【普及奨励事項】
低コスト放牧地の造成維持管理法
道立根釧農業試験場

目的
 北海道における大規模草地は1,000ha以上の牧草地を造成し若生氏育成を主体に運営される予定である。若生氏育成(高等登録牛の育成を行ういわゆるブリイーダーを除く)は利益率が低いので、低コストの牧草栽培を行わなければならぬ。
 基本的な考え方として
 ① 固定窒素をイネ科へ移譲利用させることによって窒素質肥料の経済を図り、また燐酸質土壌改良剤の活用によって燐酸肥料の追肥を極力節約する方式をとる。(加里を充分施用してまずマメ科の生育を図る)

 ② 白クロバー系牧草の利用適期に合わせ21~24日の放牧利用休止期をもつ転換放牧を行うなど草地の永年維持につとめる。(更新は行わない)

試験方法
 1)固定窒素の利用性が高い草種組合せの選定
 2)白クロバー系の利用適期の推定
 3)転換放牧方式について比較

1)固定窒素の利用性が高い草種組合せの選定
 供試草種 マメ科、ホワイトクロバー、ラデノクロバー、赤クロバー
 イネ科   チモシー、レッドトップ、リードキヤナリーグラス、ケンタッキー31フエスク、ケンタッキーブリュー
 施肥量   N 0、P2O5 8㎏、K2O 6㎏/10アール以上組合せマメ科と混生させたイネ科の収量をイネ科単播のものと比較し、増収率を見た。下表百分比の**はt検定における有意差を示す。

 第1表 クロバーとの混播によるイネ科牧草の増収 (10アール当生草㎏)
チモシー
年  次 チモシー
単播
ホワイトクロバーとの混播 赤クロバーとの混播 テデノクロバーとの混播
チモシー ホワイトクロバー チモシー 赤クロバー チモシー ラデノクロバー
1年目 814 189 1,599 303 1,435 128 1,923
2年目 1番草 533 543 1,455 404 830 249 1,160
2番草 406 519 765 472 911 303 1,318
3年目 1番草 245 376 636 350 826 364 456
2番草 221 334 523 296 373 309 990
3番草 253 349 358 242 270 274 783
3年目年間合計 719 1,059 1,517 888 1,469 947 2,229
同上百分比
100
**
147
  **
123
  **
132
 

レッドトップ
年  次 レッドトップ
単播
ホワイトクロバーとの混播 赤クロバーとの混播 テデノクロバーとの混播
レッドトップ ホワイトクロバー レッドトップ 赤クロバー レッドトップ ラデノクロバー
1年目 1,092 551 1,834 965 947 518 2,097
2年目 1番草 478 469 1,440 276 761 303 1,271
2番草 290 591 931 419 1,047 312 1,311
3年目 1番草 219 368 846 246 721 363 639
2番草 261 413 569 281 368 316 1,054
3番草 193 269 409 200 321 257 850
3年目年間合計 673 1,050 1,824 727 1,410 963 2,543
同上百分比
100
**
160
 
107
  **
131
 

リードキヤナリーグラス
年  次 リードキヤナリー
単播
ホワイトクロバーとの混播 赤クロバーとの混播 テデノクロバーとの混播
リードキヤナリー ホワイトクロバー リードキヤナリー 赤クロバー リードキヤナリー ラデノクロバー
1年目 1,155 1,110 575 1,017 672 1,025 1,242
2年目 1番草 552 655 1,134 776 704 691 1,101
2番草 419 524 551 660 504 664 446
3年目 1番草 269 347 599 302 782 386 582
2番草 524 456 445 296 307 585 269
3番草 301 317 279 238 231 314 270
3年目年間合計 1,094 1,120 1,323 836 1,420 1,285 1,121
同上百分比
100

