【普及奨励事項】
鶏舎における集糞装置に関する研究
       北海道立滝川畜産試験場

1. 試験のねらい
 養鶏場では、第1表に示す如く鶏糞の採取、処理、清掃などに養鶏作業の約35%もの労力を要し、養鶏作業の省力化及び鶏舎内環境の改善には集糞の機械化が必要とされている。このような目的から能率的な集糞装置を試作しこの装置の性能試験を行い、その経済効果につき検討した。

 第1表 養鶏作業別管理労働時間(1日)
作業内容 200羽養鶏例
飼料給与 1.2時間 (21%)
集   卵 1.5    (26)
採   糞 2.0    (35)
卵整理 1.0    (18)
5.7    (100)

 2. 試験場所
 道立滝川畜産試験場
 3. 供試鶏舎
 スノコ床平飼鶏舎(133.77m2、500羽収容)を供試鶏舎とした。

 第1図 スノコ床式平飼鶏舎見取図



 第2図 スクレーパー





 4. 供試機の構造、諸元
 本装置は糞を掻き出すスクレーパー部分と、これを引張るウインチ部分からなっている。(第2図・第3図)
  1) スクレーパー
 スクレーパーは第2図に見る通り案内レールに沿って移動するソリに支えられているため、ソリの移動によって、床上の糞を一方に集めることが出来る。
  2)ウインチ
 ウインチは、第3図に見るような巻き取りドラムを往き用と戻り用の2つの部分に分けて同じものを2つ設け、ワイヤーを夫々反対方向に巻き付けるモーターを逆転させるとスクレーパーの進行方向を変えることが出来る。

 第3図 ウインチ



  3) 諸元
 牽引速度 前進6段(0.0684~0.883m/sec)
        後進2段(0.033~0.1077m/sec)

 第2表 集糞装置の諸元
モーター 100V 400W 単相
スクレーパー 幅225cm 高さ25cm 重量25kg
ワイヤーの太さ 径 9mm


 5. 本装置の性能試験
  1) 牽引抵抗を測定した
 集糞量0kg及び200kgの場合につき2種類の速度で牽引させ、スクレーパーとワイヤー間に入れてあるスプリングバランスに表われた牽引力を読みとった。スクレーパー移動部分の床はモルタール、金で仕上げであるが、仕上がりがやや粗雑で若干の凸凹が見られこのため、スクレーパー牽引時に抵抗の変化が見られた。
 成鶏の排糞量は採取量、飲水量によって若干異なるが200g内外で大体スノコ床面に平均に排糞する。本試験においては飼養鶏500羽の2日分の糞、計200kgが上記の床面に均等に分散された状態であった。

 第3表 牽引試験成績
牽引
方向
試験
回数
作業
速度
(m/sec)
牽 引 抵 抗 集糞
重量
前回掻きだし
からの時間
備  考
作業開好からの距離
5m
(kg)
10m
(kg)
15m
(kg)
20m
(kg)
引っ張
り方向
1 0.214 30 30 20 30 0 0 前回掻きだし直後
2 0.206 80 100 120 140 200 48時間  
3 0.066 20 30 20 30 0 0  
4 0.065 60 80 110 130 200 48時間 掻きだし直後
戻り
方向
1 0.214 引っ張り方向の鶏糞のないときと同じ
2 0.066


