働時間および所要労働時間は第5表に示すように畜力慣行作業体系に比較して、秋小麦7%、とうもろこし12%、大豆31%および菜豆42%で極めて省力化される。
 註 慣行は昭和35年生産費調査の北海道平均値 

第4表 作物別所要作業時間及び負担面積 (省略)
 4〜1 菜豆(前作物とうもろこし) (省略)
 4〜2 秋小麦(前作物 菜豆) (省略)
 4〜3 大豆 (前作物秋小麦)
 4〜4 とうもろこし(前作物 大豆) (省略)

第5表 機械化一貫体系における所要労働時間及び機械化率
作物名 作業体系
(時/ha)
機械稼働時間
(時/ha)
所要労働時間
(時/ha)
機械化率
(%)
菜豆 慣行 66.0(100) 242.0(100) 27.3
機械化 22.3(34) 101.6(42) 21.9
秋小麦 慣行 65.0(100) 305.0(100) 21.3
機械化 18.3(28) 20.7(7) 88.4
大豆 慣行 75.0(100) 389.0(100) 19.3
機械化 25.1(33) 120.2(31) 20.9
とうもろこし 慣行 86.0(100) 532.0(100) 16.0
機械化 23.6(27) 61.7(12) 38.2
  註 1.()は、畜力慣行体系に対する機械化体系の比率(%)を示す。
     2.機械化率とは所要労働時間に占める機械稼働時間の比率(%)である。

2)作付体系負担面積
 菜豆−秋小麦−大豆−とうもろこしの作付体系において大型機械化一貫栽培を行った場合の負担面積は第6表の試算結果から約30haである。この場合、負担面積を最も規制しているのは5月下旬の大豆および菜豆の耕起播種作業である。
 換言すれば負担面積を拡大するためには耕耘一播種作業の能率を上げるか、あるいは大豆および菜豆の播種作業適期間の拡大が必要である。
 なお、負担面積30haにおける各種作業機の使用時間および所要労働時間人は第7表の通りである。トラクターの実稼働時間は645時間であるが移動時間などを約17%と推定すれば、総稼働時間は790時間となり、一般的に経済利用時間といわれている800時間に達した。
 総所要労働時間2,317時間のうち人力除草に1,425時間を要するが、これらの大部分は外部から雇傭しなければならないので、経営的には規模を最も規制する要因となるであろう。
 以上のように試算を行ったが、機械化一貫作業体系および所要労働時間は、今後畑作の機械化を推進する上で参考となる点と思われる。なお、負担面積の試算に用いた係数の技術的裏付けに問題が残されているので、現段階で実際に負担面積を一率に30haと規定することはできないが、おおよその指標となるであろう。
 機械利用経費は第8表と第9表に掲げた。

第6表 作付体系の負担面積
作業
間期
作業
可能
日数
作業
可能
時間
菜豆
(前作とうもろこし)
秋小麦
(前作菜豆)
大豆
(前作秋小麦)
とうもろこし
(前作大豆)
作業時間
(3ha)
合計
作付
体系
負担
面積
作付体系補正値
作業名 作業時間 作業名 作業時間 作業名 作業時間 作業名 作業時間
4 9.0 74.7   - 追肥 0.62     0.62 482  
5 9.3 77.2 熔燐散布 0.62 除草剤散布除草 1.81 熔燐散布 0.62 熔燐散布−耕起 3.42 6.47 47.7
8.4 70.0       砕土一播種 6.70 6.70 41.8 >30.1
9.0 74.7 砕土、施肥播種 6.95   砕土、施肥播種 7.92 除草剤 0.77 15.84 18.9
6 7.7 63.9 除草剤、除草 1.39   除草剤、除草 2.30 除草 2.72 6.41 39.9 5月下旬の大豆
又は菜豆の播種を
5月中旬に行う。
9.6 79.7 2.72   0.84 1.85 5.41 58.9
8.6 71.4 2.33   2.33 0.90 5.56 51.4
7 8.0 66.4 0.90   0.90 0.90 2.70 98.4
8.0 66.4 0.90   0.90   1.80 147.6
8.3 68.9 薬剤散布 0.97       1.97 284.1
8 8.0 66.4   収穫 1.38     1.38 192.4
7.7 63.9   稈処理 2.82 薬剤散布 0.97   3.79 67.4
8.3 68.9     耕起薬剤散布 3.77   3.77 73.1
9 7.7 63.9 収穫      
8.0 66.4   1.38 熔燐散布〜播種 9.32     10.70 48.7
9.0 74.7         
10 8.3 68.9   除草剤 0.97        0.97 284.1 負担面積
    30ha
9.7 8035.0   2.80   - 収穫 1.38 収穫 1.83 3.21 100
9.3 77.2 耕起 -   - 稈処理 1.82 稈処理 2.45 7.07 43.7
合計 161.9 1,344.10   20.96   16.92    23.75   21.74 83.37  