103
 
72
  **
122
 

ケンタッキー31フエスク
年  次 ケンタッキー
31フエスク
単播
ホワイトクロバーとの混播 赤クロバーとの混播 テデノクロバーとの混播
ケンタッキー
31フエスク
ホワイトクロバー ケンタッキー
31フエスク
赤クロバー ケンタッキー
31フエスク
ラデノクロバー
1年目 1,172 589 1,433 458 962 797 1,721
2年目 1番草 693 702 1,282 537 828 647 1,128
2番草 251 736 911 425 697 412 1,162
3年目 1番草 210 425 646 247 618 288 483
2番草 354 434 577 334 448 326 767
3番草 300 307 474 262 278 300 696
3年目年間合計 864 1,166 1,697 843 1,344 914 1,946
同上百分比
100
**
135
 
98
 
106
 

ケンタッキーブリューグラス
年  次 ケンタッキー
ブリューグラス
単播
ホワイトクロバーとの混播 赤クロバーとの混播 テデノクロバーとの混播
ケンタッキー
ブリューグラス
ホワイトクロバー ケンタッキー
ブリューグラス
赤クロバー ケンタッキー
ブリューグラス
ラデノクロバー
1年目 1,267 794 881 721 864 1,146 1,159
2年目 1番草 510 886 899 702 976 801 872
2番草 224 524 830 432 644 375 1,137
3年目 1番草 238 360 686 285 524 305 669
2番草 295 417 604 358 447 373 1,006
3番草 280 380 600 326 245 319 866
3年目年間合計 713 1,157 1,890 969 1,216 1,097 2,574
同上百分比
100
**
163
  **
136
  **
140
 

 固定窒素の移譲利用効率が良かったのは
  チモシー ホワイトクロバー混播
  レッドトップ ホワイトクロバー混播
  レッドトップ ラデノクロバー混播
  ケンタッキーブリュー ホワイトクロバー混播
  ケンタッキーブリュー ラデノクロバー混播

 この他、ケンタッキー31フエスク、ホワイトクロバー混播も良好であったが根釧地方ではケンタッキー31フエスクはオーチャードグラス同様、厩肥の併用を欠くと菌核病に侵され易く、永年利用草地として適応性がないように思えた(根釧地方以外では利用可能であろう)。
 またラデノクロバーはホワイトクロバーに比べ約2倍の収量がある。
 しかし、早春の起生が遅く冬枯れを伴い易く、固定窒素の移譲能率も劣る。また固定窒素の利用が活発になるのは2年目後半以降であり、リードキヤナリーなど草勢が過度に旺盛なものと混生させるとマメ科は圧倒される。従ってこの目的のため根釧地方で低コスト大規模放牧用草地に利用できる草種はチモシー、レッドトップ、ケンタッキーブリコー、ホワイトクロバー、ラデノクロバーの混播である。

2)白のクロバー系の利用適期の推定
 次ぎにラデノクロバーの再生に要する日数について試験した。

 第2表 生育日数別収量と1日当り収量増加量
生育日数 10アール当り生草重
(括弧内は乾重) ㎏
1日当り増加量
(乾重) ㎏
22日目 930 372(58) 17(2.6)
葉柄 558(44) 25(2.0)
26日目 1,235 480(67) 18(2.6)
葉柄 755(57) 29(2.2)
37日目 1,910 525(85) 14(2.3)
葉柄 1,385(133) 37(3.6)

 すなわち葉の部分の成長は25日前後で頂点に達している。成分について葉と葉柄を比較すると

 第3表 ラデノクロバーの生育日数と組成
部位 日数 粗蛋白(%) 純蛋白(%) 粗脂肪(%) 可溶無窒物(%) 粗繊維(%) 粗灰分(%) T.D.N D.C.T
22日 36.1 33.9 6.6 39.2 9.3 8.8 80.3 30.7
26日 35.9 33.9 6.6 39.6 9.5 8.4 80.6 30.5
37日 35.5 33.9 6.9 39.7 9.6 8.3 80.8 30.2
葉柄 22日 18.3 13.4 3.1 45.6 20.3 12.7 73.5 15.6
26日 16.9 13.4 3.0 46.5 21.2 12.4 73.4 14.4
37日 16.5 12.9 2.8 46.1 22.6 12.0 73.2 14.0

