【普及奨励事項】
傾斜地におけるてん菜栽培に関する試験
北海道立上川農業試験場畑作科

Ⅰ試験地の概況
 1.地形及び地質系統 標高150m 傾斜方向 NE10~17° 第三紀砂轢岩質土壌(下層集塊岩)

 2.気象
項目
/
月旬別
5月 6月 7月 8月 9月 10月 年平均
(合計)


















最高
気温
(度)
15.0 16.4 19.4 19.9 21.6 22.4 24.3 26.4 26.1 25.4 25.3 23.8 22.5 21.8 19.2 16.1 13.6 12.3 11.1
最低
気温
(度)
3.4 5.3 7.4 8.0 9.5 11.1 13.9 14.9 16.1 16.6 16.1 14.5 12.7 11.2 8.6 5.2 3.4 2.1 0.5
平均
気温
(度)
9.2 10.9 13.4 14.0 15.6 16.8 19.1 20.7 21.1 21.0 20.7 19.2 17.6 16.5 13.9 10.7 8.5 7.2 5.8
日照
時数
(時)
78.5 75.5 76.2 71.2 74.7 61.6 66.6 67.1 57.5 57.4 54.3 58.4 57.3 51.4 47.2 53.4 46.4 43.2 1,825.8
降水量
(粍)
18.0 28.5 25.3 28.7 20.4 33.8 24.5 39.0 62.7 50.4 78.5 50.1 54.9 59.4 37.5 33.7 47.1 26.1 1,159.7
畑地温
(度)
8.0 9.7 12.0 13.2 15.2 17.5 18.7 20.2 21.1 20.5 20.6 19.3 17.4 16.0 13.8 10.5 8.2 6.2 -


 農期間における降水量と蒸発量との関係
項目
/
月旬別
合計 5月 6月 7月 8月 9月















降水量粍(A) 661.2 17.8 25.7 37.8 25.6 16.7 37.8 33.1 45.5 66.0 74.7 65.9 14.9 94.8 52.0 28.7
蒸発量(B) 389.7 32.6 35.0 32.7 24.4 34.4 31.2 33.4 31.7 24.3 24.6 20.9 18.5 15.2 14.8 15.7
B/A(%) 58.9 183.1 136.1 86.5 95.3 205,9 82.5 100.9 69.6 36.8 32.9 31.7 44.1 16.0 28.4 54.7


3.試験地土壌の性質
 (1)土壌断面の形態
1層10.0YR3/4LIC 腐植を含む、小円轢を含む(珪岩)
粘着性 中、硬度  22
2層10.0YR5/6LIC 腐埴あり、小中円轢に富む(珪、安山岩) 
粘着性 中、硬度 22
3層2.5Y4/6CL 腐埴なし、小中円轢に富む(珪、安山岩) 
粘着性 弱、硬度 22
     
4層7.5Y4/4SCL


└ 
腐埴なし、小中円轢に富む(安山岩) 
粘着性 弱、硬度 22 
     
     


 (2)土壌の理学性
層位/項目 粒  経  組  成  (国際法)
風乾細工中 細 土 無 機 物 中 土 性
水分% 腐埴% 粗砂% 細砂% 砂合計% シルド% 粘土%
1 層 3.5 3.4 11.5 18.6 30.1 39.4 50.5 LIC
2 〃 4.2 1.5 16.7 21.1 37.8 31.3 30.9
3 〃 4.5 0.6 23.1 26.3 49.4 31.0 19.6 SL
4 〃 4.5 1.0 35.2 35.8 71.0 6.6 22.3 SCL


 (3)土壌の化学性
層位 P.H 置換
酸度
Y1
有機物 塩基
置換
容量
(ml)
置換性場基 石灰
飽和
度(%)
燐酸
吸収
係数
(%)
N/5
Hcl
可溶燐酸
(mg)
H2O Kcl T-N
%
F-C
%
C/N CaO
 mg
MgO
 mg
K2O
 mg
1 層 5.2 4.0 14.0 1.96 0.19 11 19.6 246.3 13.6 13.3 44.9 838 10.8
2 〃 5.0 3.9 40.0 0.90 0.12 7 19.3 108.9 2.7 10.6 20.1 1,146 3.8
3 〃 4.7 3.9 65.5 0.38 0.06 6 20.8 53.9 5.4 12.9 9.2 1,056 3.8
4 〃 4.7 3.8 68.7 0.61 0.08 7 19.7 51.4 17.2 14.7 9.3 915 3.8


Ⅱ試験成績
 1.深耕に関する試験
  (1)試験目的
 重粘な埴壌土の傾斜地における深耕の物理性改善、土壌侵蝕防止に及ぼす効果ならびに作物の生育収量との関係を知ろうとする。
  (2)試験方法
   イ 試験区の設置方法
 NE17°の傾斜面に2m×10mの木枠を設置し、流去する土及び水はタンクに誘導して秤量した。
   ロ 試験区別
 イ)普通耕区 (10㎝の深さに耕じょ)
 ロ)深耕区   (30㎝   〃     )
 ハ)心土耕区 (30㎝の深さに耕じょし更にその下を10㎝混和)

   ハ 供試作物及び品種名
 イ)てん菜  (導入2号)
 ロ)大豆   (北見白)
 ハ)えん麦 (北洋)   但し昭和35粘には作付せず裸地にて試験

  ニ 施肥量(10a当㎏) (昭和36年度)
 
   (昭和36年度)
  イ)てん菜 硫安30、智硝30、苦土過石45、魚粕40、硫加15

  ロ)えん麦 硫安20、苦土過石45、硫加10 各区等漁施肥
  ハ)大豆  硫安15、苦土過石45、硫加10
  (昭和37~38年度)
  イ)てん菜 硫安30、智硝30、過石45、硫加15、堆肥2,000
       MgO(硫苦)4
  ロ)えん麦 硫安20、過石45、硫加10、MgO(硫苦)4
   ハ)大豆  硫安15、過石45、硫加10、MgO(硫苦)4

 以上を深耕心土耕区は5割増(除堆肥)として施用
   (昭和39年度)
 普通耕区施肥量で全区共同量施用

   ホ 輪作順序
 てん菜←えん麦←大豆の3年輪作

  (3)試験成績
   イ 耕じょの深浅と流去土木との関係

  イ)裸地の場合(昭和35年度)
月別/調査項目 10a当り流亡土重(乾土) ㎏ 降水量 降水量に対する流去水率 %
普通耕 深耕 心土耕 普通耕 深耕 心土耕
6月 0 0 0 68.0 0.9 1.3 0.7
7月 1,385 65 215 76.0 98.4 25.7 32.6
8月 1,060 290 225 64.0 62.0 30.3 25.3
9月 40 0 0 70.0 71.7 41.3 30.1
10月 0 0 0 13.0 3.4 7.7 6.9
11月 0 0 0 15.0 13.3 6.3 4.0
合計 2,435 355 440 306.0 56.9 25.7 11.2