第7表 負担面積30haにおけるトラクター稼働時間および所要労働時間 (省略)

第8表 機械のha当経費と年間利用経費
使用機械 購入価格
(円)
年間利用時間(ha) 年間固定費(円) 機械利用経費
時間当経費 ha当経費 年間利用経費
固定費 燃料 潤滑費
トラクター 1,200,000 786.83 276,000 351 - - 351 - 276,006
ブロードカスター 95,000 18.60 17,100 919 82 12 1,013 628 18,842
格子型2連プラウ 130,000 84.00 24,700 294 109 16 419 1,173 35,196
デスクハロー 160,000 64.20 30,400 474 76 11 561 600 36,016
ツースハロー 120,000 51.32 19,200 374 86 13 473 270 24,274
ランドローラー 110,000 27.00 15,400 570 68 10 648 583 17,496
綜合播種機 250,000 47.63 47,500 997 55 8 1,060 2,332 50,488
ドリル 485,000 8.63 92,150 10,678 62 9 10,749 12,361 92,764
スプレーヤー 320,000 58.24 67,200 1,154 64 9 1,227 1,190 71,460
ステアレージホー
カルチベーター
280,000 124.44 50,400 405 49 7 461 659 57,367
ワイヤウイーダー 73,000 25.20 13,140 521 98 14 633 266 15,952
コンバイン - 44.78 - - - - 2,500 - 111,950
フイールドチョッパー - 53.88 - - - - 800 - 43.104
トレーラー 359,000 (84.78) 71,800 847 82 12 941 - 79.769
3,582,000 - - - - - - - -
  備考 1.燃料 1L 20円50銭(免税価格)
       潤滑油 1L 200円(芽室農協調)
        〃  費は時間当消費燃料×0.015×200円
      2.コンバイン1時間2,500円(機械化実験集落資料)、フイールドチョッパー1時間800円
      3.固定費率は農事試験場畑作部の基準を採用した。

第9表 作物別機械利用経費
作業機名 菜豆 秋小麦 大豆 とうもろこし
ブロードカスター 4,710 4,710 4,710 4,710
格子型2連プラウ 8,799 8,799 8,799 8,799
デスクハロー 9,004 9,004 9,004 9,004
ツースハロー 6,069 6,069 6,069 6,069
ランドローラー 4,374 4,374 4,374 4,374
綜合播種機 17.490 - 17.490 15,508
ドリル - 9,764 - -
スプレーヤー 17,865 17,865 26,798 8,933
ステアレージホー 7,952 - 7,952 7,952
ワイヤウイーダー 3,988 3,988 3,988 3,988
カルチベーター 11,170 - 11,170 11,170
トレーラー 15,300 15,300 15,300 30,600
トラクター 61,959 51,071 70,309 70,688
合計 168,680 213,944 185,963 181,795
コンバイン※ 25,875 25,875 25,775 34,325
フイールドチョッパー※ - 16,920 11,480 14,704
賃料計 25,875 42,795 37,355 49,029
  備考 ※賃作業料金