【普及奨励事項】
釧路地方における乳牛飼養規模拡大に関する営農試験
北海道農業試験場畑作部

1.試験の目的
 当地帯は古くから酪農地帯といわれ広大な土地所有にも拘わらず、外延的な粗放な土地利用に終始し、乳牛飼養規模は零細で農家の経営的発展を阻害していた。
 そのため、機械導入を推進力として草地を主体とする酪農経営を樹立し乳牛飼養規模の拡大を図ろうとするもので33年に営農試験地(4戸)を別海村に設置した。

2.改善対策の設置とその吟味
 改善対策の樹立に先立ち技術的な面からその基本となる事項について吟味すれば、当地帯の特徴、特に気象的特徴と乳牛の飼料構造を検討する必要がある。
 飼料構造は夏季は放牧冬季は乾牧草及び根菜類、サイレージ類が主体となっている。
 ここで問題となるのは根菜類、サイレージ類、乾牧草類である。根菜類は労働問題に大きなネックがあって、これについてはあとで述べる。デントコーンは当地帯では収量の年変異が大きく現在では不安定作物である。次ぎに乾牧草については最も問題が多く労働装備と共に当試験地で解決すべき重要課題であった。即ち乾牧草は主として冬期貯飼料として根菜類およびサイレージ類と共に重要な飼料構成要素で、その量および質の確保は酪農の規模を規制する大きな要因となる。その乾牧草は天日乾燥によるため収穫時期における気象状況は、労働装備の如何にもよるが、その調製に強く影響し、量および質の確保を左右する。これはまた前述の如く酪農規模に影響を及ぼし循環的な関係を示すことになり、更に乾牧草の調製は乾牧草に仕上げるまでの或る期間無効水或いは晴天が継続しなければならないので関連は一層深い。そこで当地帯の農期間における無効水継続日数が日数別にどの程度の頻度で表れかを過去の気象観測結果から調べると9月は14日、7〜8月は15日、他は17〜18日間の無効水延日数があり、概ね月のうち半分は降水があったことになる。
 この様に、7、8月の乾牧草調製期間が天候不順のため、冬期粗飼料の確保を期し難く、乳牛飼養が拡大されない原因となっている。この欠点を除くためには、1)比較的気象状況に左右されることが少ない粗飼料調製法であること、2)無効水継続日数が少ないことから高能率で処理できるものであること、3)機械化が出来易いものであること、4)乳牛に悪影響のないものであること、等の条件が満たされなければならない。それには現在のところグラスサイレージが最も条件に適合すると思われるので、大幅にグラスサイレージを採用し、乾牧草は出来る限り減少させようとするものである。グラスサイレージはフィールドハベスターを中心に調製するがこれには草地改良が先行しなければならず草地改良と利用改善が相伴ない更に施設の拡充と相まって粗飼料の確保がなされて規模拡大に寄与するものである。これらの関連から次の改善対策を樹立した。

乳牛規模の拡大











粗飼料の確保












反収の増加














(量的)低収草地の更新
草地管理
刈取回数の増加
刈取回数の増加
(集約)グラスサイレージの採用
早刈
草地面積の増加作付整理
              (↑労働装備の高度化)
施設の拡充








サイロの増加
 
畜舎の整備

3.改善技術の施行経過とその結果
 第1表 年次別更新面積
農家
番号
33年に於ける装置の状況(ha) 年次別更新面積(ha) 要項心面積に対する更新遂行率(%)
総面積 要更新
面積
34 35 36 37 38
採草地 放牧地
1 7.8 8.8 16.6 16.6 3.6 3.5 8.3 - - 16.6 100
2 5.8 7.6 13.4 12.3 3.3 1.7 3.2 3.2 0.9 12.3 100
3 7.0 5.8 12.8 10.9 3.1 2.1 2.5 0.9 1.0 9.6 88
4 3.7 0.9 4.6 4.6 1.2 - 1.8 - - 3.0 63

第2表 更新方法と跡地作物の状況
農番 34 35 36 37 38
更新方法(%) 跡地作物(%) 更新方法(%) 跡地作物(%) 更新方法(%) 跡地作物(%) 更新方法(%) 跡地作物(%) 更新方法(%) 跡地作物(%)
1 トラクター100 根菜類90
その他10
トラクター100 根菜類  83
その他17
トラクター100 牧草94
根菜類6
トラクター100 牧草及青刈100 トラクター100 牧草及青刈100
4 トラクター100 ソバ76
その他24
トラクター100 なたね69
根菜類17
その他14
  注 2、3番農家は1とほぼ同じ