  ロ)作物を栽培した場合(昭和36年度)
月別 月別
降水量
(mm)
てん菜(NE20°) えん麦(NE17°) 大豆(NE17°) 備考
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
6月 11.0 81. 811 4.5 38.2 20.0 5.5 5.5 20.0 5.2 土の流亡は
なかった。
7月 125.5 15.7 15.0 6.5 13.8 3.7 7.3 41.9 19.6 21.6
8月 44.3 36.1 8.6 16.9 45.4 33.4 17.8 28.2 47.9 31.8
9月 136.3 17.0 9.0 1.0 23.8 11.2 8.6 22.5 21.9 15.6
合計 317.1 18.9 11.3 5.5 23.3 11.6 7.2 30.4 24.6 21.5


  ハ) 同 (昭和37年度)
月別 月別
降水量
(mm)
てん菜(NE17°) えん麦(NE20°) 大豆(NE17°) 備考
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
6月 57.0 0.4 0.2 0.3 0.4 0.1 0.1 0.6 0.3 0.2 大豆の普通耕区が
8月に10a当
26,325kgの
流土があった
以外なし
7月 87.2 1.9 1.7 1.3 0.8 0.4 0.2 1.9 0.8 1.4
8月 189.0 2.0 0.6 1.1 0.6 0.2 0.2 2.7 0.6 1.0
9月 283.4 4.3 2.0 1.9 1.8 1.2 0.87 3.0 1.8 1.6
10月 164.1 2.0 0.7 1.1 4.5 2.6 2.4 2.2 0.9 0.8
11月 157.1 3.6 1.5 1.8 5.5 2.0 3.1 4.3 1.1 1.1
合計 938.4 2.9 1.3 1.3 2.4 1.2 1.2 2.8 1.1 1.1


   ロ耕じょの深浅と土壌硬度
  イ)昭和36年8月10日調査
区別 普通耕 深耕 心土耕
調査位置 10㎝ 20㎝ 30㎝ 10㎝ 20㎝ 30㎝ 10㎝ 20㎝ 30㎝
硬度 17 21 23 10 10 22 9 10 12


   ハ耕じょの深浅と土じよう三相との関係
  イ)昭和36年7月23日調査(2年目)
試験区別 調査
部位
(㎝)
現地
土じよう重
(g/100cc)
容積
(cc)
水分重
(g/100cc)
真比重 空気容積 固相容積 水分容積 孔隙率
普通耕 0~10 122.9 58.8 20.8 2.69 41.2 37.9 20.9 62.1
11~20 151.3 72.3 24.8 2.66 27.7 47.6 24.7 52.4
深耕 0~10 108.7 55.0 23.1 2.68 45.0 31.9 23.1 68.9
11~20 117.6 62.2 23.2 2.63 37.8 33.9 28.3 66.1
心土耕 0~10 111.1 55.0 20.8 2.64 45.0 34.2 20.8 65.8
11~20 128.7 67.7 31.4 2.67 32.1 36.4 31.5 63.6


  ロ)昭和37年8月10日調査(3年目)
試験区別 調査
部位
(㎝)
現地
土じよう重
(g/100cc)
空気容積 固相容積 水分容積 孔隙率
普通耕 0~10 151.6 23.0 47.4 29.6 52.6
11~20 169.7 13.0 51.0 36.0 49.0
深耕 0~10 140.6 26.0 41.0 33.6 57.0
11~20 127.6 27.0 33.2 39.7 66.8
心土耕 0~10 128.7 31.0 35.0 33.8 64.8
11~20 134.6 26.0 38.0 36.0 62.0


  ハ)昭和39年8月11日(残効調査1年目)
試験区別 調査
部位
(㎝)
現地
土じよう重
(g/100cc)
容積
(cc)
真比重 空気容積 固相容積 水分容積 孔隙率
普通耕 0~10 118.3 61.0 2.62 39.0 34.3 26.7 65.7
11~20 155.7 83.5 2.62 16.5 44.5 39.0 55.5
深耕 0~10 119.1 60.0 2.77 40.0 33.3 26.7 66.7
11~20 121.9 64.0 2.65 36.0 34.9 29.1 65.1
心土耕 0~10 115.8 59.0 2.70 41.0 33.3 25.7 66.7
11~20 114.7 76.0 2.56 24.0 34.0 32.0 66.0


  ニ)耕じょの深浅と土じよう水分(昭和36年)
調査月日 天候 普 通 耕 区 深  耕  区 心 土 耕 区
6㎝ 12㎝ 18㎝ 24㎝ 6㎝ 12㎝ 18㎝ 24㎝ 6㎝ 12㎝ 18㎝ 24㎝
6月2 くもり 34.8 35.4 35.2 34.6 41.8 39.4 38.8 38.8 47.8 41.6 37.0 44.0
5 35.2 35.0 35.4 34.4 41.2 40.0 39.4 39.4 46.0 45.6 41.2 44.4
9 35.4 35.4 34.8 34.0 41.0 40.0 39.8 39.8 45.8 45.8 42.0 44.6
14 36.8 34.8 34.2 34.0 41.2 40.2 39.8 40.0 45.4 45.6 43.6 44.8
20 35.8 35.0 34.6 34.6 39.6 39.8 39.8 40.2 43.0 45.4 44.6 45.4
25 35.4 34.6 34.4 34.8 38.4 39.2 39.6 40.4 44.0 44.8 44.6 45.4
30 くもり 35.0 34.4 33.8 34.2 40.0 39.6 39.4 41.0 45.8 45.6 45.0 45.4
7月5日 くもり 36.0 35.2 34.6 34.6 41.2 39.8 40.0 40.4 46.6 45.8 46.8 45.8
10 くもり 36.0 35.0 34.8 35.0 40.8 30.4 40.0 40.8 46.6 40.8 46.6 46.6
16 36.6 35.0 34.8 35.2 40.0 39.6 40.0 38.6 40.6 43.2 45.0 46.0
20 くもり 36.0 33.2 34.4 35.0 27.0 36.2 38.4 40.8 31.4 39.8 43.2 45.6
25 36.8 31.4 34.2 35.0 40.0 38.8 38.4 40.4 44.0 30.6 37.8 40.2
30 37.8 34.4 25.2 35.2 40.4 39.8 39.8 41.0 45.6 43.6 44.6 44.6
8月5日 35.6 30.4 33.0 35.8 29.8 38.8 37.2 41.0 33.2 40.2 42.0 42.8
10 34.0 23.2 25.8 34.8 15.0 39.4 38.2 40.0 34.2 30.8 36.8 48.4
13 くもり 33.0 37.2 37.2 32.0 29.6 37.6 32.8 38.0 22.8 23.8 33.4 40.2
20 34.4 30.2 32.4 25.0 29.8 38.6 27.6 34.1 40.6 32.4 36.2 33.2
25 くもり 35.4 35.6 37.0 26.8 33.8 38.6 30.4 36.6 41.6 34.4 43.0 36.2
30 くもり 34.4 31.8 33.0 22.0 27.2 38.2 28.6 33.8 42.2 34.2 40.2 34.0
9月5日 くもり 32.4 27.6 29.2 37.0 24.2 38.4 29.4 31.0 37.0 30.4 34.4 32.3
9 くもり 34.6 37.8 27.2 34.2 26.2 39.6 39.2 39.8 45.0 29.4 31.4 44.0
19 36.0 35.6 25.0 34.8 39.4 37.2 38.6 29.8 45.6 42.8 44.0 44.0
24 くもり 35.0 38.8 34.2 34.8 39.8 39.6 39.4 39.6 45.8 43.2 44.4 44.4
10月1日 くもり 35.6 33.8 34.0 34.4 39.8 39.4 39.4 38.6 45.8 43.2 44.8 44.3
  備考 イリゲジメーターによる調査


