【普及参考事項】
大豆品種の耐冷性に関する試験
北海道立十勝農業試験場 豆類第1科

 昭和37~38年のフアイトトロンを用いて試験、昭和35~39年の生産力検定試験、系統適応性試験、及び奨励品種決定現地試験の結果について検討し、耐冷性品種に関し若干の知見を得たのでここに報告し参考に供する。

1 調節温室での試験
 昭和37年、北見白、カリカチ、奥原1号、コガネジロの4道産品種、満倉金、ハロソイ、チツペワ、リッチランドの4外国品種を供試し、高温(25℃)、低温(15℃)でそれぞれ生育させた。
 その結果により、低温による開花遅延率、子実収量の減少率を算出し、耐冷性の強弱を推定した。

 ア 低温による開花遅延
 25℃においては、全品種とも開花迄日数は31~35日で大差はない。この日数で15℃における開花迄日数を除した値を「開花遅延率」とした。


 第1表 低温による開花遅延率及び積算温度(昭和37年)
品種/項目 25℃区 15℃区 比率(15℃/25℃)%
開花迄日数 開花迄積算温度 開花迄日数 開花迄積算温度 開花迄日数 開花迄積算温度
北見白 35.3 882.5 72.8 1,092.0 206.2 123.7
奥原1号 31.3 782.5 56.0 840.0 178.9 107.2
カリカチ 33.0 825.0 58.5 877.0 177.3 106.3
コガネジロ 32.0 800.0 55.0 825.0 171.9 103.1
満倉金 31.0 775.0 51.0 765.0 164.5 98.7
チッペワ 30.8 770.0 46.8 702.0 151.9 91.2
リッチランド 32.8 820.0 48.3 724.0 147.3 88.3
ハロソイ 32.5 812.5 47.0 705.0 144.6 86.8

 低温によりもっとも開花の遅れたのは北見白の206.2%遅れのもっとも少ない品種はハロソイの144.6%であった。
 一方、25℃、15℃両室における開花迄の積算温度を計算すると、その比は100%前後である。
 この比においても、北見白が123.7%でもっとも大きく、外国品種は100%以下以下であった。

 イ 障害型の低温害
 第2表には各区における、莢数、子実重と子実重比を示した。この表によれば、低温でもっとも害の少ないのはカリカチ、次いで奥原1号、ハロソイ、もっとも害を受けたのはコガネジロであった。

2 生産力検定試験の成績
 十勝農試で行っている生産力検定試験の成績から主要品種について検討した。
 開花迄日数、千粒重、莢数、子実重について、昭和35~38年の平均に対する昭和39年度の比率を算出した。


 第2表 障害型の低温害(昭和37年)
品種/項目 莢数
(1本当り)
子実重
(g/1本当り)
子実重比
(%)
(15/25)
25℃区 15℃区 25℃区 15℃区
カリカチ 34.8 19.3 18.8 9.2 48.9
奥原1号 33.0 13.8 16.5 4.5 27.3
ハロソイ 47.0 14.3 19.7 4.5 22.8
リッチランド 40.0 8.8 14.7 2.3 15.6
北見白 46.0 6.5 20.0 2.0 10.0
満倉金 36.8 3.5 16.8 1.1 6.5
チッペワ 37.3 5.0 17.0 0.9 5.3
コガネジロ 38.0 1.8 17.2 0.4 2.3

 また、昭和39年度の場合、成熟期がはっきりしないので、粒大比を成熟遅延程度の指数と考え、莢数比を障害程度の指数と考え、品種の耐冷性の強弱は、粒大比×着莢比/100(稔実度と称した)で推定した。

 ア 開花迄日数
 開花の遅延程度は、早晩性と関連なく、他の可視的形質とも関係がない。
 もっとも遅れの少ないのは、十勝長葉の106.0%、もっとも遅れた品種は、北見白(116.1%)であった。しかし、その遅れは平年に対し、十勝長葉が4日、北見白が10日で、それほど大きな差ではなかった。


