【普及奨励事項】
永年牧草地の改良法
道立根釧農業試験場

1.目的
 根釧地方など主畜域いは専業酪農地帯には永年牧草地と呼ばれる低位生産草地が存する。この改善には更新と称し耕起し直し新たに種子を播きかえる方式がとられていたが、追肥或は追播のみで改善する方式についても検討しようとする。

2.試験方法
 A)耕起し直し改めて種子を播き直す方法(更新)

 第1表 道立根釧農試内永年牧草地で行った更新に際しての肥料3要素試験例
施肥区分 生草量(㎏/10a) 乾重(㎏/10a) 成分含有率(乾物%)
チモシー 赤クロバー 合計 チモシー 赤クロバー チモシー 赤クロバー
N P2O5 K2O N P2O5 K2O
-F 61 82 143 12 10 2.01 0.54 0.78 3.76 0.76 0.34
0N8P8K 139 371 510 24 40 2.28 0.61 2.33 3.89 0.78 2.04
8N0P8K 162 56 218 31 7 2.42 0.59 2.66 4.29 0.85 2.17
8N8P0K 202 73 275 36 9 2.28 0.60 0.40 4.29 0.94 0.45
8N8P8K 521 269 790 105 29 2.42 0.67 2.37 3.62 0.91 1.88
4N4P4K 263 256 519 46 27 2.01 0.59 1.66 3.76 0.91 1.96
8N4P4K 421 148 569 78 17 2.28 0.59 1.58 3.76 0.90 1.02
4N8P4K 255 298 553 42 33 1.74 0.52 1.50 3.76 0.81 1.02
4N4P8K 279 345 624 52 37 1.88 0.50 1.99 3.76 0.72 2.37
8N8P4K 542 250 792 93 27 2.15 0.57 1.02 4.16 0.78 1.35
8N4P8K 562 217 779 99 24 2.42 0.61 2.37 3.47 0.79 2.46
4N8P8K 295 385 680 56 41 2.01 0.58 2.21 3.76 0.79 2.04
  注 -F・・・・・無肥料
     8N、OP、8K・・・・・N8㎏/10a、P2O5不施用、K2O8㎏/10a施用区以下これに準ずる。

 この試験成績から次のことが判る。
 すなわち3要素のうちPを欠く場合の収量が最も低いが、Kを欠く場合もまた甚だ低い。かつ牧草のK2O%は0.5%以下になっておりK欠乏症が顕著であったが、根釧地方では播種当年にこのような激しいK欠乏が看取されるのは珍しい現象である。当然Pと共にKを増施した場合収量が上がっており、従って永年牧草地の更新に際してはPと共にKを多施する必要がある。

 施用量は永年牧草地の状況により差はあらうがN4~8㎏/10a、P2O54㎏/10a程度、K2O4㎏/10a程度がマメ科割合も多く合計収量も多いと考えられる。

 B)耕起し直さないで永年牧草地の増収を図る方法
  a)追肥によって残存しているイネ科牧草を主体に増収を図る場合
 永年牧草地はイネ科マメ科混播したもののうちマメ科が消滅し、イネ科のみ残存した草地においてNとKの不足が著しいため低位生産化した牧草地である。従ってNとKを追肥すれば更新しなくとも残存するイネ科牧草を主体に増収させることはできると考えられるので、まづ永年牧草地に対するNとKの追肥量について試験を行った。

 第2表 永年牧草地における窒素追肥用量の収量に及ぼす効果(㎏/10アール)
10aアール当り
N施用区分
1   播   草 2   播   草
生草収量 乾草収量 同左比率 生草収量 乾草収量 同左比率
(無肥料) 425 138 43 205 58 29
無窒素 990 322 100 615 198 100
窒素2㎏ 1,315 398 124 910 318 160
窒素4㎏ 1,475 460 143 1,140 381 192
窒素6㎏ 1,665 485 150 1,455 475 240
窒素8㎏ 1,880 590 183 1,650 582 294
窒素10㎏ 2,170 651 202 1,725 605 305
窒素12㎏ 2,590 774 240 1,850 653 329
窒素14㎏ 2,705 795 246 1,900 673 340
窒素16㎏ 2,715 787 244 2,025 718 362
窒素18㎏ 2,040 589 183 1,850 656 331
  注)無肥料区以外は共通肥料として加里8㎏施用した。