  ホ)昭和38年10月20日(継続3年目)収穫後土じょう分析成績
試験区別 水分
%
PH 置換
酸度
Y1
置換性
加里
塩基
置換
容量
置換性
塩基
MgO

CaO
NH3-N 乾燥土
効果
T-N T-C
H2O Kcl 原土 28日
25°
普通耕(作) 3.0 5.05 4.79 1.54 14.32 250.27 41.24 336.72 1.79 1.25 +2.75 0.245 3.962
 〃  (心) 3.0 4.82 4.63 4.87 15.54 284.54 49.89 251.74 3.27 6.25 +1.13 0.200 2.761
深耕(作) 4.5 5.11 4.75 2.45 20.24 301.86 50.16 407.34 1.25 2.50 +2.87 0.210 3.462
 〃 (心) 4.5 4.95 4.94 8.84 22.04 318.29 25.59 376.60 1.79 2.86 +2.56 0.213 2.216
心土耕(作) 3.5 5.06 4.70 1.80 21.80 234.92 28.51 311.33 1.35 1.25 +1.76 0.241 3.465
 〃  (心) 3.0 5.15 4.83 1.43 18.67 236.47 26.19 327.19 1.61 1.79 +1.80 0.193 3.264


  ヘ)流去水の分析成績(1L中mg)
試験区別 P.H 総固形物 浮遊物 T.N S1O2 P2O5 K2O
えん麦(普通耕) 7.0 156.0 72.0 7.53 12.8 0.09 20.00
てん菜( 〃 ) 7.0 136.0 24.0 5.02 17.4 0.45 2.64
大豆( 〃 ) 7.0 124.0 48.0 2.51 17.1 0.72 2.36


  ト)流亡土じょうの分析成績(有効態は乾土100g中mgその他%)
試験区別 P.H 腐埴 T-N T-C C/N 水分 有  効  態
P2O5 K2O CaO mgO
大豆(普通耕) 6.8 4.8 0.25 2.80 11.20 4.7 7.9 18.0 433.5 71.4


  チ)作物の累年収量

   イ)てん菜
試験
区分
10a当収量㎏ 同収量比 初年目収量を100とした場合
S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 S39
普通耕 2,295 769 1,730 1,598 2,090 100 100 100 100 100 100 34 75 91
深耕 3,420 2,824 2,590 2,945 2,820 149 367 150 222 135 100 83 76 82
心土耕 3,300 3,209 2,070 2,860 2,925 144 417 166 242 140 100 97 63 89


   ロ)大豆
試験
区分
10a当収量㎏ 同収量比 初年目収量を100とした場合
S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 S39
普通耕 150 206 41 132 32 100 100 100 100 100 100 137 27 21
深耕 169 225 96 163 30 113 109 234 152 94 100 133 57 18
心土耕 177 217 82 159 17 118 105 200 141 53 100 123 46 10


   ハ)えん麦
試験
区分
10a当収量㎏ 同収量比 初年目収量を100とした場合
S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 平均 S39(残) S36 S37 S38 S39
普通耕 294 287 271 284 178 100 100 100 100 100 100 98 92 61
深耕 322 319 365 335 208 110 111 135 119 117 100 99 113 65
心土耕 324 322 318 321 207 110 112 117 113 117 100 99 98 64


  (4)備考
 上川地方は例年5月上旬より6月中旬迄の降水量の少ないことが多く、とくに5月上旬と6月中旬は降水量に乏しく、また気温も可成り上昇するので旱魃にかかりやすい傾向がある。ことに上川北部の物理性の不良な重粘傾斜地では流亡水が多いためにその傾向が一層甚しい。そのためてん菜のような稚苗期に旱害を被りやすい作物は、旱害のため発芽や初期生育を甚しく阻害される傾向がある。また物理性が不良なことによって雨水の滲透や保持が不良なために流去、土水、養分が多く、てん菜は甚しく生育が不振で分岐根も多く低収である。重粘傾斜地における深耕による土じょうの物理性の改善は以上のような傾斜地特有の障害を緩和する効果も頗る大きいことが認められた。

 2.耕じょ法に関する試験
   (1)試験目的
 重粘傾斜地における耕じょ法、及び時期が土じようの理化学性、ならびに作物の生育収量に及ぼす影響を知ろうとする。
  (2)試験方法
  イ 試験区の設置方法
 SE 傾斜10°の圃場に毎区15m2(3×5)として施行

  ロ 試験区別
区番号 試    験    区    別 備    考
耕うん機の種類 耕じょ時期 耕深 施肥量
1 ボトムプラオ 10cm 標準施肥量 畜力により耕じょ
2 春秋
3 5割増肥 畜力により耕じょ増Nは間引後追肥
4 ロータリープラオ 標準施肥量 6馬力自動耕うん機により耕じょ
5 春秋
6 5割増肥 6馬力自動耕うん機により耕じょ
増Nは間引後追肥
7 ボトムプラオ 25cm 標準施肥量 畜力により耕じょ
8 春秋
9 5割増肥 畜力により耕じょ増Nは間引後追肥
10 ロータリープラオ 標準施肥量 6馬力自動耕うん機により耕じょ
11 春秋
12 5割増肥 6馬力自動耕うん機により耕じょ
増Nは間引後追肥