第3表 追肥面積の状況
次年/
農番
草地に対する追肥面積の割合(%) 備  考
33 34 35 36 37 38
1 78 100 100 100 初年度牧草及び借用地を除く
2 - 11 54 60 95 100
3 - 40 46 90 100 100
4 - 16 84 81 88 100

第4表 追肥時期と方法(採草地)
年次/
項目/
農番
34 35 36 37 38
時期 方法 時期 方法 時期 方法 時期 方法 時期 方法
1 7.13 ブロードカスター 5.4 人力 5.9 人力 5.3 人力 5.8 ブロードカスター
2 7.17 5.20 ブロードカスター 4.26 4.18 5.9 人力
3 7.15 人力 4.27 人力 4.28 4.20 5.8
4 5.25 5.26 5.14 4.21 5.12

第5表 刈取時期と刈取回数及び収量
農番 1 2 3 4
項目/
年次
刈取時期 年2回
刈取を
行った
草地面
積比率
刈取牧
草収量
kg/10a
刈取時期 年2回
刈取を
行った
草地面
積比率
刈取牧
草収量
刈取時期 年2回
刈取を
行った
草地面
積比率
刈取牧
草収量
刈取時期 年2回
刈取を
行った
草地面
積比率
刈取牧
草収量
第1回 第2回 第1回 第2回 第1回 第2回 第1回 第2回
33 8.2 - - - 7.25 - - - 7.19 - - - 8.6 - - -
34 7.26 - - 683 7.13 - - 682 7.12 - - 730 7.31 - - 985
35 7.16 9.17 45 980 7.17 9.19 24 1,138 7.18 - - 1,035 7.20 - - 1,040
36 7.12 9.12 46 1,200 7.11 9.1 35 1,370 7.17 10.8 6 1,755 7.14 10.5 37 1,135
37 6.17 9.12 100 2,035 6.22 9.17 44 2,270 6.30 9.27 16 1,705 7.6 9.18 45 1,645
38 7.10 9.29 52 1,675 7.12 - - 1,815 7.11 - - 1,690 7.19 9.15 24 1,050

第6表 牧草サイレージの利用状況
項目/年次 1 2 3 4
サイロ容積に対する比率 サイロ容積に対する比率 サイロ容積に対する比率 サイロ容積に対する比率
デント
コーン
青刈
えん麦
牧草 デント
コーン
青刈
えん麦
牧草 デント
コーン
青刈
えん麦
牧草 デント
コーン
青刈
えん麦
牧草
33 30 70 - 50 50 - 50 50 - - - -
34 30 70 - 10 26 64 68 - 32 - - -
35 22 25 53 28 40 32 20 - 80 19 - 81
36 - 100 16 17 58 36 - 64 18 - 82
37 - 100 - 100 - 100 - 100
38 - 100 - 100 - 100 - 100

4.改善技術の施行結果
 第1節において改善技術の施行状況を述べたがこの改善技術は従来の経営方式を変換するものであるため単に経営の一部分の変化に止まらず、経営全般に亘って影響し作付構成や労働配分の変化を通じて規模の拡大に寄与した。
 (1)作付構成の変化
 従来の土地利用は広大な土地所有者にもかかわらず労働装備の不備から粗放に流れ、永年牧草地や野草地等の低収草地が多く存在し乳牛規模の拡大は外延的な土地の拡張によってまかなわれていた。ここにトラクターが導入されて漸進的に草地更新が行われ耕地面積は漸増し、この面のトラクターの威力は大きかった。この様な耕地面積の増加に対し作付構成はどのようになされたか、トラクター営農は作付の単純化を要請すると言われているがこの場合は、飼料構造の変化を通じてより強く作付の単純化を意図したものである。

第7表 年次別作付構成の状況(1戸平均)
年次/作物名 34 35 36 37 38
面積 比率(%) 面積 比率(%) 面積 比率(%) 面積 比率(%) 面積 比率(%)
飼料用作物 20.6 82.5 18.7 83.0 20.8 88.8 21.8 93.6 24.2 95.6
上記以外の作物 434 17.5 3.8 17.0 2.6 11.2 1.5 6.4 1.1 4.4
 即ち当初から飼料作物の作付比率は80%を越えていたが漸次増加し37年以降は90%を越えるに至った。一方飼料作以外の作物の作付比率は漸減し4%程度となった。

