【普及奨励事項】
アスパラガス紫紋羽病
北海道農業試験場 病理昆虫部 病害第2研究室

(Ⅰ)まえがき
 紫紋羽病は全道にひろく発生し、アスパラガス・りんご、ばれいしょ・クローバーなどに被害を与えているが、最も被害のいちじるしいアスパラガスについて本病防除の試験成績を得たので提案した。本成績はアスパラガス以外の作物にも応用される。

(Ⅱ)防除法の総括
1.定植圃場の選択
 ⅰ)かつて発病をみたところはさける(アスパラガス以外のクワ・リンゴ・ばれいしょ等も共通)
 ⅱ)雑草(ハチショウナなど)、樹枝(ニセアカシヤなど)で検診し無病地をえらぶ。
 ⅲ)罹病しやすい1年生作物(バレイショ・ニンジン・テンサイなど)で検診することができる。

2.発病株の早期発見
 a 苗床
 ⅰ)定植時の苗検査:罹病苗の除去

 b 本畑
 ⅰ)早期発見につとめる。
 ⅱ)定植翌年(収穫開始年)の8~9月に病徴のあらわれる率が高い。
 ⅲ)8~9月の早期に黄疫・葉落とし枯死するか、生育が劣るものは根をしらべて本病かどうかを確認する。

3.発病した場合の処理
 a 苗床
 ⅰ)発病のおそれのある苗圃では前年秋・苗床全面に薬剤処理をする(薬剤および使用法は本畑と同じ)
 ⅱ)秋の土壌消毒ができなかった時は春に薬剤を処理し、7~10日後にガス抜きを行い、更に10日後に播種する。
 ⅲ)罹病した定植苗は堀り上げ焼却し、又、その苗床からの苗は消毒してから定植する方がよい(浸漬用有機水銀剤)

 b 本畑
 ⅰ)収穫期間を短くし、株の衰弱を防ぐ。
 ⅱ)罹病株を発見したら堀りとる。
 ⅲ)堀りとり後、周囲に本病が拡がらない様に薬剤処理をする。この場合罹病株と隣接した外観健全と思われる株の周囲にも薬剤を施す。
 ⅳ)薬剤防除
  (a)使用薬剤 〇クロールピクリン
           〇ソジウムN×チルジチオカーバメイト
           〇土壌様有機水銀(エチル沃化水銀、フエネチニル水銀)
  (b)使用方法
   〇クロルピクリン剤、カーバム剤は30㎝おき、深さ15㎝内外に3~5cc注入し、ポリエチレンで被覆するが、鎮圧する。
   〇水銀剤は500~1000倍にし、1m2当たりを全面に施す。

  (c)使用上の注意
   苗および若年株はクロールピクリン及びジチオカーバメートにより薬害をうけやすい。

(Ⅲ)防除薬剤試験成績
 1.昭和36年度試験
(1)試験方法
 病土を素焼鉢につめ、アスパラガス苗を定植(8月28日)し、各種薬剤を潅注処理した(1九2鉢)。2カ月後(10月31日)苗を抜きとり、罹病度を調査した。罹病度は
 株罹病度=〔∑(罹病指数×該当根数)/総根数〕×100
を算出し平均した。なお罹病指数は0~8に分けた。

(2)試験結果
薬         剤 使用量/m2 罹病度 薬害
水銀剤 ヨウ化メチル水銀 2% Hg1.9% 950倍 10.5cc/10L 1.7 ±
      リン酸エチル水銀 1% 950倍 21.0cc/20L 2.3 -
水銀剤 エチルフエネチニル水銀 3.3%Hg2.0% 1,000倍 10.0cc/10L 6.1 -
1,000倍 20.0cc/20L 2.0 -
水銀剤 昇汞Hg73.9% 1,000倍 10.0cc/10L 1.5 -
1,000倍 20.0cc/20L 1.0 ±
カーバム剤 ソジウムNメチルジ 30% 1,000倍 10.0cc/10L - +++
        チオカーバメイト 1,000倍 20.0cc/20L - +++
無     処     理 - 7.8 -

 2.昭和38~39年度試験成績
(1)試験方法
 試験地 夕張市清水沢 紫紋羽病発病地
 処理区 アスパラガス畦 1畦2mを1Plotとし6反復 1九アスパラガス苗 6株

供試薬剤 1点注入量
カーバム剤 ソウジウムNメチル
ジチオカーバメイト 30%
30㎝おき
深さ15㎝
5cc×9点/m2
8.3cc  〃  
カーバム剤 アムモニウムエチル
ジチオカーバメイト 50%
3    〃  
5    〃  
10    〃  
クロルピクリン剤 C CL3NO2 80% 3    〃  
5    〃  
10    〃  
ホルマリン HCHO 37% 4.5cc×25点/m2

 処理方法
薬剤処理 1963年5月17日
ガス抜き  〃  5月24日(薬剤処理後7日目)
アスパラガス定植  〃  5月30日(薬剤処理後14日目)
薬害調査  〃  6月14日
第1回罹病調査  〃  10月22日(定植後158日後 6反復中3処理のみ)
第2回罹病調査 1964年10月19日(定植後1年半後 6反復調査)