  ハ 供試作物及び品種名
 てん菜(導入2号)、大豆(コガネシロ)、えん麦(北洋)
  ニ 標準施肥量(10a当り㎏)
   イ)てん菜   硫安10 智硝30 過石30 硫加15 MgO(硫苦)4 堆肥1,500
   ロ)大豆    硫安15 過石440 硫加7 MgO(硫苦)4
   ハ)えん麦   硫安20 過石40 硫加7 MgO(硫苦)4
   ニ)輪作順序 てん菜←えん麦←大豆  3年輪作


  (3)試験成績

  イ耕じょ法別の作物収穫直後の土じょう硬度(昭和36年度)
試験区別/作物深度別 てん菜 大豆 えん麦
5cm 10cm 15cm 5cm 10cm 15cm 5cm 10cm 15cm
ボトムプラオ 10㎝春耕 7 12 17 12 15 20 8 9 16
ロータリープラオ 〃 8 14 16 12 18 18 8 10 15
ボトムプラオ 25㎝春耕 8 9 9 8 10 12 9 11 12
ロータリープラオ 〃 10 12 15 8 12 13 8 11 13


  ロ耕じょ法別の土じょうを相調査成績

   イ)昭和37年度(2年目)8月10日調査
試験区別/調査項目 容積重 固相容積 液相容積 気相容積 孔隙率
0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20
ボトムプラオ10㎝ 春耕 143.0 143.7 40.0 41.0 38.0 36.2 22.0 23.0 60.0 59.0
  〃     〃  春秋耕   117.0 145.8 33.0 41.0 29.0 38.0 38.0 21.0 67.0 59.0
 〃    25㎝ 春耕 144.7 131.1 38.5 41.2 40.1 35.8 21.5 23.0 61.5 58.8
  〃     〃  春秋耕   145.4 153.3 38.8 31.4 38.7 38.6 22.5 30.0 61.2 68.6
ロータリープラオ 10㎝ 春耕   140.6 146.3 42.0 40.2 36.5 38.8 22.0 21.0 58.0 59.8
    〃      25㎝ 春秋耕 147.4 143.2 41.8 41.5 38.2 35.5 20.0 23.0 58.2 58.5


   ロ)昭和39年度(4年目)9月30日調査
試験区別/調査項目 容積重 固相容積 液相容積 気相容積 孔隙率
0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20 0~10 11~20
ボトムプラオ10㎝ 春耕 122.9 129.6 34.3 34.0 28.7 37.5 37.0 28.5 65.7 66.0
  〃     〃  春秋耕   115.1 150.7 33.3 41.7 26.7 38.8 40.0 29.5 66.7 68.3
 〃    25㎝ 春耕 118.9 122.6 39.5 35.0 25.0 30.2 39.5 35.0 64.5 65.2
  〃     〃  春秋耕   122.3 148.0 35.8 42.8 27.2 33.2 37.0 34.0 64.2 67.2
ロータリープラオ 10㎝ 春耕   126.4 139.8 37.1 36.3 27.4 41.7 35.5 22.0 62.9 63.7
  〃     〃  春秋耕   132.5 128.8 37.7 34.8 33.5 36.7 28.8 28.5 62.3 65.2
    〃      25㎝ 春秋耕 122.2 128.7 35.5 36.3 27.5 34.7 37.0 29.0 64.5 63.7
  〃     〃  春秋耕   109.8 120.2 41.3 34.2 25.2 28.8 43.5 37.0 68.7 65.8


   ハ)耕じょ法と土じょうの粒茎組成(昭和38年9月調査)
試験区別/粒茎別 >2.0mm 2.0~1.0mm 1.0~0.5mm 0.5~0.25mm 0.25~0.1mm 0.1mm<
0~10 ボトムプラオ10㎝春耕 22.8 17.2 14.2 17.0 15.3 13.4
        25㎝〃 22.9 18.6 20.4 13.9 6.4 10.8
ロータリープラオ10㎝〃 24.7 21.0 20.1 14.6 12.4 7.2
〃        25㎝〃 31.1 20.4 18.9 13.8 7.3 8.5
11~20 ボトムプラオ10㎝春耕 27.2 19.7 20.0 14.5 7.1 11.5
〃      25㎝〃 31.9 22.0 10.5 11.1 4.8 19.7
ロータリープラオ10㎝〃 34.6 23.3 16.0 11.7 5.4 9.0
〃        25㎝〃 27.5 17.5 18.1 15.8 6.4 14.7


   ニ)粒茎別団粒歩合(昭和38年9月調査)
試験区別/粒茎別 >2.0mm 2.0~1.0mm 1.0~0.5mm 0.5~0.25mm 0.25~0.1mm
0~10 ボトムプラオ10㎝春耕 78.0 87.0 84.3 74.2 76.8
        25㎝〃 76.8 87.2 87.4 77.2 41.7
ロータリープラオ10㎝〃 72.8 81.6 83.0 72.5 47.8
〃        25㎝〃 80.5 91.7 88.3 82.1 56.2
11~20 ボトムプラオ10㎝春耕 77.9 86.7 84.1 71.9 45.6
〃      25㎝〃 82.7 89.2 80.6 66.9 39.4
ロータリープラオ10㎝〃 76.7 87.8 86.6 75.6 50.0
〃        25㎝〃 79.7 87.3 85.9 79.2 51.6


   ホ)土じょう分析成績(昭和38年10月調査)
試験区別/調査項目 水分
(%)
P.H 置換
酸度
(Y1)
置換性
加里
塩基置
換容量
置換性塩基 NH3-N 乾土
効果
T-N T-C
H2O Kcl Mgo CaO 原土 28日
25°
ボトムプラオ
10㎝春耕
0~10 3.8 4.88 4.63 6.82 20.00 266.14 24.69 231.47 1.25 1.48 +2.77 0.218 5.159
11~20 4.0 4.84 4.63 9.99 16.98 253.81 25.27 218.26 3.39 3.39 +2.32 0.209 2.619
0~10 4.0 5.11 4.86 2.07 22.89 254.73 25.21 271.22 2.32 2.86 +3.12 0.209 3.279
11~20 3.5 4.97 4.76 5.92 20.24 245.28 33.77 221.92 1.43 2.14 +0.90 0.264 2.951
ロータリープラオ
10㎝春耕
0~10 3.5 5.14 4.74 5.36 33.13 246.94 18.93 211.54 1.95 1.25 +2.20 0.320 4.912
11~20 4.0 4.92 4.64 15.01 0.12 216.62 24.69 121.97 2.50 3.57 +1.72 0.254 4.520
0~10 3.5 5.13 4.85 1.24 17.47 257.1 20.22 303.34 1.61 3.03 +4.97 0.321 5.559
11~20 3.8 5.25 4.76 1.55 23.13 270.77 32.34 301.88 2.32 1.79 +5.75 0.328 5.625


  ヘ作物累年成績(1961~1964)