第8表 年次別飼料作物の作付状況(1戸平均)
年次/作物名 34 35 36 37 38
ルタバガ (ha)
1.60
(%)
100
(ha)
1.45
(%)
91
(ha)
0.73
(%)
46
(ha)
0.58
(%)
36
(ha)
0.13
(%)
8
デントコーン 0.93 100 0.63 68 0.38 41 - - 0.08 9
えん麦 2.58 100 2.50 97 1.58 62 3.18 123 2.20 85
その他飼料作物 0.13 100 0.13 100 0.28 216 0.15 116 0.25 193
牧草 15.33 100 14.03 92 17.83 116 17.88 117 21.53 141

第9表 粗飼料の生産状況(1戸平均)(単位千kg)
年次/作物名 34 35 36 37 38
乾牧草 16.3 16.6 25.1 292.2 30.0
グラスサイレージ 7.9 311.1 57.0 95.4 107.8
デントコーンサイレージ 18.9 17.1 10.4 - 1.6
青刈えん麦 14.8 13.7 5.2 0.4 -
ルタバガ 44.5 42.3 16.4 12.9 11.2
トップ類 23.1 24.2 14.0 13.1 1.8
その他 - - 5.3 - -

 顕著に減少したのはルタバガ、デントコーンであり増加の著しいものは牧草で、漸増の傾向にあるものはその他飼料作物(家畜用甜菜)である。えん麦は大勢としては大きな変化はないが若干減少の傾向が見られる。これらのうち出るとコーンは、グラスサイレージの採取により代替されたものであり、えん麦は草地造成の際に作付されるため極端な増減は見られる耕馬用の飼料としても作付は中止できない。ルタバガは慣行の飼料構造上成牛1頭につき10aの作付が普通であるが、多頭化に伴い作付面積が増加し中耕除草及び間引作業に多くの労働を投下しなければならず、その面の機械化が行われなかったので、乳牛規模の拡大に伴い労働面から経営の隘路となってきた。そのためルタバガ栽培を機械化するか、栽培を中止して他に代替するかの二者択一の関係となったが良質のサイレージの給与によってかなり代替され得る見通しなので後者を選択した。しかし、乳牛に対する生理的影響も懸念されるため漸減の方策を取ったが、ルタバガは日腐病の被害が多く確収性ある作物と言い難いので飼料用甜菜を導入した。
 (2)労働投下状況の変化
 前述の如き作付構成の変化により耕地内における牧草の作付比率が高まり経営は単純化されたが労働配分が問題となる。労働は作付ばかりでなく、労働装備の状況や経営規模の如何によって規制されるので、その点も考慮しながら労働の配分の状況についてその経過を見てみよう。

第10表 年次別労働の状況 (1戸平均)
年次/作物名 34 35 36 37 38
耕種 3,118 (%)
100
2,947 (%)
94.5
2,121 (%)
68.0
2,124 (%)
68.0
1,536 (%)
49.4
養畜 4,277 100 4,208 98.4 4,124 96.5 4,113 96.2 4,508 105.1
合計 7,395 100 7,155 96.6 6,245 84.5 6,237 84.4 6.044 81.6
 これによれば耕種労働は減少の傾向を示しており特に36年度以降の減少は著しい。これは作付構成の変化との関係が深く、その影響が大きいことがうかがわれ労働装備の充実と相まってこの様な結果を生じたとみられる。
 養畜労働の傾向は明瞭でない、これは畜舎の改良や飼料構造の変化に伴う飼料調製労働の減少が、乳牛規模の拡大に伴う労働増加と、相殺或いは累積されたため一定の傾向を示さないものと思われる。
 トラクターの利用状況は、当初草地更新や牧草以外の作物が多かったため主として耕起整地等の作業に多く使用されたほか、施設の増改築のための資材の運搬等に使われていた。

第11表 トラクターの利用状況(1戸平均)
作業別/年次 耕起
整地
収穫 施肥 運搬
(時間)
34 36.1 15.9 0.7 7.8 60.5
35 35.2 24.2 7.3 29.4 96.1
36 41.7 47.5 12.3 65.5 167.0
37 25.1 46.7 8.2 44.8 124.8
38 22.3 94.5 5.5 7.8 130.1