 第3表 主要品種の成績
項目/品種 開花迄日数 千粒重(g) 莢  数 子実重㎏/100a 稔実度
(%)
 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3
北見白 62 72 116.1 259 195 76.3 69.6 66.9 96.1 260 165 63.5 72.4
十勝長葉 67 71 106.0 232 137 59.1 75.6 64.4 85.2 268 101 37.7 50.4
カリカチ 64 72 112.5 297 244 82.2 61.6 57.5 93.3 267 200 74.9 77.0
シンセイ 64 71 110.7 254 234 92.1 68.5 59.6 87.0 260 195 75.0 80.1
コガネジロ 60 68 113.3 230 186 80.9 69.0 48.1 69.6 265 91 34.3 56.3
トカチシロ 64 70 109.4 240 184 76.7 65.7 51.0 77.4 251 85 33.9 59.4
大谷地2号 66 74 112.1 324 297 91.7 51.3 51.7 100.8 229 179 78.2 92.4
  ※ 1:昭和35~38年平均  昭和39年度の大谷地2号は2反復、他は4全て反復平均
     2:昭和39年度
     3:1/2×100(%)


 イ 収量性
 開花迄日数の遅延率の巾が、比較的小さいのに反し、千粒重、莢数、子実重では、その比率の巾がきわめて大きい。
 千粒重で比率のもっとも大きいのが、シンセイの62%、次いで大谷地2号が例年と同程度の着莢数を示したのに対し、コガネシロ及びトカチシロでは、それぞれ696%、774%を示したに過ぎなかった。
  子実重比についてみると、稔実度と〃傾向にあり、低温でもっとも被害の少なかったのは、大谷地2号であり、シンセイ、カリカチがこれに次ぐ。
 コガネジロ、トカチシロは子実比がそれぞれ34.3%、33.9%で著しい減収を示した。

3 系統適応性試験
 本年の冷害は全道的といえるが、その程度は地域によりかなり異なっている。即ち道東の被重がもっとも大きく、次いで道北、道央であり、道南地域の被害は非常に軽い。(第5表)

 ア 開花迄日数
 開花迄日数は、全地域、全品種を通して一様に遅れている。品種別にみた場合、コガネジロが103.6%でもっとも遅れが少なく、シンセイが113.0%でもっとも遅れた。しかし、北見白、十勝長葉、カリカチおよびシンセイにはほとんど差がない。(第4表)

 イ 収量性
 1株着莢数は、シンセイが平年以上の着莢を示したのに反し、他品種の着莢比は90%前後で、コガネシロがもっとも小さく、847%であった。
 千粒重では、シンセイの99.3%、十勝長葉の83.7%が目立った。


 第4表 品種別の比率   (昭和39年/昭和35~38年平均%)
品 種 開花迄日数 着莢数 千粒重 子実重
北見白 111.1 86.7 92.9 80.1
十勝長葉 110.1 91.9 83.7 65.6
カリカチ 110.6 90.1 92.9 80.3
シンセイ 113.0 117.2 99.3 84.1
コガネシロ 103.6 84.7 90.9 68.1
トカチシロ 108.5 90.5 88.4 77.4
  ※ 6ヶ所平均(十勝生検を含む)


 第5表 地域別の比率   (昭和39年/昭和35~38年平均%)
地域 開花迄日数 着莢数 千粒重 子実重
道南農試 104.9 106.9 107.9 93.8
国立農試作物部 103.3 122.0 117.9 97.6
中央農試原々種農場 113.8 94.1 101.7 71.4
上川農試畑作科 109.8 79.5 82.2 81.6
天北農試天塩支場 120.6 67.8 78.4 55.7
十勝農試 111.3 60.3 78.0 53.3
  ※ 6品種平均


 子実重比では、シンセイ、カリカチおよび北見白が80%以上の値を示したのに反し、コガネジロ、十勝長葉では70%に満たなかった。

4 奨励品種決定現地試験
 本年度もっとも冷害の大きかった十勝管内の8ヶ町村について生産力検定試験との比較において検討した。
 第8表には、過去4ヶ年の平均収量、本年度の子実収量及びその比率を示した。