   イ)てん菜 その一 耕じょ法別の生育傾向(昭和36年度)
試  験  区  別 発 芽 草丈 (㎝) 草丈 (㎝) 草丈 (㎝)
良否
整否
7月
15日
8月
15日
収穫期 7月
15日
8月
15日
収穫期 7月
15日
8月
15日
収穫期
ボトムプラオ 10㎝春耕 5.23 良整 42.7 54.3 45.7 14.7 17.7 19.3 10.4 18.9 22.4
ロータリープラオ 〃 〃 43.1 48.8 43.3 17.7 16.7 20.0 10.3 19.0 20.4
ボトムプラオ 25㎝ 〃 47.1 65.7 53.3 18.7 24.3 17.3 11.8 24.3 26.3
ロータリープラオ 〃 〃 46.6 59.3 43.2 18.0 23.0 25.0 12.5 20.7 26.2


    てん菜 その二
試験区別 根周(収穫時)㎝ 根長(収穫時)㎝
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39 平均
ボトムプラオ10㎝ 春耕 22.4 23.7 22.9 22.1 22.8 13.5 13.6 14.0 11.4 13.1
   〃    〃  春秋耕 - 23.0 21.3 19.8 21.4 - 15.0 13.2 11.4 13.2
   〃    〃  春耕多肥 - 29.0 24.7 29.2 27.6 - 15.4 14.8 13.8 14.7
ロータリープラオ10㎝ 春耕 20.0 22.7 19.3 22.0 21.0 14.0 12.0 14.2 10.4 12.7
   〃      〃 春秋耕 - 18.2 17.8 18.0 18.0 - 10.7 13.0 10.0 11.2
   〃      〃 春耕多肥 - 26.0 22.3 22.5 23.6 - 11.0 11.2 10.5 10.9
ボトムプラオ25㎝ 春耕 26.3 32.3 26.1 29.0 25.9 19.1 21.3 18.2 19.0 19.4
   〃    〃  春秋耕 - 30.0 26.6 28.0 28.2 - 21.1 17.3 19.6 19.3
   〃    〃  春耕多肥 - 27.7 22.0 27.9 25.9 - 18.7 18.5 18.6 18.6
ロータリープラオ25㎝ 春耕 26.2 23.3 22.3 27.4 24.8 16.6 13.1 14.0 11.8 13.9
   〃      〃 春秋耕 - 21.3 23.0 25.6 23.3 - 11.3 12.7 18.4 12.1
   〃      〃 春耕多肥 - 28.0 24.8 27.5 26.8 - 12.3 15.0 13.5 13.6


   ロ)てん菜 その三
試 験 区 別 分岐根 (収穫時) 10a当菜根収量 ㎏ 歩引き率 %
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39 平均 土砂 岐根 合計
ボトムプラオ10㎝ 春耕 2.0 2.1 2.3 1.0 1.9 3,860 2,137 2,347 2,666 2,751 3.4 7.5 10.9
春秋耕 - 2.4 3.3 0.3 2.0 - 3,145 2,813 2,808 2,922 2.5 7.8 10.3
春耕多肥 - 3.0 2.0 0.6 1.9 - 3,007 3,620 3,850 3,492 5.0 6.8 11.8
ロータリープラオ10㎝ 春耕 4.4 3.0 3.7 2.4 3.4 2,983 1,653 2,333 2,197 2,292 8.7 9.3 18.0
春秋耕 - 4.9 3.7 3.0 3.9 - 1,854 2,000 2,373 2,114 6.3 11.3 17.6
春耕多肥 - 5.4 5.7 2.8 4.6 - 2,212 3,320 3,361 2,964 6.8 9.1 15.9
ボトムプラオ25㎝ 春耕 0.8 2.0 1.3 0.3 1.1 4,263 3,442 4,340 3,361 2,964 6.8 9.1 15.9
春秋耕 - 1.2 1.7 0.7 1.2 - 3,578 4,487 3,976 4,014 4.1 7.0 11.1
春耕多肥 - 3.2 1.7 0 1.6 - 3,608 4,480 4,143 4,077 5.4 7.0 12.4
ロータリープラオ25㎝ 春耕 0.8 4.0 4.3 1.2 2.6 3,935 2,356 3,280 2,596 3,042 7.5 9.4 16.9
春秋耕 - 4.2 3.3 1.4 3.0 - 2,701 2,867 3,048 2,872 6.3 9.0 15.3
春耕多肥 - 4.3 5.2 1.8 3.8 - 2,655 3,682 3,616 3,318 7.9 9.2 17.1
士別市の平均 - - - - - 2,631 2,547 2,600 3,120 2,725 - - -


   ハ)てん菜 その四
試験区別 菜根収量比 初年次を100とした収量比
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 100 100 100 100 100 100 55 61 69
     〃       春秋耕 - 148 120 105 124 - 100 89 89
      〃       春耕多肥 - 141 154 144 146 - 100 120 128
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 77 78 99 82 84 100 55 78 74
     〃          春秋耕 - 87 85 89 87 - 100 108 128
      〃          春耕多肥 - 104 141 126 124 - 100 150 152
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 110 162 185 122 145 100 81 102 76
     〃       春秋耕 - 168 191 149 169 - 100 125 111
      〃       春耕多肥 - 169 191 155 172 - 100 124 115
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 102 111 140 93 113 100 60 87 66
     〃          春秋耕 - 127 122 114 121 - 100 106 113
      〃          春耕多肥 - 125 157 136 139 - 100 139 136
士別市の平均 - - - - - - 97 99 119


   ニ)大豆累年成績
試験区別 10a当子実収量 ㎏ 同収量比
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39 平均
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 166 335 149 143 198 100 100 100 100 100
     〃       春秋耕 - 353 126 148 209 - 105 84 103 97
      〃       春耕多肥 - 289 248 155 231 - 86 166 108 120
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 150 219 208 144 180 90 65 140 101 99
     〃          春秋耕 - 224 216 135 192 - 67 145 94 102
      〃          春耕多肥 - 296 236 142 225 - 88 158 99 115
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 190 366 152 137 211 114 109 102 96 125
     〃       春秋耕 - 395 210 157 254 - 118 1471 110 113
      〃       春耕多肥 - 385 198 132 238 - 115 133 92 113
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 185 314 264 115 220 111 94 177 80 116
     〃          春秋耕 - 299 250 127 225 - 89 168 89 115
      〃          春耕多肥 - 323 215 112 217 - 96 144 78 106