 第3表 永年牧草地における加里追肥量の収量に及ぼす効果
10アール当り
加里施用区分
10 ア ー ル 当 り 収 量 加里含有率 10アール当り
加里吸収量
加里肥料
利用率
1   番   草 2   番   草
生草(㎏) 乾草(㎏) 同左比率(%) 生草(㎏) 乾草(㎏) 同左比率(%) 1番草 2番草 1番草 2番草 1番草 2番草
無加里 955 267 100 925 310 100 0.81 0.85 2.08 2.64    
加里2㎏ 1,275 383 144 1,385 481 155 1.05 1.05 4.21 5.05 107 121
加里4㎏ 1,710 481 180 2,000 705 228 1.12 1.12 6.35 7.90 107 131
加里6㎏ 1,845 531 199 2,125 752 243 1.18 1.18 8.23 9.63 103 116
加里8㎏ 1,945 525 197 2,175 770 248 1.45 1.45 9.98 11.17 99 107
加里10㎏ 1,895 502 188 1,995 701 226 1.76 1.76 11.19 12.34 91 97

 すなわちN10アール当り10~12㎏、K2Oを6~8㎏追肥したのみで年間4トン程度を得られるが、この場合にはクロバー類は殆ど含まれず、また肥料代も嵩むことになる。
 燐酸は追肥しても余り効果が認められないことは第4表の成績から判定される。

 第4表 永年牧草地に対する燐酸追肥量の収量並びに加里含有率に及ぼす影響
10アール当り
施肥区分
1     番     草 2     番     草
生草収量
(㎏)
乾草収量
(㎏)
同左比率
(%)
加里含有率
(%)
生草収量
(㎏)
乾草収量
(㎏)
同左比率
(%)
加里含有率
(%)
Nおよび
K2Oを
施用せず
無燐酸 350 102 100 0.89 155 39 100 0.93
燐酸3㎏ 325 97 75 0.85 160 42 108 0.89
燐酸6㎏ 285 88 87 0.69 125 34 90 0.84
N12㎏
K2O8㎏
施用
無燐酸 2,090 615 100 1.85 1,685 592 100 1.93
燐酸3㎏ 2,150 648 105 1.52 1,715 605 102 1.69
燐酸6㎏ 2,635 632 103 1.04 1,820 627 106 1.12

 またデスクハローをかけ根を遮断再生したり、或は粗腐植の分解を促進することにより増収を図ることができると云われているが、その効果は10%前後に止まっていた、即ち第5表の通りである。

 第5表 永年牧草にデスクハローを掛けた場合の増収効果(10アール当り㎏)
施肥区分
デスクハロー処理の有無
1     番     草 2     番     草
生草収量(㎏) 乾草収量(㎏) 同左比率(%) 生草収量(㎏) 乾草収量(㎏) 同左比率(%)
N0 K8 無処理 990 322 100 615 198 100
デスク掛け 1,075 345 107 675 215 109
N4 K8 無処理 1,475 460 100 1,140 381 100
デスク掛け 1,620 482 105 1,210 386 101

  b)マメ科牧草を追播しマメ科の混生する牧草畑に直そうとする場合
 赤クロバーを追播することによってイネ科マメ科混生牧草地に戻すことができれば理想的な改善策となる。しかし、イネ科によって既に占有している草地にマメ科を追播し着生成長させるには発芽条件をよくすること(鉱質土壌を露出させ水分補給を良好にするなど)、着生促進のためPとKを重点にした追肥を行う。イネ科牧草の生長を若干押さえて競合を調整する。(N肥料を加えない、掃除刈りをする)などの手段を伴わせる必要がある。これらを組み合わせて次のような試験を行った。(ただし2年目の追肥は草地化成2号を年間40㎏を2回に分施した。)
 下記試験区別に於いて、デスクハローかけは2回かけとした。