 ラデノクロバー中の可溶性N組成(乾物100g中mg)
  日数 NH4-N NO3-N アミノ-N アミド-N 合計
22日 85.5 125.1 12.5 61.2 284.3
26日 117.5 125.1 10.0 133.1 385.7
37日 130.9 59.4 10.5 126.1 326.9
葉柄 22日 143.3 864.4 10.8 120.6 1,139.1
26日 156.2 712.3 10.5 121.9 830.9
37日 155.7 430.8 10.6 138.5 735.6

 葉は葉柄に比較して蛋白含量が高いだけではなくKO3-Nなど家畜に有害と云われる可溶性Nも少ない。よって季節的な条件その他により左右されるが、一応25日前後を終期に転換放牧利用を計画すべきと思う。

3)転換放牧方式についての比較
試験1 短期多頭数放牧と長期少頭数放牧が草生に及ぼす影響(昭和38年)
試験方法
牧区/放牧期 1 2 3 4
Ⅰ牧区(2日間、14頭) 6.25→6.27 7.25→7.27 8.21→8.23 9.16→9.18
Ⅱ牧区(7日間、4頭) 6.25→7.2 7.31→8.7 8.30→9.6  
Ⅲ牧区(14日間、2頭) 6.2→7.9 8.7→8.21 9.1→69.30  

 各放牧期の休牧期間は25日~28日(牧草の再生力を考慮)とし、この間草丈20~25㎝に伸長する。放牧後は加里の追肥6㎏/10aとし、掃除刈りを実施した。

 導入草種:ラデノクロバー、白クロバー、チモシー、レドトップ、ケンタッキーブルー、ケンタッキー31フエスク
 造成時の施肥量:燐酸0.3ton、草地化成2号0.15ton/ha

試験結果
 第4表 放牧試験成績(乾草㎏/10a)
項目/放牧回数 1 2 3 4 合計
Ⅰ牧区 生産量 109 175 127 208 719(3,165)
残草量 8 16 3 32 59
201 159 124 176 660
採食量/1頭・1日 7.1 5.6 4.4 6.6 5.9(平均)
Ⅱ牧区 生産量 236 165 144 545(3,085)
残草量 37 15 11 63
199 150 133 482
採食量/1頭・1日 7.1 5.3 4.7 5.7(平均)
Ⅲ牧区 生産量 276 228 196 700(2,880)
残草量 84 93 62 239
192 135 134 461
採食量/1頭・1日 6.8 4.8 4.8 5.5(平均)
  注 ( )内は生草量

 この結果次のことがわかった。
①採食量からはⅠ>Ⅱ>Ⅲ牧区の成績を得たが、牧草の栄養面からみれば幼牧草を与えることが得策で、この点から考えても多頭数短期間入牧がよい。
②Ⅲ牧区のような粗放牧は優牧牧草が徒長、嗜好性も低下し残草量も増加する。
③加里のみの追肥で牧野の下限生産量2.25t/10aの生草を維持した。
④放牧相互間の休牧は白クロバー系の牧草の利用適期を考慮し25日位が適当であろう。

試験2 放牧方式に関する試験(昭和39年)
試験方法
Ⅰ牧区 14区分 2日毎の転換 26日目

に同一区分に戻る。
Ⅱ牧区 4区分 7日毎の転換 21日目
Ⅲ牧区 2区分 14日毎の転換 14日目
Ⅳ牧区 連続放牧

 28日を1週Rotatio ghazingとし4週行った。
 供試中は若牡牛各5頭(その後草生が悪化したので3頭、2頭とした)である。
 各牧区の面積は1ha、掃除刈りは実施しない。
 管理用追肥:第1、3放牧期収量後加里5㎏/10aを追肥
 導入草種:ラデノクロバー、白クロバー、チモシー、レッドトップ、ケンタッキーブルー、ケンタッキー31フエスク
 造成時の施肥量:炭カル1.4ton、燐酸0.5ton、草地化成2号0.3ton/ha