   ホ)えん麦累年成績
試験区別 10a当子実収量 ㎏ 同収量比
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39 平均
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 339 370 279 328 329 100 100 100 100 100
     〃       春秋耕 - 445 257 324 342 - 120 92 99 104
      〃       春耕多肥 - 440 376 348 388 - 119 135 106 120
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 275 320 263 268 283 81 86 96 82 86
     〃          春秋耕 - 365 275 288 309 - 99 99 88 92
      〃          春耕多肥 - 400 346 280 348 - 108 130 85 107
ボトムプラオ 10㎝ 春耕 349 450 309 357 366 103 122 111 109 111
     〃       春秋耕 - 450 314 348 371 - 122 113 106 114
      〃       春耕多肥 - 435 291 303 343 - 118 104 92 105
ロータリープラオ 10㎝ 春耕 358 430 237 304 332 106 116 85 93 100
     〃          春秋耕 - 360 279 276 305 - 97 100 84 94
      〃          春耕多肥 - 430 270 309 336 - 116 97 94 102


 (4)考察
  イ 耕じょ法と土じょうの物理性との関係
 土じょう硬度の変化はロータリー式プラオで耕じょした場合は硬化する速度が早い傾向を示し、とくにてん菜のように間引き除草薬剤防除等の管理作業回数の多い作物にその傾向が大きいようである。土じょう三相の面からみると、ボトムプラオによる耕じよの方がロータリー式プラオによる耕じょに比べて圃成の減少を示し、孔隙率の増加がみられ、また耕深の深いものは、浅いものよりも大きく、春秋耕区は春耕区よりも更に顕著となっている。しかしながらロータリー式プラオ耕区はボトムプラオによる耕じょ区ほど春秋耕による効果は大きくない。以上の傾向は秋末になるにつれて漸次その差は接近するが、てん菜の生育期間中は大きく影響するように思われる。
 土じょうの粒茎別にみると0~10㎝ではロータリー式プラオ耕じょ区の方が粗粘割合が多い。これは耕じょの際にボトムプラオの様に反転せずに表面の乾燥して団結した部分が破砕されることによるものと思われる。11~20㎝の部位ではボトムプラオによる耕じょ区の方が粗粒割合が多く逆の傾向を示している。
  ロ てん菜の生育状況(地上部)
 砕土を周到に行えば発芽状態は何れも大差ないが初期生育は同一施肥量の場合にロータリー式プラオ耕じょの方が幾分優る傾向がある。しかしその差は生育が進むにつれて少なくなり、最盛期の8月中旬頃からは反対になり、ロータリー式プラオ耕じょのものは葉色が淡緑となり旱魃時には二中萎凋することもあって生育の差が益々増大される。9月中旬以降に至って新葉を再生することも多い。
  ハ てん菜根根部の生育状況
 同一施肥の場合でもロータリー式プラオ耕の方が収穫時の生育が劣るため根周も劣り根長も短い。春耕区と春秋耕区は大差ないが後者の方が根形が良好である。分岐根はロータリー式プラオ耕の方が何倍も多く、また深耕区は浅耕区より何れも少なくなっている。
  ニ 葉根収量
 同一耕深で耕じょ時期施肥量が〃場合はロータリー式耕じょ区が劣ることが判然と認められ、春耕区に比べて春秋耕区は何れも優っているが、とくにボトムプラオ耕の場合は顕著に増収となっている。また5割増肥の効果もボトムプラオによる深耕春秋耕の場合に最も大きいことが認められた。
  ヘ その他
 ロータリー式プラオ耕は耕土が反転しないため、雑草の繁茂が甚だしく多かった。
  ト その他の作物
 大豆、えん麦共に略同様の傾向を示したがその差はてん菜に比べると可成り少なかった。これは大豆の場合は根瘤菌の関係で、えん麦の場合は生育期間の短いことに起因するものと考えられる。しかしてん菜の増収上これらの前後作をp同一の耕じょ法によって行ってもよいことが認められる。


 3.傾斜地における菜栽植法に関する試験

 ロ 試験区別
試験区番号 試 験 区 別  
1 畦巾50㎝ 株間25㎝ 標準区
2 同上5割増肥区
3 畦巾60.25㎝ 交互株間25㎝ 密植による侵蝕防止と単畦作業機の能率向上
4 同上5割増肥区
5 畦巾60㎝ 株間25㎝ 同上
6 同上5割増肥区

 ハ 供試品種名  導入2号
 ニ 標準施肥量 (10a当㎏)
   硫安10 智硝30 過石40 硫加15 MgO(硫苦)4 堆肥1,500

 (3)試験成績
  イ 昭和38年度成績

  イ)生育調査(二区平均)
試 験 区 別 発 芽 7月31日調査 収 穫 期 の 調 査

(月日)
良否
整否
草丈
(㎝)
生葉
(枚)
枯葉
(枚)
根周
(㎝)
草丈
(㎝)
生葉
(枚)
枯葉
(枚)
根周
(㎝)
根長
(㎝)
分岐根
(本)


50×25 5.28 良整 39.0 16.9 2.0 12.0 48.0 27.0 9.0 21.0 10.4 4.9
〃 多肥 36.2 18.0 2.0 10.5 59.0 22.7 9.9 21.3 11.4 4.2
60.20交互×25 40.4 15.6 2.9 12.5 56.6 25.2 11.2 21.6 12.8 3.7
〃 多肥 39.5 15.0 1.9 13.1 63.0 26.3 14.4 23.1 11.7 4.9
60×20 34.0 15.3 2.5 10.1 48.8 18.3 7.9 19.4 11.4 3.8


50×25 5.28 良整 50.1 19.8 3.7 19.2 46.4 24.4 16.2 27.8 17.2 0.8
〃 多肥 48.7 19.8 2.8 17.9 50.3 30.1 18.0 27.0 17.5 1.1
60.20交互×25 39.7 15.0 2.7 12.6 34.7 22.6 16.2 15.5 14.1 0.1
〃 多肥 46.6 15.5 2.9 11.7 49.9 23.4 23.9 22.5 13.2 1.1
60×20 47.3 20.4 2.5 15.4 48.0 24.2 17.7 22.1 13.4 1.2


  ロ)収量調査(二区平均)
試験区別 傾斜地(10a当) 平坦地(10a当)
個数 葉根重
(㎏)
A
収量比
1個重
(g)
B
同比
B-A 個数 菜根重
(㎏)
A
収量比
1個重
(g)
B
同比
B-A
50×25 7,920 2,380 100 300 100 - 8,000 3,928 100 491 100 -
〃  多肥 7,960 2,984 127 375 126 +1 7,920 4,032 102 509 104 -2
60.25交互×25 9,325 2,430 120 261 88 +34 11,650 2,560 67 220 46 +21
〃  多肥 8,750 2,888 123 330 111 +12 11,550 2,978 78 258 54 +24
60×20 7,934 1,927 83 243 83 - 8,367 3,284 86 393 83 +3
C.V - 12.4% - - - - - 18.2% - - - -
1sd 0.05 - 363.0 - - - - - 931.2 - - - -