 36年度頃より漸次収穫作業に重点が移行し、耕起、整地作業は漸減の傾向を示した。これは作付の単純化が進行して牧草の比重が高まり、耕起面積が減少したためであり、収穫作業は施設の増築や乳牛の拡大に伴って飼料調製量が増加したためである。
 労働配分の状況を1号農家の昭和34年と昭和38年について見れば次図の如くピークは大別して春季の耕起、播種時期と夏季の牧草収穫時期とであるが春季の労働は作付の単純化によって牧草の単一栽培となるに従い、耕起、播種面積が減少し、更にトラクター耕起によってピークは低下し労働も質的に緩和されている。次ぎに夏季の労働は牧草収穫と根菜類の中耕除草が重なるので大きなピークとなっていたが、牧草収穫が従来の乾牧草調製からグラスサイレージに変化されハーベスターによる収穫の能率化と、根菜類の作付中止、或いは縮小、その他作物の作付整理によってこの時期のピークも低下した。

 (3)規模の変化
 改善技術の施行につれて規模の変化が生じたがその状況は下表の如く経営面積は漸増し、耕地面積も増加した。

第12表 土地利用の状況(1戸平均)
年次/項目 34
(ha)
35
(ha)
36
(ha)
37
(ha)
38
(ha)
経営面積 43.8 37.6 38.0 39.9 41.7
植林及び山林地 8.2 8.0 8.1 8.1 8.2
未利用地 0.4 0.6 0.4 0.3 0.5
住宅地 0.8 0.6 0.6 0.8 0.8
野草放牧地 9.5 5.9 5.7 7.5 7.0
耕地 24.9 22.6 23.4 23.3 25.2
  註 34年度は分家以前のため経営面積が大きい。

 次ぎに施設及び乳牛飼養規模は次表の如く拡大した。

第13表 施設及び乳牛飼養の状況(1戸平均)
年次/項目 34 35 36 37 38
畜舎 (m2) 125.8 150.0 255.0 255.0 255.0
サイロ (m3) 59.8 87.3 119.3 144.3 153.8
尿溜 (m3)  2.3 6.5 9.8 9.8 9.8


経産牛 9.8 10.8 11.0 12.4 16.1
未経産牛 2.3 2.6 3.6 4.4 4.1
12.1 13.4 14.6 16.8 20.2
% 100 110 120 138 166

 特に乳牛は37、38の両年に大きく伸びた。これは飼料基盤の強化と畜舎、サイロ等の施設が或る程度整備出来たためである。
 農機具の整備状況は道賃トラクター以外に自己所有器具はほとんど変化していない。トラクターの導入状況は次の通りである。

第14表 農機具の導入状況
機械名 名 称 台数 備     考
トラクター フォードソン 42 2 33年秋道賃導入1台 34年道賃移籍(中古) 1台
フォードソン 35 1 36年道賃導入
プラウ 20吋×1 2 33年道賃1台 34年道賃移籍(中古) 1台
18×1 1 36年道賃
14×2 1 33年道賃
デスクハロー 20×24 1 33年道賃
18×24 1 36年道賃
ロータリーハロー   1 36年道賃
ヘーモアー 6尺 2 33年道賃1台 利用組合購入1台
ヘーヘーキ   1 33年道賃
尿散布機 5石入 1 33年道賃
肥料散布機   1 33年道賃
フィルドハーベスター   1 33年道賃
ブロアー   1 33年道賃
トレーラー   2 33年道賃1台 利用組合購入1台

第15表 粗飼料の生産状況(1戸平均)
年次/項目 34 35 36 37 38


Fu 20,098 23,700 25,637 30,348 31,837
% 100 118 127 151 159
DTP 1,607 1,968 2,306 2,947 3,112
% 100 123 144 184 193
10ha

Fu 138.8 167.8 165.0 188.5 172.3
% 100 121 119 136 124
DTP 11.3 14.5 14.8 18.3 16.8
% 100 128 131 162 148

第15表の粗飼料生産量は夏季の放牧期間中の牧草採食量を除いてあるため、主として冬季貯蔵飼料の生産量を示すこととなるが生産量は気象的条件によって豊凶の差があり、その点を考慮してもFu、及びDTP共に、漸増の傾向を示している。
 特に37年度以降の伸びが大きくFuに較べDTPが著しい。これは草地更新によって荳科牧草が多くなったためである。
 このような粗飼料の増加は乳牛飼養規模の拡大となって現れ、その状況は前述の如くであり、販売乳量は増加した。
 よって収支の状況は収入に占める畜産の比重が高まり総額においても漸増した。経営費は粗収入の62〜63%を占めて比較的高く規模拡大の途上にはこれより稍高くなる傾向を示した。従って所得率は稍低下の傾向にあるも絶対額においては上昇した。しかし経営の効率から見ると問題は残る。経営費のうち比較的高い比重を占めるものは肥料費、飼料費、雇入機械費、利息、償却費及び販売運搬諸掛等であって、各年次共にその状況は変らないが、その中で飼料費、販売運搬諸掛等は年々その比重を高める傾向を示した。