 調査方法
 アスパラガス株の罹病程度を0~5に分けて次式により算出した。
  罹病度=〔∑(罹病指数×該当株数)/総株数〕×100

(2)試験結果
 a 第1回罹病調査結果
 全般に罹病程度が低く薬剤間の有意差はみられなかった。

 b 第2回罹病調査結果
薬   剤 1点当薬量(cc) 罹病度
カーバム剤30% 5 8.2
8.3 6.2
カーバム剤50% 3 6.1
5 2.6
10 3.5
クロールピクリン 80% 3 2.7
50 0.6
10 1.1
ホルマリン 37% 4.5 13.0
無  処  理 - 38.8
  LSD 1%=13.12 5%=9.82

 c 薬害調査
薬 剤 名 1点当り薬量
(cc)
アスパラガスの薬害程度(%) 評価
健全苗 黄変苗 枯死苗
カーバム剤 30% 5 66.5 21.2 12.3  
8.3 26.3 44.7 31.7 +
カーバム剤50% 3 40.5 27.0 32.4 +
5 20.5 25.6 53.8 +
10 15.8 13.6 71.1 ++
クロルピクリン 80% 3 65.7 14.3 20.0  
5 64.9 16.2 18.9  
10 28.6 28.6 42.8 +
ホルマリン 37% 4.5 65.2 26.1 8.7  
無  処  理   76.9 10.3 12.8  

 3.昭和39年度試験成績
(1)試験方法
 試験地 夕張市沼ノ沢(紫紋羽病のため廢耕にした跡地罹病根を掘取り整地後区劃した)
 処理区 1区2m2 4反復 1区5~6株

 薬剤名及処理方法
薬         剤 使用方法
カーバム剤 ソジウムNチルジチオカーバメイト 30% 30㎝おち
深さ15㎝
ホリエチ被覆
2.25cc×9点/m2
5.0×9
クロルピクリン剤 CCL3ON2 99% 3×9
5×9
10×9
水銀剤 エチルフエネチニル水銀 33% Hg2% 全面潅注 5cc×5L/m2 (1,000倍)
30×30L/m2 (1,000倍)

 処理方法
薬剤処理 1964.5.8
ガス抜き 1964.5.19(薬剤処理 11日後)
定植(2年性苗) 1964.5.29(ガス抜き 10日後)
調査 1964.10.20(定植 144日後)

 調査方法
 前項と同じ

(2)試験結果
薬剤名 薬量 罹病度
カーバム剤 2.25cc×9点/m2 0
5.0×9 1.7
クロルピクリン剤 3.0×9 0
5.0×9 0
10.0×9 0
水銀剤 5cc/cL/m2 33.3
30cc/30L/m2 3.3
無処理 - 50.8
- 60.4
  LSD 1% 38.07  2% 28.48
  薬害はいずれも特にみられなかった。

4.昭和38~39年度試験成績
(1)試験方法
 試験地 夕張市沼ノ沢 紫紋羽病のためスポット状に欠株になった5~6年性圃場
 処理区 罹病部と隣接健全部の境1.5m2を試験区とし、1農家圃場当り5~10区を農家圃場、合計3~7反復行った。

 薬剤名及び成分・使用法
薬      剤      名 使   用   方   法
カーバム剤、ソジウムNメチルジチオカーバメイト 30% 30㎝おき深さ15鎮圧 3㎝×9点/m2
クロルピクリン剤 CCL3NO2 80% 3cc×9
水銀剤 ヨウ化メチル水銀2% Hg 1.9% 深さ15㎝の土壌と混和しながら潅注 60cc/30L/m2(500倍)
リン酸エチル水銀1%

 処理方法
薬剤処理 1963年8月30日
薬害調査  〃  10月10日(薬剤処理41日後)
罹病(病気の進行程度)調査 1964年9月21日

 調査方法
 薬害調査は茎葉の黄変、落葉の程度を調べた。
 罹病病気の進行程度調査は、罹病部分から健全部分への病気の進行を茎葉の生育不良、黄変、落葉と根の罹病程度を次に示した段階に分けて調査した。

 茎葉の生育程度
指数 基  準
5 健全
4 生育やや劣る
3 生育 劣る
1 黄変
0 枯死

 株の罹病程度
指数 基  準
0 健全
1 菌糸附着
2 1部の根が罹病
3 株の1/2が罹病
4 株の2/3が罹病
5 全株罹病

(2)試験結果
   1963.8.30
(薬剤処理直前)
1963.1010
(薬害調査)
1964.9.21
(罹病調査)
カーバム剤   - 薬剤処理 -      
  - 罹病株除去
茎葉平均生育産度 5 5 5 5 2.8 0.3 0   5 5 5 4   5 5 5 5  
株番号 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4
根 平均 罹病度 0 0 0 0.3 4 5 5     0 0 0 0  
クロルピクリン   - 薬剤処理 -        
  - 罹病株除去
茎葉平均生育産度 5 5 5 5 0 0 0   5 4.5 2.3 0.3         5 5 4.8 1.8        
株番号 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4
根 平均 罹病度 0 0 0 0 5 5 5       0 0 0 0  
- 薬 害
水銀
(エチル沃化水銀)
  - 薬剤処理 -      
  - 罹病株除去
茎葉平均生育産度 5 5 4.5 4.5 4.5 2 0   5 5 4.5 4.5         5 5 5 5        
株番号 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4
根 平均 罹病度 0 0 0 0 2 5 5       0 0 0 0  
無処理   - 薬剤処理 -      
  - 罹病株除去
茎葉平均生育産度 5 5 5 5 3.7 2.5 0.7 0.5 5 5 5 5 3.7 2.5 0.7 0.5 5 4.8 5 3.3 1.0 0.2 0.8 0.7
株番号 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4 4 3 2 1 1 2 3 4
根 平均 罹病度 0 0 0 0 2.3 4.4 4.8 4.8     0.2 0.8 0.8 2.1 5 5 4.8 4.8