試験結果
 第5表 放牧試験結果(ha当り)
項目/放牧期/牧区 再生草
(㎏)
有効利用草
(㎏)
残草
(㎏)
採食総量
(㎏)
1日1頭当り(㎏) T.D.Nよりみた
牧養力
延入牧
頭数
採食量 T.D.N
1   8,460 3,228 5,232 37.3 4.04 13.0 140
2 4,562 7,790 3,332 4,458 39.8 4.86 16.1 112
3 2,961 6,293 3,359 2,934 48.9 6.98 21.8 60
4 1,332 4,691 2,285 2,406 54.6 7.52 30.0 44
年間生産量 8,855 27,234 12,204 15,430 (43.3)     (356)
1   8,960 3,514 5,446 38.8 5.05 11.1 140
2 3,986 7,500 2,392 5,108 45.6 6.04 15.9 112
3 3,672 6,084 2,926 3,158 52.6 7.55 22.0 60
4 1,894 4,820 2,591 2,229 50.6 7.11 28.5 44
年間生産量 9,572 27,364 11,423 15,941 (44.7)     (356)
1   89,117 3,656 5,461 39.0 5.58 10.4 140
2 3,975 7,631 2,500 5,131 45.8 6.58 14.9 112
3 2,723 5,223 2,754 2,469 41.2 5.58 24.3 60
4 2,116 4,870 2,790 2,080 47.2 6.41 29.0 44
年間生産量 8,824 26,841 11,700 15,141 (42.5)     (356)
1   9,274 3,943 5,331 38.1 4.70 11.0 140
2 4,020 7,963 3,011 4,952 44.2 5.80 15.0 112
3 1,079 4,090 914 3,176 52.9 7.23 33.8 60
4 1,967 2,881 625 2,256 51.2 6.63 50.9 44
年間生産量 7,066 24,208 8,493 15,715 (44.1)     (356)

第6表 放牧によるマメ科混生比率の変遷(%)
牧区/項目 再生草中 採食草中
1 2 3 4 1 2 3 4
14.5 28.8 42.7 42.6 17.1 17.9 33.2 39.5
12.4 30.7 42.3 42.6 14.6 25.3 38.1 38.2
19.1 33.0 42.2 39.6 24.5 23.6 35.1 37.2
12.0 32.9 52.3 32.0 12.6 28.6 28.1 29.7

 この結果、次のことがわかった。
①採食総量、および採食量/頭日は各牧区ともほぼ同じであるが、再生草、有効利用草、残草ともⅣ牧区が劣った。
②採食量、T.D.N摂取量はⅠ牧区では放牧が進むにつれて増加したが、他の牧区は後半では停滞した。とくにⅢ牧区第3放牧期は極端に悪かった。
③各牧区とも採食量が再生草量を上廻ることがある。
 すなわち、前回の残草をも摂取している。
④T.D.Nよりみた牧養力(28日当り)は秋季になると低下し、広大な面積を必要とするに至るが、Ⅳ牧区はその傾向が著しかった。
⑤放牧が進めばマメ科混生率が高まった。
⑥本年のような悪天候でも加里の追肥で27ton/haの生草を得た。

 以上のことより、草地は牧草の再生に必要な休牧期間を保持できるⅠおよびⅡ牧区の方式が有利で刊行の牧区(連続放牧)は後半にいたると草地が悪化する傾向がある。
 従って、Ⅰ牧区のストリップ方式は(試験Ⅰ)の多頭数短期間放牧と同じ性格のもので、草生からは有利であろう。しかし公共草地のように低コストで牧野を維持管理する場合は大面積を細分化する経費、短期間で移動させる労力などを考慮し、(試験1、2)のⅡ牧区のような一定 を4~5区分し、25日前後で再び同一牧区へ転換される方式で一応妥協すべきであろう。