第17表 収支の状況(1戸平均)
年次/項目 34 35 37 38
粗収入 (円) 1,065,696 1,141,842 1,683,237 1,990,353
比率(%) 100 107 158 187
総額に
占める割合
牛乳代 58.8 64.5 71.4 76.9
増価 17.1 14.9 20.8 15.7
その他 7.5 5.9 3.2 2.9
植産物 17.3 14.7 4.6 4.5
経営費(円) 657,399 707,357 1,140,466 1,254,774
比率(%) 100 107 173 190
経営貸に占める
主要な費用の割合(%)
肥料費 14.5 19.8 17.0 16.3
飼料費 14.9 17.8 21.9 21.2
雇入機械費 9.4 7.8 14.1 9.3
販売運搬諸掛 5.6 4.0 12.4 11.6
償却費 22.2 17.1 10.6 12.1
利息 10.6 11.8 8.4 9.9

第18表 所得額および所得率
年次/項目 34 35 36 37
所得額 408,297 434,485 542,771 735,605
比率(%) 100 106 133 180
所得率(%) 38 38 32 37

5.要約
 当地における酪農経営規模の零細性を打破するため自給飼料、特に冬季粗飼料の確保に重点をおき労働装備の強化を推進力として草地改良と草の利用改善を通じて規模の拡大を図った。
 このため改善技術の施行は単に経営の一部門の改善に止まらず、経営全般に亘り改変を必要とし、乳牛の飼料構造の変化は作付構成をより強く単純化した。
改善技術の施行状況は
 (1)低位牧草地の更新
 当初予定した幼更新面積の90〜100%を遂行するも一部農家は63%に止まった。
 (2)追肥の励行
 当初草地に対する追肥は皆無であったが現在無肥草地が皆無となった。追肥は、いね科草地には窒素と加里を、荳科草地には燐酸と加里を重点に施肥し4月下旬〜5月上旬にかけて行う様になった。
 (3)早刈
 当初7月下旬〜8月上旬にかけて年1回刈取っていたが、追肥の励行と共に6月下旬〜7月上旬に1番刈9月中下旬に2番刈を行うようになった。
 (4)牧草サイレージの採用
 フィルドハーベスターによるグラスサイレージの調製により、サイロは当初のデントコーンサイレージに変り現在はグラスサイレージのみが充填される様になった。
 この結果作付構成は牧草の単一栽培に近い形態となり、甜菜、馬鈴薯等の換金作物は減少し飼料作物もデントコーンルタバガなどは減少した。
 露ウドは耕種労働の減少が著しく、春期及び夏季の労働ピークは低下した。トラクターの利用は当初の耕起整地作業から収穫作業に充填が移行する傾向を示した。
 粗飼料の生産は年々増加し、それに伴って乳牛の増加、サイロの増築、畜舎の改増築など経営規模が拡大し粗収入も増加した。しかし、経営費も同時に増大し所得額は増加したが、所得率は大差なかった。
 これらを単位当りに換算してその状況を見れば1ha当所得は当初に較べ160%となり、成牛の1頭当飼料面積は当初の1.8haより、1.28haとかなり減少したが、更に一層の減少が期待出来る。
 尚、負債額は住宅の新築土地の購入、畜舎の新改築の他、草地造成やサイロの増築などかなりの施設投資を行ったため当初に較べ188%と大きく増加したが、住宅以外はすべて生産施設に対する投資であり以後これらが更に有効に稼動すれば問題はないと思われる。
 以上の如く当初計画した規模拡大はこれら一連の技術的対策の施行により概ね達成されたと考えられるが更にこれに伴う問題点を列挙すれば次の様である。
 (1)経営規模別土地(草地)利用方式の確立
  (@)草地利用形態の決定と組合せ
 (2)乳牛飼養管理労働の省力化方式の確立
  (@)畜舎構造と省力化
  (A)機械化
 (3)機械化に伴う共同利用組織と運営方式の確立