【普及奨励事項】
波立防止法に関する試験(防波こまい) 北海道立中央農業試験場農業機械部 |
1.背景と試験のねらい
構造改善における土地基盤整備事業等により、大型水田の造成が盛んとなったが、小区画水田と比較して、強風或いは暴風による波立ちが甚だしく、移植苗の転倒、或いは浮苗が多発して、問題となっている。
又風下に用水が移動し、片寄りとなり、風上と風下の水位の差が、一枚の水田の中で30㎝を超える場合がある。したがって、用水が畦畔を超え、或いは苗が水没する結果となっている。
本試験は、入手容易で低廉な資材を利用して、波立或いは水の移動を防止する方法を見い出すために実施したものである。
2.供試資材と構造
こまい(小舞) 360㎝×4.5㎝×0.9㎝
釘 35mm
上記の如く、製作されたものを防波こまいと称することにする。単位㎝
3.供試水田
場所 長沼町9区 牧野 正氏圃場
圃場規模 46.5アール 1枚 86m×54m
39.6アール 4枚 86m×46m
合計供試面積 204.7アール (5枚)
供試水田の土壌約60㎝までは下層に腐敗せる木の根を多く含む埴土で、その下約10㎝は、ヨシ・ゼンマイ・スギナ等を含む亜泥炭で、約3㎝の火山灰層の下が黒色泥炭である。
4.防波こまいの設置方法
(点線が防波こまい、〇印は測定点)
尚、防波こまいの上縁は水面と同じか、やや出る程度に設置した。
5.調査方法及び調査事項
各区、中央の防波こまいから風下に次の防波こまいまでの間に4~6ヶ所の測点を設け、次の項目を調査すると共に、高さ1.5mの位置の風速をビラム風速計で同時測定した。
a 水深 小手をかざして波をおさえた場合の水深
b 周期 測点を通過する波頭を30秒間計測して、毎秒周期を計算
c 波高 スケールを垂直に立てて目測
d 波長 白色ポリエチレン板に5㎝刻みに目盛をを付し、風と平行に水中に立てて写真撮影により測定
6.調査結果
調査の結果は、第1表の如くであり、圃場№1、№3は午前、№2、№4、№5は午後に測定したものである。各測定点に於ける調査は、3回で、数字はその平均を示す。
第1表
圃場№ | 防波こまいか らの距離 m |
1.5m 高さ 風速 m/s |
水深 ㎝ |
周期 c/sec |
波高 ㎝ |
波長 ㎝ |
1 | 0.3 | 7.8 | 4.8 | 1.56 | 0.17 | <4.0 |
5.0 | 9.1 | 3.8 | 4.02 | 0.57 | 4.4 | |
10.0 | 7.1 | 3.5 | 1.70 | 0.73 | 4.6 | |
15.0 | 9.5 | 2.5 | 1.58 | 0.30 | 1.0 | |
20.0 | 9.2 | 4.6 | 1.49 | 0.54 | 6.6 | |
25.0 | 9.0 | 4.8 | 1.30 | 0.66 | 10.9 | |
2 | 0.3 | 8.6 | 2.5 | 2.83 | 0.25 | <4.0 |
5.0 | 10.2 | 3.0 | 1.57 | 0.55 | 7.4 | |
10.0 | 8.6 | 4.0 | 1.41 | 0.52 | 6.9 | |
15.0 | 10.6 | 5.5 | 1.46 | 0.72 | 10.0 | |
3 | 0.3 | 7.1 | 5.3 | 0.69 | 0.25 | 14.2 |
5.0 | 6.9 | 6.0 | 1.57 | 0.77 | 8.0 | |
10.0 | 6.5 | 4.5 | 1.28 | 0.74 | 14.0 | |
15.0 | 8.3 | 4.5 | 1.58 | 0.43 | 6.1 | |
4 | 0.3 | 7.5 | 4.5 | 0.91 | 0.53 | 19.0 |
5.0 | 9.0 | 5.5 | 0.86 | 0.98 | 13.3 | |
10.0 | 10.9 | 7.5 | 0.78 | 1.34 | 29.0 | |
15.0 | 7.8 | 7.0 | 0.70 | 1.68 | 28.0 | |
5 無処理 |
25 | 10.5 | 8.5 | 0.87 | 1.74 | 35.0 |
30 | 9.0 | 6.5 | 0.81 | 1.94 | 36.0 | |
35 | 9.4 | 7.5 | 0.73 | 1.74 | 38.0 |
7.考察
第1図以下は第1表を図示したものである。各区とも、波高と波長は正の相関を有し、波の周期は負の相関を有するが、防波こまいの近くではさざ波の状態で風の防波こまいに対する方向により一定していない。
全般的に見て、風の方向に直角に設置され、然も防波こまいの間隔の狭い№2が最も防波効果が大きく、無処理の№5に対して、波高、波長ともに1/4に減少している。
№2について見れば、防波こまいに対して、距離が大なるにしたがって、波高、波長ともに大となるが、15m離れた測定点においても、無処理地区の1/3にすぎず、極めて効果的であって、設置間隔は10m以下にする必要はない。
№1は風の方向に概ね直角に設置されているが、設置間隔が大のため、風下で発生した波浪の影響が中間に出ている。
