【普及参考事項】
食用百合のバライス病無病系統「北海白百合」の育成について
中央農試稲作部
農業改良課

 北海道の食用百合は関西地方においても必需園芸作物としての価値が非常に大きく、戦前は2.500~3.000トンの移出がされていた。戦時中は国の食糧事情から著しく作付生産は減少した。戦後再びその需要の増大に伴って作付生産量共に増加しつつあるが、増殖が栄養繁殖であるために、病害虫などの累積被害によって、単位面積当りの生産量は伸びなやみの状態にあり、特にバライス病による損害は著しく、現在道内で栽培されている百合は殆どのものが本病に侵されており、このような状態で昨今の道内生産は500~600トン足らずで、生産者、消費地共に病害虫防除を中心とした品種、栽培法の改善による増産技術の確立が要望されている。
 この要望にこたえるべく、数年来より試験研究を実施して来たが、その結果既に葉枯病、瘡痂病などの防除法が確立され、指導奨励されているが、更に今度バライス病の被害等を調査するための試験の過程で育成された系統の中で、生産力、品質共に在来種に優るのが出来、生産者からの要望もつよいので、優良品種に決定して増殖普及したいと考える。

・ 来歴
 昭和34年  AONo.5×角田百合(芦別産)約400粒の種子を生産する。同年秋播種
         「註」AONo.5……岩見沢市の阿波加氏が大葉百合×角田百合で育成したもの。
 昭和35年  一年生実生  約300球を生産する。
 昭和36年  肥大率良好なもの12個体を選抜し1部を鱗片増殖する。
 昭和37年度成績
  試験方法  供試系統名  空系1号、白球2号、角田百合(芦別系、岩見沢系)
          栽培法     60cm×6cm2条チドリ植
                   4月20日植込み、その他慣行法

 試験結果
系統名 種球1ヶ重
(ヶ数)(g)
萌芽期
(月日)
草丈(cm) 病 害
5.25 6.25 葉枯病 バライス病
空系1号        木子 2.4(20) 5.11 6.4 19.5 12 -
角田百合(岩見沢系)木子 3.2(20) 5. 3 11.6 32.7 55 +++
  〃   (芦別系)  〃 3.3(20) 5. 3 12.3 34.3 326 ++
白球2号 (当別系)   〃 3.4(20) 5. 2 13.0 35.0 35 ++
  備考  葉枯病は8月30日の罹病葉率を示す。

系統名 収穫物調査
1ヶ球数 2ヶ球数 1ヶ球重 2ヶ球重 平均重 肥大率(倍)
空 系 1 号 18 0 28.3 28.3 12.3
角田百合(岩) 14 6 24.0 29.8 26.9 8.4
   〃  (芦) 13 7 26.8 30.2 28.5 8.6
白球2号 (当) 14 6 26.0 28.0 27.0 8.2

 <小括>
 空系1号は木子の量が少なく、或る程度小さいものも含めたので、多量の中より選抜した他の系統より小さい種球を用いたが、生産された2年生球の重量に大差なく、肥大率は最も優った。
 
 試験結果
  生育調査
系統名 種球重
(g)
萌芽期
(月日)
草丈(cm) 開  花
7月1日 摘蕾期
空 系 1 号 28.3 5.15 42.8 59.3 7.29 8. 7 8.15
角田百合(岩) 38.0 5. 9 60.9 60.7 7.26 8. 3 8. 9
   〃  (芦) 37.5 5.10 57.3 59.6 7.20 8. 3 8. 9
  備考  開花調査  各2個体

  特性調査
系統名 葉枯病(葉率) バライス程度 瘡痂病程度 球の着色
8月20日 9月6日 9月20日 5日目 10日目
空 系 1 号 2 5 10 + ++
角田百合(岩) 7 20 73 +~++ 少~中 ± +
   〃  (芦) 5 9 49 + ± ++

  収穫物調査
系統名 分球状況(数) 平均1球重
(g)
肥大率
(倍)
木子(1.5g以上)
着生数(ヶ)
同左平均重量
(g)
1ヶ球 2ヶ球 3ヶ球
空 系 1 号 10 8 0 186.1 10.2 6.5 2.4
角田百合(岩) 1 8 1 94.2 2.5 4.6 1.8
   〃  (芦) 1 8 1 100.3 2.7 3.2 2.7

 <小括>
 空系1号は発芽並にその後の生育進度は在来種に比較して、一週間内外おそく、分球数は比較的少なく1ヶ球の割合が多い。肥大率は極めて大きく根を切断した2年生で約10倍に達し、在来種の3倍以上になっている。木子の着生量およびその大きさも在来種より優る、バライス病は全く認められずその他の病害に対しても強いようである。鱗球の色は純白であるが、収穫後の着色は岩見沢系の角田百合よりは早く芦別系と同等であった。生育末期に木子から萌芽するものが認めれ、空系1号に最も多く認められた。

 昭和39年度成績
  試験方法  供試系統法
           空系1号  A 鱗片繁殖1ヶ球
                  B   〃   2ヶ球 分割
                  C 木子繁殖1ヶ球
                  D   〃   2ヶ球 分割
  角田百合(岩見沢系)品質良好であるが、生産力劣り減少の一途(35%)
        (芦別系) 生産力高く品質も良好増加の傾向(25%)
  白球2号(当別系)  生産力高く品質は稍劣る(40%)
  栽培法
    慣行法、植え込み(10月14日鱗片繁殖4月18日)
    面積及び区制
      1区2.4m2(20球)3反復