 第6表 永年牧草地にマメ科を追播する方式の比較(10アール当り収量㎏)
処  理  別
施     肥
1年目
1番草
1年目2番草 2年目1番草 2年目2番草
10a当り
生草収量
10a当り
生草収量
内訳 10a当り
生草収量
内訳 10a当り
生草収量
内訳
チモ
シー
赤クロ
バー
クロバー
混生率
チモ
シー
赤クロ
バー
クロバー
混生率
チモ
シー
赤クロ
バー
クロバー
混生率
無処理で
直ちに追播
無肥料 350 155 155 0 - 305 305 0 - 130 130 0 -
4P4K 645 690 655 35 5 1,715 1,280 435 25 1,180 895 285 24
4P8K 950 750 660 90 10 1,825 1,140 685 38 1,505 1,095 415 28
8P4K 830 640 625 15 2 1,715 1,390 325 19 1,195 840 355 30
8P8K 1,025 845 680 165 20 2,345 1,470 875 37 1,415 970 445 31
デスクハローを
掛け追播
無肥料 425 255 180 75 3 815 805 10 1 590 545 40 9
4P4K 745 770 705 65 8 1,735 1,160 575 39 1,295 910 385 30
4P8K 925 860 680 180 21 2,975 1,495 1,480 43 1,510 1,000 510 34
8P4K 800 790 685 105 14 1,985 1,225 760 33 1,375 980 415 30
8P8K 925 965 710 255 26 3,065 1,560 1,505 56 1,660 1,105 555 33
カルチベーター
かけ、追播
4P4K 690 870 770 100 12 1,860 1,275 585 35 1,190 1,040 150 13
4P8K 805 940 590 350 37 2,980 1,530 1,450 43 1,405 995 410 34
8P4K 770 875 680 195 22 2,075 1,310 765 37 1,325 1,085 240 18
8P8K 930 970 515 455 47 3,115 1,435 1,680 58 1,440 1,035 405 28
放牧蹄踏後
追   播
4P4K 985 805 690 115 14 1,945 1,195 750 39 1,390 980 410 30
4P8K 1,095 1,170 795 375 32 2,565 1,460 1,105 43 1,500 1,115 385 26
8P4K 1,005 980 780 200 30 2,410 1,680 730 34 1,460 1,020 440 30
8P8K 1,120 1,250 710 540 35 3,240 1,440 1,800 56 1,780 1,155 625 35

 すなわちデスクハロー、カルチベーター或いは放牧による蹄踏を加え、PとKを重点に追播すれば2年目において50%前後のクロバー混生比に保ち、3トン以上の生草収量にすることができた。
 参考までにNを加えた場合のクロバー混生比を第7表に掲げたがNを加えることにより既存のチモシーの生長を促進させ競合力の弱いクロバー幼植物の消滅が起こった。

 第7表 永年牧草地にマメ科牧草を追播する場合における窒素肥量の影響
処理別施肥 1年目
1番草
1年目2番草 2年目1番草 2年目2番草
10a当り
生草
収量
(㎏)
10a当り
生草収量
(㎏)
内訳 10a当り
生草
収量
(㎏)
内訳 10a当り
生草
収量
(㎏)
内訳
チモ
シー
(㎏)
赤クロ
バー
(㎏)
同左
百分比
(%)
チモ
シー
(㎏)
赤クロ
バー
(㎏)
同左
百分比
(%)
チモ
シー
(㎏)
赤クロ
バー
(㎏)
同左
百分比
(%)
デスクハローを
掛け追播
8P 8K 925 965 715 255 26 3,065 1,560 1,505 56 1,660 1,105 555 33
4N 8P 8K 1,495 1,140 1,105 35 3 1,720 1,515 205 12 1,310 1,095 215 16
8N 8P 8K 1,910 1,385 1,385 5 - 1,755 1,605 150 9 1,295 1,180 115 9

 以上3つの方法を比べると、
 A)耕起して改めて牧草種子を播き直す方法は最も普遍的かつ確実であるが、更新に要する種子代、肥料代、耕起、整地などの経費がかさむ。また永年草地は加里に欠乏しているので、再播に際しPと共にKを多用する必要がある。

 B)耕起し直さない方法
 a 残存するイネ科牧草を主体に増収を図る方法では肥料中最も高価なNを重点に追肥するので経費がかさむ。尚Nと共にKを併用する必要がある。

 b マメ科牧草を追播する方法では比較的安価にすむが、技術的に若干の注意すべき要点がある。すなわち追播に際し鉱質土壌面の露出を図る。この試験ではデスクハロー掛け、カルチベーター掛け(播種前)はともに追播マメ科牧草種子の活着を助けるのに有効であり後者の方が勝っている。
 肥料はまづ燐酸と加里を施し(P2O54~8㎏/10a、K2Oは8㎏程度)マメ科牧草種子が定着後に窒素を施用する。(4㎏/10a以下)