 ロ 昭和39年度成績
  イ)生育調査(傾斜地は4区平均、平坦地は2区平均)
試 験 区 別 発 芽 8月31日調査 収 穫 期 の 調 査

(月日)
良否
整否
草丈
(㎝)
生葉
(枚)
枯葉
(枚)
根周
(㎝)
草丈
(㎝)
生葉
(枚)
枯葉
(枚)
根周
(㎝)
根長
(㎝)
分岐根
(本)


50×25 5.23 良整 44.8 14.4 3.6 20.4 39.2 18.3 6.0 22.6 13.4 0.4
〃 多肥 54.5 20.7 3.1 20.8 44.2 21.6 6.0 25.1 15.3 0.3
60.20 49.4 18.9 3.3 20.7 44.7 19.7 8.3 21.6 13.2 1.2
〃 多肥 53.3 20.6 3.5 21.0 49.4 21.7 6.8 24.6 15.0 0.0
60.25交互×25 49.8 18.9 3.8 20.2 47.2 16.3 6.6 22.3 14.5 0.5
 × 多肥 49.8 20.5 3.8 20.0 47.2 16.5 7.4 23.3 15.0 0.0


50×25 5.14 良整 63.3 26.7 4.7 25.3 60.2 21.3 7.1 27.7 19.9 0.2
〃 多肥 67.9 27.0 2.7 25.2 64.9 27.1 6.8 28.2 20.7 0.9
60.20 65.5 27.4 4.7 24.9 61.0 29.9 8.6 27.1 18.3 0.4
〃 多肥 71.2 29.3 4.3 26.8 67.2 23.8 6.6 29.1 17.4 0.7
60.25交互×25 69.0 23.6 3.8 24.3 67.4 31.5 5.9 26.9 20.4 0.4
 × 多肥 71.0 26.9 5.1 24.5 65.2 27.8 8.1 27.9 19.3 0


  ロ)収量調査(傾斜地は4区平均、平坦地は2区平均)
試 験 区 別 10a当
個数
10a当収量㎏ T/R 根中
糖分
(%)
純糖率
(%)
10a当可製
総重 菜根重 同比 T重 糖量 同比


50×25 7,860 5,534 3,055 100 2,479 81 16.66 84.45 428 100
〃 多肥 7,900 8,208 4,090 135 4,118 101 16.45 83.82 564 133
60×20 8,291 5,043 2,841 93 2,202 79 16.75 84.50 402 95
〃 多肥 8,275 6,269 3,272 108 2,997 89 15.80 83.21 430 102
60.25交互×25 9,491 6,234 3,231 107 3,003 94 15.81 84.31 431 102
 〃 多肥 9,420 7,191 3,838 127 3,353 87 16.35 85.51 537 126


50×25 8,000 9,724 3,969 100 5,756 146 16.66 84.45 100 100
〃 多肥 7,880 10,404 4,173 106 6,231 149 16.45 83.82 104 104
60×20 8,126 9,649 3,302 83 6,393 196 16.75 84.50 84 84
〃 多肥 7,959 10,353 3,611 91 7,112 197 15.80 83.21 86 86
60.25交互×25 9,818 10,414 3,557 90 6,858 193 15.81 84.31 86 86
 〃 多肥 9,322 10,082 3,817 96 6,265 165 16.35 85.51 92 92


 (4)考察
 重粘傾斜地においては軽しような火山性土に比較して普通の降雨で約3倍内外の流去水を生ずる。したがって点播作物は株間の流去水を防ぐ目的で狭小にする必要がある。また等高線に高畦にするか、中耕培土等によって波状にすることが望ましい。また重粘傾斜地では一畦式の畜力作業機による管理が主体となるので労力の節減も加味する必要がある。
 以上のような目的で行った試験成績をみると標準耕種法である畦巾50㎝株間25㎝が最も収量的には優り、株間距離を短縮したものより多肥による増収効果も大きい。この傾向は生育の旺盛な肥沃地ほどその傾向が大である。つまり株間距離の短縮によって現試験で増収を図ることは困難と思われる。しかしながら流去水の防止と、単畦作業機の能率の向上という点を加味して考えると、傾斜度が15°内外以上の場合は50㎝の畦巾では充分の中耕作業が困難であり、また流去水の心配もあるので、このような場合の手段としては畦巾を60㎝程度広くし、25㎝内外の復条植えとすることも一法と考えられる。傾斜度が比較的緩やかな場合は紙筒移植栽培によって早期に生育を旺盛にし、地面の被覆度を増す方が侵蝕の防止と併せて増収を期待する上では最も有効手段と考えられる。

4.多収穫調査
 (1)試験目的
 低位生産地である上川北部の重粘傾斜地において既往の試験結果により深耕、多肥、耕種法の改善を行い主要作物の多収可能性を知ろうとする。
 (2)試験方法
  イ 試験区の設置方法
 SE面12°傾斜地に同一輪作様式により慣行区と改善区を設けて7粘輪作として毎区30m2を以て施行した。
  ロ 供試作物及び品種名(輪作順序による)
 てん菜(導入2号)←とうもろこし(坂下)←小豆(宝小豆)←馬鈴薯(H41)←大豆(こがねしろ)←えんばく(北洋)←赤クロバー


  ハ 10a当施肥量(㎏)
作 物 名 堆 肥 硫 安 過 石 硫 加 智 硝 硫苦 (水25%)
えんばく - 3,000 12 30 30 80 5 15 0 0 0 8
大 豆 - 3,000 7 20 30 80 5 15 0 0 0 16
小 豆 - 3,000 7 20 30 80 5 15 0 0 0 16
馬鈴薯 1,500 3,000 20 60 30 80 15 30 0 0 0 16
てん菜 1,500 3,000 12 30 35 90 8 25 30 80 0 16
赤クロバー - - 0 0 25 30 5 15 0 0 0 16
とうもろこし - - 15 45 30 80 8 25 0 0 0 16
  備考 改善区の化学肥料の2/3量は全面散布とする。


  ニ 耕種桔概
作物名 畦巾 ㎝ 株間 ㎝ 10a当播種量 ㎏ 耕深 ㎝  
えんばく 50 25 - - 6 12 10 25  
大 豆 50 40 25 25 - - 10 25  
小 豆 50 40 25 25 - - 10 25  
馬鈴薯 75 75 40 30 - - 10 25 改善区は大粒三つ割り
てん菜 50 40 25 25 4 6 10 25 S36、39粘の改善区は紙筒移植
赤クロバー 50 25 - - 1.5 3 10 25  
とうもろこし 90 90 45 25 - - 10 25 改善区は一本立