 試験結果
  生育調査
系統名 種球重
(g)
萌芽期
(月日)
着蕾期
(月日)
6月20日 草丈(cm) 7月25日 草丈(cm) 葉数
平均 平均
空系1号A 28.5 5.18 7.21 48.6 51.5 52.0 50.7 94.6 96.5 94.4 95.2 134
  〃  B 25.1 5.19 7.21 49.0 49.0 53.5 50.5 82.3 86.6 87.5 85.5 111
  〃  C 31.7 5.16 7.20 61.5 61.5 63.2 62.1 101.3 99.6 98.9 99.9 129
  〃  D 25.5 5.16 7.20 48.6 51.5 49.5 49.9 85.7 87.9 89.4 87.7 118
角田百合(岩) 30.5 5. 9 7. 6 58.9 64.8 60.2 61.3 84.3 82.1 83.6 83.3 72
  〃   (芦) 31.6 5.11 7. 8 63.5 63.2 66.0 63.9 95.9 99.6 98.7 98.1 94
白球2号 (当) 31.5 5.11 7. 8 62.3 62.6 63.6 62.8 96.9 98.5 97.6 97.7 99
  備考 1. 草丈 1区10株調査
      2. 葉はブロックのみ第1花梗より下のものを調査

  特性調査
系統名 葉着 葉の状態
空系1号A 稍太い 稍細く長い、平行から稍上向き僅かに弯曲深緑で光沢ある。
  〃  B
  〃  C
  〃  D
角田百合(岩) 稍密 長さ中庸で上向き概ね真直
  〃   (芦) 稍太い 稍巾広く稍長い上向き
白球2号 (当) 長さ岩見沢系より長い上向き場合により葉紫褐色を呈する。

系統名 木子不時萌芽 葉枯病 バライス病 瘡痂病
空系1号A 赤色黒斑点入り 稍多
  〃  B
  〃  C
  〃  D
角田百合(岩) 稍弱
  〃   (芦) 稍多
白球2号 (当)

系統名 球根の状態 着色(紫)の状況
2日 5日 7日 10日
空系1号A 扁球形純白、鱗片巾広く厚く、
栗状で数は少ない、肥大著しい
と下部に亀裂を生ずることあり、
内部鱗片稍長い、しまり良好
± ++
  〃  B
  〃  C
  〃  D
角田百合(岩) 扁球形純白、巾、厚さ中 - ±
  〃   (芦) - ± ++
白球2号 (当) ± ++ ++ +++

  収穫物調査
系統名 分球状況 球の高さ
(cm)
球周
(cm)
重量
(g)
木子着生数
同左重量
(g)
1ヶ球 2ヶ球 3ヶ球
空系1号A 47 13 5.23 26.3 151.2 5.6 2.1
  〃  B 49 10 5.01 24.2 139.2 4.3 2.7
  〃  C 45 15 5.30 25.4 157.5 5.9 2.6
  〃  D 48 12 4.89 23.8 135.7 6.2 2.4
角田百合(岩) 2 43 15 3.85 18.8 69.5 3.9 1.8
  〃   (芦) 3 45 12 4.47 21.3 100.4 4.6 2.0
白球2号 (当) 3 50 7 4.59 20.8 96.9 4.3 2.1
F検定                       **
LDS 1%                       31.4                      
5%                       24.6
  備考  数値は3ブラックの合計又は平均を示す。

  10a当(換算)収量 (8kg箱)
系統名 1等 2等 3等 4等 同左割合
(%)
粗収益
(千円)
同左率
(%)
空系1号A 5.5 141 10 1 157.5 155.9 604.325 177.4
  〃  B 3 97 38 5 2 145.0 143.5 540.200 158.6
  〃  C 9 148 6 1 164.0 162.5 630.150 185.6
  〃  D 2.5 97 37 4 1 141.5 140.1 528.725 155.2
角田百合(岩) 2 18 44 8.0 72.0 71.3 201.400 59.1
  〃   (芦) 8 63 21 8 1.0 101.0 100.0 340.600 100.0
白球2号 (当) 9 63 21 5 1.5 99.5 98.5 337.300 99.0
  備考 1. 学級別の箱数は3ブロック分の球根を道の規格によって分類し10a当に換算示した。
      2. 粗収益は11月20日までの大阪卸売市場の価格を基に算出した。

 <小括>
 空系1号は、発芽で一週間内外、着蕾開花は10日~2週間在来種よりおそい、草丈は概ね同等~稍短い、葉は長く密に着生している。花は在来種と同様である。球根は分球が少なく1ヶ球多く鱗片は大形で数は少ない。
 木子の着生量は稍多い。球根の肥大は在来種の2~3倍に比して5~5.5倍となり極めて旺盛であり、収量で50~60%の増となり、現在の等級別市場価格で粗収益では60~80%増となる。

 <現地試験>
  岩見沢市と当別町の農家に空系1号の養生球20球を以て在来種と対比して作付してもらい収量調査を実施した。

 調査結果(1球平均重量 換算10a箱数)
場 所 在 来 種 空系1号 収量対比(%)
A B
1ヶ重 箱数 1ヶ重 箱数 1ヶ重 箱数 在来種A 在来種B
岩見沢市 99.6 100 118.3 124 168.5 175 175.0 141.0
当別町 102.3 106 190.2 197 186.7

 <小括>
  供試個体数少なく種売るようのみ調査したものであるが、その結果では40~80%の増収がみられ、品質的にも在来種よりは優っているとの評価された。

 <総括>
  以上の結果、空系1号は現在のところバイラス病に感染しておらず、品質収量共に在来種に優っているので木子の生育末期の萌芽し易い点或は湿地に栽培した場合鱗片に亀裂を生じ易く、それより尻ぐされ状を呈し易い欠点を考慮し栽培すれば一般に普及奨励して差し支えないものと考える。