第1図 圃場№1
第2図 圃場№2
第3図 圃場№3
第4図 圃場№4
第5図 圃場№5
№3は、設置方向が風と約30°の角度で設置してあるが、1区面積が少ないため、効果があり無処理の1/2の波浪にとどまっている。
№4は、風の方向に対し約60°に設置してあるが区が大きく、間隔も大であるので、波防こまいから離れるにしたがって、無処理区の波とほとんど変わらない程度に大きくなっている。
風の方向は、必ずしも一定でないから、常に直角方向に設置することが出来ないが、防波こまいの相互間隔を15m程度にすることによって効果は期待出来る。したがって№4の場合、中に1本ずつ設置数を増加させれば、№2に近い効果が期待されるであろうが、防波こまいの延長設置長さがながくなるから労力的、経済的に不合理である。
したがって、延長設置長さが短く、然も、相互間隔の狭い№2が最も適切な設置方法ということが出来る。
但し、№2で、風の方向が長辺に沿って吹く様な地帯では、相互間隔を15m程度にし、№3の如く設置するのがよい様に思われる。
防波こまいの設置高さは、水面とほぼ同じ高さにしたが、こまいの下側からの波の影響は殆どない。
深耕が深く、然も下まで代掻がとどきすぎている場合には、防波こまいが倒れる場合があるが、その水田の状態に合わせて、足の長さを決定すべきである。
8.経費の試算
試験区を設置した際に要した経費と労力を基準にして、次の如く経費計算を実施した。(第2、3表)試算の設置様式は№2方式とし、40m×100mの0.4ha水田を考えた。
第2表
1区04ha 所要経費 |
10a所要経費 | 計算の基礎 | |||||||||||||||||||||
資材費 | 1,860円 | 465円 |
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制作費 | 480円 | 120円 | 労賃 800円(農閑期1日7時間) 2ha分 21時間 2,400円 |
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合計 | 2,340円 | 585円 |
第3表
1区04ha 所要経費 |
10a所要経費 | 計算の基礎 | |||||||||||||||||||||||||||||||
固定経費 | 585円 | 146円 | 多少の修理をほどこせば5~6年の耐久性はあると思われるが、 一応4年間都市、1/4の単純計算をした。 |
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作業経費 | 840円 | 210円 |
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合計 | 1,425円 | 356円 |
制作費は10a当たり585円であるが、多少の修理(釘の打ち直し)をほどこせば、5~6年はもっとものと思われるが、耐用4年として、労賃(設置と除去)を加算して、10a当たり356円であり、10a当粗収益の1%程度にすぎない。若し、波止めを行わない場合は、土質、苗の状態、苗の移植作業の良否風の強弱回数等によって異なるが、相当の浮苗、倒れ苗を生じ、減収となることから考えて、十分経済的に採算が合う。又、制作費、設置労力、除去労力の点から見ても北海道の市販されているものに比較して、極めて有利である。
9.製作上の注意事項
a こまいの中で、不良なものは、足に使用しないこと。
b 足をつくる場合、労力節減のため、次の如く鋸を入れること。
c 釘は1ヶ所3本を打ちつけ、割れない様に注意すると共に、裏側は折り曲げておくこと。
d 田の状態に合わせ、設置した場合、防波こまいの上縁が水面から1㎝出る足の長さを決定すること。
10.設置上の注意事項
a 設置にあたっては、1人が10組程度をもち、2人で作業するか、3~4人が手渡しにより作業するか、田区の形状により、設置の作業方法を工夫するが、この場合、足跡を多数つけない様に、他人の足跡に従って歩く様にすること。
b 強風によって、防波こまいが倒れない様、足を充分に土中に挿し込むこと。
c 防波こまいと防波小舞の継ぎ目は必ずしも密着してなくてもよいが10㎝離れを限度とすること。
d 除草機を入れる前には除去すること。
11.設置方法について
a 風の方向に対し、直角となる様に設置することが好ましいが、方位と区割形状の関係から、必ずしもその様に出来ない場合があるが、春先の最多風向を充分調査し、風向と平行するが如きことのない様にすること。
b 設置の間隔は15m内外とすること。
12.保管方法について
a 充分泥土をとり、出来れば水洗いすること。
b 納屋の梁の上など、乾燥した場所に保管しておくこと。
13.水稲栽培との関連について
a 本試験は防波こまいの効果についての実用試験であり栽培に及ぼす効果については、確認がなされなかった。
b 栽培効果の面から設置方法について考慮すべき面が考えられた場合は、その方法を採用することがよい場合もあると考えられる。