 (3)累年成績
作物名 区別 10a当収量 ㎏ 慣行区に対する収量比 初年次に対する収量比
S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39 平均 S36 S37 S38 S39
とうもろこし 慣行区 155 298 314 175 236 100 100 100 100 100 100 192 203 113
改善区 880 399 680 210 542 568 134 217 120 260 100 45 77 24
小豆 慣行区 201 164 167 122 164 100 100 100 100 100 100 82 83 61
改善区 289 260 170 157 219 144 159 106 129 135 100 90 59 54
馬鈴薯 慣行区 3,321 2,400 864 1,065 1,913 100 100 100 100 100 100 72 26 32
改善区 4,044 4,152 2,998 2,545 3,435 122 173 347 239 220 100 103 74 63
大豆 慣行区 151 92 85 111 110 100 100 100 100 100 100 61 56 74
改善区 230 221 206 179 209 152 240 242 161 199 100 96 90 78
えんばく 慣行区 322 306 202 211 206 100 100 100 100 100 100 95 63 66
改善区 457 426 338 220 360 142 139 167 104 138 100 932 74 48
赤クロバー 慣行区 810 520 470 970 693 100 100 100 100 100 100 64 58 120
改善区 980 715 865 1,530 1,023 124 137 184 158 151 100 73 88 156
てん菜 慣行区 1,950 915 1,242 1,293 1,350 100 100 100 100 100 100 47 64 66
改善区 4,923 4,005 2,793 5,080 4,200 252 238 225 393 327 100 81 57 103


 (4)考察
 本試験は主要作物の重粘傾斜地での増収可能性を知る一手段として深耕と、多肥を主体として行ったもので、多収栽培の耕種的基準としては更に改善する面が多分に残されている。しかし以上の成績からみると、てん菜が昭和28年に旱魃による発芽障害のため減収した以外は安定して改善区の増収率が最も高く、とくに紙筒移植を行った昭和36、39年は著しい多収となって耕種的改善によって最も経済的に優位な作物であることが推定される。増収率からみれば馬鈴薯も高いが多肥作物として当然といえよう。収穫絶対量の年次的に向上が最も著しいのは赤クロバーで地力の加速度的な増進が期待され、また飼料作物の多収栽培の可能性も大きいものと考えられる。その他の作物も改善区は著しい増収を示して経営的に充分取入れ得ることが認められるが、気候的に支配されることが以上の3作物より遙かに大で、豆類では耐冷性が、えんばくでは耐倒伏性の品種改良が飛躍的な増産上の先決問題であろう。

Ⅲ綜合考察
 1.上川北部の重年傾斜地におけるてん菜栽培上の問題点
 問題点
 (1)主な気象的阻害要因
 上川北部では冬期間の積雪量が多く、融雪期は4月下旬で、耕じょ作業は殆ど5月に入って行われている。
 土壌凍結がないので融雪水の地表流亡は普通は極めて少ない。しかしながら可成り高温となる5月に入って耕じょ作業が行われることと、5月上旬から7月上旬までは例年降水量が少なく、その反面蒸発量は可成り多い。とくに5月上旬から中旬にかけてと、6月中旬は蒸発量が降水量の2培余りに及ぶこともあって、この期間は相当の旱魃になるのが通例となっている。以上の観測は平地におけるものであって、傾斜地では流去水があることと、風速が大であることが加わって更にその傾向が著しくなっている。そのためにてん菜のように覆土の浅い作物は発芽障害を被りやすく、また稚苗期の生育障害が多く低位の大きな原因となっている。
 (2)土壌の物理的阻害要因
 著しく県密で乾燥によって更にその程度を増して作業の能率が低いばかりでなく、種痘菜作業が行えない。
 また下層土も同様で気相液相容積が少なく根部の垂直伸長を甚だしく阻害して分岐根が多く、根部の利用価値を著しく低下している。このように根群の大部分が表層にあることが旱害を一層大きくうける原因ともなり、また通気、通水性の不良なことが降雨による流亡土、水を多くし、多量の土中養分をも流亡させている。
 (3)土壌の化学的阻害要因
 部分的に酸性のかなり強いところもあるが、過去に総体的に可成り多量のライムケーキが施されていて、それが充分混和されない状態のところが多い傾斜地では、表層の流去土水及び滲透流去水と共に各種土中養分の流亡が大で、とくに苦土、窒素の流亡量が多く、苦土欠乏が大きな阻害要因となっているところが最も多い。
 (4)その他
 点播作物は条播作物に比較して稚苗期の地表被覆率が低くこの侵蝕を受けやすい。
 地形の複雑なところでは効率的な大型機械の使用が困難で、平地に比べて多くの栽培労力を要する。
 分岐根が多く、低収な割に収穫が困難であること。

 2.試験結果から見た技術的対策
 (1)深耕、とくに秋期の深耕による土壌物理性の改善
 深耕によって硬度をやわらげ、土壌の三相比率を改善すると傾斜地においては降雨による流亡土、水を防止することにもなり、また深部の根圏域を拡大することと併せて生育中の旱害防止効果が極めて大きい。また根部の正常な生育と流亡阻止による施肥効率の向上等によって重粘な傾斜地においても相当の多収が期待できる。深耕は毎年継続して行うべきであるが、1年間普通耕として同量施肥を行った場合でも、えん麦や大豆に比較して顕著な増収効果がある。
 (2)耕じょ法と生育、収量との関係
 自動耕耘機によるロータリープラオ耕は、ボトムプラオ耕が表層に比較的粗粒を多く含み、微粒のものが下層に多い傾向を示すのに対し、耕土がボトムプラオ耕より早く、耕じょ前の状態に復元するので後半の生育が不振に陥りやすい。また耕土が反転しないので雑草の繁茂も多い。したがって同一耕深、時期、施肥量で両者を比較した場合、判然としてボトムプラオ交の法が根形もよく多収を示した。
 次ぎに秋耕の効果であるが何れの場合も明らかに秋耕区は増収を示した。これは耕土が春秋2回の耕じょによってよく混和され膨軟になって、融雪時の水分を保持していたことが効果を示したものと考えられる。深耕多肥効果も顕著で、ボトムプラオによる深耕と多肥による増収効果がとくに大きいことも認められる。以上を要約すればボトムプラオにより春秋に深耕を行えば多肥による増収効果が大いに期待できるということである。
 (3)傾斜地における栽植方法について
 傾斜地では降雨による侵蝕の防止と省力的栽培が重要な問題で、先ず等高線栽培を行い、株間距離を短縮する必要があるが試験の範囲に於いては畦巾50㎝、株間25㎝が最も多収であり、また多肥による増収効果も大きい。これに比べて作業を容易にして能率を高め、侵蝕防止の目的で畦巾を拡げ株間を狭くすると減収し、多肥による増収効果も制約されるので傾斜度が大きい場合は複条植えと言うことも考えられるが、紙筒移植により早期に生育を旺盛にした方がすべての面で有利であると思われる。