  2) 性能試験結果に対する考察
 試験結果を見ると牽引し始めはスクレーパーの重量で生ずる摩擦抵抗のみであるが、糞がスクレーパーにたまるに従い次第に抵抗を増していることが分かる。ソリの運行は極めて円滑であったが、牽引抵抗に若干のふれの見られたのは、床面がやや粗雑であるため、或いは鶏糞が均等に分散されていなかったためと考えられる。
 床面を平滑に仕上げることは、仕上げをきれいにするため、更には抵抗を少なくするためスクレーパー使用の際には十分注意が必要である。叉、ソリの長さもふれを少なくするため、スクレーパーの巾に比して適当な長さが必要である。
 6. 集糞装置に対する考察
 集糞装置としては、スクレーパー使用のもの、ベルトコンベヤータイプのもの、順繰り送り式のもの等が考えられるが、ベルトコンベヤータイプのものは鶏糞の水分の状態によってベルトの伸縮がはげしく、運転にむらを生じ不都合の場合が多く、更に大型鶏舎では施設費が割高になる。叉順繰り送り式のものは、牛舎などに見られるがやはりコスト高であるので、比較的コストの安いスクレーパー利用の方式を採用した。
  1) スクレーパー
 スクレーパーは、案内レールに沿って移動するが、車輪をつけた型式のものでは、レールの上に糞がつくと著しく転動抵抗が増加する。結局ソリ型が簡単で丈夫であり、抵抗も少ないようである。ただ問題点は、ソリの長さである。出来ればスクレーパーの幅に近い長さがないと、こじれて引っ張られるために余分な力がかかり相当な抵抗となり大きな動力が必要となる。
  2) ウインチ
 ウインチはなるべく簡単にしたいが、一番簡単な方法としてウインチの巻き取り軸をつづみ型にしてここにワイヤーを数回まき、その両端の一方をスクレーパーへ結え、他方をウインチと反対側にある滑車を通してスクレーパーの後方に結ぶ方法が考えられる。しかしワイヤーのゆるみ側に絶えず必要な張力を与えておかねばならず、しばしばワイヤーを張り直さなければならず、叉つづみ型の所でワイヤーがこすれて消耗がはげしいという欠点をもっている。叉ワイヤーにはどうしても糞がつきドラム摩擦係数が著しく小さくなり、ドラムの所で滑らぬためには益々余分な張力を必要とする。
 一番良い方法は本機のように二つの巻取ドラムを使った場合であって、この方式では次のような利点がある。
  (1) ワイヤーを締めなおす必要がない。
  (2) ドラムのところでスリップの危険性がない。
  (3) ワイヤーが痛まぬ。
  (4) 動力が少なくてすむ。
 7. 経済性の検討
  利用経費を固定経費と作業経費に大別して、慣行労賃と比較検討すると次の通りである。
 固定経費は年間で計算すると
   購入価格(モーター、施設費含む)10万円
   資本利子                 7%
   耐用年数                10年
   残存価格         購入価格の10%
   修理費積立金      購入価格の 5%
  したがって 償却費は        9000円
          資本利子は       3.850円
          修理積立金       5.000円
         ─────────────
            計         17.850円
 
   作業経費
    電気料、潤骨油費        10.000円
    労賃(第1表から2.000羽の場合鶏糞処理
        時間が1/3となるとして
             ※
         233×100円       23.300円
         ─────────────
                        24.300円
        合計            42.150円
     ※1時間労賃 100円として計算
 今、2.000羽の養鶏規模で集糞を機械化しないでやるとすると、第1表の例から年間の所要時間730時間から
   100円×730=73.000円
 以上の計算から2.000羽鶏飼養の場合、機械化することにより年間30.850円の労働費節減となる。
 以上から考えて年間1.000羽以上の飼養の場合は機械化の方が有利と推算できる。
 尚、本研究においては、スクレーパーで集糞溝までの集糞を機械化したのもであり、鶏糞処理場までの運搬、処理等を機械化するとこみより、更に省力化が期待出来る。
 8. 集糞装置の使用範囲
 ケージ飼育、大群平飼何れの場合でも鶏舎の大小に拘わらず使用できるが、特に細長い鶏舎の場合にはワイヤーをそれだけ延長するだけですむので本機の使用は特に経済的である。叉、試算の結果では、ウインチ1台をスクレーパー1台単独で使用する場合は1台当り1.000羽以上であれば有利であり、、叉、ひな段3段配置の場合も本機の利用が有利である。この結果からケージ鶏舎においてスクレーパー1台使用の場合36m以上の鶏舎であれば、経済的にも有利と考えられる。
 9. 集糞装置使用上の注意事項
  1. 使用する鶏舎の床はコンクリートで平坦に仕上げること。
  2. ケージ鶏舎に使用する場合、夏期軟便の対策として集糞溝を作り(深さ5~10cm)その中のスクレーパーを運行させること。
  3. スクレーパーで鶏舎の外まで鶏糞を掻き出すよう設計するとその後の鶏糞の処理が容易である。
  4. 大型鶏舎で使用する場合は、負荷が大きくなるので、1日の走行回数を多くすること。
  5. ワイヤーの防銹に注意すること。
  6. 同一鶏舎内では、ケージに配列により2連、3連のスクレーパーを同時に運行させることができる。

                 スクレーパー



                  ウインチ



                  動力伝導