 第6表 奨励品種決定現地試験の成績-1(収量kg/10a)
品種/町村 生検 音更 幕別 清水 足寄 更別 豊頃 本別 士別
北見白  1 260 234 244 230 232 217 225 238 223
2 165 99 104 90 59 69 50 39 37
3 64 42 43 39 25 32 22 16 17
カリカチ 1 276 246 216 228 222 226 227 245 210
2 200 117 93 106 93 41 52 31 35
3 75 48 43 47 42 18 23 12 17
コガネジロ 1 265 228 241 260 202 208 208 224 188
2 91 36 36 49 - 12 21 46 12
3 34 16 15 19 - 6 10 21 7
シンセイ 1 260 236 191 212 225 217 223 231 186
2 195 135 111 83 94 74 64 84 43
3 75 57 58 39 42 34 29 36 23
トカチシロ 1 251 251 213 222 217 195 185 222 167
2 85 23 39 42 - 6 - 10 8
3 34 9 18 19 - 3 - 5 5
  ※ 1:昭和38~38年平均
     2:昭和39年度
     3:1/2×100(%)



  第1図 品種別の収量比(7ヶ町村平均)


 先ず、品種別の収量比(足寄、豊頃を除く)についてみると、シンセイ、カリカチ、および北見白が40%前後であるのに、コガネジロおよびトカチシロは15%前後に過ぎなかった。(第1図)
 次ぎに、粒大についてみると、町村(カリカチ、シンセイ、北見白の平均)あるいは品種(町村平均)における粒大比のふれは、収量比程大きくなく、町村で83%(シンセイ)~70%(北見白、コガネシロ)である。


 第6表 奨励品種決定現地試験の成績-2 (千粒重g)
品種/町村 生検 音更 幕別 清水 足寄 更別 豊頃 本別 士別
北見白  1 259 257 289 257 233 248 244 246 266
2 195 199 196 200 146 169 185 152 165
3 75.3 77.4 68.2 77.8 62.7 68.1 75.8 61.8 621
カリカチ 1 297 289 303 292 256 296 285 272 294
2 244 223 227 212 185 192 221 180 219
3 82.2 77.2 74.9 72.6 72.3 64.9 77.5 66.2 74.5
コガネジロ 1 230 225 249 217 210 231 234 210 221
2 186 125 169 165 - 156 153 138 169
3 80.9 55.6 67.9 76.0 - 67.5 65.4 65.7 76.5
シンセイ 1 254 261 270 268 222 246 257 234 249
2 234 218 234 211 150 175 179 167 149
3 92.1 83.5 86.7 78.7 67.5 71.1 69.7 71.4 59.8
トカチシロ 1 240 243 261 244 213 226 227 224 240
2 184 143 156 150 - 205 - 167 193
3 76.7 58.9 59.8 67.0 - 90.7 - 74.6 80.4
  ※ 第8表に同じ。


 以上の結果は系適のそれとやや異なっている。即ち、粒大比は、地域的(系適)には大きな差があったが、十勝管内では大差がなかった。それ故、管内での収量比の大きなふれは、着莢比の差異が大きく左右したものと思われる。

5 総括
 以上の結果は、主として過去数年間の平均収量比対する本年の収量比と稔実度(着莢比×粒大比/100)とにより、品種の耐冷性を指定してきたが、冷害年の気象が一様でない以上、耐冷性をはっきり断定することはできないと思われる。
 しかし、本年の冷害が稀にみる甚だしいものであったことから、品種の耐冷性に関して、一応の傾向は推定できるであろう。
 冷害年にも、かなりの収量をあげると思われる品種をとり出してみると次のとおりである。
 ① カリカチ、シンセイ
  耐冷性がきわめて高く、極端な冷涼地を除き、道東、道北に適す。
 ② 鈴成、天北早生、テンボクシロメ、ワセコガネ、道東、道北の冷涼地に適す。
 ③ ナガハジロ、オシマシロメ
  道南では、本年くらいの低温年でも、上記の品種は充分な収量をあげうる。